ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第二十一話 地球まるごと超決戦(3)

 ピッコロ達がクラッシャー軍団と戦っているのと同時刻。

 リゼットは全精力を費やして神精樹の処理に当たっていた。

 その全身は淡く輝き、キラキラと白い粒子が彼女を照らしながらその身体へと取り込まれて行く。

 髪やドレスはまるで緩やかな風でも受けているかのようになびき、その光景だけを見れば酷く幻想的だ。

 

 リゼットが行っているのは、先日完成した元気玉モドキを用いての神精樹からの気の吸出だ。

 この神の樹が地球から吸い出した生命力をリゼットが吸収し、解放する事なく己の内に止めている。

 神精樹に寄生された地球は今、生命力を失い荒廃しつつある。

 それを正しい姿に戻すには、奪われた生命力を還元しなくてはならない。

 だが問題は、神精樹があるうちにそれをやってしまうと、またこの樹に吸い取られるだけの循環になってしまう事だ。これでは意味がない。

 だからまずは、一度地球の生命力全てをリゼットの内に溜め込む必要があった。

 そうして奪われた生命力を全てリゼットが己の内に封じ、神精樹を破壊してから地球に還元する。

 そうする事で初めて、この惑星を救う事が出来る。

 

「……く、う……、ぁ……くぁ……っ」

 

 リゼットがその美貌を歪め、歯を食い縛る。

 額からは汗が流れ、顔は熱でも出したかのように上気し、指先は震えている。

 この方法の最大の問題は、肝心のリゼット本人への負担にあった。

 一度地球の生命力全てを一個人の身体で受け止め、封じ込めるという蛮行。

 その負担は凄まじく、今現在リゼットの身体の中では凄まじい勢いで地球の気が荒れ狂っていた。

 

 本家の元気玉と異なり、リゼットの作り出したこの技はエネルギー体として留める事が出来ず、リゼット本人の強化のみにしか使用出来ない欠陥技だ。

 他者に気を分け与えるのと同じ要領で気を還元する事は容易いが、『元気玉』という気の塊として悟空のようにその場に残す事が出来ない。

 リゼットのキャパシティをオーバーしない程度であれば、それは強力な自己強化術となる。

 未来の話になるが、悟空が己よりも勝る合体13号を屠ったように格上すらも倒せるかもしれない。

 しかしキャパシティを超えてしまえば、それはただの自滅だ。

 彼女の身体を内側から蹂躙する津波でしかなくなり、身体が砕けてもおかしくはない。

 己の限界を超えたエネルギーを得る事で自滅する……物語においてはよく起こる事故であり、リゼットはまさにその事態に陥りつつある。

 

 辛いし、苦しいし、全身が今にもバラバラに千切れそうで気が狂いそうだ。

 もう限界だ。今すぐに神精樹を破壊して、この気を地球に解き放ってしまいたい。

 しかし未だ神精樹に奪われた生命力の9割程度しか回収しておらず、そんな状態で神精樹を壊しては、残る1割の生命力が地球に戻らぬままだ。

 勿論それでも地球は救われるだろうし、明日以降も続いて行くだろう。

 だが還元されなかった分の影響が必ずどこかで出る。

 森のいくつかは砂漠と化すだろうし、動植物の中に本来よりも遥かに早く死ぬ者が大勢出るだろう。

 リゼットはそれを解ってしまっているからこそ、こうして苦悶の中で必死に気を留めるしかないのだ。

 

 だが――だが、それでも限界というものはどうしようもない。

 リゼット一人では地球の生命力など到底受け止め切れない。

 

(も、もう、限界……です……っ!

これ以上は私の方が砕けてしまう……神精樹を砕くしか、ない……!)

 

 既に限界は超えている。

 バケツに水を汲み、それでも尚入れたいからとバケツを無理矢理広げてぎゅうぎゅうに押し込んで蓋をした。

 今のリゼットはいわばそういう状況にあり、しかし限界を超えれば容器を中から壊してしまう。

 既に全身が軋んでいる今、これ以上の吸収にはリゼットの身体が耐えられない。

 もう、開放してしまうしか選択がないのだ。

 

 そんな彼女の後ろに巨漢が一人、突如現れた。

 

「……!」

 

 神精樹の処理に全霊を費やしているリゼットは他に気を回している余裕などない。

 だから今、悟空達の戦いがどうなっているかも分からないし、接近にすら気付く余裕がない。

 敵か? それとも無事敵を倒してきた悟空達のうちの誰かか?

 出来れば後者であって欲しいと思いながら、リゼットは視線を後ろへ向ける。

 

 果たして、そこにいたのはサイヤ人であった。

 

「よお、随分辛そうじゃねえか」

 

 キラリと輝く頭部。

 サイヤ人の髪は生後不気味に変化しないので、二度と髪が生えないその頭部は清々しいまでのスキンヘッド。

 太い眉毛に、粗悪さを全面に押し出したような目。

 髭の生えたその顔は、まるで『私が悪人です』と大々的に書いているかのようだ。

 首は太く、その肉体は一目で鍛え抜かれたものだと解る。

 地球人に怪しまれない為に現地調達したのだろう、その衣服は上下黒のジャージ。

 どうせ動き易い服を適当にチョイスしたのだろうが、それは不思議と似合っていた。

 毛を刈ったゴリラ――とでも表現するべき、自称エリートのサイヤ人。

 ナッパと呼ばれていた男が、リゼットの背後に悠然と立っていた。

 未だ幼さを残す身長153の少女の後ろに立つ、2m超えのゴリラハゲ男のその姿、まさに不審者の如き。

 即通報されても仕方のない、極めて犯罪臭い絵面がそこに完成していた。

 

「貴方は……!」

 

 最悪だ、とリゼットは思った。

 いつかどこかで逆襲してくるだろうとは思っていたが、ここで出て来るとは何てタイミングだ。

 そして過去の己に対し、ありったけの罵声を飛ばす。

 ほら見ろ、言わんこっちゃない。絶対後悔する事になるって解っていたのに。

 完全にこちらに従うような言動はしていたが、あれはやはりブラフだった。嘘だったのだ。

 それはそうだ。普通に考えれば分かる。あのナッパがあんな事を言うわけがない。あれ? 何で私ちょっとほっとしてるんでしょう?

 ともかく不味い状況だ。勿論戦えば負けはない。

 しかし衝撃で、せっかく集めた気が霧散してしまう可能性は充分過ぎるほどにあった。

 

「へっへっへ、今なら俺でも勝てそうだなあ」

「くっ……!」

 

 咄嗟にナッパを排除しようとするも、手が動かない。

 溜め込みすぎた気はリゼットの動きすら阻害し、わずかに身じろぐだけで激痛を与えてくる。

 そんな彼女の華奢な肩に無骨で巨大な手を乗せ、ナッパは告げた。

 

 

 

「俺に『それ』を預けてくれ女神様、あんたの手助けがしてえ!

タフさにゃあ、ちょいと自信あるんだ。少しくらいは役に立つだろうぜ」

 

 

 

「――え?」

 

 リゼットは一瞬、己の耳を疑った。

 ここからどんな汚い暴言を吐いてくるかと身構えていた所に、この言葉だ。

 というかぶっちゃけその方がマシだった。

 リゼットの間違いでなければ、これはまるで協力すると言っているようにも取れる。

 そんな、困惑する彼女にナッパは更に言葉を続けた。

 

「どうした? そんな驚いたような顔をしてよ。

もしかして、俺が受けた恩を仇で返すとでも思ってたか?」

「……」

「思ってたのか。ま、無理もねえ事だがよ。

確かに俺は悪党だし、多くの惑星やそこに住む住民をぶっ殺して来た。

鬼だの悪魔だのといった言葉は聞き飽きたし、そう言われて当たり前の悪行は積み重ねてきた。

だがな、そんな俺でも通すべき最低限の筋って奴くらいは通すつもりだ」

 

 ナッパはその厳つい髭面をニカリと歪める。

 

「命の恩は命で返す。

色んなルールや決まり事や、惑星ごとでコロコロ変わる法律なんかは破ってきた俺だがよ……流石にこれは破れねえ。

俺は悪党だが、それやっちまったら悪党以下になっちまう。

何より、今の俺にはアンタへの『信仰』がある! アンタの為なら惑星フリーザの裏側からだって駆け付けるぜ」

「……手伝って、頂けるのですか?」

「やらいでか。ベジータが捨てた俺の命を拾ったのはアンタだ。

だから俺の命はアンタのものだ。死ねと言われりゃあ死んでやるし、戦えっつうんならフリーザにだって挑んでやらあ」

 

 これはリゼットにとって完全な誤算であった。

 勿論嬉しい誤算なのだろうが、喜びよりも困惑の方が大きい。

 しかし降って沸いたチャンスである事は変わりなく、これに頼らぬ手はない。

 ナッパを怪しまないわけではないが、もうそんな事を考えている余裕すらリゼットにはなく、今だって荒れ狂う気を必死に抑えるので精一杯だ。

 

「わかりました。貴方の協力に感謝します。

……覚悟はいいですか?」

「常在戦場。サイヤ人はいつだって戦場に立っている。覚悟を問うのは無粋だぜ」

 

 ナッパがさっさとやれと催促し、リゼットもそれに頷く。

 そして彼に向け、膨大な気を送り込んだ。

 思わぬ援軍の登場により、もう少しだけ神精樹から生命力を取り戻す事が出来そうだ。

 これで地球を元通りにする希望が出てきた。

 後は悟空達が侵略者を倒すだけだ。

 

(私はまだ、ここから動けない。頼みますよ、悟空君……皆)

 

 

「さあ来い、カカロット!」

 

 ターレスが悟空を挑発し、それに悟空が乗る。

 全身から赤いオーラを出し、戦闘力を倍加させてターレスに拳を繰り出すも、難なく掌で受け止められた。

 ターレスは受け止めた悟空の拳を強く握り、ニヤリと笑う。

 

「戦闘力3万か……悪くねえ。

昔の惑星ベジータなら、最強を名乗れる数字だ」

「っ!」

「だがそれじゃあ、俺には届かない。

神精樹の実を食べ続けてきた俺と貴様との間には、天と地程の力の差があるのだ」

 

 ターレスは軽く悟空の腹を蹴り上げ、吹き飛ぶよりも早く頭部を強打する。

 悟空はそれに防御すら満足に行えず、地面に向けて高速で叩き付けられた。

 ターレスはそこに追撃をかける事もなく、悟空が立ち上がるのを待つ。

 

「どうだカカロット。俺と一緒に来る気はないか?」

「な、何……!?」

「俺と一緒に来りゃあ、お前はもっと強くなれる。

神精樹の実を食べりゃあ、その戦闘力が更に飛躍的に上がるんだ。

そうすりゃ、あるいは俺すらも超えるかもしれんぞ」

 

 ターレスは悟空に、彼にしては優しい声色で告げる。

 一気に本気を出さず、こうして加減して戦っているのも彼を引き込みたいからだろう。

 しかし悟空は、それに対し当然のように否を示した。

 

「ふざけるな! オラ、お前達の仲間になんかならねえぞ!」

「俺達は生き残ったサイヤ人のわずかな仲間……そう邪険にするなよ。仲良くしようや」

 

 悟空は再び飛び出し、ターレスに猛攻を仕掛ける。

 だが当たらない。

 避けられ、防がれ、まるで子供の相手でもするかのように軽くいなされてしまう。

 

「宇宙を気ままに流離い、好きな星をぶっ壊し、美味い物を食い、美味い酒に酔う。

こんな楽しい生活はないぜ?」

「オラ、そんなの楽しいとは思わねえ!」

「ち、どうやら頭を打ったってのは本当らしいな。

とてもサイヤ人とは思えねえぜ」

 

 繰り出される悟空の両拳を容易く掴み、動きを封じた所で蹴りを放つ。

 重い衝撃。悟空の呼吸が一瞬止まり、すかさずターレスは彼の、自分とよく似た髪を鷲づかみにした。

 

「このポンコツの頭をもう一度ブッ叩けば元に戻るか?

サイヤ人はサイヤ人に相応しい生き方をしろ、カカロット」

「……っ、オラは小さい頃に頭を打ってよかったって思ってる……。

じゃねえと、お前みたいな酷い奴になってたかもしれねえ」

「…………よかっただと?」

 

 悟空の言葉に、ターレスの顔つきが変わる。

 それまでは余裕のある笑みだったものが、まるで今にも暴れ出しそうな怒りに満ちた顔となった。

 彼は悟空の頭を強く掴み、低い声で語る。

 

「名前を忘れ、生まれた惑星を忘れ……テメエをこの星に逃がした両親の事すら忘れ、それでよかったと云うか、貴様!」

「に、逃がした……? 何を言ってる?

オラはこの地球を侵略する為に送られたってラディッツが言ってたぞ!」

「あんなのはただの方便だ。そうとでも報告しなきゃ、貴様はフリーザの部下に撃墜されていた。

よく聞け、カカロット……貴様がこの地球に送られた理由は、貴様を生かす為だ!

惑星ベジータの最期を一早く予感した貴様の父が、我が子を生かす為に『飛ばし子』として貴様をこの辺境の惑星にまで飛ばしたのだ!」

 

 かつて悟空は実兄のラディッツに『お前は侵略の為に送られた』と教えられた。

 しかしその事実はここで覆る。

 悟空が送られた理由は侵略の道具にする為ではなく、守るため。

 親に捨てられたのではなく、愛されていたからこそ。

 だから、こんな人材と資源に何の価値も見出されていない、大した戦力もいない、それでいて環境だけは宇宙でも随一に整った都合のいい惑星に飛ばされたのだ。

 

「そして我が子を逃した後に、たった一人で絶望的な戦いに向かい、運命に抗った男がいた!

それこそが貴様の父であり、俺の師であるバーダックだ!

俺がこの世で唯一人、真に尊敬した戦士の名だ!

貴様にはその男の血が流れている――それを忘れたなどとは言わせんぞ!」

「!!」

 

 瞬間、悟空の脳裏を過ぎったのは見知らぬ――しかしどこか懐かしさを感じる夫婦の顔であった。

 一人乗り用のポッドに乗せられる、赤子の自分。

 それを外から眺める、自分とよく似た男と、柔和な笑顔の女性。

 

『カカロット、満月の夜は月を眺めるなよ』

『この事はラディッツにも伝えておく。頑張って生きるんだよ!

後で必ず迎えに行くからね!』

 

 知らない二人だ。

 しかし悟空は、それが誰なのかを瞬間的に理解していた。

 恐らくはこれこそが、ターレスの語る己の両親。

 ラディッツの語った虚言とは異なる、真実の記憶。

 過去に意識を飛ばす悟空を突き飛ばし、ターレスは荒々しく猛る。

 

「かかって来い、カカロット。

バーダックに代わり、俺が貴様の腑抜けた頭を叩き直してやる。

サイヤ人の戦いを教育してやるよ」

「……オラは地球で育った、孫悟空だ」

「そうかい。なら俺をぶっ飛ばしてそれを突き通してみせな」

 

 ギラギラと燃え盛るサイヤ人の闘志。

 相手が完全な格上だというのに、悟空は不思議とワクワクしている自分に気付く。

 あるいはそれは、己を真っ直ぐに見るターレスの背後に、己の父の幻影が重なるからだろうか。

 

 身体に負担のかかる界王拳を10倍にまで無理矢理跳ね上げ、悟空が飛ぶ。

 それをあえて正面から受けるターレスと彼の姿は、まるで兄弟が戯れているかのようであった。




ラディッツ「えっ!? カカロットって侵略の為に送り込まれたんじゃなかったのか!?」
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