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29歳の週報 第24号 2025年7月19日に思うこと

私は29歳で、女である。
結婚していなければ子供もいない。
中国と中国語が大好きで、学生時代から熱心に勉強してきて今は日中をつなぐ仕事の隅っこで中国人と働いている。
韓国人の彼氏がいて、大阪の隅っこで異文化に囲まれながら平凡な人生を謳歌するどこにでもいる好奇心旺盛な人間だ。

 恵まれた人生を送ってきた自覚がある。
聡明な両親のもとに生まれて、好きなことを学ばせてもらい、行きたい人生を生きている。だから、いつもあまり大局を見ること、大きな視点で世界を捉えるという作業をしてこなかったのかもしれない。

 政治や、政策について考えることだってしてこなかった。だけど、この数ヶ月の間ずっと考えていたことがある。そのことについて書くべきかどうか悩んだけれど、やはり言葉にしておきたい。
 言葉にしないで見送ってしまったら、全部無かったことになってしまいそうだから言葉にしてみたいと思う。
 これから書くことは、難しいことでもなんでもない。ただ、私という一人の人間が2025年7月19日。参議院選挙の投票日の前日にぼんやりと思ってることを書くだけの話なのだ。

 Xというsnsがある。
140文字以内で自分の考えてることや日常を気ままに呟くSNSで日本での利用者数はおよそ7000万人で、日本では最大の規模と利用者数のSNSではなかろうか。
 私はこのXというプラットフォームで、中国との異文化や韓国人の相棒との毎日の些細な出来事を備忘録のように綴ってきた。

さて、Xは自分が投稿するだけではなく、「あなたにおすすめの投稿」というAIが選んで私に興味がありそうな話題の投稿を表示してくれるという機能がある。

例えば、ケーキが好きでケーキのことばっかり話している人の「あなたにおすすめの投稿」は、ケーキとかスイーツのお店の投稿や、広告が多くなるし、アイドルのファンでそのアイドルについての話ばかりしている人ならば「あなたにおすすめの投稿」はアイドルの話題で埋め尽くされる。

 先ほども言った通り、私は中国や韓国、さらには仕事の愚痴をダラダラと書いているので普段はキャリアや国際の話題が「あなたにおすすめの投稿」として表示されることが多い。

 その中に流れてきた一つの動画からこの物語は始まるのである。

 オレンジ色のネクタイをつけた、一人の中年の男が街宣車の上でこの世の全てに打ち勝てるような笑顔で語った内容に私の頭は凍りつき、つま先から頭まで冴え渡るような思いになったのである。

 言葉をそのまま載せるのは憚られるので、要約してその人の主張を書かせていただくと、

「我々が政権を取ったらどうなるか?まずは中高生の女子学生の方々にライフプランを提示したい。今まで通り男性と同じように大学を出てキャリアを積むという道ももちろんいいです。だけど一方で大学でも短大でも高卒でもいい。先に結婚して子供を産み育てる、それを経済的に国がバックアップする。大学を出たより子供を何人も育てたお母さんが就職する時に次に給料が高いようにするんです。これいいじゃないですか。だって大学行くより子供三人育てる方が大変ですからね。つまり、企業で働いてキャリアを積むよりも子供を産み育てる方が給料が高い、そういう状態を作るんです。そしたら選べるでしょ???」

これだけでも結構すごいのだが、彼の話はまだ続く。

「若い女性しか産めないんです、しかも日本人の女性に産んでもらわないと困るんです。
だから、日本の若い女性に新しいライフプランを国が提案する。もちろん選んでくれたらいいですよ。このまま行ったら日本民族あと200年くらいで滅んじゃう。」

さらに続けて

「私が言ってることは馬鹿げて聞こえるかもしれないけどこれくらいの斬新な意識改革しないと、女性の意識変わんないから!
だから、中高生の女の子にあなたたちが頑張ってこっちの道(子供を産む道)選んで欲しいと伝えていく。」

2分だけの動画を見てる間時が止まったような気がした。

そのオレンジ色のネクタイの男はある政党の党首らしい。その政党の名前を知ったのはそれが初めてだった。

彼の言葉一つ一つに自分の人生を踏みつけられて、この先生きていく世界をぶっ壊されるような気がしたのだ。

私は29歳である。
大学を出て男性と肩を並べて総合職で働く女である。私は夢を追いかけてここまでなんとか走り抜けてきたのだ。大学時代に出会った中国という世界に魅了されて、海外出張や駐在に憧れて、海外展開を積極的に行ってる倍率数百倍を超える企業にいくつもいくつもエントリーして男子大学生とも肩を並べて選考を受けた。

私が就活生だった2020年はすでに、コンプライアンスや面接でのNG質問などそういうものがかなり整備されていて、私は男女平等の舞台の上で勝負をできた恵まれた女学生だったのだろう。

よく、氷河期世代や、もっと上の世代の女性が面接で酷い言葉を投げつけられたり、入社した後も常にパイオニアであらなければならなかったという話を聞くたびに、彼女たちの血や涙、無数の屍で整備してくれた道を私は歩かせてもらっているといつだって思ってる。

だから私だってこうやって歩く道を整備しながら次の世代にもっといいものを残していきたいと思ってる。

そして今29歳なのである。
結婚はしていない。私が自分のキャリアを確立させて、やりたいことを全部やりきろうと思ったらどう頑張ってもあと3-4年くらいは時間がかかってしまいそうだ。

私には韓国人のパートナーがいる。
彼はそんな私が夢を追いかけているのを見ていつだってニコニコ笑いながら応援してくれる。
海外出張から帰ってきた私をいつも優しく迎えにきてくれる。私の人生のこと、夢のこと。すぐには結婚できないこと。一緒に話し合っていろんなことを共有してきた。

いろんなことに恵まれて、愉快に楽しく生きてる当たり前の毎日にドス黒い影が差し込んでいる。

私の会社の同僚にはたくさんの中国人がいる。日本人と結婚して子を授かった人だってたくさんいる。その子供たちはどうなってしまうんだろうか。

私が仮に今の彼と結婚した時、生まれてくる子供は韓国と日本の血を引いている。
ならばその子供は、日本人として認められないのだろうか。日本人の私が産む日本人と韓国人の子供には意味がないのだろうか。

私が大好きな中国と関わる仕事、積み上げたいキャリア、韓国人の相棒。

もしこのオレンジネクタイの男が世の中を作ることになったなら、その全部がぶっ壊される未来の影が見えた時、これからもずっと続いていくと疑いもしなかった愉快で大変で平凡な自分の毎日と人生の足元が急に真っ暗になって、吊り橋が崩れていくようにガラガラと崩れて、本当に怖いと思ったのだ。

試しに難波に出かけてみた。
「日本人ファースト」
「日本人が豊かになれる国」

その言葉に熱狂するだいだい色の群衆。

ああこんなにたくさんの人が、狂った世の中を望んでいるのか。

私だって悩んでないわけじゃないのだ。
29歳である。三人の子供を産んだ母が長女の私を産んだ年齢をとっくの昔に追い抜いてしまった。

九州の高校や中学時代の友人たちは次々と結婚して子供を抱いている。

だけど、私は悩みながらもこの自分の人生という道を精一杯胸を張って立っているのだ。

後悔しない人生なんてないかもしれない。

だけど、やりたいこと全部やりたい。まだまだいろんなできてないことがある。子供は欲しい。いつか絶対にこの手に赤ちゃんを抱きたい。だけどそれは今じゃない。今は全力で自分だけの人生を疾走したい。

悩みまどい葛藤を重ねながら、この29年の人生を生き抜いて生きたしこれからも生きて、生きて、生きてみたいのに。

「非国民 反日 チョン」

もしも彼らが望む世の中になるなら、まず私はきっと裏切り者にカテゴライズされるんじゃないだろうか。

29歳。
もう、(子供を産むという年齢にだけ着目していうなら)ギリギリで若いかどうか微妙な年齢。
中国語を話し中国人と働き、韓国人と一緒にいる私は、日本人ファーストへの造反者にされるんじゃないだろうか。

外国人である同僚や相棒が摘み出された後、「非国民」の枠に嵌められて排斥される順番について考えたら、私は比較的早い段階で非国民にされてしまう気がする。

だって子供を産んでないから。
産むとしても、彼らが望む純日本人の子供を産めないから???

そんな日本はお断りである。

私が暮らすこの国を、そんな国になんてさせたくない。全ての人が人として「私が私でいられる」そういう国で暮らしてるから毎日楽しくて面白くて愉快なのだ。

なんとしても、あんなことは止めないといけない。

私がこれからも胸を張って堂々と生きていくために。外国から日本に来てくれた人たちに肩身の狭い思いなんて絶対にさせたくない。彼らは私の大好きな人であり、尊敬できる上司であり、優しい同僚であり、私が憧れる人だってたくさんいる。

私の見えないところで朝5時にコンビニに弁当が並ぶ生活を支えてくれる人たちだって海の向こうから来た人たちなのに。

大阪の街を歩き回る。
スマホを片手にあのオレンジ色の党以外の演説を聞きに行った。聞いて回った。

絶望もあったけど、そこにはちゃんと希望があった。

「排外主義を売り物にするそんな政党に票が流れてはいけない!第一人間にファーストもセカンドもありません!みなさん!全ての差別をなくしましょう!」

「外国人に向けてる差別の感情はいつかは性的マイノリティ、障害者へと波及する。差別は根本から断ち切らなければ」

「外国人を差別して得点を稼ぐような政党があるならば私は全力で戦って参りたいと思っています」

「女性の人生は誰かが決めるものじゃない。
私の人生は私が決める!そういう世界を目指しましょう!」

いろんな場所に足を運んで、いろんな人や政党の話を聞いてみたら、そこにまだ差別や人の人生を支配しようとする人たちと戦おうとしてくれる姿があった。

家に帰って、普段は開かないチラシでパンパンになってるポストを開ける。

圧縮されたチラシたちが滝のように流れ落ちて床に落ちた。

そのなかから、一つの封筒を探し出して、拾い上げて強く強く握りしめる。

とても平凡なことを言う。
すごくつまらないことを言わせて欲しい。

私は街宣車の上から反差別を叫ぶこともできないし、女性の人生を堂々と破壊して女をまるで子供製造危機として扱うような人たちと論戦を行うこともできない。

だけど、この私の一票のもつ小さな小さな力がどうしようもない差別の煽動を止めることや私の人生を守ることにつながると信じたい。

私の人生がどうなるかはわからない。
だけどどうかこのままずっとこの日本で、大阪で。大好きな仕事をしたい。私がいつか産む私の子供が幸せに楽しく、自分の人生を自分の道を選んで歩いていける世の中を残したい。

去年私の大親友に生まれた可愛い女の子の赤ちゃんが15歳になった時、「子供を三人産みますか?大学にはいってもいいですよ?」なんて大人が突きつける世界を残したいとは思わない。

私たちが暮らす日本をあんな人たちに明け渡すわけにはいかない。

自分の人生生きていきたい。
これからも異文化に塗れて日本と世界を繋ぐ仕事の片隅で泣いたり笑ったりしていたい。

だから、この一票が暴走を止めてくれると信じたいのだ。

一人でも多くの人が投票に行くことで、差別や排外主義にNOを突きつけて欲しいのだ。

明日私は投票する。

この数週間街頭演説や言葉を聞いて、本を読んで、考えて考え抜いて私の一票を投票箱に投げ入れる。

民主主義をまだ信じていたい。
自由な一人の女であり、人間でありたい。

そう言う願いを込めてこのnoteを書いた。

あえて29歳の週報にこの記事を入れたのは、29歳の私が今年最も恐ろしいと思う出来事がこの数週間に起きたからである。

だけど、私なりにいろんなことを考え学んだ数週間だった。

29歳夏の記憶。
これからも考えて行動していくという決意表明みたいな何か。

みんなで投票行きましょう。

そんなことを言いたくて泣きながら書いた4824文字です。

おしまい。

※この文章は特定の政党を支持するものでありません。※

追記

朝起きたらものすごいいろんな人に読んでいただき、広げていただき驚きました。
おんなじこと考えて不安に思ってる人が多いことに少し安心しました。

普段は呑気に29歳の大阪での日常のエッセイ書いてます。これからも思ったことを言葉にしていきたいと思います。

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コメント

4
加藤宗一郎
加藤宗一郎

X(Twitter)より飛んでまいりました。
私は男性ではありますが、書かれていることに、とても共感いたしました。

レッツ剛田
レッツ剛田

いつも投稿楽しみにしています!
今回の内容は、選挙当日前ということもありもしかしたら投稿に勇気のいるものだったかもしれませんが、同年代の女性として本当に頷くことばかりでした、、!誰も排除しない世の中になるよう選挙行ってこようと思います🗳️
蒼子さんも気をつけて選挙向かわれてくださいね!

ののむら
ののむら

これからも呑気に暮らしたいです。
個人の自由が尊重されて、呑気に暮らせる社会は、呑気な姿勢では守れないのだということが分かった選挙戦でした。
心の片隅がドンヨリとしています。

菊地輝子
菊地輝子

有難う有難う有難う

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29歳の週報 第24号 2025年7月19日に思うこと|蒼子(あおこ)
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