参院選も終盤に差しかかった15日、定例の川崎市長会見。福田紀彦氏は「選挙期間中なのでコメントしにくいところですけども」と前置きしながら、語るべきことを淡々と、しかし確信を持って語った。
「各政党が議論している外国人政策は私たちが国に対して言ってきたことだ。外国人をどう受け入れ、国と自治体、企業がどう役割分担するべきか。縦割りではない取り組みを国が定める必要がある」
続けて「冷静な議論がなされ、どうしたらみんなが共生していける社会になるのか、しっかり議論されるべきだ」と念押しするように言った。
参院選でにわかに争点となった外国人施策だが、進む方向が「共生」なのは大前提だという自治体の意思は示された。ましてや排除など。わざわざ「冷静に」と強調したのも、デマや差別扇動があふれる「ヘイト選挙」に「道を誤るな」とくぎを刺したかったからに違いなかった。
「私たち自治体が抱えている課題を生活者の視点から国に伝えてきた。それがちゃんと認識されず、偏見や差別を生むのではないか。そうした懸念がやや顕在化しているのではないか。モノが来るわけでなく、人が来て、暮らし、働くということはどういうことか、自治体と国がやるべきことの整理がまだできていない。私たちが抱えている大きな課題だ」
京浜工業地帯を抱え、在日コリアンをはじめアジアの人々や日系人が多く暮らす川崎市。共にまちを築いてきた多文化共生の一つの結実が2019年、市差別のない人権尊重のまちづくり条例の制定であった。全国で初めてヘイトスピーチに刑事罰を設けた条例は、差別は決して許されない、地域を分断する差別を根絶するという規範をこのまちに根付かせる。
その先進性は、とかく言論の扱いに慎重な選挙において「選挙であってもヘイトスピーチは許されない」というメッセージを交流サイト(SNS)で投稿したことにも表れている。福田氏はしかし事もなげに言うのだった。
「選挙のたびにやってきている。今回は外国人についての議論が沸いているが、私たちが通常やっていることで、特別なことではない」
全面施行から5年を経た条例の重みは、実態のない「外国人優遇」の虚言が飛び交う選挙ヘイトの出現に、ますます際立つのだった。
「すごく苦しい」元留学生の思い
17日、JR川崎駅東西自由通路。外国人をないがしろにする「日本人ファースト」を掲げる極右・参政党の候補者、初鹿野裕樹氏の街頭演説に市民が抗議の声を上げていた。手にしたプラカードには「みんなファースト」「差別を政治に利用するな」などと書かれていた。
聴衆から一歩離れたところでスマートフォンのカメラを向ける女性がいた。聞けば中国・大連出身の53歳という。
-どうして写真を撮ろうと思ったのですか。
「SNSで発信して、極右的な考えに反対する声もあるということが広がればいいと思って。数に圧倒されて、皆がそうだと流されてしまうでしょう。だからこうして反対している人は本当に尊い。仲間にも知らせたいので、記者さんもぜひ伝えてほしい」
-「日本人ファースト」ということが広がり、心配でしょう。
「ええ、外国人を悪とみなす風潮になってしまっていると感じます。外国人も日本のために貢献しているはずです。税金だって払っているし、労働も担っている。それを一切見えないようにする声だと思います。すごく苦しいです」
-近くにお住まいですか。
「横浜です。川崎市内の小学校と中学校で中国人の子どもに日本語を教えています。ベトナムやフィリピンから来た子もいる。みんな日本がいい国だと思って、これから活躍していこうという子どもたちです。なのに二の次にされるなんて、日本社会がこの先どうなるかを考えるだけでかわいそう。皆で共存し、仲良くやっていかなければいけないのに、どうして排除するんでしょうか」
-ご出身は。
「30年前、中国から来た元留学生です。いま外国人留学生が優遇されていると言われていますが、おかしいです。国費留学は国同士でやっている制度で、日本人留学生が海外へ行けば相手国の支援を受けます。お互いさまだと知らなければいけません。多様な人々で刺激し合ってこそいい研究ができる。閉ざしてしまえば、日本人も外国人もいい研究ができなくなる。それは日本を駄目にする。日本人ファーストにもなりません。もうちょっと理性を働かせてほしいです」
-社会が理性を失ってると。
「私が来た頃の日本は今とは違っていました。みなさん、外国人に優しかった。大学に留学していた頃は中国との物価の差が大きくて、みんなが助けてくれました。そういう経験があるから、日本に恩返ししたいと学校の仕事を始めました。温かくされたら、そういうふうに考えるようになります。バッシングされ、排除されれば逆の力が生じてしまう。相手の立場に立ってものごとを考えられた少し前の日本が懐かしいです」
「外国人との間で生活上のトラブルがないわけではないでしょう。でも問題が起こったら解決すればいいだけで、排除することではないと思います。そもそもみんな、日本の移民政策に沿って来ています。好き勝手に来ているわけじゃない。受け入れたからには優しくするべきではないでしょうか。特別なことを求めているのではなく、これ以上排除しないでほしいだけなのです」
「川崎を舐めるな」地域にこそ希望
短い立ち話だったが、異国で生きた苦楽が詰まった訥々(とつとつ)とした語りだった。
いまこのような人たちを排除しようとしているのは何も参政党だけではない。「違法外国人ゼロ」(自民党)、「治安と国籍制度の適正化」(日本維新の会)、「外国人土地取得規制法案の成立」(国民民主党)、「移民政策の是正」(日本保守党)などと外国人の権利を規制する差別政策を競い合う。
「難しい時代ですね」とうつむく女性に「でも」と私がとっさに口にしたのは「川崎市にはヘイトスピーチをさせないための条例があります」だった。
女性の顔がさっと明るくなるのが分かった。「川崎はたくさんの外国の方がいらっしゃるから、そうなんですね。他のまちにも広がっていったらいいですね。ぜひ川崎がリーダーになって広げてほしいですよね」
私はプラカードを手にしていた人たちも紹介したいと思った。
横浜市戸塚区の高畠修さん(73)、悦子さん(71)の2人は、条例の精神を体現するように毎週末、川崎駅前でレイシストがヘイトスピーチをしにやって来ないか監視を続ける「川崎駅前読書会」のメンバー。修さんが中国語で「中国と日本は一衣帯水の隣の国です」「かつて日本は中国を侵略しました。本当に申し訳ありません」と告げると、女性は「ああ、泣けてきます」と涙を拭った。
やはり心細いのだ。「本当に聞いて勇気のある行動です。なかなかできることではないです。日本の場合、みんな一つの方向へ行ってしまうところがあるから、大きな力の中で『違う』と言えるというのは本当に素晴らしいと思います。ありがとうございます」
街頭演説の抗議に立った悦子さんのプラカードには「川崎を舐(な)めるな」とあった。
希望は地域にある、地域に生きる人々にある。
私は差別に投票しない。川崎の希望をつなぎ、差別をなくす法律をつくる政党、候補者に、このまちと、このまちに生きる人々を守る一票を投じる。