働きざかりに、男も女もねぇもの
もやもやした気持ちを
どっかでふっ切りたかった。
これ以上ミクにあたってしまうのも、怖かったから。
ふと見つけた、市民農園の募集。
余った土地を、市が一定の利用料で
市民に菜園として開放しているそうだ。
休日に手入れをして、収穫した野菜を自分のものにできる。
利用料も格安だった。
自分に割り当てられた区画へ行き、
初めての農作業を体験してみた。
太陽の下でただただ体を動かしていると、
嫌な言葉が吹き飛んでいくみたい。
ミクも広い場所で思い切りどろんこ遊びができて、
はしゃいでいる。
そこで出会ったのが、
通称おばあだ。
農家を長く続けてきて、
子どもたちが大きくなった今は、田畑を分け与えて引退。
YOSAKOIソーランに夢中になったり、
留学生のホームステイを引き受けたりと、
趣味三昧でイキイキと暮らしている。
野菜作りのコツを教えてもらううちに
仲良くなり、夫の愚痴も出てしまった。
母親だからと、たった一人で子どもの世話をする
重苦しさや不安。
おばあは、私の言葉をそのまま受け止めてくれた。
聞き終わると、
おばあは遠い目をして空を見上げ、話し始めた。
「なんだかおかしな世の中になっちまったもんだねぇ」
「え? 昔はそうじゃなかったの?」
「私たちの若いころは、
男も女も働くのが当たり前だったさ。
子どもが産まれたらカゴさ入れて、
田んぼのあぜの木陰に置くんだわ。
泣いたら、乳をやったり、あやしたりね。
父ちゃんだって、おんなじ畑で働いてんだから、
あたしだけが赤ん坊の世話やくわけでねぇ。
近くにいる方が、やるだけ。
父ちゃんだって、自分の子が泣いてんのに、
知らん顔もおかしいじゃないのさぁ~」
おばあは、こともなげに言って、
明るい笑い声をあげた。
へぇぇ~、昔は父親も母親も
一緒に働いて、
ふたりで育児もしてたってこと?
「それって、今で言う共働き育児?」
「農家じゃ、当たり前のことさね。
だって、働きざかりに、
男も女もねぇもの。あはははは」。
高らかに笑うおばあの声を聞いていたら、
力が抜けた。
世間の「母親は育児に専念するもの」なんて、
いったいどこから出てきたんだろう?
ばかばかしくなってくる。
だけど、ある言葉が
心の底にひっかかってる。
俗にいう<三歳児神話>。
「あのぅ、でも三歳までは……って
言うでしょう?」
「はて?
『三つ子の魂百まで』ちゅうなら、
三才くらいから、その子の性格が
現れてくるって言葉だども」
「え? 三歳まで母親が育児に専念をしていないと、
子どもがおかしくなっちゃうんでしょ?」
「なにを、言ってんのさぁ(笑)。
昔は兄弟が多くて、
上の子が下の子の面倒みるから、
いちいち親が育てなかったさ。
『ねんねんころりよ』って子守唄も、
親の歌じゃなく、
子守りをする姉やの歌でしょうに」
そういえば、そうだ!
どうして気づかなかったんだろう。
いまは母親ばかりが
一人きりで育児を背負わされてる。
「うちなんて、平日は夜10時過ぎなきゃパパは帰ってこないし、
子どもと顔を合わすのって土日だけで……」
「へぇぇ、そりゃ、子どもも寂しいが、
だんなさんも寂しかろうねぇ。
昔は田んぼに行きゃあ、
お父もお母もいたもんだけど」
夫が育児できなくて、寂しい?
……そんな風に考えたことなかった。
確かに、いつ歩いたとか、
今日はこんなことを話したとか、
自分の子どもの成長を見れないなんて、もったいないよね。
男の人は、人生で大事な何かを
手のなかからこぼれ落としているのかもしれない。
育児は義務じゃなくって、
かわいい我が子の成長なんだもの。
*第1話は → こちら
https://note.com/momose1000/n/nd4a017fa99b3
*マガジン「それってマザハラ!?」からも、まとめ読みできます。
いいなと思ったら応援しよう!

コメント