ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
悟空を抱えて空を飛ぶ。
その向かう先はカリン塔。本来ならばヤジロベーが登って悟空を届けるはずだった場所だ。
しかしそのヤジロベーはリゼットのポカにより逃走してしまい、結果リゼットが運ぶしかなくなっていた。
過ぎた事を言っても仕方ないが、これからはもう少し冷静になるべきだろう。
やはり不用意な介入はロクな結果にならない事がよく分かった。
ヤジロベー逃走はリゼットにとってかなり高い勉強代となってしまった。
「す、すまねえなリゼット……お礼はきっといつかするよ」
「ふふ、そうですか? ではいつか、私が危なくなった時には助けに来て下さいね」
「おう、任せとけ」
冗談めかして言ってみたが、この言葉は割とマジである。
後になればなるほど戦いのレベルはおかしくなるし、魔人ブウ編では人類全員が死んでしまう。
だがここで悟空に助けて貰えるフラグを立てておけばあるいは生き残れるかもしれない。
そんな結構切実な願いがあるなど無論悟空が知る由もないが、何せあの孫悟空との約束だ。
安心感が違うというものである。
まあ、どのみちまだまだ先の話だ。今はまだリゼットが彼を救う側である。
リゼットは塔の頂上へ着くや、カリンに向けて声を放った。
「仙豆様! 悟空君にカリンを!」
「逆じゃ馬鹿者! 仙豆が本体みたいな言い方をするでない!」
まったく、などと怒りながらカリンが仙豆を投げる。
悟空はそれを受け取り、ポリポリと噛み砕いた。
すると悟空の傷があっという間に治り、顔のツヤもよくなる。
相変わらず凄まじい効果だ。
色々な物を真似してきたリゼットだが、彼女でもこの仙豆だけは真似出来る気がしない。
その後は、本来ならば悟空が更なる力を求めて超神水を飲むはずだった。
しかし悟空がそれを飲むのは、それ以外に短期間で強くなる手段がなかったからだ。
カリンを既に超えてしまい、教わる事がなかった。
だから超神水という劇薬に手を出さざるを得なかったのだ。
しかしこの世界は違う。
カリンを超えても、まだ超えていない強者がここにいる。
故に強くなりたいと言う悟空に対し、カリンが超神水を提案せずにとんでもない事を言いだした。
「悟空よ、リゼットから学ぶがよい。そやつはこの地球でも並ぶ者なき実力者……お主を更なる高みへ引き上げてくれるじゃろう」
――何か仙ニャンコ様が余計な事を提案して下さった。
リゼットは笑顔のまま固まり、予想外の展開に内心パニックを起こす。
え、何この流れ。私予想してないんですけど。
そもそも修行ったって他人に教えた事なんてないので、何を教えればいいのか分からないのですが。
そう無言で訴えるリゼットだったが、カリンはこれをスルーした。
「ええっ? リゼットってもしかしてカリン様よりも強えんか?」
「うむ、わしなどよりも余程な」
リゼットは表面では笑顔を保ちながらも、内心では今すぐ逃げたい気持ちで一杯だった。
確かに自分は現状、この惑星で多分一番強い。
しかし強いからといって、イコール他人に教えるのが上手いとは限らないのだ。
だが悟空はそんなリゼットの内心を知らず、ワクワクとした顔でこちらを見上げてくる。
今更「嫌です」なんて言えない雰囲気だ。
仕方なく諦めたリゼットは、せめてもの意趣返しとして猫じゃらしをカリンの前で振ってみせた。
するとカリンはニャンニャン言いながら猫じゃらしにじゃれつき、ハッとしたような声をあげる。
威厳ブレイクだ。ざまあみろ。
「修行……ですか。とはいっても、短期間でそう都合よく強くなれる修練など……」
「あるんじゃろ?」
「……まあ、ありますけど」
心でも読めているのだろうか、この猫。
あ、そういえばそんな能力ありましたよ、この猫。
意外と忘れられがちだがカリンは他者の心を読める。
リゼットに関してはカリン曰く『何か読みにくい』らしく、前世の記憶を読まれた事はないが表層の思考くらいは読めるのだ。
リゼットはそんな事を思い出しながら、悟空の前にしゃがみ込んだ。
リゼット自身は人に教えた事などないし、経験もない。それは紛れもない事実だ。
しかし彼女には本来あり得ない知識がある。
二次元だから可能だったはずの修行の数々を覚えているし、そのうちのいくつかを己で実践している。
だから、悟空を数日で強くする方法も知らないわけではないのだ。
「悟空君。手を出して下さい」
「わかった」
差し出された悟空の両手の手首に指を当てて気を留める。
次に両足。これも足首に気を残留させ、そして一言。気の固定化を宣言した。
「“ギプス”」
「ぎっ!?」
瞬間、悟空の両手と両足が白い輝きに拘束され、まるで磁石で貼り付けたかのように手首同士、足首同士がひっついてしまった。
当然そんな状態で満足に動けるわけもなく、まるで連行される囚人のような体勢で悟空は棒立ちするしかない。
気の固定化により行われる両手足の拘束。これは今の悟空では気によって強引に千切る事など出来るはずもなく、彼の自由を完全に奪い去っていた。
悟空はしばらく腕力で外そうともがいていたが、やがて無駄と悟ったのかリゼットへ視線を向けてくる。
「リ、リゼット……これ、一体なんなんだ? 動けねえ……!」
「この光の手枷は力では決して外せません。外す為のキーワードは教えますが、それを唱えるのは大魔王と戦う直前です。今唱える事は認めませんよ」
悟空の耳元で解除の為のワードを囁く。
そのワードとは勿論『開(アンテ)』。元ネタに準じている。
某霊界探偵漫画に登場した霊力養成ギプスを気で再現したものがこの手枷足枷であり、試してみた所実際に効果があってリゼットを喜ばせたものの一つである。
「気の開放――と言っても分からないでしょうから、かめはめ波を撃つ時の力の流れをイメージして、両手と両足に力を入れて下さい」
「ぐ、ぐぎぎぎ……う、腕はともかく、足はキツイぞ……。で、でも……動く……動けるぞ……」
「その枷を付けている間、常にその力の操作を行って下さい。修行中は勿論、食事している時や寝ている時もです。最初はきついでしょうが、それが苦にならなくなったならば、外した時の貴方の力は今の何倍にも高まりますし、かめはめ波も今よりずっと短時間でスムーズに撃てるようになるでしょう」
悟空は汗を流して辛そうにしていたが、最後の何倍にも高まる、という言葉を聞いて目の色が変わった。
やはりサイヤ人。強さを求める本能は凄まじいものがある。
彼は好戦的に笑うと、全身を震えさせながらも必死に立ち上がり、リゼットを正面から見た。
「私との修行は常にそれを付けた状態で行います。とりあえず最初の目標は、その状態のままこの広場を100周する事。なるべく手は大きく振り、全身の筋肉を使うように歩いて下さい」
「お、おう! わ、わかった!」
余談だがリゼット自身も勿論これを付けている。
目には見えないよう工夫しているが、この枷を付けたまま恒例の気の全開放修行を今この瞬間も続けているのだ。
常在戦場――何気なく話しているように見えて、リゼットが己を鍛えていない瞬間など存在しない。
歩いている時、本を読んでいる時、カリンを猫じゃらしでからかっている時……いつだって彼女は気を開放して己の限界を責め続けている。
もっとも、ある程度の強さに達してしまうとそれすら最初ほどの劇的な効果は見込めなくなるのが辛い所だ。
何はともあれ、まさかの原作主人公にして後の宇宙の英雄の師匠モドキになるという罰当たりイベントが始まってしまった。
まあ、悟空より強い時期など今だけだし、こういうのもいいかもしれない。
それでカリンや亀仙人、界王様と一緒に『悟空に呆気なく抜かされた師匠ズ』の端に並んでみるのも一興だ。
いや、こうなったらせめて、『抜かされるまでの期間が一番長かった師匠』くらいにはなってやる。
リゼットはそんな事を考え、必死に歩く悟空を見守った。
★
――サイヤ人って凄い。
リゼットは呆然と呟き、隣にいたカリンは唖然としている。
場所はカリン塔。二人の視線は遠見の鏡に固定され、地面に転がる無様な大魔王を見ていた。
大魔王は悶え苦しみながら地面を転がり、血反吐を巻き散らして辺りを自身の血の色である紫に染めている。
そしてそれを見下ろす悟空自身にもまた驚きの色が強く表れ、隣で転がっている天津飯はただ唖然としていた。
結論から言おう……『一撃で終わった』。
リゼットからわずか数日の修行を受け、枷を付けたまま大分楽に歩けるようになった悟空は意気揚々と大魔王に挑み、彼の前で枷を解除して飛び蹴りを叩き込んだ。
やった事はそれだけであり、それが全てだった。
ただの一撃……それだけで大魔王は立ち上がる事すら出来なくなり、こうして無様にのたうち回っている。
リゼットはもう内心で汗ダラダラである。
どうやら少しやりすぎたらしい。大魔王を倒すどころかオーバーキル出来る強さになってしまった。
原作名イベントの一つである『貫けー!』は当然カットである。そもそも戦いが成立していない。
「お、おいリゼット……これはちょっと強くなりすぎじゃないかの?」
「……私もそう思います」
とりあえず、これは少し不味い。
何故なら大魔王が卵を吐く暇がない。
つまりマジュニアが生まれない事になり、このまま大魔王が死ぬと神様まで死んでしまう。
リゼットはまたもやらかした。悟空の成長速度を侮ったのだ。
彼女としては大魔王と互角くらいになるように調整したつもりだったのだが、悟空はその予想の上を行った。
何はともあれ、このまま大魔王を死なせてしまうわけにはいかないだろう。
リゼットは頭痛を抑え、カリン塔から飛び降りる。
そして飛翔し、戦場であるキングキャッスルへと高速で飛んで行った。
リゼットが白翼を広げて空より舞い降りる。
バーストリミットを使う事で純白の輝きに満たされ、ついでに彼女が現れる事で暗雲が晴れて光が差し込む。
実際は急ぎのあまりバーストリミットまで発動し、暗雲を高速移動の衝撃波で吹き飛ばしてしまっただけなのだが、傍から見れば神秘的だ。
だがそれより妙なのは悟空だ。
彼は大魔王に止めを刺す事も出来ず、振り上げた拳をそのままに固まっている。
……無理のない事だ。
実力伯仲ならばともかく、これではただの弱者いびり。強者が蟻を踏み潰す行為に等しく、ただの嬲り殺しにしかならない。
つまり無抵抗なのだ。
今の大魔王は悲しいほどに悟空に抵抗出来ず、動かない赤子を殺めるも同然に殺せてしまう。
それが逆に悟空の腕を止めた。
未来の話になるが、悟空は仲間達を殺したナッパにすら止めを刺さなかった程に甘い男だ。
一度はフリーザすら見逃そうとした。
リゼットはそんな彼の拳をそっと両手で包み、彼の意識を己へと向ける。
「! リゼット……オラは……」
「いいんですよ。――それでいいんです」
これはもう戦いではない。ただの一方的な殺戮だ。
両者の実力が開きすぎてしまえばそこに戦いの概念は成立せず、一方的に殴る後味の悪さだけが心に残る。
いや、殴るだけなら出来るだろう。倒すだけならば葛藤などない。
実際悟空はこれまでも圧倒的に実力差の開いている相手を倒してきた事があるし、それを気に病んだりはしなかった。
時には笑顔で勝利を喜びすらした。
だがその上で、無抵抗の相手の命すらも奪うとなれば話は変わる。
戦いの中で相手を死なせてしまう事はあっても、終わった後に追い打ちをかけて命を奪う事は出来ない。孫悟空とはそういう男だ。
ベジータのような者ならばそれでも嬉々として戦うのだろうが、悟空がそれをやるには優しすぎる。
だから、ここから先は自分の出番だ、とリゼットは考えた。
自分の失態が招いたこの事態。ならばせめて己がケリを付けねば格好が付かない。
「ピッコロ大魔王には私が止めを刺します」
悟空をやんわりと後ろへ追いやり、大魔王へと歩み寄って行く。
一歩、二歩、三歩……まるで警戒する事もなく、隙だらけにすら見える姿で無防備に歩く。
天津飯が『危ない!』と叫ぶ。悟空が息を飲む。
だが彼女は止まらず、それを大魔王が見逃すはずもない。
悟空に対する逆転の一手、人質。
それを実行すべくリゼットの手首を掴み――膝から崩れ落ちた。
「あ……が……!?」
「愚かな」
掴んだのは大魔王だ。
天女の細い手首を確かに掴み、動きを止めようとした。
だが実際に動きを封じられたのは大魔王の方であり、まるで巨岩を被せられたかのように重さがのしかかり、動けない。
それどころか、己が掴んでいるはずなのに手を離せない。
掴んでいる側が一方的に操られるという理不尽。
合気によって成る、妖術の如き攻撃の無力化。
それが大魔王を崩し、その全身を押さえ込んでいた。
そうしたまま、まるで何でもないかのように開いている片手で胸元を探り、『封』と書かれた小瓶を取り出す。
蓋を外したそれを指で弾くと、見事なコントロールで少し離れた位置に垂直に設置された。
「まっ、まさか!?」
「そのまさかです」
リゼットは指先を動かし、気の操作を行う。
するとまるで大嵐が起こったかのような奔流が起こり、大魔王を飲み込んだ。
これぞかつて武泰斗が大魔王を封じ、世界に平和を取り戻した奥義。
気の消費が激しく、相手との実力差がありすぎる時に使うと死に至る魔の封印。
――魔封波であった。
「ま、まさか、こんな結果になるとは……! だ、だが、これで悪の根が消えるわけではないぞ!」
大魔王が何やら叫びながら、口から卵を吐き出す。
それを見計らい、リゼットは大魔王を小瓶へ押し込んだ。
こんな事になってしまい、どうやってマジュニアを出させようと考えていたので、今の行為はまさに渡りに舟。大歓迎すべき誤算だった。
ならばもう用はなしとばかりに大魔王を封印し、蓋を閉める。
少しばかり本来の流れと違ってしまったが、まあ結果オーライだ。
悟空も強くなったし、全体的に見ればプラスと言っていいかもしれない。
というかプラスと思いたい。
歩いている時、本を読んでいる時、カリンを猫じゃらしでからかっている時……いつだって彼女は気を開放して己の限界を責め続けている。
――そして、そんな彼女が使う猫じゃらしを追うカリンも実はひっそりと戦闘力が上がっていた。
具体的には大魔王に勝てるくらいには。
(戦闘力190→270)
【気霊錠】
幽遊白書の呪霊錠のパクリ。
気を総動員しなければ満足に動く事すら出来ず、これを付けたまま日常生活を送れるようになれば戦闘力が数倍になる。
数日程度ならば数割強くなる程度で悟空が大魔王と互角になるくらい……とリゼットは思っていたが、悟空の才能はそんなものではなかったので強くなり過ぎてしまった。
現時点での悟空の戦闘力は600くらい。