ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第35話 究極の神殺し

 モロは死んだ。

 しかしまだ戦いは終わらない。

 シーラスと、彼が呼び出したカンバーの影を相手に戦闘は続いていた。

 ジレンがカンバーを抑え込み、残る四人でシーラスの相手をしている。

 

『どうやら貴方のその召喚能力、一度使うと次に同じ戦士を呼び出すまである程度のインターバルが必要なようですね』

「そんな時間は与えん」

 

 リゼットが棍のリーチを活かしてシーラスを巧みに攻め、隙を見てヒットが時飛ばしと見えない拳打で奇襲をかける。

 十二宇宙全体を見渡しても技巧でトップクラスに位置する二人の連携攻撃に、シーラスは防戦一方に追い込まれていた。

 だが戦う相手はこの二人だけではない。

 ブウが口から気を吐き出すと、それはブウの姿によく似たオバケのような形に変わる。

 

「スーパーゴーストカミカゼアタック! 行け!」

『ケケケー!』

 

 オバケブウが大挙してシーラスに突撃し、シーラスは気弾をバラ撒いて誘爆させつつ距離を取る。

 だが待ってましたとばかりに空中に先回りしていたラピスラズリがオーバーヘッドキック。

 シーラスの頭を痛烈に蹴り、地面に送り返した。

 そこにヒットが飛び込み、咄嗟にシーラスは彼に気功波を発射した。

 

「っ!」

 

 だが目の前のヒットは気で作り出した分身だ。

 気功波はヒットをすり抜け、直後に背後からヒットの拳がシーラスの背中に突き刺さった。

 見えない気がシーラスの身体を突き抜け、内臓を傷付ける。

 ヒットとシーラスの間の戦闘力の差は決して小さくない。

 だがここにいるのは第6宇宙最強の殺し屋ヒット。今のシーラスをも殺し得る牙を持つ男だ。

 彼の多彩な能力と殺しの技は、戦闘力の差などないかのようにシーラスを翻弄し、追い詰める。

 ヒットとシーラスの差は大型の動物と小さな虫ほどに開いている。

 だが強力な毒を持つ虫が自分より遥かに巨大な生物を仕留める事もあるのだ。

 今度はリゼットがヒットと入れ替わるように飛び込む。

 シーラスは気弾を放ち牽制するが、リゼットに避ける気配はない。

 そして命中の瞬間――リゼットが二人に()()()分裂した二人のリゼットが左右から同時に掌打を叩き込んだ。

 顔を挟み込むように放たれた掌打は、内部まで衝撃を浸透させて中央……即ち脳の部分で衝突し、シーラスの脳を激しく揺さぶり、一時的な前後不覚に陥らせた。

 

「な……にぃ!?」

『気の分身なら、こういう芸当も出来るんですよ』

 

 今度は三人に分裂し、三方向からシーラスを袋叩きにした。

 シーラスも反撃しようとするが、圧倒的な手数の差でその出先を潰されてしまうので対処出来ない。

 三人のリゼットによるコンビネーションは完璧で、一切の隙がない。

 この世に存在するあらゆる連携の中で、最もスムーズかつ偉大な連携。

 連携の中の連携、キング・オブ・コンビネーション。それが唇と歯と舌だ。

 リゼットAがシーラスの逃げ場を塞ぎ、リゼットBが動きを封じ、リゼットCが粉砕する。

 三人のリゼットの連携は、まさにその唇、舌、歯のコンビネーションの如く、互いが互いの隙を潰す形でシーラスを閉じ込め、咀嚼するように叩きのめした。

 やがて十分なダメージを与えたと判断したリゼットは再び再融合して一人に戻り、次の瞬間驚くべき事に形が変わった。

 人の形を捨てて巨大な手に変形し、シーラスを掴むと何度も地面に叩き付ける。

 まだ終わらない。地面に倒れるシーラスを何度も掌でスタンプし、追い打ちをかける。

 攻撃を終えて元に戻ろうとしているリゼットに、シーラスが立ち上がって襲い掛かる――が、リゼットと入れ替わるように魔人ブウが割り込んだ。

 

「狼牙風風拳!」

 

 狼の俊敏さと鋭さを模倣した拳法が炸裂し、シーラスの顔を右へ左へと弾く。

 

「ハイッハイッハイッハイッ、オウーッ!!」

 

 締めの一撃で思い切り吹き飛ばされたシーラスは、いくつものビルを突き破って空を舞う。

 だがその先にブウが回り込み、次なる技へ入った。

 

排球拳(ブウブウバレー)いくわよーっ!!」

 

 真面目な顔で、何故かオネエ口調で技を宣言する。

 

「はぁーいっ!!」

 

 そしてニヤけ面でバレーのレシーブのような構えへ入った。

 落ちて来たシーラスを拾うように滑り込み、打ち上げる。

 

「そーれパース!」

 

 シーラスが宙を舞い、何とか体勢を立て直そうともがく。

 だがそれは出来ない。

 飛ばされた先にいたリゼットがシーラスを上へ打ち上げたからだ。

 

『トース!』

 

 リゼットの掌打を受けてシーラスが再び宙に飛ばされた。

 その後を追ってブウが跳躍。空を舞うシーラス目掛けて拳を振り上げ、思い切り叩き落とした!

 

「アターック!!」

 

 シーラスが轟音を立てて地面に衝突した。

 ふざけた技だが、それでも使い手がブウならば、威力も桁違いだ。

 地面にめり込んだ状態で何とか立ち上がろうとするシーラスだが、そのすぐ横に何かが墜落した事で顔色を変えた。

 落ちて来たのは、ボロボロにひしゃげたカンバーの姿であった。

 誰がやったのかなど、考えるまでもない。

 砂塵の向こうから宇宙最強の男ジレンが現れ、シーラスを見下ろす。

 遅れて他のメンバーも集結し、シーラスを囲んだ。

 

「お、おのれ……貴様のような魔人などに、この私が……仲間を吸収してまで勝ちたいか……!」

「くっくっく……勝利こそ全てなのはお前とて同じ事だろう。

まあそう絶望的になる事もなかろう。すぐ楽にしてやる……ほんの少し苦しむだけだ」

 

 シーラスの侮蔑の言葉を、嘲笑をもって返すブウを見ながらリゼットは「あれ? どっちが敵でしたっけ?」と思っていた。

 随分悪人感が増してしまっているが、やはりピッコロを吸収した影響だろうか?

 この世界のピッコロはスラッグや大魔王と融合しているので、悪の心増し増しなのが駄目だったのかもしれない。

 17号もGTの超17号のような外見になっているし、これじゃ地球を守る守護者達というよりはボスキャラ連合だ。

 

「待て。その男には、吸収した者達を解放させなければならん」

「問題ない。私がそいつを吸収し、お前の仲間達を分離して返してやる」

 

 ジレンが制止するが、ブウは既に解決策を考えていたようだ。

 そういえばブウの体内は合体を解除してしまう効果があるんだったっけ、とリゼットは思い出す。

 もっともポタラ合体に時間制限がある事が判明した今となっては、原作のあの合体解除はブウの体内のせいなのか、ただの時間制限だったのか分からない。

 とはいえ、試してみる価値は十分あるだろう。

 

「では、さようならシーラス。これからは私の一部として生きるがいい」

「…………っ!」

 

 ブウが勝ち誇った笑みを浮かべ、悔しさに顔を歪めるシーラスへ手を伸ばす。

 しかしリゼットはここで、もしシーラスを吸収したらブウの性格はどうなるんだろうと不安を抱いた。

 ブウの吸収は相手の性格の影響をかなり受けてしまう。

 これでシーラスのような性格になってシーラスと同じ事をやり出したら目も当てられない。

 慌ててリゼットが止めようとし――それより早く、突然、空から飛来した気弾がブウの全身を穴だらけにしてしまった。

 

『ブウ!?』

 

 突然の奇襲にリゼットが驚き、上空を見る。

 直後に全身を重圧が襲い、動けなくなってしまった。

 ラピスラズリやヒットも同様に膝をつき、ジレンだけが立ったまま耐えている。

 

「来たか……!」

 

 ジレンが怒りを込めて上空を睨んだ。

 そこにいたのは、コアエリアの戦士達のリーダーであるハーツであった。

 しかしその姿は以前と異なる。

 全身が金色に輝いており、背中からは巨大な角が生え、その周囲にはいくつもの球体が浮かんでいる。

 そして胸元には水晶が輝いていた。

 

「やあシーラス、危ないところだったな。助けに来たよ」

 

 優し気な声色で語りかけながら、重力操作でリゼットの持っていた棍をシーラスに返した。

 この場で唯一重力のかかっていないシーラスはよろめきながら立ち上がり、ハーツの近くまで浮遊して移動する。

 

「その姿……そうか、完成したんだな」

「ああ。君達の戦いのエネルギーのおかげで宇宙の種は完成し、俺はその力を取り込んだ。

見るがいい、この姿……これこそ究極の神殺しだ。今、俺達の悲願は王手がかかった」

 

 ハーツが所持していた『宇宙の種』は文字通り、一つの宇宙を生み出すほどの力を秘めた存在だ。

 そしてこの宇宙の種を完成させるには、莫大な戦闘エネルギーが必要となる。

 その為ハーツは各宇宙を巡り、戦い、そして遂にこの宇宙の種を完成させたのだ。

 ハーツは感極まったように空を見上げ、ここにいない同志へ想いを馳せるように話す。

 

「決して楽な道ではなかった。全王が全ての破壊神を呼び寄せ、破壊神不在となったこの千載一遇の好機をものに出来なければ、その瞬間全てが終わる。各宇宙の強者達と戦いながら超ドラゴンボールを集め、そして破壊神達が戻って来る前に超ドラゴンボールで他の時間軸に追放する……果てしない遠回りだった……だがその困難な道も、同志達のおかげで超える事が出来た。

ありがとう……カミン、オレン、カンバー、ラグス、モロ……そしてシーラス」

「戯言を!」

 

 天を仰ぐハーツへ、ジレンが重力を振り切って突撃した。

 繰り出されるジレンの拳をハーツが軽々と避け、反撃の蹴りがジレンの腹にめり込む。

 宇宙最強の男が吹き飛ばされ、地面に激突する寸前に獣のように四つん這いの姿勢となって何とか不時着した。

 

「おのれ……まだだ!」

 

 ジレンの形相が鬼のように険しくなり、顔中に血管が浮き上がる。

 全身から紅蓮のオーラが吹き出し、その勢いで彼の着ていた服の上半身部分が千切れ飛んだ。

 あの力の大会でも悟空との戦いの中で見せた彼の本気の姿だ。

 だがそれを見ても尚、ハーツの絶対の自信は揺らがない。

 

「シーラス、ここは俺に任せてくれ。君は時の巣へ行き……全王に引導を渡してくるがいい」

「……分かった」

 

 シーラスが飛び立ち、追いかけようとしたジレンの前にハーツが割り込む。

 他のメンバーは、ハーツからかけられている重力のせいで身動きが取れない。

 地面に伏せたままリゼットはブウに目配せをし、二人は人の形を一度捨てて地面の中へ潜り込んだ。

 

「何をする気だ……?」

「全王を消すのさ。今、奴はかつて別の時間軸の全王によって全てが消されてしまった宇宙にいる。いや、宇宙だった空間というべきか。まずはその歴史ごと全王を消す! これが俺の辿り着いた、唯一の全王を殺せる方法だ」

 

 ジレンの問いに、ハーツは恍惚とした表情で答えた。

 全王は殺せない。だが全王が存在している歴史は消せる。

 もしかしたらそれでも全王だけは残るかもしれないが、万一生き延びても時の狭間ですらない無の空間で永遠に取り残されるだろう。

 

「だがそれだけじゃないぞ! この時間軸以外の全て! 全王が存在する全ての世界線を抹消する! そうすれば全王のいないこの世界線が唯一となり、神のいない真に自由な宇宙が誕生するんだ!」

『それは誕生ではなく、自分が嫌いなものを壊してるだけですね』

「!!」

 

 語りに夢中になっていたハーツを、背後からリゼットが奇襲した。

 ハーツのサングラスの上から手刀が叩き込まれ、その衝撃でラピスラズリとヒットを縛っていた重力が消えた。

 更によろめいた瞬間を狙ってピンク色の塊が飛び込む。

 

「いただきー!」

「っ!!」

 

 ハーツに飛びついたのは人の形を捨てたブウだ。

 ブウの持つ最大の格上殺し技、それは『吸収』である。

 吸収に成功してしまえば格上だろうと関係ない。丸ごと自分の力にしてしまえる。

 スライム状となってハーツの全身に纏わりついたブウを引き剥がすのは簡単ではない。

 この状態に持ち込めば最早吸収成功は確定。

 そう思い勝ち誇るブウだったが、ここで異常に気が付いた。

 ……ハーツの身体に届いていない!

 ハーツの全身を守るように展開されている重力によって阻まれ、吸収が不発に終わっている。

 

「残念だが、君に俺は吸収出来ない……はああっ!」

 

 ハーツは全身から気を解放し、ブウを弾き飛ばした。

 弾かれてしまったブウは離れた場所で元の姿に戻り、「小賢しい真似を」と呟いた。

 

「地球の神と魔人か……どうやって脱出した?」

『教えるとでも?』

 

 ハーツの疑問を無視し、リゼットは力を抜いた無形の構えを取る。

 リゼットとブウが逃れた方法は単純だ。

 重力から逃れられぬなら、更に下に潜るまで。

 気の塊である分身リゼットと、自在に身体を変えられるブウならばそれが可能だ。

 二人は地面の僅かな隙間に潜り込んで地中を泳ぎ、重力が届かない位置まで潜った後にハーツの後ろへ移動し、地中から飛び出したのだ。

 

「やはり俺の前に最後に立ち塞がるのも、神か。残念だよ……人の側に寄り添える神である君の事は嫌いじゃなかったんだがな」

『生憎ですが、神ではなくただの私個人として考えても貴方のやっている事は看過出来ません。

全王君を否定する割に、やろうとしてる事がそれより酷いじゃないですか』

 

 実の所、リゼットはハーツの考えが分からないでもないのだ。

 何せリゼットは神といっても、所詮はここ三十年で地球の神に就任したばかりの新米も新米、はっきり言って神としての意識などまだまだ薄い駆け出しもいい所だ。

 だから気紛れで宇宙を消してしまう全王が気に入らないというハーツの言い分も分かる部分がある。

 また、ザマスのような悪神がいつ現れて他の時間軸を荒らすか分かったものではない。

 それを考えれば、全ての時間軸から神を消してしまいたい……と思う者が出るのも仕方ないと受け止める事が出来る。

 しかしその前提の上で考えてもやはりハーツのやろうとしている事、そしてやってきた事は論外であった。

 

「貴様の主義主張などに興味はない。俺は俺の仕事を果たすだけだ」

「下らん思想だ。己の私欲の為に力なき者達を苦しめた時点で、貴様に大義などない」

 

 ヒットとジレンが冷たく切り捨て、宇宙の敵を倒すべく構えを取る。

 

「自由か。俺には、自由に縛られているお前が一番不自由に見えるがな」

「どうでもいいさ。どのみち、貴様はここで死ぬんだ」

 

 ラピスラズリとブウはそもそもハーツの思想そのものがどうでもいいらしく、冷めた感想だ。

 あれこれ言っているが、今大事なのはハーツが敵で、向こうから攻めて来たという事実だ。

 そして止めなければゴクウブラックとザマスの時の比ではない大惨事が起こるという未来のみである。

 

「どっちみち、俺も君達との戦いを避けられるとは思っていないさ。

……来い! シーラスの後は追わせんぞ!」

 

 ハーツが気を高め、同時にリゼット達が攻撃を繰り出す。

 そして、激戦が幕を開けた。

 

 

 

 一方、時の巣へ移動しようとしていたシーラスだが、まだこの世界に留まっていた。

 それは、彼の目の前に二人の戦士が瞬間移動で現れたからだ。

 

「貴様……トランクス!」

「シーラス……これ以上お前の好きにはさせない!」

 

 現れたのは、シーラスの後任である現在のタイムパトローラー、トランクス。

 そしてその父ベジータであった。

 ヤードラット星での修行を終えた二人が、シーラスの歪んだ野望を阻止するべく立ち塞がる。

 

「よう、テメエが他の宇宙の奴等を吸収したシーラスって野郎か。

どんな化け物かと思ったが、大した事はなさそうだな。このベジータ様が一瞬で片付けてやるぜ」

 

 ベジータが自信満々に勝利宣言をし、進化した超サイヤ人ブルーへ変身した。

 一緒に戦おうとするトランクスを手で制し、一歩分前へ出る。

 

「下がっていろトランクス。こいつは俺が始末してやる」

「父さん……!」

 

 ベジータは多対一や助太刀されるのを好まない。

 何故ならそれは、一人では勝てないと宣言しているようなもので、ある種の敗北宣言に等しいからだ。

 かつてのナメック星でのフリーザとの戦いのように、戦う前から明確に自分が格下と分かっていれば味方の手を借りるくらいの柔軟さは持っているが、それでもやはり彼のプライドを一番満たせるのは強敵相手に一人で勝利した瞬間だ。

 このプライドはベジータがベジータである限り、決して切り離せるものではない。

 トランクスもそんな父の事を分かっているので、仕方なく先陣を父に譲る事にした。

 

「カカロットはまだ来ていないようだな。まあいい……奴が到着する前にこの俺が全て終わらせてやる」

 

 ベジータが強気に笑い、そしてシーラスとの戦いが始まった。

 

 

 界王星から戻った悟空は、すぐに今宇宙が置かれている状況を皆に話し伝えた。

 クウラという一つの大きな山を越えた事で無意識のうちに気が抜けていたターレス達は、予想を遥かに上回る事態に驚き、同時に自らの傷付いた身体を悔やむ。

 クウラとの戦いは乗り越えたが、彼が残した傷跡は大きい。

 リゼットは完全にダウン。ミラ、ターレス、四星龍、バーダックも全身至る所が傷付き、骨折し、ベストコンディションからは程遠い有様であった。無論悟空もそれは同じだ。

 量産型とはいえメタルクウラは一体一体全てが超サイヤ人ブルーに匹敵する強さを持ち、戦闘力以上の硬度を持ち、そして生半可な攻撃では再生強化される。

 そんな怪物が圧倒的な数まで揃えて攻めて来る上に、倒す度に学習強化されていくのだ。

 むしろ後遺症となるような大怪我をしなかっただけ、ここにいる戦士達は褒められていい。

 

「今、満足に戦えるのはセルと21号だけか」

 

 四星龍が悔しそうに己の拳を見る。

 彼の拳は細かい亀裂がいくつも走っており、あのメタルクウラとの戦いで受けたダメージの深さを物語っていた。

 

「ごめんなさい。私がブウさんのように皆さんを治す事が出来れば……」

 

 申し訳なさそうに21号が言い、項垂れる。

 魔人ブウの特性を色濃く引き継ぐ21号だが、その全てを得たわけではない。

 高い再生力を持つが流石に本家魔人ブウほどの出鱈目極まる戦い方は出来ないし、ブウが持つ魔法のような力も21号はほとんど持っていなかった。

 これは、ブウの魔法の力がブウ自身ではなく過去に吸収した誰かのものだからかもしれない、とブルマは語っていた。

 

「なあセル。神様みてえに魔法で傷を治したり出来ねえのか?」

「出来るならもうやっている」

 

 セルは未来のリゼットの細胞を持ち、彼女が出来る事ならば全て出来る。

 この事から一時期はリゼットの完全上位互換な時期もあったが、現代のリゼットは未来の自分を遥かに超えた先にいる。

 時間停止や回復の魔術もその一つで、これは現代のリゼットのみが持つ特殊能力だ。

 絶望のボスラッシュから魔人ブウ出現までの七年間の間に習得した技であり、セルはこの能力を持っていないのだ。

 また、セル自身がそもそも怪我の治療など必要のない身体というのも大きかった。

 

 一応、未来リゼットの技術に治療系の技がないわけではない。

 気を相手に分け与え、身体を循環させる事で疲れを消しつつ徐々に癒す一種の気功治療のような技ならば未来リゼットの技術にあり、セルも習得している。

 だがこれは、一気に大怪我を治すような便利な技ではない。

 だから力の大会でヒーラーの真似事くらいは出来たが、それでも一瞬で傷を治さなければならないような場面ではセルも仙豆に頼る。

 

「ゲンキ・カプセルは……くそ、使い切っちまったか……。おいセル」

「持っていない」

「だよなあ……」

 

 バーダックは懐を探り、何かを探していたがやがて諦めて舌打ちをした。

 タイムパトローラーであるバーダックとトランクス、セルは彼等が拠点としているコントン都やトキトキ都といった場所でゲンキ・カプセルという回復用の道具を買う事が出来る。

 これは仙豆のように腹が膨れず、傷と疲労だけを治すというリゼットが欲しがりそうなアイテムだが、メタルクウラとの連戦で既に使い切ってしまっていた。

 最後に全員がミラを見るが、彼も首を横に振った。

 

「残る仙豆は一粒か……仕方ねえ、これを割って誰か二人で……」

「いや、カカロット、そいつはお前一人で使え」

 

 仙豆は割ってしまっても一応効果がある。

 なので二つに割って誰か二人を回復させようとした悟空だったが、それをターレスが止めた。

 

「今や俺達のパワーは大きくなりすぎた。二つに割った仙豆じゃとても万全には届かねえ。

そんな半端な回復をした奴を二人用意するくらいなら、誰か一人を万全にした方がいい。そしてその一人はお前であるべきだ、カカロット」

 

 ターレスは、回復させるべき優先対象を悟空と言い切った。

 他の面子も頷き、異論を挟む事はしない。

 これは単純な強さの問題だ。この中では悟空が一番強い。

 

「そうか……なら、そうさせてもらうぞ。サンキューな、皆」

 

 悟空もまた、確認や疑問を挟んだりしない。

 リゼットが倒れた今、この中ならば自分が一番強いという自信がある。

 そしてターレスの言う通り、半端に二人回復させるくらいならば、自分一人が万全になった方がいいだろうと考えた。

 仙豆を食べ、傷を完全に治してフルパワーに戻る。

 

「よし……そんじゃあ行くぞ、セル、21号。地球は……あっちか。

……やべえな、やたら大きい気がゴロゴロしてやがるぞ」

「問題あるまい、私達ならばな」

「ええ、急ぎましょう!」

 

 悟空が地球のある方向を探り、そちらから感じられる大きな気で既に戦いが始まっている事を悟った。

 距離があり過ぎるので集中してようやく微かに感じ取れる程度だったが……それでも、これならギリギリ瞬間移動出来る。

 悟空の肩にセルと21号が手を置き、そして三人は混迷を極めた戦場を切り拓くべくその場から消えた。




【戦闘力】
・ベジータ:11億
超サイヤ人:550億 2:1100億 俺のブルマ:6600億
超サイヤ人ゴッド:1兆1000億
超サイヤ人ブルー(完成):6兆6000億
キュアベジータ:44兆
ヤードラット星での修行で無駄のない気の使い方を覚えたベジータ。
戦闘力もかなり上昇した。

・未来トランクス:10億9000万
超サイヤ人ブルー+バーストリミット20倍:43兆6000億
同じくヤードラット星での修行で力を増した。
未来に残している仲間達との戦闘力格差がどんどん開いていく。
ちなみに本当の父(未来ベジータ)とは、実力差が開きすぎて未来ベジータが拗らせてるせいであまり上手くいってないらしい。

排球拳(ブウブウバレー)
天津飯、ピッコロ、ゴテンクス、ブウといったこの技に関わったほぼ全員が揃ったスペシャルバージョン。後は悟空がいれば完璧だった。
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