遊戯王の世界で遊戯王プレイヤーたちが遊びだしたようです。   作:だんご

6 / 8
シンクロフェスの折り返しに来たので投稿です。

なんか今回は長くなってしまったので途中で区切ろうとかとも思ったのですが、最後までいっかと分割は止めました。

シンクロフェスは壊獣カグヤで潜ってます。
いや、シンクロってバロネスパックしかむけてないんです……汎用シンクロみんな超高い。


※調整中です

 『生で遊戯王のキャラクターとデュエルできる』

 

 その吉報に、チーム俺たちは喜んだ。

 

 ここにいる面々は全員がデュエル馬鹿であり、遊戯王馬鹿である。

 その想いには大なり小なりあるものの、原作のキャラとデュエルができると聞いて、テンションが上がらない者はいなかった。

 

 そして生まれてくる大きな問題。

 チーム俺たちが、遊戯王が好きなこと、言ってしまえばオタクであったことだった。

 

 そうでなければ、チーム俺たちなんて胡散臭いものに縁があるわけがなかった。

 超高性能のガワに入って遊戯王世界に参入し、ノリノリでデュエルなんてすることもないわけで。

 

「わたくしが、わたくしが戦いますわ!」

 

「こんな千載一遇の機会、逃すわけにはいかないの」

 

「一人のファンとして、デュエルしてみたいよね☆」

 

「ここで心が燃えなければ、いつ燃やすというのでありましょう!挙手であります!」

 

「こんな満足できる機会はなかなかねぇぜ!ハーモニカ吹きながら入場してやる!」

 

「モリンフェン最強!」

 

 当然、ほとんどのチーム俺たちが参加の意を示した。

 一部、手を上げない者もいたが、社会で生きていたらのっぴきならない理由があるわけで。

 

「難儀なものよのぉ。まるで原作キャラという、炎の光に惹きつけられた蝶のようじゃ」

 

「あれ?黒髪ロングは正義さんは、そこまで乗り気じゃない感じ?」

 

「……それがのぉ、ペンギン大好きお姉さんや。本当であれば参加したいのじゃが、妾は当日バイトがあって難しそうなのじゃよ。世知辛いのじゃ」

 

「……どこぞの名家のお嬢様みたいなガワと口調なのに、バイトって言葉が出てくるのが、なんというのか、私たちらしいわね」

 

「バイト仲間が腰を痛めてしまってのぉ。臨時の日とたまたま被って……ッ!ああ、理由が理由なので責められんし、こぶしの振り下ろす先が見つからぬのぉ」

 

「めっちゃくちゃ後悔してて草。どんまいだ、次の機会も来るって。ちなみにバイト先どこよ?」

 

「わくわくアーゼウスか、寿司屋じゃよ」

 

「アーゼウスが軍艦を握りながら、全部吹き飛ばしてくれると有名な……寿司屋!?」

 

「目をキラキラさせるでないわ。それは店主と客がお互いにゴキブリを投げつけ合うという、衛生観念が喪失した遊戯王の寿司屋じゃろうて。普通の回転ずしじゃ」

 

 参加したいと切望し、感情が暴走する者。

 諸事情によって参加を断念せざるを得ず、他の俺たちをうらやましく思う者。

 

 ここにいるチーム俺たちの全員が、インセクター羽蛾とダイナソー竜崎とのデュエルを心待ちにしていた。

 テンションが上がり過ぎて、もう一種のお祭り状態になっている。

 

 だが、蚊帳の外でこの惨状を見守っている人物もいた。

 

 説明係を任命、もとい押し付けられていたBIG5大田。

 デュエルにノリノリなチーム俺たちを見て、とても複雑そうな表情である。

 

「……誇り高き対魔忍殿。あれだけ有名どころのデュエリストと戦うことを避けようとしていたのに、どうして今回はここまで喜び勇んでいるのかね?」

 

「それは、ねぇ。みんな基本的には、彼らと関わりたくて、話したくてしょうがない人たちばかりだもの」

 

 正統性を保証されたことによって、もう彼らの想いをせき止めるものは何もなかった。

 

 推しのアイドルを見守る立場にあっても、向こうから握手のために手を差し出してくれたのならば、その心意気を無視することは逆に無作法というもの。

 

 チーム俺たちも同じである。

 

 なんだかんだいいつつ、実際は遊戯王世界の住人と会ってみたいと思っていた。

 

 話してみたいと思っていた。 

 

 握手したいと思っていた。

 

 しかし、「推しと握手は実際恥ずかしいし、無粋なのかな」と諦めていた。

 

 そんな時、BIG5はチーム俺たちに言い訳がきくような、都合の良い感じでデュエルをセッティングしてしまったのである。

 そりゃテンションが上がらないわけがなかった。

 

「いやぁ、BIG5さんたら、しょうがないなぁ」と表面上は取り繕いつつ、チーム俺たちは大歓喜。

 

 隠しきれていない満面の笑顔。

 

 心は発狂してSAN値は大幅減少。

 

 不定の狂気を発症してしまい、もうレッツパーリーピーポー大騒ぎである。

 

「言ってはなんだが、このデュエルはそう軽いものではないぞ?我々の進退を決める、大事な一戦となるものだ。相手も落ち目とはいえ、実力のあるデュエリストであることは間違いないのだから」

 

「安心して頂戴、ここにいるのはデュエル馬鹿だけよ。憧れのデュエリストに手を抜くことはむしろ失礼。全力でぶつかることこそ、私たちのリスペクトなのだから」

 

 むしろ、原作のキャラ相手に手を抜くとか、死亡フラグでしかないとチーム俺たちは必死になる。

 

 どんなに原作ではダメなように書かれていたキャラであっても、唐突に突っ込まれるぶっ壊れ原作カードたちは脅威そのもの。

 

 それをライフポイント8000ではなく、たった半分の4000で受けきらないといけないわけだから、油断なんぞするわけもできるわけもなかった。

 

 各々の愛用デッキを仕上げに仕上げ、全力で襲いかかるべし。

 可能であれば封殺するべし、とチーム俺たちは考えていた。

 

「……そんなに歯ごたえがある相手と戦いたければ、お前たち憧れの海馬や、遊戯相手にデュエルの舞台を用意することもできるが?」

 

「それはそれ、これはこれよ。あれは無理、マジで無理」

 

 さりげなく自身の願望も交えて提案したが、対魔忍は断固拒否の構え。

 

 デュエリストであれば誰もが憧れる存在となった二人(BIG5からすれば恨めしい二人)。

 この二人とデュエルができる機会があれば、それを逃すようなデュエリストはいないだろう。

 

 だが、チーム俺たちはこれをきっぱりと断る。

 

「私たちはわかるわ。突然『カンコーン☆』とか『バン☆』とか擬音が聞こえてきて、逆転カードが初公開。そして処刑用BGMがスタートするのよ」

 

「……何を言っているのかわからないのだが」

 

「これでテーマソングが歌入りで流れだした日には、このガワが無事であるかどうかも怪しいわね」

 

 顔を青くして、ぶるりと体を震わせた対魔忍。

 大田はなんとも言えない視線を向け、胸の感情を一息で吐き出した。

 

「……まぁ、今はインセクター羽蛾とダイナソー竜崎とのデュエルが大切だ。しかし、こうも混乱しきっていては、誰がデュエルするかの話もまとめられないだろう。どうするべきか」

 

 収拾がつかなくなってしまった現状に、大田は頭が痛くなってきた。

 

 見た目は美男美女であっても、若返った大田と同じように、その中身は全く別物と大田は察している。

 むしろ、より問題のある何かだと受け止めていた。

 

 大田はかつて海馬コーポレーションのかなめとなる、軍事工場の責任者であった。

 

 生産や運営のシステム、そして人を見極め配置して働かせることに関しては、他のBIG5よりも秀でていると自信がある。

 

 そんな大田からすれば、チーム俺たちは異質そのもの。

 

 一見ただのデュエル馬鹿かと思えば、彼らの手がけた様な先見性のあるサービスを思いつく。したたかな行動や、考えを提案してくる。

 

 ずっとそんな感じでいてくれたらいいのだが、いったん珍妙なことを始めると、もう彼らは興奮し始めて始末に負えない。

 

「……デュエルに関しては安心して任せられるのだがなぁ。対魔忍殿はこの混乱を収めるような、良い考えはあるかね?」

 

「任せて頂戴。こんな時のために、とっておきのアイデアを用意してあるわ」

 

 声をかけて、チーム俺たちの注目を集めた対魔忍。

 たくさんの視線を集めて興奮し、顔を赤らめた対魔忍がごほんと咳をひとつ。

 

「誰もが参加したいのなら、あとはこの世界の天に全てを任せるしかない。デュエリストであるからには、運も実力のうちというもの。というわけでメスガキわからせたいさん、例のあれを!」

 

 ビシッと敬礼した青髪ポニーテールの小さな女の子が、部屋の外に消えていく。

 

 それを見て全員が怪訝そうに成り行きを見守っていたが、メスガキわからせたいと一緒に入ってきた代物に目を輝かせる。

 

「ま、まさかあれは!」

 

「バトルシティ編で使われた、伝説の抽選マシーン!」

 

 沸き立つチーム俺たち。

 その反応が欲しかったと微笑む誇り高き対魔忍。

 

「そう、この『ビンゴマシーンGOGO!(自主制作)』で決めましょう!」

 

「「「「「おおおおおおおおお!」」」」」

 

 原作でも使われたマシーンの登場に、チーム俺たちは大歓喜。

 

 一方、大田は「なんだこのセンスもなくダサいマシーンは」と肩を落とした。

 

 ダサい、なんというか、ダサい。

 しかも、あの憎き海馬のフェイバリットモンスターの形をかたどっているのだから、気にいるわけもなかった。

 

 だが、目の前のチーム俺たちはご満悦の様子。

 せっかく収拾がつきそうなのに、ここで水を差すほど大田は空気が読めない男ではなかった。

 

「……体は若くなったのに、疲れが取れないな」

 

 ビンゴマシーンを見て大盛り上がりするチーム俺たち。

 それを残念なものを見るような目で大田は眺め、ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるネットニュースより。

 

≪チーム俺たち、大型デュエル大会の特別ゲストに≫

 

 ◎月◎日に行われるデュエルモンスターズの大型大会イベント×××××において、にやにや動画に所属する裏デュエリスト、チーム俺たちの特別デュエルが行われることが今月△日、分かった。

 にやにや動画は近年誕生した新型の動画投稿サイトであり、登場後すぐに全世界で話題となり会員が急増している。その中でも注目すべき大きなコンテンツは、「チーム俺たちの裏デュエル」というデュエルの生放送だろう。

 スター性のある他では見られないデュエリストたちが、レアカードと高いデュエルタクティクスで行うデュエルは人々を魅了し続けている。直近の生放送では、全世界で50万人が同時視聴という、ネット同時視聴者数としては世界初の偉業を達成したことも驚きだ。

 そんな世界各国の幅広い年代から人気を獲得した「チーム俺たちの裏デュエル」であったが、これまでメディアへの露出や公の場でのデュエルが見られることはなかった。

 それが今回、大型デュエル大会である第〇回×××××にてゲストとして参加、さらには特別デュエルまで見せてくれるという。

 

「チーム俺たちのデュエルは、プロの間でも大きな話題になっていました」

 

 世界のデュエリストに詳しい、デュエルモンスターズ研究家、篠崎渡氏は詳しい実情を語ってくれた。

 

「デュエルの実力や希少なカードを扱うエンターテイメント性から、多くのプロデュエリストや企業から強い関心を集めていました。デュエルの希望や、メディアへの出演も提案されましたが、すべて断っていたそうです」

 

 私たちが知っている有名なテレビ局からのオファーや、プロデュエリストの団体からの提案もすべて断っていたとのこと。先日の報道では、米デュエリスト団体からの巨額の契約金による移籍オファーも断ったことが分かっている。

 それが今回、どうして大会にゲストとして参加することになったのだろうか。

 

「今回の大会の後ろについていたスポンサーが、特別なアプローチを使って話を通したそうです。にやにや動画の運営会社より、SNSと呼ばれる新サービスの開発が先月発表されました。インターネットサービスのバックアップを背景に、粘り強く交渉を重ねた結果、チーム俺たちの特別参加に繋がったと聞きます」

 

 会社のサービスの拡大によって、人気のあるデュエリストが広報としてメディアに登場することは珍しくない。

 

「チーム俺たちのデュエリストは見目麗しく、デュエル以外でも高い人気があります。彼らのスター性は、企業にとって咽喉から手が出るほどに欲しい人材なのです。今回の大会に関わる者たちからすれば、これを契機にデュエリスト個々人たちとも繋がりを持っていきたいと考えているでしょう」

 

 既に第〇回×××××のチケットは売り切れになり、直接自分の目でデュエルを見たいファンたちからは、早くも次の大会におけるチーム俺たちのゲスト参加を強く望む声が上がっている。

 果たして、今回の大会でチーム俺たちはどのようなデュエルを見せてくれるのだろうか。当日のデュエル大会が楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある学校。

 その昼休みに、学生たちが集まって会話を楽しんでいた。

 

「ねぇ、聞いた!?チーム俺たちの人たちが、デュエル大会で特別デュエルのゲストに呼ばれたんだって!」

 

「え、チーム俺たちって、にやにや動画の?」

 

「そう、すごくない!?」

 

 驚く友人たちを前に、少女が顔をほころばせて興奮する。

 

「しかも相手はあのインセクター羽蛾とダイナソー竜崎だって!」

 

「すごいじゃん、あの遊戯さんたちとも戦ったデュエリストでしょ!?」

 

「うわ、やばい。チケット買わないと!」

 

 焦る友人たちの前で、首を横に振る。

 

「残念、もうどこも売り切れだって。発表があってから、ものの五分もしない間に売り切れになっちゃったんだって」

 

「えー。じゃあダフ屋から買わないとだめかぁ。お金かかりそうだなぁ」

 

「いや、それもダメ。あまりにも欲しい人が多すぎて、めちゃくちゃ高いよ。具体的には……これぐらい」

 

「……げ、私たちのおこづかいだと、前借しても無理じゃん。どれだけバイトしたって買えないでしょ、これ」

 

「生のチーム俺たちに会えるってなったから、そりゃあねぇ。この値段って昨日の話だし、もしかしたらもっと値段が上がっているか、売り切れているかもしれないよね」

 

「あああああ、生で俺たち見てみたかったなぁ。すごいカードも見てみたかったし」

 

「ところで、誰が出演するの?」

 

「コメンテーター枠で例のヤバイお嬢様、あとはまだ選手選定中っぽい。もしかしたら、私たちが知らない俺たちの人がくるかも」

 

「どうせなら、満足民さんみたいなイケメンがこないかなぁ。チーム俺たちって、女性の人めっちゃ多いからさ」

 

「むしろ、俺たちのお姉さま方のデュエルが私は見たい。生であの美しい、力強いデュエルが見られるんでしょ?もう私冷静でいられる自信がないよぉ」

 

「魔女っ娘ちゃんとか、エイリアン☆エイリアンちゃんとか来ないかなぁ。ちっちゃくて可愛いから生で会ってみたいかも」

 

 このようなチケットを買えない人々は、その場でデュエルが見られないことを残念に思った。

 

 しかし、そんな彼らにも朗報が伝わった。

 

 それから間もなくして、テレビでも放送することが決定したのだ。

 この機を逃してはならないと、偉い人によって特別に放送枠が設けられたのだ。

 

 本来テレビ放送の予定がなかった大会である、見ることが叶わなかった人々に大きな反響を呼んだ。

 当局のワイドショウではこのことが大きく報じられ、放送がない他局でもこの話題を逃さじと、チーム俺たちについて特番が組まれていく。

 

 その様子を外の世界から見ていたチーム俺たちは驚いた。

 

 本人たちはただただ、普通にデュエルだぜと公認大会に出るような心持ちであったからだ。

「ここまでの話になるものなのか」と予想外の展開に困惑し、BIG5たちは望外の話題性にほくそ笑んだのであった。

 

 

 

 

 

 そして、大会当日。

 

 

 

 

 

 本戦参加者によるデュエルは、つつがなく終わりを迎えた。

 

 大会入賞者の健闘が称えられる中、どこか観客たちは浮足立っていた。

 そして、大会が終わったというのに、入賞者たちの顔からは緊張感が抜けていない。

 

 この大会は素晴らしい大会だった。

 多くのデュエルが、観客たちの心を震わせた。

 

 しかし、今日ここに集まった人々が望むのは、もっと刺激が強いものである。

 神秘性に包まれた謎のデュエリスト集団。

 実在に疑問がなげかけられたカードとデュエル。

 

 そのすべてが、今、ここで明らかになる。

 

「えー、それではこれより、皆様お待ちかねのエキシビションマッチに入ります。今回のデュエルではいくつか禁止カードが指定されておりまして、直接的なダメージを与えるバーンカード、あるいは特定のバーンカードについては規制がかけられて───」

 

 少し緊張気味でルールを伝える女性司会者。

 観客が固唾をのんでまだかまだかとデュエルを待ち望んでいる中、会場の熱気を入場口で見ていたデュエリストがいた。

 エキシビションマッチの参加者である、インセクター羽蛾選手とダイナソー竜崎選手の二人であった。

 

「ぐぎぎ、ふざけやがって。まるでオレが添え物みたいな扱いを……」

 

 インセクター羽蛾は、憎々し気に会場を眺めていた。

 その横に並んだダイナソー竜崎も、不満げに頬をかいている。

 

「……しょうがないやろ。チーム俺たちといったら、世界で今一番話題になっとるデュエリストたちや。人気も知名度も、ワイらとはまるで違うからな」

 

「オレをお前と一緒にするんじゃない!くそ、バトルシティで城之内みたいな雑魚にまぐれで負けさえしなければ、こんな扱いにはならなかったのに……ッ!」

 

 元全国大会優勝者、元準優勝者も今では日の目を浴びていない。

 デュエルキングダム、バトルシティでの予選敗退によって、その実力が疑問視され、いわゆる過去の人に。

 あの人は今みたいな扱いをされるようになってしまった。

 

「チーム俺たちだなんてふざけた名前をしやがって!あのデュエルだって、どうせインチキに決まっているだろうが!」

 

「……まぁ、ふざけた名前やな。ワイらが踏み台扱いっちゅうのも気に食わん」

 

 二人はこの世界では普通に強いのだが……。

 まぁ、あれだ、これまでの対戦相手が悪いと言わざるを得ない。

 なんというか、相手に恵まれていなかった。

 

 そうして彼らの支援者から、最後の機会とばかりに与えられたチャンス。

 それがこの大会でのエキシビションマッチなのだ。

 

「それでは、まずはかつて全国大会で優勝、準優勝を飾ったお二方からの入場です!インセクター羽蛾選手、ダイナソー竜崎選手です!」

 

 会場から拍手・歓声と共に二人が入場。

 

 自分たちが先に入場するというのは、目玉はあちらということなのだろう。

 この借りはデュエルで返してやると、二人の闘争心は天を突き抜けんほどに燃え上がった。

 

「……えー、それでは」

 

 会場の熱気がピークに。

 

 女性司会者は会場から向けられる熱い視線を感じていた。

 期待感がこれ以上ないくらいに盛り上がっていることを確認し、緊張しながら文面を読み上げる。

 

「謎に包まれた裏デュエルのデュエリスト、その幻想に包まれた正体が、本日ここで明らかになりますッ!チーム俺たちよりこの三人が来てくれました!」

 

 選手の入場口の奥から、三つの人影が進み出る。

 

「デュエル解説としてき、金髪ドリル令嬢様?そして、ソリティアガール選手と……。わ、わくわくアーゼウス選手の入場です!」

 

 奇抜な名前であるが故に、かみかみになってしまったが、なんとかその名前を呼びあげた。

 

 入場曲が会場に鳴り響き、大歓声の人々の前で放たれた風船が天を舞う。

 巨大モニターに映るのは、三人のデュエリストのコードネーム。

 

 そして、会場のステージへ登壇していく三人のデュエリストたち。

 

「おーっほっほっほ!超・ハデハデですわ!最高ですわ!気分もアゲアゲですわ!」

 

「う、うっひゃー。すごい人の数……って、見てよ!本物のインセクター羽蛾さんとダイナソー竜崎さんがいる!うわ、マジだ、マジの二人だ!やば、あとで一緒に写真とってもらえるかな!?」

 

「アーゼウスは概念だ。だからこのデッキは、アーゼウスデッキなんだ。アーゼウスがなくても、アーゼウスなんだ。誰がなんと言おうと、アーゼウスなんだ」

 

 満足げなお嬢様を筆頭に、眼鏡をかけた真面目そうなポニテの女の子が、きゃーきゃーと嬉しい悲鳴を上げて入場。

 もう一人の謎の機械の仮面を被った少女は、ぶつぶつと呟きながらぎくしゃくと入場する。

 

 ……右手と右足が同時に出ているが、大丈夫なのだろうか。

 

「あ、ほ、本物だ!本物のお嬢様だぞ!」

 

「悪いお姉ちゃんだ!お母さん、悪いお姉ちゃんがいるよ!」

 

「うわ、き、綺麗……」

 

「他の二人は、プロフィールでは見たことがあるが、実際にデュエルは見たことがないデュエリストだ!」

 

「おいおい、楽しませてくれるじゃないの!」

 

「あの仮面の女の子、めっちゃ緊張してない?だいじょうぶ?」

 

 会場の盛り上がりはピークに達した。

 

「ちょ、今わたくしのこと悪いお姉ちゃんっていった子がいませんでして!?わたくしってマジでそんなイメージついてますの!?」

 

「プレイングだけでなく、サイコショッカーを筆頭に、使っているカードも実は悪役っぽかった件について。これには草を禁じ得ない。そして草は燃やそう、今日はアーゼウスいないけど」

 

「いっそ、ここで悪役令嬢の概念を流行らせたらいいんでないの?BIG5の人も流行は作っていけ金になるって言っていたしね」

 

「ガーンですわッ!?」

 

 いい加減に大会を進行しなくてはいけないので、「あのぉ」と緊張気味に三人へ話しかける女性司会者。

 

 事前の挨拶でも一度会ったのだが、三人共にいろいろ個性が強い。

 これで大丈夫なのかと思ったが、意外や意外。

 お嬢様が音頭をとって、司会者との会話や、マイクパフォーマンスを順調に進めていく。

 

 女性司会者、会場の人々からのお嬢様への警戒心は、ほぼなくなったといってもいい。

 ……そのデュエルスタイルへの恐怖はまったく少しも消えていなかったが。

 

「と、いうわけでとても皆様とお会いできる日を楽しみにしておりましたわ!今日はチームメイトの対戦ですが、解説は初めてですので頑張りますわ!」

 

「はい!よろしくお願いいたします!それでは、選手同士の握手から。どうぞ対戦相手と握手をお願いします。あ、カメラマンがおりますのでよろしければ視線もお願いいたします!」

 

 インセクター羽蛾はソリティアガールと、ダイナソー竜崎はわくわくアーゼウスと握手を握る。

 

「ずっとずっとファンでした。握手出来てうれしいです。あの、良かったらサインください」

 

「へ、ワイのサイン?ホンマか?」

 

「お願いします」

 

「お、おう」

 

 仮面越しのキラキラとした視線に戸惑う竜崎。

 

 なんか想像していたものと違うが、それでもここまで敬意を払ってもらって悪い気はしない。

 差し出された色紙に名前を書くと、小さな体で大事そうにそれを胸に抱える。

 

 そしておずおずと差し出された手を握れば、まぁ小さな子供特有のやわらかさと温かさなわけで。

 

「……そうか。まぁ、デュエルでは手加減できへんが、良いデュエルにしようや」

 

「はい、はい!ありがとうございます!こっちも全力で頑張ります!アーゼウスはないけど!」

 

「……アーゼウスって、なんや?」

 

 始終和やかに、二人の握手は終わった。

 

 一方、そうならなかった二人もいる。

 インセクター羽蛾と、ソリティアガールである。

 

「……おい、こういうのはやりたくなくっても、やるのが通例ってもんなんだよ」

 

「……」

 

「……おい、そろそろいいだろ。手を離せよ。いや、離せって!?」

 

 ソリティアガールは無表情になっていた。

 

 羽蛾をガン見し、握手もガッシリと握りこんで中々離さない。

 それを見て周囲もダイナソー竜崎もドン引きしていたが、同じ立場に立ったわくわくアーゼウスは分かった。

 

 こいつ、どちゃくちゃ興奮しきって一周して感情が無になっていると。

 

 共に中央から離れていく最中も、興奮しすぎたのか。

 ソリティアガールの鼻からは、鼻血が流れ始めていた。

 

「……やばい、もう、やばい。インセクター羽蛾さん小さい、なんか小物っぽい。もう無理、感動で泣きそう」

 

「……涙よりも鼻血が先に出てるのやばい件。ほら、すぐ始まるから、鼻にとりあえずティッシュ詰めてどうぞ」

 

「なんか目の前にしたら頭が働かなくて、ファーストコンタクト最悪……。私も色紙を用意していたのに……」

 

「後でちゃんと謝ろうね」

 

「うん」

 

 困惑気味の女性司会者は、ちらちらとお嬢様を見て様子をうかがっている。

 

「えーと、準備はよろしいでしょうか?えー、大丈夫なのでしょうか?」

 

「まぁ、わたくしたちって基本裏というか、人がいないところで戦っておりましたので。こんな大舞台に、緊張しっぱなしになっているのだと思いますわ。普通にごめんなさいですわ」

 

「そ、そうでしたか……。あ、ソリティアガール選手が頭をインセクター羽蛾選手に下げましたが、苦い顔されて泣きそうな顔に」

 

「ソリティアガールさんもわくわくアーゼウスさんと同じように、インセクター羽蛾選手からサインをもらおうとしていたようですから……。まぁ、気持ちを切り変えて頑張れって感じですわね」

 

「そうですね。あ、デュエルの準備が整ったようです。撮影の皆様は、デュエル中は撮影をお控え頂きますよう、よろしくお願いいたします。それでは、間もなく開始ですッ!」

 

 特注のデュエルディスクを装着するソリティアガール。

 その顔は先ほどと打って変わって、落ち着いたものになっている。

 

 そして壇上に上がるとインセクター羽蛾と相対し、向き合った。

 

「それでは、元全国大会優勝者インセクター羽蛾選手、チーム俺たち代表ソリティアガール選手との、特別エキシビションマッチをこれから開始します!お二方ともに準備はよろしいでしょうか?はい、それでは───」

 

 インセクター羽蛾とソリティアガール選手の視線が交差。

 会場が静かになり、息をのむ音だけが聞こえる。

 

 張り詰めた弓から矢が放たれるように、緊張が最高潮に達した時。

 

 デュエリストの戦いは始まる。

 

 

 

「「───デュエルッ!!」」

 

 

 

「先攻はソリティアガール選手のようです。インセクター羽蛾選手はお得意の昆虫族デッキだと思うのですが。お嬢様に伺います、ソリティアガール選手はどのようなデッキを使われるのでしょうか?」

 

「彼女は使っているデッキに特にこだわりがありませんので、わたくしも知りませんわ!」

 

「おっと、なんと珍しくフェイバリットデッキがないタイプのデュエリストであるようです!これは楽しみですね!」

 

「ただ……」

 

「はい?なんでしょうか?」

 

「いえ、チーム俺たちの中でも、トンでもデュエルをやらかす三人と言われるデュエリストがおりまして。一人目がわたくしこと金髪ドリル令嬢、二人目がリアリストだ!さん、そして三人目が───」

 

「は、はぁ」

 

「そう、あそこにいるソリティアガールさんですわ」

 

「……私、なんだかとても嫌な予感がしてきたのですが」

 

「わかりますわ、とても楽しみですわね!」

 

 一方、ソリティアガールはドローした後に、自分の手札をじっと見つめていた。

 何を考えているのか表情からは読み取れないが、手札を見つめるばかりのソリティアガールの様子に会場がざわざわと騒がしくなる。

 

 それを見て喜んだのは羽蛾であった。

 

 これはきっと何もできないような酷い手札になったのだろうと、嘲りの表情を浮かべて笑っている。

 

「ヒョヒョヒョ、どうやら良くない手札になっちまったみたいだなぁ。ええ、どうするんだいお嬢さん?」

 

 ソリティアガールはびくりと肩を跳ね上げた。

 羽蛾が悪い笑みを浮かべる中、ソリティアガールは静かに手札の一枚を引き抜く。

 

「……私は手札から、【バンデット─盗賊─】を発動」

 

「ヒョ?」

 

「相手の手札を見て、一枚奪うことができる」

 

「っち、小癪な真似を。何もできないなら、こっちの妨害ってことか」

 

 相手のカードに頼るなんて、自分の手札やデッキが頼りないと相手に教えているようなもの。

 この大舞台で手札の大事故をやらかしたのかと、会場の誰もががっかりと気持ちを落とした。

 

 ただ唯一、金髪ドリル令嬢とわくわくアーゼウスだけが顔を強張らせている。

 

「まさか、【バンデット─盗賊─】……ッ!?」

 

「有名でありました元全米チャンピオン、バンデット・キース選手も用いたレアカードです!しかし、いきなり発動するなんて、だいぶ手札がよろしくないのでしょうか?」

 

「いえ、違いますわ。あれは、あれはそんなものじゃありません。相手を殺す一手ですわッ!」

 

「へ、あ、あの、どういうことでしょう?」

 

 金髪ドリル令嬢、わくわくアーゼウスの二人は、遊戯王の初期からのプレイヤーである。

 そのため、最初期の暗黒カードたちの脅威をいやというほどに知っていた。

 

 だからこそ、この相手の手札に干渉する行為がどれほどに問題があるのか、心が悲鳴を上げるほどに理解している。

 

 同じく、この現代遊戯王をよく理解していた、他のチーム俺たちも戦慄していた。

 

 現代遊戯王は空中戦である。

 相手先攻ターンといえど、手札から妨害する手段はいくらでもあるのだ。

 その手札に相手が干渉すると……だいたいろくでもないことになる。

 

「おい、早く選べよ。それとも、オレの手札を見てビビっているのかい?ヒョヒョヒョヒョヒョ!」

 

「……じゃあ、この【DNA改造手術】、もらいます」

 

「チッ!あながち素人というわけでは、いや、まぐれか?いいよ、持っていけ」

 

 【DNA改造手術】を手札に加えると、元の位置に戻っていくソリティアガール。

 

 ソリティアガールは知った。

 相手のカードをピーピングする中で、インセクター羽蛾の手札には手札誘発がないことを確認したからだ。

 

 【灰流うらら】もない。

 【ドロール&ロックバード】もない。

 【増殖するG】もない。

 【PSYフレームギア・γ】もない。

 【ディメンション・アトラクター】もない。

 【アーティファクト─ロンギヌス】もない。

 その他、多くの問題児たちのカードは存在しなかった。

 

 羽蛾は相手ターンに何かできる手段は何もない。何もないのだ。

 

 それが何を意味するのかというと、相手はソリティアガールのカードに干渉する術はなく、ソリティアガールは思いのままにカードを動かすことができるということである。

 

 つまり、思う存分、カードを、この大衆の中で、憧れの原作キャラを相手に回せるということ。

 

 彼女にとってデュエルは愛。

 すなわち、ソリティアもまた愛。

 

 ソリティアガールの顔には───狂気とも言える笑顔が張り付いていた。

 

「やりやがりましたわね、あの子。確かに、それは盲点でしたわ」

 

「えっと、どういうことでしょうか?」

 

「デュエルモンスターズにはクリボーを筆頭に、相手ターンであっても妨害するカードがありますわ。手札から発動できるカードがどれだけ活躍できるのか、決闘王である武藤遊戯さんが証明してくれていますわよね?」

 

「は、はぁ。そうですね」

 

「あの【バンデット─盗賊─】によって、ソリティアガールはそれらのカードがないのか確認しましたわ。そして場合によってはそのカードを奪い盗る、自分が使用する。あのカードによって手札を確認したことが、あの子にとって何を意味するのかというと……」

 

「はい!」

 

「このデュエル、ひょっとするとこのターンで終了のお知らせですわ」

 

「はい!……って、ええええええ!?」

 

「あの子ならやりかねませんわ」

 

「いや、でも、この大会ではバーンカードは禁止されています!お嬢様が使われた【棺桶売り】も禁止されていますし、どうやって1ターン目で勝つっていうのですか!?」

 

「今回の大会でバーンカードの規制が強かったのって、もしかしてわたくしのデュエルが原因でしたの!?」

 

 お嬢様の推察、そして女性司会者の驚愕の叫び。

 

 会場の観客にもその会話が届くと、ざわざわと会場全体に困惑が広がり、騒がしくなっていく。

 

「1ターン目で1ターンキル?まさか、いや、それは無理だろう。あのお嬢様だってそれは出来なかったんだ」

 

「ば、バカげている」

 

「いや、でも、チーム俺たちだぞ?」

 

「そうだ、ひょっとすると……」

 

 その騒ぎが、インセクター羽蛾の逆鱗に触れた。

 

「ふざけるなよ。1ターンで終わらせる?1ターンで勝つ?そんなのエクゾディアを初手で揃えるぐらいな無茶な話だ」

 

 羽蛾の言葉は正しかった。

 しかもただの1ターンではなく、正真正銘の1ターン目。

 バトルフェイズが行えないために、相手への直接攻撃はできない。

 

 羽蛾の言葉は正しかったが、その言葉を聞いてソリティアガールは口元を押さえ、震えだす。

 最初は訝しんでいた羽蛾であったが、ソリティアガールが笑っているのだと気がつくと表情は一変。

 

「……何が、何がおかしいんだっ!?」

 

「大舞台で、インセクター羽蛾さんっていう素晴らしい遊戯王の人物がいて、この放送が他のデュエリストにも届いているかもしれなくて、こんなの、こんなの……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソリティアするしかないじゃないッ!!!!」

 

 ソリティアガールは、弾けた。

 

 端正で美しかった顔は狂気に歪んでおり、眼鏡の奥の赤い瞳は爛々と輝いていた。

 その様相は、ともすれば地獄の悪鬼のようであった。

 

 これを見て女性司会者は小さな悲鳴を上げ、金髪ドリル令嬢は「あーあ」と呟いた。

 テレビ画面を通して会場のデュエルを見ていたチーム俺たちの面々は、両手を合わせて合掌のポーズ。

 会場の観客は清楚で真面目そうな女の子であったソリティアガールの悪魔的変貌に、阿鼻叫喚の大騒ぎ状態へ。

 

 そう、ソリティアガールの設定は───

 

 

「ヒャッハッハー!デュエル続行よッ!」

 

 

 ───遊戯王アニメ伝統芸、顔芸枠だったのだ。

 

 

「な、なんだ、なんだお前はッ!」

 

「あんなに遊戯さんたちにやったみたいに馬鹿にしてもらえて、生で『ヒョッヒョッヒョ』も聞けて、これでいい加減なデュエルなんてしたら最低よねッ!」

 

「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」

 

「私は手札から魔法カード【強欲な壺】を発動、二枚ドロー!」

 

 ソリティアガールの変貌ぶりに戦慄し、悲鳴を上げる羽蛾。

 

 そんな羽蛾を目にして、ソリティアガールは歪んだ感情を乗せた笑みのまま、ぺろりと舌なめずり。

 そしてドローしたカードを確認し、顔を蕩けさせた。

 

「引けたぁッ!魔法カード【苦渋の選択】を発動ッ!」

 

「【苦渋の選択】……だと!?」

 

 自分デッキから5枚を選択し、1枚を選んで手札に加え、残りは墓地に送られるカード。

 しかし、そのカード選択は相手に委ねられており、お世辞にも良いカードとは言えない評価をされている。

 

 なお、チーム俺たちは愛用者が多い模様。

 金髪ドリル令嬢のテンションは爆上がりだ。

 

「出ましたわ!相手に苦渋をなめさせる【苦渋の選択】!」

 

「え、あの、あのカードって相手に好きなカードを選ばせて、他は全部墓地にいってしまう。そんなめちゃくちゃなカードだった気がするのですが」

 

「それが激強なのですわ!デュエルモンスターズは墓地で効果を発揮するカードがたくさんありますの!それに墓地にコストや素材を求めるカードも多いですわ!そんなカードたちを4枚もデッキから選んで墓地に送れるなんて、【苦渋の選択】は最高のカードですわ!」

 

「そ、そうなんですか!解説ありがとうございます!」

 

 女性司会者はこれまで聞いたことのないカードの見解に、なるほどと大きくうなずく。

 そして、ソリティアガールが選択した5枚のカードは。

 

「私は【絶望の宝札】を3枚、そして【魔法再生】を2枚選択!さぁ、選んでください!」

 

「に、2種類だからどちらかしかないだろうが!?」

 

「違います!この【魔法再生】は、ノーコストで墓地から魔法カード1枚を回収できる魔法カード。つまり事実上の選択肢は、【絶望の宝札】しかありません!」

 

「な、なんだと!?」

 

 金髪ドリル令嬢やわくわくアーゼウスにとっては、いやというほどに昔見た光景である。

 

 しかし、この世界においては全くそんなことはなく。

 ソリティアガールのデュエルタクティクスに、会場全体が震えあがっている。

 

「ぐ、ぐ、くそっ!ならとっとと、その【絶望の宝札】を手札に加えやがれ!」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!そしてお楽しみはこれからだ!魔法カード発動!」

 

 

 

 

「【絶望の宝札】」

 

 

 

 

 「バン☆」という不思議な音が聞こえた気がした。

 

 会場の観客、テレビの視聴者、そして世界のデュエリストたちは「【絶望の宝札】!?」と一様に驚いた。

 

 あらゆる人々が知らない「宝札」系のカード。

 チーム俺たちですら知らない者がいるが、知っている者にとってはとんでもないインチキカードだ。

 

「効果はデッキから3枚のカードを手札に加え、その後に───デッキのカードを全て墓地に送る!」

 

「「「「「な、なんだって!?」」」」」

 

 羽蛾だけではなく、会場にいる他のデュエリストも、女性司会者も、会場の観客も、テレビを見ている世界の視聴者も言葉を失った。

 いわゆる遊戯王キャラの驚き顔というやつである。

 

 「デッキのカードを全て墓地に送る」という効果は、それだけ大きなデメリットだったのだ。

 

 デュエルモンスターズでは、デッキからカードを引けなくなってしまった時点でそのプレイヤーは敗北する。

 つまり、このまま羽蛾にターンが回り、そしてそのままターンが返ってくれば、ソリティアガールはデッキからカードを引けずに敗北してしまうのだ。

 

「ば、馬鹿者がぁッ!」

 

 関係者の中でも、特に格式が高い人間だけが入ることができる大会観覧室。

 

 そこでワインを飲みながら大会の様子を見守っていたBIG5大門が、手からワイングラスを床に落とし、怒りの声を上げた。

 

 大門だけではない。

 世界中のデュエリストが、ソリティアガールはデュエルを放棄したと考えていた。

 

 今はまだ1ターン目であり、そもそもバトルフェイズを行うことができない。

 つまり、ソリティアガールはモンスターの攻撃によって、羽蛾のライフポイントを減らすことができないからだ。

 

「ひょ、ヒョヒョヒョヒョヒョー!バカだなぁ、今はまだ1ターン目だぞ!これでオレが何もせずともターンエンドすれば、次のターンお前はドローできず敗北!なにが最強のデュエリスト集団だ、裏デュエルだ!こんなプレイミスするなんて、拍子抜けだよ!」

 

 羽蛾は自分が勝ったとばかりに手をたたいて喜んだ。

 

 これでデュエルでの勝利は確実。

 自分はチーム俺たちに勝ったという実績が手に入る。

 こんな雑魚を相手にしただけでは、自分の名誉の回復に不安が残るが……。

 

 それはそれで、チーム俺たちが評判倒れの連中だったと、世間に知らしめた功績は残るだろう。

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョー!」

 

 羽蛾は自分の輝かしい未来を確信する。

 そして目の前の阿呆をさらに嘲笑ってやろうと、ソリティアガールの顔を見て───

 

 

 

 

 

 

 

「あはぁ」

 

 ───ソリティアガールの底知れない悪意を目の当たりにすることになった。

 

 自分の敗北をまるで受け入れていないような、戦意に満ちた笑み。

 小躍りしていた羽蛾を嘲笑うかのように、ニヤニヤと顔を歪ませるソリティアガールの姿に、羽蛾は思わず一歩後ずさった。

 

「な、なんだ!なにがおかしいんだ!お前はもうデッキがゼロ枚なんだぞ!?」

 

「そうです、デッキゼロ枚!でも私のターンはまだ終わっていません!」

 

「だ、だから何だっていうんだ!?モンスターの攻撃だって、このターンはできないんだぞ!デッキからカードが引けなくなったら負けなんだ!お前は、負けだ!」

 

「モンスターの攻撃なんて必要ない!見てください、これが私のDEATH☆GAME!!」

 

 ソリティアガールの手札から、1枚のカードが右手によって引き抜かれた。

 

 これこそソリティアガールの狙い。

 この1枚のカードを発動させ、絶対に妨害されないために彼女は全てを尽くしたのだ。

 

「【絶望の宝札】によって墓地に送られたカードの中には、【処刑人マキュラ】のカードがあります! このカードが墓地に送られたターン、私は手札から罠カードを発動することができる!」

 

「手札から罠カード!?で、でもそれでもターンが回ってくればオレが勝つ!それにバーンカードはこのデュエルではほとんど禁止されているはずだ!」

 

「ダメージなんて与える必要はありません!私は手札から罠カードを発動します!このカードは、私の墓地に15枚以上のカードがある時、1000ポイントライフを払って発動できる!」

 

「墓地に、15枚以上のカードッ!?まさか、そのために【絶望の宝札】を!?」

 

 ソリティアガールはますます笑みを深める。

 

 彼女のリスペクト相手はマリク様。

 その設定が存分に発揮されたお顔は、もう遊戯王ファンならわかる顔芸ぶりであった。

 

 つまり、お顔放送事故。

 

「さぁ、幾多ものデュエリストを地獄に叩き込んできたカードのご開帳です!」

 

 ノリノリでソリティアガールはカードをデュエルディスクに叩き込んだ。

 

 それは多くのデュエリストを地獄に叩き込んだ魔物。

 コンマイへの怨嗟の声で満ち溢れたカードの産声が、この会場で花開くのだ。

 

 

 

「【現世と冥界の逆転】」

 

 

 

 チーム俺たちはそのカードにトラウマを思い出し、やりやがったとから笑い。

 目はもちろん笑えていなかった。

 

 その一方で観客と羽蛾は事態が理解しきれておらず、放送を見ていたごく一部のデュエリストだけがソリティアガールの狙いを完全に理解し、戦慄した。

 

「【現世と冥界の逆転】……!?」

 

「このカードが発動された瞬間、お互いに墓地に眠っていたカードがデッキになり、デッキにあったカードは墓地に眠る」

 

 羽蛾のデュエルディスクがカード処理のために作動。

 ものすごい勢いで、羽蛾のデッキのカードを墓地に送っていく。

 

 それを呆然と見つめる羽蛾は、ここで初めて自分の末路を知る。

 

「ま、まさか。オレの墓地はゼロ枚、デッキは35枚、それが逆転するってことは……」

 

「そうです、あなたの今のデッキ枚数は───ゼロ枚です」

 

 羽蛾がその場に膝をついた。

 手札にあった4枚のカードは全て手から零れ落ち、ただただ、デッキがあった場所を彼は見つめていた。

 

「あ、ああ」

 

「私はターンエンド、そしてインセクター羽蛾さんのターンです。さっき説明してくれましたよね?ドローできなくなったら敗北だって」

 

「あ、あああああああああ」

 

 震える声で羽蛾は叫んだ。

 

 デッキのあった場所を、何度も、何度も見つめる。

 しかし羽蛾がいくらデッキを見つめても、彼のデッキはゼロ枚から変わることはなかった。

 

 羽蛾はデッキからドローできない。無いものは引けない。

 彼はデュエルに敗北したのだ。

 

 

 

 

 ソリティアガール、WIN。

 

 

 

 

 これが、本当にデュエルなのか?

 

 自分たちの常識をはるかにこえたデュエル。

 そしてその結末に、会場は静まり返っていた。

 

 この会場だけではなかった。

 この放送を見ていたすべての人々が、ソリティアガールのカードコンボとデュエルタクティクスに呆然とし、言葉を失ってしまった。

 

 モンスターを召喚し、バトルを行い、相手の魔法罠を乗り越えて戦っていく。

 これを何ターンも何十ターンも積み重ねていくこの戦いこそが、世界が知るデュエルモンスターズだった。

 

 膝をつき、呆然と地面を眺める羽蛾。

 そんな羽蛾を見てようやく顔が戻り、状況全てを把握して賢者タイムに突入したソリティアガール。

 

 そして───心の底から湧き上がる何かに突き動かされた、観客たち。

 

 「「「「「うおおおおおおおおおおおッ!!」」」」」

 

 恐ろしいデュエルだった。

 無茶苦茶なデュエルだった。

 見たことがないデュエルだった。

 

 だが、こんなデュエルが行われるのが、チーム俺たちの裏デュエルなのだ。

 そして、チーム俺たちの裏デュエルは、世間で噂されるようなインチキや嘘の存在ではなかった。

 

 チーム俺たちは、今、確かにこの世界に実在する。

 

 それはソリティアガールのデュエルの狂気の伝播か、あるいは新たなデュエリスト誕生への祝福の声か。

 

 大地が震えるほどの歓喜の声が、チーム俺たちのソリティアガールへ向けられる。

 ソリティアガールはそれを感じ取ると、戸惑いながらも静かに右腕を天に掲げた。

 それを受けて観客の歓声はさらに大きなものに。

 

「うん、私たちらしいデュエルですわね」

 

「あれと一緒にされたら困るんだけど。アーゼウスの効果が発動した後みたいなデュエルだよ?アカンでしょ」

 

 会場の、世界の誰もが感情の衝動に突き動かされる中。

 金髪ドリル令嬢は満面の笑み、わくわくアーゼウスはドン引きしていたのだった。

 




今回長くて力尽きたので、ダイナソー竜崎戦はいつものようにあっさり予定です。

◎ソリティアガール

本人は清楚・メガネ・ポニテと好きな要素を詰め込んだガワだったが、マリク様ファンだったため、顔芸の設定を詰め込まれた模様。
ところどころ頑張って耐えていたが、羽蛾の挑発が本人にとってはファンサービスすぎてはじけてしまった。

デュエルスタイルは全力バトル。
OCGプレイヤーの権化。
たぶんチーム俺たちで一番えげつない。

◎【絶望の宝札】

「お前は存在してはいけないカードだ」の見本。

漫画で登場した【絶望の宝札】はテキスト上では3ドローだが、実際の処理はデッキから3枚選んで手札に加えて、他は全部墓地送り。

あたまおかしい。

これでデッキから【現世と冥界の逆転】を手札に加えれば、なんとデッキから【処刑人マキュラ】も落ちているので、そのまま【現世と冥界の逆転】を使えます。

この戦い方で必要なコンボ枚数はこれ1枚。
もちろんこれも【魔術師の書庫】でデッキからサーチ可能だし、なんなら原作版の【魔法再生】は発動コストゼロなので墓地に落として回収でもいい。

◎【処刑人マキュラ】

「サッカーしようぜ!お前ボールな!」を体現したすごいやつ。

原作の効果は、
「フィールドで破壊された時に手札から罠を瞬時に発動できる。ただしそのターンのエンドの時に手札は全て墓地に送られる」
だった。

で、私たちの遊戯王のカードゲームに持ち込まれた時に、効果がこうなった。

「このカードが墓地へ送られたターン、このカードの持ち主は手札から罠カードを発動する事ができる」

?????????????

なんか強化された。

しかも雑誌付録で配られまくった。アニメではこの効果のまま持ち込まれた。
エラッタされたが、私は許すつもりは一切ありません。


◎【現世と冥界の逆転】

「遊戯王よりも他に楽しいことはたくさんあるよな」と多くの遊戯王プレイヤーに気がつかせた、偉大な功績がある化け物。

だいたいこの話みたいににたくさん使われた。

エラッタされたカードの中でも、特に酷いエラッタのされ方をしたので、コナミは後悔しているであろう原作効果のまま現実に持ち込まれたカード。

ちなみに原作において、表マリクは姉であるイシズにこれを使われまくって負けまくっていたらしい。

うちなる闇マリクがあんなに強大になったのは、絶対にイシズに原因があると思う()

※追記
大事なお知らせです。私も勘違いして書き方が誤っておりました。
ソリティアガールの使用後のセリフ「デッキから墓地に送られる」を「墓地に眠る」の原作仕様にちゃんと直しました。

このカード、「墓地とデッキを入れ替える」なので「墓地に送られる」扱いになりません。悲報です、慈悲もありません。
つまり、墓地発動はありません。唯一出番がありそうなコカローチ・ナイトくんは死にました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。