ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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感想欄「タイムパトロールさっさと来い」
パトローラー「分かりました、今行きます!」


第三十五話 激神フリーザ

(……やるしかない!)

 

 ナメック星へと降下する炎の塊を前にリゼットが取った手段は気を最大――否、最大以上に高めての迎撃であった。

 ゲートに呑み込み相手に還すという選択もあった。

 だがあれだけのサイズの気弾を呑み込むゲートを創るには僅かなりとも時間がかかる。

 それは時間にして1秒にも満たない間であるが、その一秒の時間があればあの火球はナメック星に衝突し、そしてこの惑星にいる悟空達を消し去ってしまうだろう。

 だが今必要なのは、即座に使える迎撃手段だ。

 

「バーストリミット……オクトーギンター!」

 

 今の限界倍率である40倍。それを更に倍にして瞬間的に戦闘力を80倍にまで跳ね上げた。

 全身にかかる負荷が洒落にならない。

 血管が破裂するのが分かる。心臓が五月蝿いくらいに脈打ち、胸が貫かれたように苦しい。

 骨が軋む。口から血が零れる。

 だがリゼットはその全てを無視した。必要な代償と割り切った。

 

「ああああぁぁああああああああーーーーッ!!」

 

 吐血混じりの叫びを上げ、白の極光が溢れる。

 光の柱が空を貫き、ナメック星の暗雲を晴らす。

 限界を超えて無理矢理絞り出した気。その全てを掌へと凝縮し、流星の如き輝きを生み出す。

 

Sparking Meteor(スパーキング・メテオ)!」

 

 真紅の超新星に対抗するのは純白の彗星。

 かつてドクターウイローに放った『スパーキング』を発展強化させた大技だ。

 クウラのスーパーノヴァにも匹敵する巨大な光球が生成され、二つの大エネルギーの衝突エネルギーが辺り一帯を余波のみで破壊し尽す。

 瞬間的にとはいえ、リゼットが発した気は戦闘力数値にして4億9千5百万。クウラの最大戦闘力である4億7千万を上回り、その気全てを込めた白の輝きもクウラのスーパーノヴァを上回る。

 ジリジリと白の光弾が真紅の光弾を押し返し、クウラへと近付いていく。

 

「こっ、こんな……こんな事で、俺が……ッ!」

 

 クウラは必死に己の腕力で光弾を押し返そうとする。

 ここで退避という手段を取ればまだ結果も違ったのだろう。

 しかしそれは、彼の最強としてのプライドが認めなかった。

 むしろ、これだけの大エネルギーを僅かとはいえ腕力で抑えられる時点でおかしいとしか言えないし、彼は称賛されるべきだろう。

 しかし彼の超パワーをもってしても、自ら放ったスーパーノヴァすら含めた二つのエネルギーは押し返せない。

 凄まじい勢いで押しやられ、空を越え、大気圏を越え、あっという間に宇宙空間へと追放される。

 それでも尚止まらず、背後に見えたのは……ナメック星に三つあるという太陽のうちの、一つだ。

 クウラは自ら生成したスーパーノヴァとリゼットのスパーキング・メテオ。

 それと太陽に挟み込まれる形となってしまったのだ。

 

「こ、んな……事……がぁ……」

 

 想像を絶する熱さと激痛の中、クウラはそれでももがく。

 凡そ生物では耐えきれないだろう焦熱地獄に身を焼かれ、骨の髄まで炙られ、ボロボロと身体が炭化しては崩れていく。

 それでも尚、彼の心は敗北を認めようとしなかった。

 この期に及んで感じるのは、死への恐怖ではなく敵への憎悪。

 しがみつくのは生ではなく、最強の矜持のみ。

 それを支えとして、クウラは炎の中で意識を繋ぎとめる。

 その生と死の狭間……刹那の一瞬にクウラは、過去を垣間見た。

 かつてフリーザが惑星ベジータを滅ぼしたあの日、フリーザが取り逃がしたポッドをクウラは把握していた。

 その行き先も、知っていたはずだった。

 

『行き先は地球とかいう惑星か。撃ち落とせ』

『放っておけ。自分で蒔いた種だ。自分で刈らせろ。

フリーザも……まだまだ甘い』

 

 クウラは、フリーザに甘さを思い知らせるためにあえてそのポッドを放置した。

 だが……今になって思う。

 何故あの種の行き先をもっと調べなかった。地球という惑星の事を調べようとすらしなかった。

 どうせ大した生物のいない辺境の惑星だと高を括っていた……自分達の脅威になるような存在がいるなどと、予想もしていなかった。

 だがあの時少しでも調べていれば……いや、あの時にガキを撃ち落として、地球を念入りに破壊しておけば……!

 

 ――甘かったのはフリーザだけではなかった……。

 ――甘かったのは……!

 

 その思考と悔いを最後に、クウラの肉体は完全に消滅した。

 

 

「……はぁ……は、ぁ……っ」

 

 リゼットは力なくよろめきながら思う。

 強かった……本当に手強い相手だった。

 思えば初めての、格上との真剣勝負。今までの戦いは全てリゼットが相手より圧倒的に勝っており、多少の苦戦はしても本気を出せば勝てる勝ち確の戦いでしかなかった。

 だが今回は違う。苦しい戦いだったし、現在進行形で苦しい。

 だがいい経験をさせて貰った。気、身体能力、体格、体力、強度。その全てにおいて自分を勝る相手との戦闘経験はこれ以上ない財産になる。次に活かす事が出来る。

 

(こ、これで、クウラは倒し、た……後は、悟空君達とごうりゅう、して……いっしょ、に……フリー……ザ……を……)

 

 強敵はまだ残っている。むしろこのナメック星の戦いにおける本番はあくまでフリーザとの戦いであり、クウラは何故か沸いて出てきたイレギュラーだ。

 だから、もう少し頑張らねばならないというのに……。

 

(あ、れ……? からだ、うごかな…………。

めのまえ、が……まっくら、に…………)

 

 限界を超えた反動。

 いかに自己治癒能力を持つといえど、限界以上に振り絞った気はそう簡単には回復しない。

 むしろ死んでもおかしくない。悟空は限界出力の倍を出して全力でかめはめ波を撃った後に普通に動いていたりするが、あんなのはサイヤ人だから出来る事だ。

 加えて言うならば悟空には未だ覚醒していないものの超サイヤ人という変身がある。

 あの変身までもを潜在能力に計算するならば、つまり彼には界王拳で絞り出す『出元』があるのだ。

 何もない所から気を振り絞っているわけではない。確かに自分の中に存在する可能性から引き出している。

 だがリゼットにそれはない。何もない所から無理矢理出してしまったのだ。

 その代償がこれだ。限界を超えた身体は指先一つすらも動かず、力なく膝を突く。

 重く下がった瞼はやがて完全にその瞳を隠し、幼さを残す身体は音もなく地面に倒れ伏した。

 

 

 

「お? 何だこいつ」

「小娘がこんな所で寝てやがるぜ、ケケケケッ」

 

 どれだけの時間が経過したのだろうか。

 未だ地面に倒れ、眠り続けるリゼットのもとへ最悪のタイミングで3人の男が訪れた。

 名をアンギラ、ドロダボ、メダマッチャ。

 悪のナメック星人であるスラッグの部下にして極悪非道の魔族達だ。

 メダマッチャはケラケラと笑いながら倒れているリゼットを蹴るが、まるで反応がない。

 死んではいないが、完全に意識が落ちている。

 

「おい、どうするよ、これ」

「持ち帰ってみるか? 兵士の玩具くらいにはなるだろう」

「ケケケケッ、それなら俺が遊んでいいか?」

 

 もしも彼女が目覚めたならば、それこそ虫を払うように殺されてしまうだけの実力差が存在する。

 だがそんな事を知る由もない魔族達は口々に勝手な事を言い、身動き一つ取らない少女を回収しようと手を伸ばした。

 刹那――リゼットを掴もうとしたメダマッチャが二つに『割れ』、更にその全身が細切れとなる。

 

「え?」

「メ、メダマッチャ!?」

 

 突然の惨劇に仲間の魔族達が慌てふためく中、そこに一人の人間が姿を現す。

 黒いコートに身を包んだ、銀髪の美青年だ。

 彼はその手に剣を携えており、今のメダマッチャの死も彼の神速の剣によって為されたものだと分かる。

 

「おい、貴様等……その人に汚い手で触れるな」

「何だ、こいつ……!?」

「知るか! とにかく消すダボ!」

 

 アンギラとドロダボは青年を挟み、同時に飛びかかる。

 だが瞬間、青年が“変わった”。

 銀色の髪は逆立ち、黄金となる。

 その全身からは金のオーラと青白いスパークを噴出し、先ほどのリゼットやクウラですら霞むほどの圧倒的な気を放ち青年は剣を振り抜いた。

 

 一閃。

 

 少なくともアンギラ達はそうとしか見えなかっただろう。

 だが実際は刹那の間に百を超える斬撃が放たれており、それすら認識出来なかった彼等は自分達がバラバラに分割されてしまった事にすら気付けない。

 気付いた時には既に死んでいる。それだけの力の差がそこにはあるのだ。

 雑魚3匹を始末した青年は収刀し、変身を解く。

 

「ふう……よし、誰にも見られてないな。

誰かに目撃されてしまったら、時の界王神様にまたどやされてしまうからな」

 

 青年は慎重に周囲の気を探り、誰もいない事を確認する。

 それからリゼットを抱えると付近の洞窟にまで走り、コートを脱いで地面に敷く。

 そして、そこに彼女を横たえ――光に包まれると同時に姿を消した。

 

 

「グゥ……オオ、オ……」

 

 大地を揺らし、大猿が倒れる。

 ここまでフリーザを相手に健闘していたターレスだが、遂にフリーザの猛攻の前に屈したのだ。

 互いの実力差を思えばここまでよくもったほうだろう。

 フリーザはターレスの尻尾を掴むと、力任せに振り回して放り投げた。

 更に気弾を発射してパワーボールを破壊し、ターレスを元に戻す。

 これで元々少ない勝ち目が更に減少した。

 といってもそれは、万分の一の勝ち目が億分の一になった、というどのみちどうしようもない勝ち目であるわけだが。

 

「ふん、猿など敵じゃないんだけど見た目が醜くて目障りだからね」

 

 人間の姿に戻ったターレスはその言葉に悪態を吐く事も出来ない。

 散々に打ちのめされた彼の身体はもう限界であり、余力がないのだ。

 そんな彼を一瞥もせずに、フリーザは空を見上げる。

 視界に映るのは今までと変わらぬナメック星の空だが、確かに先程、太陽が二つに増えたかのような火球が見えた。

 あれは紛れもなくクウラのスーパーノヴァであり、それには流石のフリーザも肝を冷やしたものだ。

 しかしそれがナメック星を砕く事はなく、柄にもなく安心してしまった。

 

(クウラめ……偉そうな事を言っておいて結局あいつもドラゴンボールを狙っているわけか。

そうでなければ攻撃を止めるはずがない。

だがドラゴンボールで不老不死になるのは、このフリーザ様だ)

 

 フリーザは、クウラが敗れたなどと考えていない。

 それも仕方のない事だろう。気に入らないがクウラはかなりの実力者だとフリーザでも認める他ない。

 それが負けるはずがないし、ならば攻撃を止めた理由はドラゴンボールの破壊を恐れたからに他ならない……と考えてしまう。

 しかしいい情報だ、とフリーザは思った。

 とりあえず、クウラがすぐに星ごとドラゴンボールを壊してしまう事はないらしい。

 

「どうやらここまでのようだね。いい運動にはなったかな」

 

 フリーザはパンパン、と手をはたくとターレスへ手を翳す。

 だが横から飛んで来た気弾に反応し、そちらを手で払い落とした。

 視線を向ければ、そこには何故か妙に自信に満ちた顔のベジータが立っている。

 先ほどまでガクガク震えていたくせに、一体何故あんなにも得意気なのだろうか。

 そう思い、フリーザは少しだけベジータへと興味を抱いた。

 

「ベジータか。これだけの差を見せてもまだ歯向かってくるとはね。

余程死にたいと見える」

「ふん、そうやって今のうちにヘラヘラ笑っていやがれ。

ここにいるのが貴様の最も恐れていた超サイヤ人だ!」

「超サイヤ人? ふっふっふ、相変わらずジョーダンきついね」

 

 馬鹿にしたように笑うフリーザに、ベジータもまた同種の笑みを返す。

 その表情にはサイヤ人の王子としての自信と勝利の確信が溢れ、気の高まりに応じて大気が鳴動した。

 瀕死パワーアップを幾度も繰り返した今、ベジータの気はターレスすらも上回り、遠くに避難していたクリリンと悟飯が戦慄するほどだ。

 

「カカロットの出番はないぜ!」

 

 ベジータが飛翔し、フリーザへと肉薄する。

 フリーザは腕を組んだまま姿を消すが、ベジータはすぐにその動きを視界に捉えた。

 戦闘力が上がるという事は速度も上がるという事。今ならばフリーザの速度といえど捉えられないほどではない。

 

「見えているぞ!」

 

 ベジータが猛接近し、手刀を振り下ろす。

 だが――不発。

 フリーザがまたも姿を消し、ベジータの攻撃が空振ったのだ。

 それは先ほどと同じ事であり、唯一違うとすればフリーザの速度だ。

 先ほどは確かに見えた筈のフリーザの動きが、今度はまるで見えなかった。

 

「はっはっは、少し速度を上げただけで付いてこれないようだね。それでも超サイヤ人なのかな?

これならまだ、そこで転がってる奴の大猿の方がマシだったよ」

「ば、馬鹿な……」

 

 ベジータの現在の戦闘力はスカウターで計ったならば、300万を超えていただろう。

 だが、そこが瀕死によるパワーアップの限界であった。

 ベジータは知らない事だが、サイヤ人のこの特性はある変身の条件を満たす為の補助輪のようなものなのだ。

 その条件の一つが戦闘力300万であり、瀕死パワーアップとは要するにそこに届く為の機能に過ぎない。

 つまり逆に言えば300万を超えてしまった時点でこの機能は意味を失い、ほとんど戦闘力が変わらなくなってしまうのだ。

 伝説の中にこんな一節がある。『どんな天才戦士も超えられない壁を越える天才』と。

 まさにここが、その境界線。

 『どんな天才戦士も超えられない』と述べられている300万の壁なのだ。

 たとえ凡才であってもサイヤ人なら誰でもここまでは来れる。何度も死にかけて復活し、それを繰り返せばこの領域に至る事は誰であろうと可能なのだ。しかしここからは違う。

 ここから先は死にかけて復活するだけでは超えられない。特別の壁は特別にならねば突破出来ない。

 界王拳や大猿化など、それを超える手段はいくつか存在するも、ベジータはその二つとも有してはいなかった。

 ベジータは強くなるために仙豆を全て消費しての瀕死パワーアップを図ったが、実はそれも300万を超えて以降は全くの無意味であり、ただ無駄に死にかけては仙豆を貪っただけでしかない。

 

「こ、こんなものなのか……? ここが俺の限界なのか?

う、嘘だ……俺は超サイヤ人になったはずなんだ……。

俺は、俺は……俺は超サイヤ人だーッ!!」

 

 ベジータは現実を直視出来ずに己こそが超サイヤ人だと叫ぶ。

 彼の不幸は、戦い漬けの日々ばかりを送っていたことだ。

 ベジータは戦いを好み、殺戮と血を好み、残酷で冷酷な、まさにサイヤ人らしいサイヤ人だ。

 王子の名に恥じず、誰よりもサイヤ人という存在を体現してきたと言っていい。

 悟空のような甘さはなく、穏やかさとも無縁で、子供の頃からずっと闘争の中で生きてきた。

 だが、それでは駄目なのだ(・・・・・・・・・)。 

 誰も解き明かせない超サイヤ人のメカニズム……何故サイヤ人は超サイヤ人へ変身出来るのか。

 そこには、サイヤ人の身体の中にある『S細胞』が大きく関わっている。

 このS細胞の量が一定値を上回ることで、サイヤ人は次のステージへ進む事が出来る。

 300万の戦闘力は扉の前に立つ『資格』であり、そしてS細胞は扉を開く為の『鍵』だ。

 ベジータは資格を得た。彼は今、伝説へと至る扉の前に立っている。

 だが……鍵を持っていないのだ。

 S細胞の量が絶対的に、彼には足りていない。

 

 S細胞は、穏やかになる事で増やす事が出来る。

 というより、穏やかでなければ増えてくれない。

 これが戦闘を好むサイヤ人にとっての最大の落とし穴だ。

 血と殺戮を好む戦士になるのに、必要な条件として正反対の穏やかさを求められる。こんな意地の悪い事があるだろうか。

 だから誰も覚醒出来なかった。

 ベジータを始めとして、サイヤ人は穏やかさなどとは無縁の存在だったからだ。

 一度穏やかになり、S細胞が増えた後に激しい怒りを引き金として伝説への扉を開く。

 そうする事で初めてサイヤ人は黄金の戦士へ至る事が出来るのだ。

 

 無論、これにも例外はある。

 極稀に……それこそ1000年に一度という奇跡に近い確率で、生まれながらに大量のS細胞を保有した子供が生まれる事はある。

 生まれながらの有資格者。最初から扉を開いている選ばれた者。

 それこそが伝説の超サイヤ人だ。しかしベジータはそうではない。

 

 また、親が超サイヤ人へ覚醒済みならば、その素質が子供に遺伝する事もあるだろう。

 最初から超サイヤ人に必要な量のS細胞を保有して生まれた子供は、戦闘力が足りずとも、些細な怒りを切っ掛けとして呆気なく超サイヤ人へ変身してしまうかもしれない。

 だがベジータはそうではない。

 

 もしもベジータが、ここに至るまでに少しでもそうした心を得ていればまだ話は違っただろう。

 敵に情けをかける。親兄弟を大切にする。仲間を大事にする。

 そして心を静かに保つ。

 それらの事を少しでも考えていれば、ほんの少しでも優しさというものを得ていれば、彼はそれだけで大量のS細胞を獲得する事に成功したかもしれない。

 己の弱さを自覚し、限界を自覚して、その弱さに憤る事が出来たならば……あるいは本当に限界の壁を超えて超サイヤ人として覚醒出来たのかもしれない。

 そうなれば、彼はフリーザを倒す事が出来ただろう。

 少なくとも条件の一つは満たしていたのだ。可能性は確かにあったのだ。

 

「くたばれフリーザー!!」

 

 だが彼は逃避した。こんなものではない、違う、自分の限界はここではないと己から目を背けた。

 これでは怒りなど抱けるはずもなく、最後の鍵を外すには至らない。

 S細胞が増えるはずもない。

 資格は持っているのだ。鍵穴の前に立っているのだ。

 だが鍵がどこにあるか気付けない。逃避して探す事すら止めてしまった。

 鍵穴を見ずして、そこに鍵があると理解出来るわけもない。

 資格はあった――だが、それだけであった。

 ベジータの全力を込めた逃避の気弾がナメック星の地表へと迫り、クリリン達が慌てる。

 だがフリーザは軽く跳躍し、その気弾をただの蹴りで跳ね返してしまった。

 

「……あ、あ……」

 

 その瞬間、ベジータの心は折れた。

 ベジータは生まれて初めて心の底から震え上がった。真の恐怖と決定的な挫折に……。

 恐ろしさと絶望に涙すら流した。これも初めての事だった。

 ベジータは既に戦意を失っていた。

 

 確かに資格は持っていた。

 だが開ける意志すら失ってしまってはもう終わりだ。

 ベジータは鍵穴の前に立ったまま――限界の扉を開ける事も出来ずに、開ける事そのものを放棄してしまったのだ。

 

「どうやら戦意を失ってしまったようだね。それじゃちょっと早いけど、止めを刺しちゃおうか」

 

 フリーザがベジータへと止めのデスビームを発射した。

 ベジータはそれを避ける気力もなく、このまま命を奪われるのだとその場の誰もが思った。

 だがベジータの前に割り込んだ男がビームを受け止め、フリーザの前へと立ち塞がる。

 

「サイヤ人を……舐めるなよ……!」

 

 それは死の淵から復活したナッパだ。

 一度死にかけた事により彼の戦闘力は爆発的に上昇し、今のベジータほどとまでは行かないが先程までとは比べ物にならないパワーアップを果たしていた。

 全身をスパークが覆い、気の圧力によって大気が歪む。

 

「ベジータァ! 何をボサっとしてやがる!

俺がブン殴りてえお前はそんな腑抜けじゃねえはずだ!」

 

 心の折れてしまったベジータへ檄を飛ばし、ナッパは単身でフリーザへと立ち向かった。

 実力で及ばぬ事は百も承知。

 だがそれでも、時間を稼ぐ事は無意味ではない。

 時間さえ稼げばリゼットが必ず、フリーザの兄とやらを片付けて戻って来る。

 そこまで持ちこたえれば勝利だ。

 だから、この身を盾にしてでも稼ぐ、守る。

 その為にナッパは捨て石になる事を決意し、その身を盾としてフリーザの前に晒していた。

 

「ナッパ……僕の恐怖を忘れてしまったようだね」

「おおよ! 生憎と出来のいい頭じゃねえんでなあ!

どうでもいい事はすぐに忘れちまうのさ!

俺は、何が何でもお前から……こいつ等を守ってやるって決めたんだよお!」

 

 やらせない、殺させない。

 やっと見付けた居場所なのだ。

 ここが俺の居場所だと、そう胸を張って言える場所をようやく見付けたのだ。

 だからフリーザなどに奪われてたまるか。

 その決意のもと、丸太のような腕で突きの連打を放つも、フリーザには掠りもしない。

 そればかりかお返しとばかりに放たれた蹴りの一発でナッパの身体がひしゃげ、何かが折れるような不吉な音を響かせて大地に沈んだ。

 

「何が何でも……だっけ? 大口の割には全然大したことないね」

 

 ターレスの気概も、ベジータの矜持も、ナッパの決意も。

 全てがフリーザにとっては塵芥だ。何ら心には響かない。

 ただ万物を絶対の力で蹂躙し、破壊する。

 だから彼は、宇宙の帝王なのだ。




謎のイケメン「読者の皆さん、安心して下さい。
この超最高イケメンのとてつもなく凄まじすぎる真のサイヤ人の戦士であるこの僕がいる限り、薄い本展開になどさせませんから!
頼もしすぎる……頼もしすぎるんですよ、僕は!」

【戦闘力】
・ナッパ:24万→150万
・ベジータ:29000→300万
※仙豆複数消費

【S細胞】
近年になって生えてきた新設定。
穏やかでないとS細胞は増えず、超サイヤ人にはなれないらしい。
ベジータが人造人間編で覚醒できたのはやはり、ブルマのおかげで少しだけ穏やかさを得たからだろうか。

【超サイヤ人への資格】
300万ないと超化出来ないのは、このSSの独自設定であって公式設定ではありません。
まあ超化するのに高い戦闘力が必要とは長年考察サイトなどで言われていたことではありますが。

【Sparking Meteor(スパーキングメテオ)】
リゼットの技。
ウイローに使ったスパーキングの超強化版であり、特大の気弾を投げつける。
スーパーノヴァと同系列の大技。
気弾は放出し続ける気功波と異なり、一度完成させてしまえば本人の戦闘力が下がっても威力が下がる事はないので一瞬だけ戦闘力を上げるバーストリミットとの相性はいい。
一瞬だけ倍率を上げてこの技を完成させてすぐに倍率を下げるという使い方をしたが、それでもリゼットはHPが低いのでダウンしてしまった。

Q、ブロリーとかセルとかブラックとか、明らかに300万より上なのに瀕死パワーアップしてるけど?
A、あ、あいつらは特別だし……(目逸らし)
とりあえずこのSSではそういう設定でやっていきます。
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