ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
記憶を得てからリゼットが真っ先に行ったのは戦闘力を上げる修行であった。
この世界はドラゴンボールの世界、となれば物を言うのはとにもかくにも戦う力だ。
格闘技の経験などリゼットにはなかったが、それは実の所大した問題ではない。
確かに技術は大事だろうが、それよりまずこの世界は基礎スペックが強さのほとんどを占める。
格闘技の経験などなかろうと戦闘力に大きな開きがあればそれだけで勝てるし、何よりリゼットの記憶が正しければフリーザや魔人ブウなど、明らかに己のスペックのみで戦っている輩が大勢いる。
サイヤ人だって格闘技の経験などあるかどうか怪しいものだ。
恐らくはほとんどが実戦の中で各々が見出した野生の獣染みた本能のままの体術だろう。
無論それは戦闘種族だからこそのものであり、地球人であるリゼットが真似しようと思えばどれだけの年月がかかるか分からない。
しかし、それは後で身に付ければいい。
何よりもまず、今は基本的な体力や腕力、敏捷さを身に付ける事こそが優先される。
強さを上げる当てはやはり記憶の中にあった。
それは『重り』だ。
ドラゴンボールの修行において基礎能力を上げるならば重りは決して無視できない。
少年時代の孫悟空の亀の甲羅に始まり、神様から貰った重い胴着、十倍重力、百倍重力……身体に負担をかける事で、軽くなった時の強さを上げる。
なるほど、理に適っている。現実でも使われている修練だ。
マラソン選手が高山の上でトレーニングしたり、ボクシングの選手が足に重りを付けたりなどは決して珍しい事ではない。
もっとも十倍重力なんてものはまさにこの世界だから可能なトンデモ修行であり、元の世界でやれば普通に死ぬだろう。
血液が脳に回らないのは当たり前。恐らくは細胞も異常をきたし、強くなるどころではない。
しかしリゼットはそれを思考から除外した。
きっと物理法則そのものが違うのだ。世界が違うのだから元の世界では、などという仮定に意味などない。
まずは自作のバンドを作り、そこに鉄を仕込んで手足に付ける事から始めた。
裁縫は幸い得意だ。
鉄を入れる専用のポケットも付け、慣れるにつれて少しずつ重りを追加した。
靴も重くしてみたり、服に縫い付けてみたり、とにかく出来そうな事は出来るだけやった。
リゼットにとって幸運だったのは、ここが辺境の田舎であり、男女関係なく体力が求められていた事だろう。
主な仕事は畑仕事に森林採伐。斧を振って木を倒すあれだ。
童話などでは池にボロい斧を落とせば神様が金の斧をくれるが、勿論そんな事はこの世界でもない。
そんな事情もあり、リゼットの修行も体力と腕力を上げる為のものとして普通に黙認してもらえた。
都会だったらこうはいかない。母親に大目玉を食らうところだ。
畑仕事も素手で行い、最初こそ苦労したが慣れるにつれて鍬などの道具を持った大人よりも早く畑を耕せるようになった。
一年経つ頃にはバンドが物足りなくなってきたので、外にいる間は岩を背負う事にした。
常に岩を背負って歩く岩少女とはなかなかにシュールな光景だが、人は慣れる生き物だ。
最初こそ奇異の視線を向けられたものだが、いつしか村の人々もリゼットの姿に何も言わなくなり、岩娘という渾名だけが定着した。
順応早いな、この世界の人々。
更に一年経つ頃には岩も大して重くなくなり、身近に背負う物がなくなってしまった。
どうやら思った以上に重りの特訓は上手くいったらしい。
試しに村一番の腕自慢と腕相撲をしたら、相手が両腕でもまるで勝負にならず圧勝した。
これは旅をする為の基礎体力と腕力は身に付いたと考えてもいい頃だろう。
ゴリラのようなパワーのはずだが、腕は未だ少女のしなやかさと柔らかさを保っている。
まあクリリンとかが戦闘力一万を超えてもビスケット・オリバみたいにはならなかったので筋肉の構造も元の世界とは違うのかもしれない。
多分この世界の人類、外見や構造は似ているがホモ・サピエンスじゃない。
リゼットはそう確信した。
となれば、次にするべきは旅だ。
この村にいても、もう得るべきものは何もない。
年齢は11歳。少女が一人で旅をするには早過ぎる年齢だ。
親からは当然のように止められたし、ここまで育ててもらった恩義を忘れるわけではない。
だがこんな小さな村で普通に暮らして普通に結婚して死ぬなんて御免だ。
世界を見て回りたい。望めばどこまでも行けるこの世界を漫遊し尽くしたい。
あらん限りの言葉を尽くして力説したリゼットにとうとう七日目で両親が折れ、年に一度は必ず帰る事を条件に許可をもぎ取った。
★
旅に出て三年。リゼットは自分が確かに強くなっている事を確信していた。
大岩を持ち運ぶなど最早日常。素手で砕くのも容易く、走れば百mを八秒以内に走り抜けるのも容易だ。
相変わらず技術はないものの、基本的なスペックは確実に超人と呼べる域に及んでおり、試しに出て見た格闘の大会などでもまるで苦戦する事なく優勝賞金を掻っ攫える。
リゼットの旅の目的はドラゴンボール。
まずは寿命を克服する。そうしなければ世界を堪能し尽くす事など夢のまた夢だ。
彼女にとって幸いだったのは、この時代にドラゴンボール探しのライバル足りえる者がいなかった事だろう。
ドラゴンボールの噂が世に広まって四十年、未だ誰かがそれを集めて願いを叶えたという話はなく、そもそもドラゴンボール自体の認知度が低い。
これは恐らく、まだ誰も願いを叶えていないからだ。
事実かどうかも分からない伝説。そんなものの為に世界を巡る者などそうはいない。
レッドリボン軍もいないし、桃白白などは既にいるものの何を考えているのかサラリーマンをやっていた。
ピラフ一味など生まれてすらいない。
だから容易かった。だから妨害に遭わず、こうも順調に集められた。
無論困難でなかったわけではない。
何処に在るかも分からぬ小さなボール。加えてレーダーなどという便利なものはまだ存在しない。
だがリゼットは幸運だった。
どんな探し物でも見付けてくれる、未来すら見通す占いババがこの時代、既に生きていた。
聞けば250年以上昔から占い稼業をしていたらしい。化物か。
彼女の出す試練もまたリゼットの知るそれより難度が低く、繰り出される五人の戦士の質も大した事はなかった。
多分アックマンはまだ雇ってなかったのだろう。
占いババから貰った情報を元に世界を巡り、ボールを集めた。
そして今、七つの球がリゼットの手中にある。
全てが彼女にとっていい方に作用したからこそ三年で集める事が出来た。
後に悟空達は一日で全て集めるようになるが、あれは彼等の桁外れの飛行速度あってこそのものだ。
今のリゼットならばこれで十二分に上出来なのである。
『さあ願いを言え。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう』
出てきた龍は神々しく輝き、夜空を照らす。
なるほど、圧倒される、とリゼットは思った。
しかし見惚れてばかりもいられない。願いを言わなければ。
「願いを増やして下さい」
『それは出来ない。叶えられる願いは一つだ』
物は試しとやってみた願いはあっさり却下された。
やはり駄目か。
まあ、これは予想出来た事態なのですぐに本命の願いを口にする。
「私、リゼットという存在を不老不変のものとして下さい。
老いず衰えず失わず、私は全盛期のまま強くなり続けたい!」
『…………』
不死は望まない。不老はともかく不死を望んだ者の末路はいつだって悲惨だ。
そして同時にこの願いは一つの賭けでもあった。
――願いを二つ言っている。
不老を願い、更に姿の不変までも願っている。
この不変とはつまり変わらぬ事。髪を染めようが肌を焼こうが、腕や足を欠損しようが元の形状に必ず回帰するという事。
解り難いのなら、吸血鬼にならずその不老性と再生能力だけ得ると考えればいい。
リゼットはこれを『出来る』と予感していた。
だって実際原作で出来ている。
例えば不老不死だ。あれは『不老』と『不死』の二つを叶えている。
『○○に殺された者達を生き帰らせてくれ』なんて、その最たる物だ。
死んだ人間の数だけ願いを叶えている。
『地球を元通りにしてくれ』はもっと酷い。建物の一つ一つ、個人の持つ所持品や衣服、食料、砂の一粒に至るまで再現させている。言葉にすればたった一つの願いであるが、この時に神龍が叶えている願いは数億数兆に匹敵するだろう。
そう、即ち神龍は結構融通が利く。
言い方次第では複数の願いを叶える事も不可能ではない。
更に細かい条件付けも可能だ。
『若返らせてくれ』の後に『最もパワーに溢れていたあの頃に』と条件を加えればちゃんと叶えてくれるし、『悪人を除き』と言えばちゃんと悪人を取り除いてくれる。
しかも恐らくだが、読心の類を使って願いを正確に把握してくれているはずだ。
でなければ、前述の『最もパワーに溢れていたあの頃』だけで伝わるわけがない。
ナメック星人の長い寿命では、いつが最盛期かなんか分からないのだ。
つまり曲解しない。
正確に望んだ願いを叶えてくれるし、無理なものは無理と言ってくれる。
どこぞの外道魔法マスコットや万能の願望曲解機とは格が違うのだ。
だからきっと、『姿が変わらないから筋肉も変わらないので強くはならないよ』とかはやらないだろう。
一応それに釘を刺す意味で『強くなり続けたい』と加えているし、大丈夫なはずだ。
そして、リゼットの読み通り神龍は頼もしい言葉を口にする。
『容易い事だ』
神龍の目が輝き、リゼットの身体を包む。
特に何かが変わった感覚はないが、それは後で試せば分かる事だろう。
『願いは叶えてやった。さらばだ』
神龍は事務的に告げると姿を消し、七つの球は再び世界各地へと飛び散った。
何はともあれ願いは成就された。
これで寿命は気にしなくていいだろうが、問題はもう一つだ。
不変がどこまで叶えられたのか……それを試さなくてはならない。
「……まずは、髪から」
足首まで伸びていた髪を小刀でバッサリ切り落とす。
これでショートカットになったわけだが、さてどうなるだろう。
流石に斬ってすぐに再生とはいかないらしく、そこらの岩に座って時間を潰す。
すると大体十分くらいかけて髪が生え、元の長さへと戻った。
よし、大丈夫だ。
しかし冷静に考えると髪を切ってから願いを叶えるべきだったかもしれない。
これで一生、この馬鹿みたいに長い髪の毛と付き合う羽目になってしまったのだから。
「傷はどうでしょう」
次に小刀で掌を斬る。
血が滲み、地面に赤い斑点を刻んだ。
それから一分……傷は完治し、元通りの綺麗な掌へと戻るのを確認した。
願いは間違いなく滞りなく、己の望んだ形そのままに曲解される事なく果たされた。
ああ、素晴らしい。どんな願いでも叶う、というのは誇張ではなかった。
神の力を超えぬ限りならば、文字通りどんな願いでも叶えられるのだ。
即ち不老、即ち不変。
老いず朽ちず衰えず砕けず、死なない限り死にはしない。
ならば次は力だ。
不変の願いが真に果たされたならば、恐らくどれだけ鍛えようとゴリラのような外見になる事はあるまい。
リゼットもまた女性。鍛えすぎによる外見の筋肉化は避けるべき事態だった。
だがその不安も最早なく、思う存分に磨く事が出来る。
というか何で未だに筋肉らしきものがほとんど付いてないのだろう。二の腕とか触るとプニプニしているし。
巨岩を持ち運べる筋力でこれだけの変化だった、というのが既に驚きだ。
だがよく考えたら、ビルだろうと持ち上げられるクリリンや天津飯だってあんなスマートなんだから、岩を持ち上げる程度ではそんなゴツくなどなれないのかもしれない。
とはいえ、やたらゴツイくせに弱い人間とかもいるので油断は禁物だ。
というかどういう基準でゴツくなるんだろうこの世界。
★
不老となってから十年。
休みなく修練を続け、世界中を巡り様々な格闘技を修めてきた。
最初は格闘技など要らないと思っていたが、実際に学んでみると奥が深い。
その傍ら、体内の気を感じ取る修行も並行して行い、何とか気の操作も出来るようになった。
悟空が三年、クリリン達が一年、ベジータに至っては見ただけで即習得した事を思うと何とも遅い習得だが、幸いリゼットには時間がある。
とりあえずこれからは気弾と空を飛ぶ練習も行っていくといいだろう。
それよりリゼットには一つの目的があった。
それはカリン塔に行き、雲のマシンを手に入れる事である。
勿論普通の雲には乗れないだろうが、確かあそこには邪心を持つ者専用の黒い筋斗雲もあったはず。
ついでに独学の限界を感じたというのもある。
格闘技は修めたがそれは全て常人が使う事前提のもの。
リゼットのような超人的な身体能力を前提とした体捌きなど教えてはいない。
役に立たないわけではない。だが不足だ。
だからリゼットはカリン塔に登る事を決意したのである。
「……で、ここまで登ってきたわけじゃな」
「はい」
リゼットの前に立つのは白い体毛に覆われた二足歩行の猫。
武の神様とも呼ばれるカリン様である。
二足歩行こそしているものの、その姿はまさに猫そのもの。
手足は短く、猫本来の愛嬌をそのままに残しており、壮絶にモフりたくなる。
というかとりあえずモフってみた。失礼とは分かりつつも衝動を我慢出来ずに喉の辺りをくすぐる。
するとカリンはゴロゴロと喉を鳴らした後、ハッとしたようにリゼットの腕を止めた。
「いきなり何するんじゃ」
「す、すみません……私、猫好きなのでつい」
名残惜しさは感じたものの、ここで不興を買うのはまずい。
カリンから手を離し、リゼットは頼みこむように頭を下げた。
「私を弟子にして下さい、カリン様」
後ついでに撫でさせて下さい。
前半はともかく、後半の願いは無情にも却下され、リゼットは失意に暮れた。
【リゼットの身長】
身長:153cm
クリリンと同じ大きさだが、DBにおいてクリリンは実際の身長よりも小さく描かれてしまうので、同じ身長のはずなのに一緒に並ぶと何故かリゼットの方が大きいという謎現象が発生する。
例えばクリリンは身長153でビーデルが身長157と割と近いはずだがDB超のOPで並んだ時、クリリンは何とビーデルの胸にすら届いていなかった。
多分彼の身長153は鯖を読んでおり、実際は140くらいしかないと思われる。
Q、ドラゴンボールに願ってサイヤ人にならないの?
A、最初に『不変』を願ったので無理です。種族はもう変わりません。
それとメタ的に言うとそれやるくらいなら最初からサイヤ人オリ主でやってます。