納税や医療保険の利用は

――SNS上で「外国人は納税してない」とか「社会保険料を払っていない」という投稿を見かけます。納税の実態は?

橋本:そうした言説はあくまで都市伝説のようなものです。基本的に税や社会保険料の支払いと、日本人か外国人かという国籍は関係がありません。
日本で働いていて一定の給料をもらっていれば、外国人でも税金や社会保険料を払う義務があります。
逆に日本人だとしても、大学生であればアルバイトで得たお金が基準に達しなければ納税する義務がありません。また、海外に永住している日本人の場合、日本に住民票がなく日本で稼いでいる給与もないので、日本に納税する義務はありません。
社会保険料も税と同じで、国籍による区別も、優遇も一切ないです。「外国人特権」とか「外国人は優遇されている」とか主張している人には、逆にその根拠を聞いてみたいですね。

――「外国人が医療保険を濫用している」という前提で政策を掲げている政党もあります

橋本:違和感しかありません。厚生労働省のデータでは、2023年の国民健康保険の被保険者は2400万人いて、その内外国人は97万人です。割合としては全体の4%ほどになります。ただ、その外国人たちが医療費をどのぐらい使っているのかというと、総医療費のうち1.39%です。
要するに外国人は被保険者の4%なのに、実際に使っているお金は全体の1.39%であるということです。
つまり、若くて健康な現役世代の外国人が国民健康保険に入ってくれていることで、むしろ日本人の高齢者の医療費が支えられているということになります。
こうした現実からして「濫用」という言葉がなぜ出てくるのか、首をかしげてしまいます。

――外国人に生活保護を支給しないという主張は?

橋本:「外国人ばかり生活保護をもらっている」といった言説をよく見ますが、これもファクトやデータに基づかない完全なデマです。
そもそも日本で外国人は生活保護を利用する「権利」はありません。生活保護を「準用」という形で利用できる可能性があるのは、永住者や特別永住者、定住者、日本人の配偶者といった極一部の在留資格に限られています。日本にいる在留する外国人の数は全体としてすごく増えているにもかかわらず、生活保護を受給している外国人の数はほぼ横ばいなのが現実です。
要するに、分母は増えているのに、分子は増えていない状態です。
日本全体で160万世帯が生活保護を利用していますが、外国籍の人が筆頭世帯はそのうち4万5000世帯です。その内訳をよく見ていくと、高齢の特別永住者、要するに「在日」と呼ばれていた方々が多いのです。なぜ高齢の「在日」と呼ばれる方々が生活保護を必要としているかというと、日本の制度上、「在日」の方々は1982年まで国民年金などの社会保障に入ることができなかったからです。
つまり、在日と呼ばれる方々が生活保護と必要しているのは、政府の方針で無年金・低年金になってしまっていたからです。ただ、こうした方々はご高齢ですから自然に利用率はどんどん減っていくと予想されます。

――「日本の土地を外国人や海外企業が買い占めている」という意見は?

橋本:
実際のところ、どこの土地をどれくらい外国人が所有しているのか、政府は包括的なデータをまとめていないようです。
ただし、2023年の1年間に限れば、自衛隊の駐屯地や空港の周りといった重要施設の周辺について、どの国籍の方がどういった土地を取得したか内閣府がデータを出しています。それを見ると、1年間に外国人や外国企業法人が取得した面積は、その年に取得された土地全体の0.75%で、件数では全体の2.2%だったそうです。
SNSでは「外国人が土地を買うために殺到している」といった書き込みを見ますが、この0.75%とか2.2%という数字をどう見るかということになると思います。これから色々な調査やデータ収集が進んでいくでしょうから、それ次第だと思います。
ただ、安全保障という観点でいえば、どういった人が重要施設の周りに私有地を持っているのかは、その人が日本人であれ、外国人であれ国は把握するべきとは思います。

――外国人に対する批判的な言説が広まっていることついて、どう思いますか?

浅倉:日本に来た外国人について、「外国人問題」とか「移民問題」といった形で「問題」として取り上げる風潮がSNSなどで強まっていますが、根拠がなかったり、実態よりも過剰に取り上げたりしている印象です。こうしたSNS上での動きを受け、これまで「票にならない」と論点になってこなかった外国人に対する政策が、急に選挙の争点として出てきたという印象を持っています。
「自国民を優先するべきだ」という言説が広まっていますが、それはある意味どの国でもそうでしょうし、日本でももう既にそうなっています。たとえば、橋本さんが説明した通り、外国人は生活保護を利用する権利を基本的に持っていません。
いま起きているのは外国人側の問題ではなく、むしろ日本社会が外国人をどう受け入れていくのかという問題でもあると思います。