ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
天下一武道会が終わった後、兎人参化達は結局山を降りる事はなかった。
月から救ってくれたお礼をしたいと言い、そのまま聖堂に住み着いてしまったのだ。
まあ実際リゼットも一人で暮らし、自分で生み出した自律思考気弾に雑用をやらせるのは何だか虚しかったので、まあいいかと受け入れた。
とりあえず彼等には雑用や聖堂の掃除、来客(ほとんど無いが)の対応などを任せ、家事を行う必要のなくなったリゼットは以前にも増して修練に集中出来るようになったのでそう悪い事でもない。
至聖所で膝を突き、目を閉じる。
顔は俯かせ、両手を組み合わせてその中に意識の全てを割く。
これはリゼットが最も多くの気を感じ取れる、いわば最も集中出来る姿勢であった。
普通こういう時は座禅ではないのか、と思うのだが座禅は逆に落ち着かない。
まるで祈りのような姿勢。
修道女染みたその姿勢は彼女のどこまでも白く透き通る容姿と相まって、神聖な絵画を思わせる。
祈り――その言葉はあながち間違いではない。
事実祈っている、願っている。
教えて欲しい、応えて欲しい、ほんの少しでいいから受け入れて欲しい。
森羅万象、この惑星に生きるありとあらゆる物。人間、動物、植物――総ての命に対し願い、祈っている。
気とは生命のエネルギーそのもの。気を分け与えれば死にかけている者でも立ち上がらせる。
ならばその逆。借り受ける事も不可能ではないはずだ。
だから祈っている。何も持っている気の数割を貸せだなどと、そんな図々しい事を言うつもりはない。
ほんの少しでいい。ほんの僅か……健康な成人男性であれば、たった一歩歩くだけの気をわけてくれればそれでいい。
強制的に吸い上げるのではない。
あくまで借り受ける。
生き物が普段生きる時に無意識に余らせている気をほんの少しだけ分けてもらう。
言葉として語りかけるわけではなく、それぞれの無意識へと祈りを飛ばして助力を乞うのが、今リゼットがやっている事だった。
もしこれが叶うならば、一つ一つは微小な気でも集めればきっと大きな力となる。
リゼットが作り出そうとしている技。
それは元気玉に発想を得たものであり、彼女流の元気玉とでも言うべきものだ。
あれを使うとき、悟空はいつも語りかけていた。『大地よ、海よ、生きている全ての皆。オラにちょっとだけ元気を分けてくれ』――つまり元気玉とは術者の意志だけでは成立し得ない。
実際、元気を与える側が手を上げる事で供給される元気の量が変わるのだから、恐らくは相手の無意識の同意が必要な技だ。
だから悪の気を持つ者には絶対に使えない。相手が同意してくれないのだから気を集める段階で失敗する。
普遍無意識への祈り、語りかけ、懇願。それが元気玉の正体だとリゼットは考える。
ならば必要なのは気の強さではなく、無意識へ語りかけるテレパシーにも似た意志伝達能力。
だから悟空はきっと、他の戦士にはない読心能力や遠視の力を随所で発現させたのだ。
元気玉を使う事で育まれた気の疎通。
それがあったから、超能力染みた芸当が可能だった。
普遍無意識に語り、祈り、願い、そしてほんの僅かな恵みを得る。
故にリゼットは無意識のうちに祈りの姿勢をとっていた。
願い、祈りに適した姿を無意識のうちに悟り、これこそが最も在るべき姿勢だと理解したのだ。
そしてきっと、これは間違いではない。
手応えを感じている。
僅かではあるが、周囲の命たちが気を分けてくれるのを感じる。
完成には程遠い未完成の技。
しかし、確かな完成への道が見えた気がした。
★
3年間、リゼットはこの期間を己を見詰めなおす事のみに使用した。
レッドリボン軍との戦いは何も手出ししない。
自分が手を貸すべき事など何もなく、またその必要もない。
ペンギン村だけは少し興味があったので少し散歩がてら寄ってみたり、アラレちゃんと遭遇してみたりしたがそれだけだ。記憶の通りの元気すぎるめちゃんこ娘であった。
やった事と言えば、何か付近を飛んでいた羽虫のような小型機械を捕まえた事くらいか。
一体何の為の機械なのか分からないが、何となくよくない意志を感じる。
とりあえず放置していい事はなさそうなので、ガラスケースに入れて倉庫の奥に封印しておいた。
意志――気はなく、そこにある思想の残滓。
リゼットはここ最近、そうしたものを感じ取る能力が増していた。
恐らくは気を感じ取る能力の、もう一つ上のステージ。
研磨の果て、リゼットは己がその領域に片足を踏み入れたのを感じていた。
気を感じる事で遠くの情景が分かる。
そこに自分がおらずとも、誰が何をしているのかを把握出来る。
恐らくは心臓病から目覚めた直後の悟空と同じ領域。気の感知を極めた先の遠視。
この進化を招いたのはきっと、3年間続けてきた祈りによるものだろう。
重力室の修行と並行して毎日欠かさず行ってきた祈りは、リゼットの気を感知する能力を飛躍的に伸ばしていた。
遥か遠くにある生き物の無意識に語りかけて、気を分けてもらうという離れ技。
その域に近付くという事は必然、感応能力も上昇する。
不思議と祈りを続ける事は苦ではなかった。
己が生まれた世界、生きる世界、そこに生きる人々。
その息づかいまでが近くに感じられるようになるほどの、普遍無意識への接近。
生命の脈動が今までになく感じられる。
その健気さ、尊さ、優しさ、力強さが肌で感じられる。
愛おしく思う。
守りたいと思う。
それはきっと、祈りを続ける事で届いた一種のトランス状態なのだろう。
だがそのトランス状態が、リゼットを確かに上のステージへと昇華させているのもまた事実だった。
「いや、キャラじゃないですってば」
トランスから覚めると結構恥ずかしい。
何だあれ。私そんなキャラじゃないでしょ。
リゼットはゴロゴロとベッドの上を転がり、顔を真っ赤にする。
そもそも、あれは思い出すと結構恥ずかしい。
祈りの姿勢が一番気を感じ取れるからああしているが、外でやる時どうすればいいんだ。
祈るのか? 敵の目の前で跪いて祈りを捧げると?
アホか。狙いうちにされるに決まってる。
技として欠陥品もいい所だった。
敵の前で祈るなら背後に観音像でも出してぶっ叩いた方がまだマシだ。いや出来ないけど。
しかしそれはそれとして、副産物で得た遠視能力。これはいいものだ。
何せ現場にいずして現場が視える。
つまり聖堂でおやつを食べながら悟空の活躍を鑑賞する事が出来るというわけだ。
世界を知り尽くしたいという願いを持つリゼットにとってこれはまさに万金に値する能力と言える。
最近はこの遠視を用いて深海の底を探索するのがマイブームだ。
視力ではなくあらゆる存在――それこそ微生物や植物すら含んだ気を全て感じる事で詳細を把握し、全体像を『視る』能力なので明度などは関係ない。
光の差さない深海であろうと昼間のように見渡す事が出来る。
深海は化物染みてグロテスクなお魚さんの宝庫であり、暇潰しにはもってこいだ。
生き物ってこんな面白い進化するんだ、と感心させられる。
そして例えば悟空達の動きだってこれを使えば、ここに居ながらにして分かる。
例えばヤムチャ。ブルマや亀仙人、ランチや天津飯と一緒に武道会会場にいて松葉杖をついている。
例えばクリリン。……気が感じられない、ただの死体のようだ……。
「…………」
リゼットは頭を抱えた。お魚さん視てる場合じゃない。
どう見ても出遅れてます、本当にありがとうございました。
次こそは見逃さないと決意してたのに天下一武道会丸々見逃した挙句、もう大魔王編始まってるとか笑い話にもならない。
とりあえず悟空だ。悟空を探そう。
悟空は――いた。森の中で倒れている。
気も大分減っているし、かなり傷付いているようだ。
いや、というかこれ死んでない? 心臓止まってない?
「こ、こうしちゃいられない!?」
リゼットは青褪め、ベッドから飛び起きるとパタパタと駆け出した。
こんな所で悟空が死ぬなんて記憶にない。あってはならない事だ。
聖堂を走り、何事かと驚く兎団をスルーし、跳躍。
悟空の気目掛けて全力飛翔をした。
背中からの気の放出により光翼を展開。千里すら一瞬にして詰め、音を超えて消えかけている悟空の気を辿る。
――いた!
森の中で倒れている悟空は何も映さない虚ろな瞳を虚空に向け、倒れている。
その向かい側には大魔王。
リゼットは即座に悟空と大魔王の間に割り込み、悟空を守るように大魔王と対峙した。
これに驚いたのは大魔王だ。
何せスピードが違う。
彼にしてみれば、突然の白光と共に未知の敵が出現したようにしか見れない。
つまり得体が知れないし、大魔王ではリゼットの底を計りきれないのだ。
「な、何……? 貴様、何者だ?」
「……貴方に名乗る名はありません」
リゼットはチラリと悟空を見る。
気は限りなく小さく、呼吸も心臓も止まっている。
不味い……非常に不味い状態だ。
一刻も早く処置を施さないと本当に死んでしまう。
大魔王と戦う時間すら惜しいし、そもそもここで大魔王を殺してしまうと後のピッコロさんが誕生しない。
かといって殺さない程度に加減して戦ってやる暇と余裕など今はない。
故に、構えを取った大魔王へ強い語気で告げる。
「戦る気ですか? その老いた身体で、この私と」
「……ッ!」
大魔王は老いている。全盛期には程遠い。
ましてや今は悟空と戦った消耗もあるだろう。
得体の知れない敵に加えて己の消耗。それを考えれば、自ずと最適解が出るはずだ。
大魔王は屈辱に歯を噛み締め、呪いの言葉を吐くように言う。
「……命拾いしたな、小娘」
そう言い残し、大魔王は去った。
だがその前に、大魔王の乗る飛行艇……そこに乗るピラフ一味に釘だけは刺しておくべきだろう。
リゼットは彼等を睨むように見上げ、よく通る声で告げる。
「そこの貴方達……このような事はもうお止めなさい。いつか、己の首を絞めますよ」
「……ッ!!」
ピラフが息を呑むのが解った。
これで少しは効果があるといいのだが、正直期待は薄いだろう。
それでも言わずにはいられなかった。
彼等の行動は完全に超えてはいけない域をはみ出している。
少しは悔いてくれればいいのだが……。
飛行艇が発つと同時にリゼットは悟空へ駆け寄る。
気は完全に消えているわけではない。まだ命の灯火は残っている。
指を悟空の胸の中心に当て、気を送り込む。
とりあえず心臓を動かしてみれば息を吹き返すんじゃないかという、割と考えなしな試みだ。
「……かはっ!」
……本当に復活してしまった。サイヤ人の生命力恐るべし。
これもしかして、自分が慌てて来なくても勝手に復活したんじゃないだろうか。
というか、したのだろう。今になって冷静になってみればこの展開はあった気がする。
そうだ、確か悟空は大魔王との戦いで一度呼吸と心臓が止まって仮死状態になったはずだ。
つまりこれは運命通りの予定調和であり、慌てて出て来る必要など何処にもなかったのだ。
そして……そう、確かこの後ヤジロベーに助けてもらうはずであり、実際横を見れば、木の陰にヤジロベーが隠れてこちらを見ているのが解った。
「あの、そこの方……」
「! ち、違うんです天女様! お、オラァ別にそいつの事を見殺しにしたわけじゃあなく、たまたま通りがかっただけでして……さ、さいならー!」
「え!?」
――ヤジロベーが逃げ出してしまった。
呆然とするリゼットの視界でどんどんヤジロベーの背は小さくなり、やがて完全に見えなくなった。
彼が逃げたのはひとえに罪悪感があっての事だ。
ヤジロベーは大魔王との戦いに恐れをなし、遠巻きに観戦する事しか出来なかった。
つまり形としては悟空を見殺しにした形になるのだ。
無論リゼットにそれを責める気などない。
己の命を最優先に考える事に罪などないし、怖いと感じるのは仕方の無い事だ。
だがヤジロベーから見れば、明らかに悟空の味方の天女が出て来て、自分は悟空を見殺しにした。
責められると思ったのだろう。
咎められると思ったのかもしれない。
その結果が逃亡。本来ならばここで悟空の味方になるはずの男の、まさかの離脱である。
「…………や、やってしまいました」
ポカンとするリゼットの真上を一羽の鴉が飛ぶ。
その鳥はまるでリゼットを嘲るように「アホー」と一声鳴いた。
✪ リゼットは長生きしている分、時間感覚が少しずれています。
なので一つの事に熱中すると、今回のように『気付いたら数年経ってました』とかいう事態にもなります。
まあ今回の一件で反省するでしょうから、以降はそんなに同じミスをしないでしょう。
多分。