ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
ベジータとシーラスの戦いは終わりが近付いて来ていた。
激しく傷付き、最早気を失っていない方がおかしいベジータに対し、シーラスもスピリットの強制分離によってベジータと近いレベルにまで戦力が落ちていた。
しかしそれでも二人の間の差は大きい。
ベジータは奮闘したが、これでようやく対等に近付いただけだ。
しかしそこに至るまでにダメージを受けすぎている。
それは動きにも影響し、徐々に一方的にシーラスが殴り勝つようになっていた。
二人の右腕がクロスして互いの顔を狙うも、シーラスの拳だけが一方的に当たる。
続けて左。シーラスのフックがベジータの鼻を折り、膝蹴りが腹にめり込んで吐血を強要する。
何とか繰り出されたベジータのアッパーをスウェーで避けて脳天に肘打ち。
頭が下がった所を今度は蹴り上げる。
「ぐ……お……く、くそった……れえええ!」
ベジータが震える拳でシーラスの肩を殴った。
第10宇宙の戦士が解放され、シーラスの顔が怒りに染まる。
そこから逆襲の連打。ベジータが滅多打ちにされ、気がどんどん減っていく。
それでも何とか反撃しようとベジータが構えるが……ここにきて、運はシーラスに味方した。
突然何者かが、ベジータを背後から蹴り飛ばしたのだ。
「うぐおぁ!?」
予想だにしなかった奇襲にベジータが悲鳴をあげ、何棟ものビルを突き破って地面に落ちた。
ベジータを奇襲した者の正体……それは、コアエリアの戦士の一角であるカミオレンであった。
隣にはラグスもおり、冷たい目でベジータを見ている。
「あははははっ! バーカ! シーラスが吸収していたのはお前等の仲間だけじゃないんだよ!
残念だったねえ? 折角いい線いってたのに、僕等を解放しちゃってさあ!」
「吸収されてたせいなのか、傷も治っているわね。これならまた、ハーツ様の御役に立てる」
スピリットの強制分離は、吸収融合した者を無理矢理分離させる。だがその対象まで選べるわけではない。
シーラスが吸収した戦士の中には彼の仲間も含まれており、それが強制分離によって解放されてしまったのだ。
しかもジレンにやられる前の万全の状態に戻っており、これでは敵を増やしてしまっただけだ。
だが今度は、彼等が予期せぬ援軍に意表を突かれる番だった。
上空から飛来した緑とピンクの異形がカミオレンとラグスを蹴り落とし、彼等を見下すように腕を組む。
「これは失礼。希望を抱かせてしまったかな? 残念だがここには私達もいるのだよ」
「あははっ! 美味しそうなおやつが二人……どっちを先に頂こうかしらねえ」
セルと21号が悪人染みた笑みを浮かべ、カミオレンとラグスの前に着地した。
一瞬目配せをし、すぐにセルはカミオレンへ、21号はラグスへ向かった。
ラグスはすぐにガラス弾による迎撃を試みるが、21号は軟体生物のように関節を無視したような避け方をしてまるで被弾しない。
それどころか彼女が地面に足を突き刺した次の瞬間、ラグスの足元から21号の足が生え、痛烈に顎を蹴り飛ばした。
吹き飛んでいくラグスの髪を伸ばした腕で掴み、目の前まで引き寄せると彼女の頬を舐めた。
「貴方はどんな味がするのかしら。フフッ、楽しみだわ」
「ひっ……!」
ゾワゾワとした感触にラグスが悲鳴をあげ、ガラスの剣で21号の腕を切断した。
しかし切断された21号の腕はラグスを掴んだまままるでロケットのように飛び出し、瓦礫に押し付けてラグスを固定してしまう。
21号は何事もなかったかのように腕を再生しながら、獲物を甚振るように一歩一歩ゆっくりと近付いた。
「この……甘く見ないで!」
ラグスが21号に掌を向ける。
すると21号の全身がガラスに覆われ、動かなくなった。
ジレンとの戦いでは使う暇すらなくやられてしまったが、彼女には切り札があった。
それこそがこの、ガラスの封印術だ。
一度この術に嵌ってしまえば不死身だろうと関係なく無力化してしまえる。
分かりにくければ、唾を当てる必要のないダーブラの石化能力とでも思えばいい。
そしてこの術は魔人ブウの再生力を持つ21号だろうと例外ではなく……むしろ21号のような相手にこそ効果を発揮する。
上手くいけば強大な力を持つ神ですら封印出来る規格外の術で、それ故にハーツはラグスの事を神々との戦いで重大な役割を担う存在……宇宙争乱の鍵を握る少女と見込んでいた。
「あ、あら? 動けないわね……」
余裕ぶっていた21号の顔から笑みが消え、冷や汗が流れた。
どうやら戦闘力差だけを見て油断しすぎたらしい。
本家魔人ブウならここで、ラグスを捕まえている腕の方から本体が再生して何事もなかったように戦闘を続けるだろうが、流石に21号はそこまで出鱈目ではない。
割と本気でピンチである。
――ただしそれは、21号が一人ならばの話だ。
「油断しすぎです。私達は能力はあってもまだ経験不足なんですから、気を引き締めないと」
行動不能に陥った21号から光が飛び出し、それが21号となった。
ただしガラスに閉じ込められている21号が紫色の肌にセルのような斑点、そして白目部分が黒くなっているのに対し、新たに現れた21号は元通りのピンク色の肌をしている。
「なっ……!?」
驚くラグスをもう一人の21号が蹴り、封じられている21号に掌を翳してガラスを破壊した。
解放された21号はもう一人の21号の隣に並び、バツが悪そうにそっぽを向く。
「礼は言わないわよ、私」
「必要ありません。それより前を見て下さい」
二人の21号がラグスを見据え、気を高めた。
善悪の分離。それは本来の歴史で魔人ブウが行うはずだったものであり、そして21号もまた別の歴史では善悪が分離して敵対関係になる。
本来の21号――素体となったドクターゲロの妻『ボミ』の人格を持つ主人格が善の21号。そして抑えきれない食欲が人格を得てしまったのが悪の21号だ。
ほとんどの歴史において
乗っ取られない歴史でも善悪分離の果てに戦い、最後は両者共に消滅という末路を迎えていた。
同一人物でありながら……いや、同一人物のコインの表と裏だからこそ、決して相容れる事のないはずの二人。
しかしこの歴史においてのみ、善悪の垣根を超えて並び立っていた。
「カミオレンみたいに融合していたのが分離したの? いえ、どっちでもいい! だったら二人纏めて今度こそ!」
あまりに理不尽な光景にラグスが怯むが、今更二人に増える戦士など珍しくもない。
仲間のカミオレンだって分離すればカミンとオレンの二人に増える。
再びラグスが掌を翳すが、二人の21号は左右に散って回避した。
そして挟み込むようにラグスに手刀を当て、浮きあがった所で
「てっ! やっ! はあっ! そこ!」
拳打、蹴り、尻尾、また蹴りと繋げて頭突きで空中に運ぶ。
攻撃が途切れると同時に今度は
「それっ! やあ! そこね! かわせるかしら!?」
勢いをつけた尾の一撃から始まり、怒涛の攻めがラグスに回避も反撃も許さない。
首を掴んで気を纏わせた手刀で切りつけ、地面に投げ捨てた。
「覚悟はいい!?」
最後に蹴りで吹き飛ばし、その後を
「まだ終わりじゃない!」
途切れる事のない連携は両方共自分だからこそ出来るものだ。
セルやリゼットが行う自分自身との連携は、限りなく完璧に近いが所詮は傀儡の拳。
四身の拳と自律気弾という違いこそあるが、所詮は連携の振りをした一人技に過ぎず100%の完成度を超える事はない。
しかし21号は違う。同一人物でありながら明確に違う二人の連携は互いが互いを高め、120%の完成度を発揮する。
連携という一点において、21号はリゼットを上回るポテンシャルを秘めている。
善悪二人の連続攻撃がラグスを追い詰め、そして同時に挟み込むように気弾を放った。
「これで」
「終わりよ!」
「きゃああああああああ!!」
中央で気弾が爆発し、ラグスの悲鳴が響き渡った。
ボロボロになったラグスに
「ふふっ……このまま食べてしまおうかしら?」
「ダメです。折角生け捕りに出来たんですから、ちゃんと
美味しそうなスイーツを前に舌なめずりする
どうやら分離しても、欲望に忠実な片割れとそれを抑える理性的な主人格というこの二人の関係はあまり変わらないらしい。
★
激しい攻防が繰り広げられていた。
空中でセルとカミオレンが激しい打撃戦を行い、距離を空ける。
戦闘は互角……しかし、両者の表情には違いがあった。
カミオレンは必死さを張り付けたような顔なのに対し、セルは余裕の笑みのままだ。
カミオレンは屈辱に顔を歪め、セルに怒鳴る。
「ふざけるなよ! お前……本気で戦ってないな!?」
「ふっふっふ……そうカリカリする事もあるまい。ちょっとしたウォーミングアップだ」
「舐めるな! 全力でかかってこい!」
怒りを露わにするカミオレンに、セルはやれやれと肩をすくめる。
手を抜いたのは何も、遊ぶ為だけではない。
無力さを痛感させてやる事で戦意を挫き、捕獲しやすくするという狙いもあった。
彼等はある意味、フューの実験に付き合わされた被害者である。
この宇宙を荒らした一連の事件は紛れもなく彼ら自身の意思によるものだが、それでもフューによって本来集うはずがなかったメンバーが集められ、決起したのもまた事実であった。
だから生け捕りに出来るならその方がよかったのだが……しかし、こうまで感情的で愚かでは生け捕りにしてもどうせ暴れるだけだろう、とセルは考え直す。
それに21号の方がラグスをいい感じに弱らせてくれているし、あっちの少女はまだ話が通じそうだ。
ならばもうこいつに用はないか、とセルは結論を出した。
「では、ちょっとだけ」
セルがギアを上げ、カミオレンの背後に回り込んだ。
咄嗟にカミオレンが振り向くも、セルは今度は前に移動。余所見をしている間抜けを蹴り上げた。
「がっ!?」
宙を飛ぶカミオレンの頭上にセルが瞬間移動。
強烈なエルボーを背中に叩き込み、地面に送り返した。
すぐにカミオレンが起き上がってセルに向かうが、少しの攻防の後にまた殴り飛ばされて地面を舐める羽目になる。
「ぐっ……くそ! お前に……寄生してやる!」
カミオレンは液体金属のような特殊な身体を持つ人造生命体だ。
彼は相手の身体に入り込む事で寄生し、その身体を自在に操る能力を持っている。
カミオレンが人型を捨てて液体となり、寄生するべくセルに飛びつく……が、届く前にバリアによって阻まれてしまった。
まさかの事態に動揺するカミオレンをセルが蹴り飛ばし、瓦礫に叩きつける。
「それがお前の切り札か……残念だったな。そんなものは私には通用せん」
ギュピ、ギュピ、と独特な足音を響かせてセルが近付き、カミオレンを嘲笑しつつ見下した。
「どうしたのだ? 先程までのニヤけ面は。笑えよ、カミオレン」
「ぐぅ……くそ! くそくそくそお! 僕を、僕を馬鹿にしやがって! お前は許さない、許さないぞ!」
カミオレンが怒りのあまりわなわなと震え、そして次の瞬間、膨大な気を全て己の内側へ集約させて最後の攻撃に出た。
「許さなああああーーーーい!!」
カミオレンが、まるで風船のように膨らんだ。
あっという間にセルより巨大になり、際限なくブクブクと広がっていく。
その姿をセルは興味深そうに見上げた。
「ほう」
「へ……へっへっへ! 今更後悔してももう遅いぞ! 僕はもうじき、爆発する……こんな星なんかひとたまりもない……もう僕自身にも止まらないぞ」
「それは困ったな」
セルは更にカミオレンに近付く。
攻撃する気だろうか? そう考えたカミオレンは追加の情報をセルに与える。
「おっと、攻撃しようなんて思うなよ! 下手な刺激を与えればその瞬間僕は爆発するぞ!」
「ふっ……」
セルは思わず笑ってしまった。
全く……追いつめられたからといって、なりふり構わずこんな醜い自爆をしようとするとは何とも見苦しい。パーフェクトな自分ならばたとえ追いつめられてもこんな真似はしないだろうとセルは確信する。
同じ人造生命体であっても、こうまで差が出るとは……何とも嘆かわしいものだ、とセルは思った。
尚、もしこの思考をリゼットが読んでいたならば「案外似た者同士」という感想を述べただろう。
セルは限界まで膨らんだカミオレンに手を当てると、己の額に指を当てて瞬間移動をした。
そしてセルとカミオレンは、とある宇宙船の中に出現していた。
「なっ……何だお前等!?」
そこは、いくつもの培養液にセブンスリーの同型機が収められているラボのような場所であった。
この宇宙船は、セブンスリーを作り出した科学者達が所有する物だ。
セルは非道にもそこに、爆発寸前のカミオレンを連れ込んだのだ。
「すまないな、ここしか思い浮かばなかったものでね」
嘘である。セルは自らの意思でこの場所を選択し、カミオレンを運んだのだ。
かつて宇宙の何処かにきっとあると信じてドラゴンボールを探していたセルは、この宇宙のどこに誰がいて、何を企てているかをリゼット以上に把握している。
ましてや今の彼はタイムパトローラー。過去現在未来の情報の宝庫にいつでも赴けるセルにとって、リゼットの手を逃れている悪党も把握する事など造作もなく、丁度いい機会だからとこの場所に転移したのだ。
リゼットはあれでかなり甘く、少なくとも兵器を作っているだけの科学者をわざわざ狙って攻撃したりしない。だからこういう奴等や、リゼットを警戒して大きな悪事を働いていないヒータ一味のような小悪党がまだこの宇宙には残っている。
後で時の界王神にどやされるだろうが……まあ、咄嗟の事でここに移動させるしか方法がなかった、被害を最小限に抑えるための仕方のない犠牲だったとでも説明して、地球の甘いスイーツをご馳走してご機嫌取りをすればいい。
もしかしたら罰として仕事が増えるかもしれないが、それもいいだろう。
正直なところ、時折『ご褒美』として振舞われる時の界王神の手料理を上回る罰は存在しない。
……あれは酷かった。まさかこのセルともあろうものが嘔吐して一時的にとはいえ第二形態に退化させられるとは。
それを思い出せば、多少罰が与えられるくらい何て事はない。
「じゃあな」
ピッ、と指先を立ててキザに別れの挨拶をし、セルはその場から消えた。
後に残されたのはカミオレンと、何が起こっているのか把握出来ていない哀れな船の乗組員と科学者だけだ。
「ち……ちくしょおおおおおおーーーーーー!!」
カミオレンは爆発し、巻き添えにされた哀れな科学者諸共宇宙の塵となった。
★
「父さーーーん!」
トランクスは倒れているベジータの側まで飛び、彼を抱き起そうとした。
しかし当のベジータ本人に手を振り払われ、厳しい視線を向けられてしまう。
「馬鹿野郎……俺なんかを……気にしている場合か! 手助けはいらん……さっさとあの野郎を仕留めてきやがれ!」
ベジータに言われ、シーラスの方を見る。
シーラスは憎悪の眼差しでこちらを見ており、今すぐにでも飛び掛かって来そうだ。
当然こちらの会話など待ってはくれないだろう。
トランクスは小さく頷き、ベジータを置いて剣を抜いた。
「父さん、少し待っていて下さい。すぐに終わらせてきます!」
トランクスが地を蹴って走り、シーラスも棍を構えて前に出る。
金属音を響かせて二つの武器が衝突し、火花を散らした。
剣と棍が何度か衝突し互角の戦いが続く。その中でトランクスは右手を柄から離して掌をシーラスに向けた。
武器に集中している時こそ、他がおざなりになる。
シーラスを気功波が押し込んで爆発。爆煙が晴れる前にトランクスが距離を詰めて剣を上段に振りかぶった。
咄嗟にシーラスが防御しようと棍を頭上で水平に構えるも、何とトランクスは剣を手放して屈み、シーラスに水面蹴りを見舞う。
足元を崩されたシーラスが倒れ、トランクスは剣をキャッチして下段から切り上げた。
シーラスは何とか転がる事で避けてすぐに立ち上がり、気弾を連射する。
「はっ!」
トランクスが鋭い剣閃で気弾を切り払い、接近しつつ横薙ぎ。
後ろに下がったシーラスの腹の薄皮一枚を切るも、振り切った直後の隙を突いてシーラスがトランクスの脳天に棍を振り下ろした。
直撃――する瞬間にトランクスが廻る事で威力を逃がし、逆に遠心力を乗せた踵落としがシーラスの脳天に命中した。
するとシーラスの身体からトッポが分離され、地面に倒れた。
「!! 貴様もベジータと同じ技を!?」
「そうだ! これで皆は返してもらったぞ!」
シーラスが吸収した中で最強の、そして最後の戦士を分離され、更に力が落ちた。
この上アムズとまで分離させられては勝ち目がなくなってしまう。
そう考えたシーラスは逃げるように距離を空け、両手を挙げてありったけの力を込めた。
シーラスの頭上に巨大な気弾が生成され、黒いスパークが迸る。
「これ以上お前達などに手間取っているわけにはいかん! 私は私の正義の為に、世界を救わねばならんのだ! もう二度と、あの子供のような哀れな犠牲者を出さない為にも!」
シーラスが最後の勝負に出た。
彼の正義は歪み切っているが、それでも生半可な想いではない。
その執念の全てを込めた気弾はシーラスの力の限界を超え、凄まじい力を迸らせている。
「小さな悲鳴を秩序の為と見殺しにするお前らのような悪に……私が負けるわけがない!」
トランクスはシーラスの言葉にあえて反論しなかった。
時の秩序の為……世界の為。そうした理由で不幸な歴史を不幸なままにしているのは紛れもない事実だ。
トランクス自身も絶望の未来を生きてきて、もっといい歴史にしたいと思った事は何度もある。
過去を悔やんだ回数など数えきれない。
あの時に戻れたならば……あの時に悟飯さんや姉さんと一緒に戦う事が出来たならば。
今の俺があの時に戻れたならば、絶対に死なせたりしなかったのに……!
何度もそう思った。魂のないリゼットの身体を前に何度も涙を流したあの悲しみは今も覚えている。
それでも人々は『今』を生きているのだ。
悲しみも絶望もあったが、その全てが今の自分を作っている。
そうした悲しい歴史を消し去って無かった事にして、幸せな歴史だけにしても、それは救った『気になる』だけであって、何も救えていない。
「悪と呼ぶなら呼ぶがいい。だが……辛くても今を懸命に生きる人達を否定して、無かった事にするなど、俺が許さない!」
トランクスは剣を鞘に戻し、両手の付け根を合わせる。
相手に背を見せる程身体を引き、手は顔の横へ。
彼を中心としてスパーク状の気が発生し、その構えにベジータは一瞬目を見開くと、どこか嬉しそうに口の端を歪めた。
「消えてなくなれええええ!」
シーラスが黒い巨大気弾を投げた。
迫る気弾を前にトランクスは益々気を高め、そして解放する。
「ギャリック砲ーーーッ!!」
トランクスがこの最後の対決の決め技として選んだのは、父の技であるギャリック砲だった。
別に何かこの技を選出した理由があるわけではない。
トランクスには彼独自の技であるバーニングアタックやフィニッシュバスター、サイクロンブラストがある。悟飯譲りの魔閃光もある。
だがここでトランクスが無意識のうちに選んだのは父ベジータのギャリック砲であった。
トランクスのギャリック砲とシーラスの気弾がぶつかり合い、徐々にトランクスが押し込まれていく。
「ぐっ……ぐぐぐ……!」
何とか押し返そうとトランクスも力を籠め、強く地面を踏みしめる。
だが少しずつ押し込まれ、敗北は時間の問題かと思われた。
その時、トランクスの横に満身創痍のベジータが並び、気を高める。
トランクスとベジータの眼が合い、ベジータが彼にしては珍しく、僅かに優しい笑みを浮かべた。
「手の形が違うぞ、トランクス。貴様のそれはカカロット達が使うかめはめ波の形だ」
「え?」
「いいか、手の形はこう……右手の甲に左の掌を合わせる。これが正しい形だ。
そして半身を捻り、誇りを……絶対に負けるものかという想いを込めて撃つんだ――ギャリック砲ーーー!!」
ベジータがギャリック砲でトランクスを援護した。
もう彼には超サイヤ人ブルーどころか、普通の超サイヤ人になるだけの力もない。
単純な威力で言えば、この援護はほぼ無いも同然だ。
しかしトランクスは、心の奥底から力が湧き出て来るのを感じた。万の援軍を得た気持ちだった。
「トランクス! 踏ん張りやがれえ!」
「はいっ!」
ギャリック砲が勢いを増し、巨大気弾を押し返す。
シーラスが驚いて気弾に更に力を籠めると、またトランクス側に押し込まれ、押して押されての均衡状態となった。
こうなってしまえば、あとは意地の勝負だ。先に少しでも力を緩めた方が負ける。
「私は負けん! 負けるわけにはいかん! 悪のいない世界を作るまで……世界を救うその時まで!」
しかし意地ならばシーラスに軍配が上がる。
かつて時の界王神によって時の狭間に封印され、永い時間を経て尚正義への想いを捨てきれないどころか強めてきた男だ。
想いにかけてきた時間が違う。
「ト、トランクス……もっと力を……振り絞りやがれえ……っ」
「も、もう……やってます……!」
少しずつ押し込まれ、再び窮地に追いつめられる。
だが援軍は意外な場所からやってきた。
ハーツと悟空が戦っている方向から、小さな戦士が飛んで来たのだ。
それは、この時代のトランクスであった。
父と、そして未来の自分の奮闘を見て我慢できなくなった彼はブウに頼んで外に出して貰い、ここに馳せ参じたのだ。
「パパ、未来の俺! 俺も手伝うよ!」
少年はトランクスとベジータの間に立つと超サイヤ人となり、そして見様見真似でギャリック砲を発射した。
ベジータとトランクスはそんな、小さくとも頼もしい援軍を見て穏やかな笑みを浮かべ、負けていられないと力を籠める。
ベジータも限界を超えて超サイヤ人となり、そして最後の……三人にとって一番の援軍が、全力で声を張り上げた。
「ベジーター! トランクスー! やっちゃえーーー!!!」
それはブルマの――愛する妻の、母の声援だ。
同時にベジータと二人のトランクスが目を見開き、これまで以上の力を発揮した。
「「「はあああああああーーーーッ!!!」」」
三つの気功波が完全にシーラスの気弾を押し返し、そして驚愕に顔を歪めるシーラスを飲み込んだ。
ベジータ「俺達のパワーが勝ったー!」
ブロリー「…………」
ベジータ「はっ!?」
\オメデットォォォ-!/ \ああぉふ!?/ \宇宙の中で一番環境が整った美しい岩盤でございます/
【親子三大ギャリック砲】
悟空、悟飯、悟天の親子三大かめはめ波があるなら、三大ギャリック砲があってもいいんじゃないかなと思ってこんな展開になりました。
地球での戦闘開始直後からずっとブルマを近くに配置してたのはこの為と言っても過言ではない。
【カミオレン風船モード】
どこかで見たような自爆技。ヒーローズ本編でカミオレンがこんな技を使う描写は無い。
しかしカミンとオレンの技が敵の近くまで飛んで全身から爆発を起こすという技なので、使っても違和感なさそうだと思ってやらせてみた。
尚、今話のセルの後頭部には特大のブーメランが突き刺さっているが本人は気付いていない。
【少年トランクスはギャリック砲使えるの?】
不明。原作やアニメでそんな描写はない(はず)。
ただ、現代ベジータは息子大好きだし、技を一通り見せてあげて「パパすごーい!」とか言われてご満悦になっていても何の違和感もない。
未来トランクスは一緒に精神と時の部屋に入った時にでも見たのではないだろうか。
【Good!/Fantastic!/DRAMATIC FINISH!!】
グッドとファンタスティックはドラゴンボールファイターズで一定回数コンボを稼ぐと出てくるメッセージ。
ドラマチックフィニッシュは本来は特定条件下で試合を終わらせる事で出るメッセージ。
ちなみに21号はこの後ちゃんと一人に戻ります。