終わってからファクトを知るのでは遅い 国際基督教大・橋本直子さん
参院選で「問われるもの」について、有識者らに聞きます。今回は、SNSで氾濫するデマに対してファクトチェックを投稿した国際基督教大准教授の橋本直子さんです。
SNSには外国人をめぐるデマが氾濫(はんらん)しています。私は25年以上、移民・難民政策を追ってきた者として今回、データに基づく事実(ファクト)をX(旧ツイッター)やフェイスブックに投稿しました。
例えば「不法滞在者が治安を悪くしている」と言われますが、観光客が約3700万人、中長期滞在者が約377万人(いずれも2024年)と多くの外国人がいるなかで、今年1月時点の不法滞在者は約7万5千人。これは国際的にも大変少ない数字です。外国人は増えているのに、刑法犯検挙人数のうち外国人はここ十数年ほど横ばい。分母が増えているわけで、割合としては下がっています。
「外国人が生活保護を乱用している」という言説もありますが、約163万の受給世帯のうち、外国籍世帯は約4万6千世帯(23年7月末時点)で、全体の約2.8%にすぎません。
こうしたデータを投稿したところ、多くの方に読まれ、なかには「私たちはファクトに飢えていた」というコメントもありました。議論や投稿をする前に、まずはファクトを知ってほしいと考えています。
あの日、検索された What is the EU?
参院選で排外主義的な主張が目立つ今の空気は、16年の英国の欧州連合(EU)離脱と重なります。
当時、私は英国にいました。ある政党は「EUに加盟しているから外国人が入ってきて、あなたたちの仕事が奪われている」と主張し、労働者層の多くがそれを信じて、国民投票で離脱に賛成する票を投じました。
しかし、離脱が決まった日、英国で非常に多く検索されたのは「What is the EU?」だったといいます。終わってからファクトを知るのでは遅いのです。
外国人受け入れ策、後手のまま
これまで日本では「移民政策はとらない」としながら、実態としては外国人労働者を多く受け入れてきました。日本語教育や文化・社会ルールの周知といった、受け入れのための仕組み作りが後手に回っている間に、外国人労働者はどんどん増え、ひずみが生じてきました。
また、コロナ禍で私たちは「疑似鎖国」ともいえる状態を経験し、21年の訪日外国人は約25万人に減りました。そこから3年ほどで3700万人まで増えたわけです。インフラの整備が追いつかず、そのしわ寄せを観光地の住民が受けています。
「なんとなく不安」という感情が広がるなか、物価高や円安で暮らしが苦しくなっていく。それは決して外国人のせいではないのに、一部の政党や候補者は「外国人のせいにすれば票が取れる」と見込んだのでしょう。
少子高齢化が進むなか、外国人を排除したら社会が成り立たない。今度こそ共生の仕組みを作らなければなりません。
中長期的に日本で暮らす人には、ある程度日本語を話せるようになってもらう。そのための教育は政府が責任を持つ。インセンティブ(動機付け)も必要でしょう。
西欧諸国の多くでは原則的に、中長期に在留する人には一定程度の現地語習得や「社会統合コース」への参加を義務づけています。ゴミ出しや夜間の騒音などの生活ルールをなかなか守れない人には金銭的なペナルティーを科している国もあります。
政治家に求められるのは、票にならない政策にもきちんと取り組み、国民に説明する姿勢です。デマで不安をあおることではありません。参院選で表面化した人々の不安や社会のひずみを、どう有機的な議論につなげていくかが問われています。
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験
さらに今なら2~6カ月目も月額200円でお得!