スティール文書のごり押し
2016年当時の評価を調査し直したCIAの分析官たちは、当時の評価について、部門長たちの過剰な関与や極端に短い提出期限などの様々な手続き上の欠陥を列挙した。
部門長たちの過剰な関与とは、ブレナンCIA長官、コミーFBI長官、クラッパー国家情報長官の口出しによって、あらかじめ方向性が決められたことを伝えている。この3人の中で最も中心的な役割を演じたのは、ブレナンCIA長官だった。
ブレナンCIA長官は、ロシア関与の有力な証拠として当初扱われたスティール文書を、ロシア専門家たちの反対を押し切って評価の根拠として入れることをゴリ押しした。
スティール文書とは、イギリス情報機関MI6で20年近く働いた経歴のある、ロシア問題の専門家であるクリストファー・スティール氏が作成したものだ。トランプがモスクワにあるリッツカールトンホテルのスイートルームに複数の売春婦を呼んで乱痴気騒ぎを行ったなどと書かれていた文書だといえば、思い出す人も多いだろう。そんな乱痴気騒ぎの様子をロシアが隠し撮りをしていて、それを弱みとして付け込んで、ロシアがトランプを操っているなどということが、2016年の大統領選挙期間中に盛んに言われた。
ところがこのスティール文書は一体誰が作らせたものかは疑問だったが、その後ヒラリーを当選させるべく活動していた米民主党全国委員会が資金源となって作成されていたことが発覚した。
こうした話の情報源となったのは、イゴール・ダンシェンコというロシア人だが、スティール氏はこのロシア人の話の裏取りすらしていないのだ。こういう文書を評価の根拠にすることにロシア専門家たちが反対したのは当然だろう。今やあのスティール文書の信憑性を信じている人はいない。
CIAの分析担当副長官は、ブレナン氏宛ての電子メールで、「いかなる形であれこの文書を掲載することは『報告書全体の信頼性』を損なうリスクがある」として、反対する意向を示していた。だがブレナン氏は、「私の結論としては、この情報は報告書に掲載する価値があると考えている」と表明して、強引に推し進めたのだ。
そしてこのブレナン氏の暴走にコミー氏、クラッパー氏も同意をし、スティール文書の2ページの要約を評価文書に添付することを決定した。