冤罪(えんざい)は国家権力による重大な人権侵害である。捜査当局は責任を重く受け止め、猛省すべきだ。
1986年に福井市で女子中学生を殺害したとして、懲役7年が確定した前川彰司さん(60)の再審で、無罪判決が言い渡された。服役後も一貫して無実を訴えてきた。
再審判決は、有罪の根拠とされた知人の証言に信用性がないと断じた。自身の薬物事件の罪が軽くなることを期待して、犯人は前川さんだとうそをついた可能性が高いと判断した。
有力な証拠がない中、捜査に行き詰まった警察が、そのうそに合わせて他の関係者の証言を誘導した疑いも指摘している。ストーリーありきで突き進んだのは、真相解明を図る捜査機関としてあるまじき行為だ。
検察の責任も極めて重い。再審判決は、無罪の根拠となり得た証拠を意図的に隠した可能性に言及し「不誠実で罪深い」と批判した。
最初の再審請求から無罪判決まで21年かかった。背景にあるのは、審理の進め方や証拠開示のルールがない再審制度の不備だ。再審無罪の決め手になった証拠など287点が検察から開示されたのは2度目の再審請求後だった。速やかに出されていれば、より早く結論が出たはずだ。
再審開始決定が出されても、検察側の不服申し立てによって審理の長期化を招く問題もある。前川さんの再審は2011年にいったん開始が決まったが、検察側の申し立てで取り消された。
こうした問題について見直しの議論が始まった。死刑が確定していた袴田巌さん(89)が再審で無罪となったことがきっかけだ。
法相の諮問機関である法制審議会の部会で議論が本格化している。ただ、政府の法案提出は早くても来年になる。
野党6党は既に法案を国会に提出している。請求があれば原則として裁判所に検察官への証拠開示命令を義務付ける規定や、再審開始決定に対する不服申し立てを禁じる内容も盛り込まれている。早期成立を図る必要がある。
冤罪を生み出す土壌を放置し、救済の対応が遅れれば、刑事司法に対する国民の信頼は失われる。過ちを繰り返さないための改革を急がねばならない。