ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第十七話 大猿ベジータ

 リゼット達が到着した時、悟空は既に死に掛けていた。

 大猿の両手に掴まれ、握り締められている。

 あれではいかに悟空でも一たまりもあるまい。

 恐らく、気の減少具合から見て全身の骨が砕けてしまっているだろう。

 

「ま、まずいぞ! 悟空の気がほとんど残っていない! 死ぬ寸前だ!」

「お父さん……!」

 

 クリリンと悟飯が焦燥から速度を上げるが、リゼットはそれを手で制した。

 残念ながら戦力差は歴然だ。この二人を突っ込ませても死人が無駄に増えてしまう。

 今この場で大猿に対抗出来るのは自分しかいないだろう、とリゼットは分析した。

 

「私が大猿の相手をします。皆は隙を見て尻尾の切断を」

 

 大猿と化したベジータの戦力は今のリゼットよりも上だ。

 しかし、決して絶望的な数値ではない。

 恐らく、このくらいならばまだ気霊錠の解除や重装備を脱ぐ必要はないだろう。

 しかし予想外に予想外を重ねた今回の戦い、油断は出来ない。

 故に万全を期してバーストリミットを発動し、リゼットはその戦力を倍まで跳ね上げた。

 

「――“巨神の制裁(ゴッドハンド)”」

 

 気の固定化により、何の捻りもない拳を空中に作る。

 ただしその形状こそ捻りのない拳だが、サイズは規格外。

 大猿すらも殴り飛ばせる、100m級の巨人の腕。神の拳だ。

 リゼットが拳を握り、何もない空間に対して突きを繰り出す。

 無論、これは届かない。距離がありすぎるしサイズが違い過ぎる。

 だがそのリゼットの動きに呼応して気の拳も繰り出され、大猿を横合いから思いきり殴り飛ばした。

 

 殴る。

 ただそれだけの攻撃で大気が爆ぜ、周囲の岩場が崩壊し、ようやく追いついてきた仲間達すら風圧で吹き飛ばした。

 無論、殴られた本人はたまったものではない。

 悟空を手放し、ベジータは岩を削りながら遠方へと吹き飛んで行く。

 リゼットはそこに、追撃とばかりに拳を突き上げる動作をする。

 すると、倒れているベジータの下からまたも巨腕が出現し、倒れている彼の顎を跳ね上げて強引に立ち上がらせた。

 続けてリゼットが何かを踏む動作を行う。

 次の瞬間、大猿の10倍はあろうかという巨大な足が虚空より降り、大猿をまるで蟲か何かのように踏み潰してしまった。

 そしてどうでもいいが、ゴッド“ハンド”と言いながら足で攻撃している。酷い名前詐欺もあったものだ。

 

「……す、すっげえ……」

「ああ、流石は神様だ」

「……ちっ」

 

 リゼットの猛攻にクリリン、天津飯が偽りのない驚きと賛辞を送る。

 一方ピッコロは不機嫌だ。

 世界征服の障害が予想以上に強大だった事に気付き、舌打ちを抑えられない。

 

「きっさまああ! サイヤ人の王子である、この俺を足蹴にしやがったな!」

 

 大猿が激昂し、その巨体からは想像出来ない俊敏さでリゼットへ飛びかかる。

 だがリゼットはその小さく、細い腕を前に突き出し――己の数十倍はあろうかという大猿の拳を片手で受け止めた。

 その衝撃でまたも周囲が砕け、リゼットの白金の髪がなびき、スカートが揺れる。

 だがそれだけだ。肝心のリゼットに拳が届いていない。

 少女の頼り無い細腕に、巨大な猿の一撃が止められてしまっている。

 

「なん、だとぉ……!?」

「私本体ならば弱いとでも思いましたか? ……温いですよ」

 

 今の一撃で腕が痺れてしまったのを表に出さず、サイズの差を活かして大猿の懐へ飛び込む。

 そして掌底。

 大きさの差など知らぬとばかりに大猿の顎を跳ね上げ、無理矢理空中へと上げる。

 そして再度気の固定化により、巨大な拳を顕現。

 大猿すらも掴めるほどの白い気の腕を以て、大猿を握り締めた。

 先程悟空がやられていた事の再現だ。

 

「くっ、くそっ……!」

 

 逃げ出そうと必死にもがくベジータの顔の前まで行き、彼を見下ろす。

 その顔には笑みも何もない。ただ、侵略者に対する無情なまでの氷の無表情があるだけだ。

 

「今です、クリリン君」

「は、はい!」

 

 リゼットの指示に応え、クリリンが気円斬を放つ。

 地味にこれが初披露の格上殺しは空気を裂きながらベジータへと向かい、自由に動く事の出来ない彼の尻尾を容易く切断してみせた。

 するとベジータは呻き声をあげながら身体を縮ませていく。

 大猿への変身は尻尾がなければ成立しない。

 つまり尻尾を切れば変身もそこで解除されてしまうわけだ。

 後は元に戻ったベジータを皆で倒すだけだ。

 

 しかしここでベジータはリゼットの予想外の動きを見せた。

 身体が縮む事によって巨腕の拘束から逃れたわずかな一瞬。

 時間にして1秒にも満たぬ間。

 その空白を狙い、地面に向けて口から光線を放ったのだ。

 

「――!」

 

 無論、こんな光線はリゼットには痛くも痒くもない。

 戦力に差がある上に明後日の方向へ撃たれた攻撃の余波などではダメージも受けない。

 だが地面には悟空がいる! 皆がいる!

 咄嗟にリゼットはバーストリミットの倍数を上昇させ、刹那の間に悟空を拾う。

 そして戦士達の前に移動してバリアを展開。彼等全員をベジータの攻撃から守った。

 

 吹き荒れる爆煙。

 視界を塞ぐ砂塵。

 その全てをリゼットが起こした風が吹き飛ばし、視界が晴れる。

 そして彼等はベジータの今の行動の真意を悟った。

 

「い、いない……?

ベジータがいないぞ!?」

 

 ピッコロの声に全員が動揺する。

 ベジータが――逃げた。

 爆発で目晦ましを行い、リゼットが他の皆に気を取られた瞬間を狙ってこの場からの離脱を成功させたのだ。

 彼のプライドからは考えられぬ戦略だった。

 きっと彼自身にとっても屈辱だっただろう。

 要するに彼は、リゼットを己よりも上だと認めたのだ。

 そして元に戻っては到底勝てないと悟り、大猿であるうちに撤退した。

 驚く程の機転、切り替えの早さだ。

 これぞ戦闘の天才、ベジータの真骨頂。

 彼は戦力で劣りながら、見事にリゼットを出し抜いたのだ。

 

 とはいえ、リゼットならばここからでもベジータに追い付いて彼を仕留める事は十分出来る。

 何なら転移で宇宙船に先回りして破壊してもいい。

 しかしリゼットは、あえてベジータを見逃す事にした。

 今は敵だが、しかしベジータが今後果たす役割は大きく、無視出来るものではない。

 トランクスの誕生を考えれば、猶更ここでベジータを殺すわけにはいかないだろう。

 そもそも、リゼットは最初からベジータを『倒す』つもりではあっても『殺す』気などなかった。

 倒した後に宇宙船に押し込んで帰してしまうつもりだったのだ。

 ならばむしろ好都合。これならば逃がしてしまったという事で皆に説明をする手間が省ける。

 とはいえ、とりあえず追いかけるポーズくらいは取っておくべきだろう。

 そう考え、リゼットはあえて速度を落としてベジータを追跡した。

 

 

「畜生……まさか俺がこんなレベルの低い惑星の連中相手に引き返す事になるとはな」

 

 ベジータは歯を食い縛り、宇宙船に向かいながら必死に屈辱を抑えていた。

 彼はプライドの高い男だ。

 しかし正確に戦力を分析出来ないほどの愚者ではない。

 込み上げる怒りを、自制心を総動員して封じ込む。

 とにかく、まずは一度引き上げだ。他はともかくあの白い女にだけは勝てないと認めるしかない。

 神、とか呼ばれていたか……恐らくはこの惑星の神なのだろうあの女。

 正直桁外れだ。まさか大猿になっても勝てない奴がフリーザ以外にいたとは思わなかった。

 

「くそったれ……頭に来るぜ……!」

 

 ベジータがよく口にする『俺が宇宙一だ』という台詞は大猿も計算に入れての言葉である。

 大猿にさえなれば、醜くはなるがあのギニューにすら勝る。

 唯一勝てないのはフリーザだけだと思っていた。

 だがそこに、もう一人勝てないのが出て来てしまった。……とんでもない屈辱だ。

 

「今に思い知らせてやる。宇宙一はこのベジータ様だという事を」

 

 とにかく今は退く。

 退いて、それでナメック星に向かうしかない。

 ナメック星にはどんな願いも叶う不思議な玉がある、と言われている。

 ただの下らない伝説だと思っていたし、だからこそフリーザもベジータも今までそこに興味を示さなかった。

 どこの惑星にもある御伽噺、神話の類だと思って無視していたのだ。

 しかし地球にはそれが実在し、死んだはずのカカロットも確かに生き返って来た。

 そしてそれを作ったのは、恐らくナメック星人だ。

 ならばその本場……ナメック星にいけばきっと同じものがあるはずだ。

 だからまずは、それを手に入れる。

 そして不老不死となり、またこの地球に来て今度こそあの女を殺してみせる。

 その為に、今は一度退くしかなかった。

 宇宙船は地球に入ると同時によく分からない力によって墜落させられたが、壊れてはいないからまだ飛べるはずだ。

 ……今にして思えば、あの墜落もこの星の神のせいだと分かる。

 つくづく、腹の立つ女だった。

 

「……べ、ベジー、タ……。た……たすけて、くれ……」

 

 パプリカ荒野へ行くと、そこではまだしぶとく生きていたらしいナッパが這いずり、助けを求めてきた。

 その姿にベジータが抱いた思いは同情か、哀憐か……。

 否、そんな感情などベジータにはない。

 無様なナッパの姿を見て感じるのは不快感。

 これでもサイヤ人かという侮蔑の感情のみ。

 

「じ、自分じゃ動けねえ、んだ……。

た、たの、む……俺を、ポッドに……運んでくれ……」

「……クズが」

「……え?」

「見苦しいと言っているんだ。

本当なら俺がこの手でぶっ殺してやる所だが、そんな暇もない。

勝手にそこで死んでやがれ」

 

 そう吐き捨て、ベジータはナッパに構う事なく宇宙船に乗り込む。

 そして手早く行き先のセットを済ませると、そのまま宇宙へと飛び去って行った。

 同族への情けなど微塵もない。

 その姿にナッパは怒りに震え、地面を叩く。

 だが、これは彼自身もまた行ってきた事だ。

 ラディッツを弱虫と嘲り、見捨て、死後も侮辱した。

 それが今度は自分の番だった。それだけの事でしかない。

 

 それから遅れる事十数秒。リゼットが他の戦士を置いて一足先にパプリカ荒野へと到着する。

 ベジータはどうやらもう出発してしまった後らしく、影も形も見当たらない。

 宇宙船も一つ減っているので、もう宇宙に行った後と考えていいだろう。

 残っているのは……しぶとくもまだ生きていたナッパと、彼の宇宙船だけだ。

 

「見捨てられましたか……哀れな」

 

 リゼットはナッパの近くまで歩き、彼に掌を翳す。

 躊躇などそこにはない。

 彼は敵で、そして残忍なサイヤ人だ。

 和解など期待出来る人格ではないし、心底殺しと破壊を楽しむような下劣な男だ。

 そこに情けをかける余地などありはしない。

 だから彼を消してしまう事に躊躇などあるはずもなく、リゼットは一切の感情を排し気を固形化、ギロチンを創造する。

 狙うは首。せめて長くは苦しまぬよう一撃を以て葬り去るつもりだ。

 しかしそこに、声が割り込んだ。

 

『ま、待ってくれ、神様!』

「――!」

 

 ギロチンの刃が罪人の首を刎ねる直前。そこで断罪が止まった。

 リゼットは腑に落ちないような顔をしながらも、テレパシーで声の主へと返答を送る。

 一体どういうつもりで止めたのか、まずはその真意を問わねばこの刃も振り下ろせないからだ。

 

『……一体どういうつもりですか、悟空君』

『わ、悪い神様。す、すまねえがそいつの事を見逃してやっちゃあくれねえか』

『正気ですか? 彼はこの惑星を滅ぼそうとした者の片割れですよ。

今見逃しても、後で必ず同じ事を繰り返すでしょう。

まさかとは思いますが、見逃したからといって心を入れ替えるかも、などと甘い事を考えてはいないでしょうね』

 

 リゼットはこの悟空の我侭に覚えがあった。

 そうだ、確か漫画にも確かにこんなシーンはあった。

 だがその対象はナッパではなくベジータだったはず。

 しかし対象どうこうの問題ではなく、孫悟空というのはこういう男なのだろう。

 戦闘時ならばいざ知らず、それが終わってしまうとどうしても本来の優しい性格が前面に出てしまう。

 だからピッコロにも仙豆を与えたしベジータも助けた。

 ギニュー特戦隊にも情けを与えたし、あのフリーザすらも一度は見逃そうとした。

 そして何より困った事は、リゼットはそんな悟空の事が――いや、そんな悟空だからこそ好ましく思っているのだ。

 きっとこれはリゼットだけではなく、クリリンやヤムチャ、天津飯達もそうだろう。

 馬鹿だしドジだし戦闘狂だしと困った所ばかりの悟空だが、それでも不思議と憎めない。

 気付けば皆が惹かれている。

 これがナッパ本人の命乞いだったならば、『例えば貴方が昔、捨てられて震えていた仔犬を助けたとしましょう。でも死ね』と一切の躊躇なく始末出来ただろうが悟空からの命乞いでは躊躇もしてしまう。

 

『わ、わかってるさ……でもよ、何かそいつが哀れすぎてさ……。

頼む、そいつにチャンスをやってくれ……そいつとんでもなく悪い奴だったけどよ、このまま使い捨てられて死ぬんじゃあ……敵ではあってもやりきれねえ』

『…………見逃すのは一度だけです。

もしも彼がまた悪事を働こうとしたら、今度こそ消します。それで構いませんね?』

『ああ、悪いな神様……』

 

 リゼットは小さく溜息を吐くとギロチンを消し、代わりに気をナッパへと与える。

 勿論与えるのは最小限。ギリギリ動ける程度のものだが、少なくともこれで死ぬ事はなくなっただろう。

 何故止めを刺されないのか不思議そうにしているナッパへ、リゼットは本心を消した笑みを向けての最初にして最終の通告を下す。

 

「一度だけ貴方に生きるチャンスを与えましょう。その拾った命で平穏に生きるならばそれで善し。

もしも懲りずに同じ事を繰り返せば、その時こそ本当にその首を落とします」

「た……助けてくれるってのか? この俺を……。こ、この惑星を侵略しに来た俺を……」

「はい。正しい選択を期待しています」

 

 笑顔を浮かべ、優しい声色で告げる。

 勿論こんなものは本心ではない。

 笑顔にしている理由は、そうしないと嫌悪が顔に出てしまいそうだから。

 声色を無駄に優しくしているのも同様の理由だ。

 それに対しナッパが取った行動は、リゼットの予想より遥かに――そして悪い方向へと突っ切っていた。

 

「し、信じられねえ……親からも『名門の恥晒し』と言われ、ベジータの付き人になってからは王子の金魚の糞と陰口を叩かれ、フリーザやザーボン、ドドリアには腰巾着の猿野郎とかハゲとか呼ばれ、自分だってM字ハゲのくせにちょっと髪があるからってラディッツの野郎にはハゲと陰口を叩かれ、挙句ベジータに捨てられ……そんな俺を助けてくれる奴がいるなんて……」

「え?」

「あんた――あんた、俺の女神様だァァァ!!」

 

 ――どうしてそうなった?

 漢泣きにむせびなくナッパを前に、リゼットは何を間違えたのかも分からず引きつった笑顔を続けるしかなかった。

 




【ゴッドハンド】
気の武器化バリエーションの一つ。
武器ではなく巨大な拳を創造して敵をブン殴る。
『敵がでかいなら、こっちはもっとでかい拳で殴ればいいじゃん』という単純な発想から生まれた。
気弾の一種ではあるが爆発しない。拳の形をした巨大な繰気弾と思っていい。
そしてハンドといいつつ蹴りも出す。
どうでもいいがこの主人公、やたら繰気弾もどきを多用している気がする。
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