遊戯王の世界で遊戯王プレイヤーたちが遊びだしたようです。   作:だんご

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お待たせしました。
遅れた理由ですが、仕事が変わるからです。
はい、そういうことです。

築き上げた「強いぞ!カッコいいぞ!」なフィールドを、ラーの翼神龍のタマタマや、ラヴァゴーレムに食われるぐらいに、ここ最近は大変でした。

感想返し途中でできなくなってしまっていましたが、みんな読ませていただきました。みんなノリが良くて笑いました。

てかなんであれ書いてからイシズ新規でてるんだ……。


サレンダーは公式ではありません

 両腕を支えられて、引きずられるようにステージから降りていくインセクター羽蛾。

 

 ダイナソー竜崎はそんな羽蛾の光のない目を見て、言いようのない寒気にぞくりと体を震わせた。

 

 この次のデュエル相手は自分。

 羽蛾の姿に自分を重ね、歯を噛みしめる。

 死刑台に上がるような陰鬱な気持ちになりながらも、竜崎は一歩一歩強く踏みしめてステージに上がっていったのであった。

 

 観客の熱気は、まだまだ冷める様子がない。

 

 チーム俺たちが行ったデュエルは、蹂躙の一言に尽きる。

 カードパワー、デュエルタクティクス、そして決して表では見られないような残虐的エンターテイメント性。

 

 そのどれもが強烈なものであり、ここにチーム俺たちありと世界に知らしめるものであった。

 観客の誰もがチーム俺たちの輝きに目を奪われている。

 

 もしこれが並みのデュエリストであれば、バトルをせずにデッキを狙う戦術など「卑怯」とヤジが飛んでくるだろう。

 

 しかし、チーム俺たちは違う。

 

「……次は我が身やな」

 

 元々世界は知っていた。

 チーム俺たちのデュエルは普通ではないことを。

 

 元々観客は期待していた。

 自分たちのコトワリとは違うデュエルが見られることを。

 

 故に、ここでは「邪道」こそが「正道」。

 

 ダイナソー竜崎は自分の震えをおさえつけるために、歯を砕かんばかりに噛みしめた。

 

 インセクター羽蛾の魂の抜けた姿を思い出す。

 

 デッキはデュエリストの誇りだ。

 それをあんな形で蹂躙された心の痛みは、いったいどれほどのものか。

 考えるだけでも竜崎の胸が痛む。

 

 しかし、そんな心折られた羽蛾の姿が、狂気に魅せられた観客の目に映ることはない。

 

 ギラギラと目を輝かせる観客が望むのは、チーム俺たちの未知なる刺激に満ち溢れた決闘なのだ。

 

 恐るべきはそんな異常な空間を作り上げ、人々を魅了したあのソリティアガールとチーム俺たちの狂気。

 

 その美しい相貌もあって、観客は皆チーム俺たちにくぎ付けになっている。

 彼らの目には、次に戦う竜崎の姿は映っていない。

 

 それがどうしようもなく悔しく、竜崎は目を爛々と輝かせて吼えた。

 

「それでも、ワイにだって意地があるんや!」

 

竜崎が拳を突き付けた先には、仮面の少女。

ソリティアガールと同じく、チーム俺たちのデュエリストにして奇妙なネームセンス。

 

 その名は「わくわくアーゼウス」。

 

 彼女が小さな肩を震わせているのは、こちらのちっぽけなプライドを嘲笑っているからだろうか。

 

 ダイナソー竜崎は忸怩たる思いを感じて、わくわくアーゼウスを鋭く睨む。

 

 なお、実際はそんなことは全然なかった。

 

 わくわくアーゼウスは生でダイナソー竜崎とデュエルできる喜びによって、こらえ切れず肩を震わせていただけであったのだ。

 憧れの一端が目の前にいるのに、限界化しないファンはいないのである。

 

 しかも生でデュエリストの誇りを見せつけられてしまっている。

それはもう格好いいのだ。

 

 この誇りを賭けてデュエルに臨む姿勢。

 一人のデュエリストの生き様は、わくわくアーゼウスの現実世界では見ることのできない輝きだ。

 

 全力で生きるデュエリストの輝きを前に、わくわくアーゼウスはダイナソー竜崎に憧れすら抱いていた。

 

 そう、これぞ遊戯王。

 これぞ「決闘」と書いて「デュエル」と読む戦いの儀。

 

 その場に立ち会うことができて、感動しない遊戯王ファンがいるのだろうか。いや、いない。

 

 もしわくわくアーゼウスに犬のしっぽがついていたなら、そのしっぽは大暴れしていたことだろう。

 

 本来であれば思いっきりアーゼウスをぶっ放し、ほのぼのメルフィの森を薪にしてキャンプファイヤーしてマイムマイムを踊りたいところ。

 

 しかしエクシーズは不許可ということで、非常に残念ながらそれはできない。悔しい話である。

 

 だが、原作世界ではなくOCGデュエリストであれば、デッキのコンセプトが異なるデッキを複数扱うことは当たり前。

 むしろ一つのデッキを使い続けることが珍しい。

 

 わくわくアーゼウスは、代わりのデッキを手にして、ワクワクしながら一歩前に進み出た。

 

「さぁ、お次はわくわくアーゼウス選手とダイナソー竜崎選手のデュエルが始まります!」

 

「そうですわね!」

 

「ところで、わくわくアーゼウス選手はどんなデッキを使うのですか?」

 

「いつもはマスコットの森を燃やしているのですが、今日はなんのデッキなのかわたくしもわかりませんわ!」

 

「……えー、非常に物騒な言葉が聞こえましたが、意気込みは十分伝わってきました!デュエル開始です!」

 

司会とお嬢様の会話を皮切りに、ついに二人のデュエルが始まる。

 

「「───デュエルッ!!」」

 

 わくわくアーゼウスは自分の手札をちらり、迷いなく一枚のカードを選択。

 

「私のターン、ドロー。私は───【黒き覚醒のエルドリクシル】を発動!デッキから【黄金卿エルドリッチ】を守備表示で特殊召喚する」

 

 おい、加減しろ。

 

 試合を見ていたチーム俺たちの心が、今一つになった。

 

 先ほどのソリティアガールのデュエルは、「滅茶苦茶理不尽なデュエル」であった。

 もうなんか、いろいろと酷いものであった。

 

 そして、これからわくわくアーゼウスがやろうとしているデュエルは、「会話しているようで会話していないデュエル」である。

 一見ちゃんとデュエルしているようで、その実態はわかりにくい対話拒否。キャッチボールではなく一方的ドッジボールだ。

 

 つまり、いつもの遊戯王OCGだった。

 

 アニメみたいに切り札を出されたら大体負けるので、そもそも出させないのが現実のOCG。

 こんなカードゲームに誰がしたと言ったら、だいたいコナミが悪い。

 

 カードを刷っているコナミはもっと反省してほしいなって。

 

「デッキから特殊召喚やと!?専用のテーマかいな!?」

 

 竜崎の驚愕の声。

 世界の誰もが耳にしたことがないカードテーマ、エルドリッチに世界中のデュエリストたちの関心が高まる。

 

 一方、エルドリッチを知っているチーム俺たちは頭を抱えた。

 だいたいみんな嫌な思い出があるからだ。

 

 

 「降臨せよ───【黄金卿エルドリッチ】」

 

 

 満を持してフィールドに現れるは、幾多のデュエリストを絶望させた不死者の姿。

 

 黄金と宝石によって彩られた、豪華絢爛な鎧。

 

 太陽の光に反射して、様々な色に光り輝く姿に、会場の女性の口からは感嘆の吐息が零れる。

 

 その煌びやかな様相は、まさに黄金卿の名に相応しいものであった。

 

 ゆっくりと立ち上がるエルドリッチ。

 その強大なパワーを感じ取り、観客たちが思わず息をのむ。

 

 エルドリッチは会場の視線を独り占めにし、応えるように両腕を雄大に広げる。

 通称エルドリッチポーズ。

 その尊大な姿、高ステータスを前に観客たちは興奮し、歓声は叫びとなって会場を震わせた。

 

「……攻撃力、2500?守備力が2800!?そんな緩い条件で出てきていいモンスターやないやろ!?」

 

 ダイナソー竜崎の悲鳴に近い驚きの声。

 

 会場のソリティアガールやお嬢様、画面越しにデュエルを見物していたチーム俺たちが大きくうなずいた。

 

 一方、観客たちはぽんぽんと簡単に飛び出してくる超級モンスターに、これこそチーム俺たちのデュエルだと盛り上がっている。

 

「【強欲な壺】で2枚ドロー。……うん、【天獄の王】の効果を手札から発動。このカードを手札から相手ターン終了まで公開している間、セットカードは効果で破壊されない」

 

「なっ!?手札からモンスター効果やと!?」

 

 唐突な手札からのモンスター効果の発動、そしてその強力な効果に、ダイナソー竜崎は目を丸くする。

 試合を見ていた世界中のデュエリストも息をのんだ。

 

 これはどういうことかと、司会にコメントを求められたお嬢様はもう遠い目をしている。トラウマを刺激されたようだ。

 

「セットカードが破壊できないということは、地雷を除去できないようなもの。魔法罠を破壊する【大嵐】も【サイクロン】も、【ライトニングストーム】も、【魔導戦士ブレイカー】もみんな意味がありませんわ。踏むまでわからない嫌なびっくり箱でしてよ」

 

「あのー、さらりととんでもない効果のカードが出た気がするのですが」

 

「えぐいでしょう、あれ。しかもあれは毎ターン使えますのよ?」

 

 会場がザワザワと騒がしくなる中。

 その視線を集めるわくわくアーゼウスは、意に介さずに手札のカードを魔法・罠ゾーンにセットしていく。

 

 この当たり前のように強大なカードを扱う姿が、多くのデュエリストに恐怖を与えるのだ。

 

「さらに4枚カードをセットして、ターンエンド」

 

「く、ワイのターンや!ドロー!」

 

 悠然と構える黄金の王。

 そしてその背後に見える4枚のカードに、竜崎は何か恐ろしいものを感じる。

 

 しかし、攻めなくては勝てない。

 否、自分はここで勝たなくてはいけないのだ。

 

「うわぁ、これだからエルドリッチに先攻渡したくないのですわ」

 

 疲れた笑みを浮かべるお嬢様に、司会の女性は疑問の声を投げかけた。

 

「そ、その……。わくわくアーゼウス選手が使っているデッキはどうなんでしょう?先ほどのソリティアガール選手と比べて、結構穏やかなスタートと言いますか」

 

「これが穏やかとか、マッドサイエンティストなコザッキーが理性的になるぐらいにありえませんわ」

 

「と、いいますと?」

 

「あのデッキの強み、それはソリティアガールや私のような分かりやすい強さじゃありませんわ。むしろ古き良きデュエルモンスターズを悪意で煮詰めたような、真綿で首を絞め続けるようなデッキ。それがエルドリッチというテーマですわ」

 

 主観であるが、現代遊戯王OCGで罠カードを多用するようなデッキは、全員漏れなくろくでもないテーマしかない。

 でもだいたいの現代テーマはろくでないものなので、酷いレベルでバランスが取れていた。

 

 カードの差し合いがカードゲームの原点だとすると、エルドリッチほど原点に回帰したテーマ性もないのだが、それはそれとして理不尽である。

 

「ワイは手札から融合を発動!手札のモンスターを素材に、融合デッキからモンスターを特殊召喚する!」

 

 次元が歪み、竜崎の前にモンスターが現れようとした刹那、わくわくアーゼウスがセットカードに手を伸ばした。

 

「【虚無空間】を発動」

 

 鬼かお前は。

 

 チーム俺たちの心は一つになり、お嬢様は白目をむいて、ソリティアガールは思わず唸る。

 

 【虚無空間】。

 それは下手なソリティアをされるよりも嫌な、ワントップトラウマカード。

 

「このカードが存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない。私のフィールドのカードが墓地に送られた時、このカードは破壊される」

 

 そう、この【虚無空間】は特殊召喚を全て封じる。

 モンスターを特殊召喚することでデュエルを成立させている遊戯王を、全否定しているようなカードである。

 

 「じゃあ、お互いモンスターを特殊召喚できないから、苦しいゆっくりとした戦いになるよね」と思う人もいるだろう。

 

 とんでもない。

 みんな自分がモンスターを特殊召喚しまくって、盤面を整えた後。

 相手のターンにこれを発動するのだから「鬼」の一言に尽きる。

 

 あるいは、その処理のしやすさから、自分の時にはあっさりとこのカードを墓地に送って特殊召喚フェスティバルを開催するのだから、もうなんていうか始末に負えない。

 

 だが、ダイナソー竜崎は諦めていなかった。

 

「させへんで!魔法カード、【サイクロン】を発動や!そのカードを破壊する!」

 

 ダイナソー竜崎……ッ!!カッコいい!!

 

 チーム俺たちは思わずガッツポーズした。

 

 気分は野球やサッカーで推しのチームを応援するそれと同じである。

 自分の地域のチームを応援しなさい?うるさい、私はけなげに頑張っている好きな方を応援したいんだ。

 

 これも偏にエルドリッチという、多くのデュエリストを地獄に叩き込んできたテーマが積んできた、重すぎる業の結果かもしれない。

 

 ただ、当のデュエルしている本人、わくわくアーゼウスも「まだ終わらないんだ!」と目を輝かせていた。

 なんかもう滅茶苦茶なデュエルである。

 

 自分が一番チーム俺たちに応援されていると知る由もないダイナソー竜崎は、決死の表情で手札からモンスターを特殊召喚。

 

「手札から【ヘルカイトプテラ】と【俊足のギラザウルス】を融合召喚!来い、【ヘルホーンド・ザウルス】!」

 

 大きく翼を羽ばたかせた恐竜が召喚され、エルドリッチめがけて咆哮する。

 対面するエルドリッチは余裕を崩さず、顎を撫でて恐竜を観察していた。

 

「来ました!ダイナソー竜崎選手、わくわくアーゼウス選手の妨害を飛び越えて、お得意の恐竜族モンスターを召喚に成功だ!」

 

「流石ですわね!正直、終わったと思いましたわ!」

 

「攻撃力は2000! 先ほどのインセクター羽蛾選手は昆虫族モンスターを召喚することも出来ずに敗れましたが、ここで仇を討てるのでしょうか!」

 

「あのカードはどんな効果ですの?わたくしは寡聞にして存じませんわね」

 

「【ヘルホーンド・ザウルス】は融合召喚したターン、相手に直接攻撃が出来るんや!」

 

「流石です、これで守備力2800のモンスターを超えて相手にダメージを与えられます!これはダイナソー竜崎選手、チャンスです!」

 

 ようやくまともなデュエルが始まると、意気揚々とマイクを掴んでコメントする司会。

 

 そして対応策を瞬時に用意したダイナソー竜崎のプレイング、エースモンスターの召喚に、観客たちは竜崎へ声援を送った。

 

 なお、それを見守るお嬢様は、「え、効果それだけですの!?」と内心焦っていた。

 

 「出したターンだけしか直接攻撃できませんの?」

 「攻撃するときに何か効果が発動するとかありませんの?」

 「墓地に送られた時に何か発動する効果は?」

 「カード3枚使って直接攻撃2000だけ!?」と目を白黒させている。

 

「【ヘルホーンド・ザウルス】で直接攻撃や!」

 

 翼竜が小さなわくわくアーゼウス選手に飛び掛かる。

 エルドリッチが手を伸ばすが、空飛ぶ恐竜を捕まえるには至らない。

 

 これは大ピンチと全員が目を見張る中、わくわくアーゼウス選手はさらなるセットカードを発動する。

 

「ライフポイントを1000払い、【スキルドレイン】を発動」

 

 解説のお嬢様は顔を覆った。ソリティアガールは天を仰いだ。

 それは原作世界の人々には、非常に分かりにくい理不尽であった。

 

 フィールドに異様な空気が流れだす。

 空を飛んでいた恐竜が、辛そうに地面に落ちていく。

 その姿を見てダイナソー竜崎は声を失った。

 

「どうした、どうしたんや【ヘルホーンド・ザウルス】!?」

 

「【スキルドレイン】は、フィールドにおける効果モンスターの効果を全て無効化する」

 

 強く力を足に込めて、【ヘルホーンド・ザウルス】は立ち上がろうと、羽ばたこうとするが上手くいかない。

 

 それを悔し気に竜崎は見つめる。

 絶好のチャンスが失われてしまった。

 

 だが、相手もモンスター効果が使えなくなることは苦しいはず。

 まだ、まだチャンスはあると竜崎は奮起する。

 

「そして、罠カードである【スキルドレイン】が発動したことで、手札の公開されていた【天獄の王】の第二の効果が発動する」

 

「……は?」

 

 ───竜崎を、巨大な影が覆った。

 

 

「降臨せよ───【天獄の王】」

 

 

 2体目の王の召喚。

 

 その姿は異形。

 

 まるで嵐がそのまま擬人化されたかのような、非生物的な巨体。

 悪夢を体現したかのような恐怖を感じるモンスターが、雄々しくエルドリッチの横に並び立った。

 

 その攻撃力、守備力は脅威の3000。

 

「ま、マジかよ!?」

 

「あのモンスターって、手札で効果が発動していたモンスターだろ!?なんでフィールドに出てくるんだよ!?」

 

「3000って、また【青眼の白龍】と同じ超攻撃力モンスターかよ!」

 

「カッコいい……」

 

 観客たちが騒然としながら【天獄の王】を眺める。

 

 お嬢様は先ほど竜崎のモンスター効果に足りないと驚いていたが、むしろこの世界では遊戯王OCGのような謎の効果モリモリな方が異常そのものであった。

 

 こんな攻撃力3000モンスターが、お手軽に次々に召喚されるデュエル。

 つまりチーム俺たちのデュエルがおかしいのだ。

 

「【天獄の王】の効果発動、デッキから魔法・罠を選んで1枚セットする。このカードは次のターンエンドに除外される」

 

「な、ちょい待ち!【天獄の王】の効果は【スキルドレイン】で無効になるんやないのか!?」

 

 竜崎が思わず叫んだ。

 会場の観客の顔にも戸惑いが見える。

 

 司会も理由がわからず、隣のお嬢様に顔を向けた。

 観客も、竜崎も全員お嬢様に一斉に視線を向ける。

 そのすごい勢いにお嬢様の頬は引きつった。

 

 この世界はカードゲームな世界だけあって、みんなの勢いが強いなぁとお嬢様はビビってしまう。

 

「お、お嬢様!解説お願いします!」

 

「えーと、あれ、手札で発動した効果に含まれますので、フィールド限定に作用する【スキルドレイン】の拘束力が通じないのですわ」

 

「そ、そうなんですか!?みなさん聞きましたでしょうか!わくわくアーゼウス選手、カードを理解した素晴らしいプレイです!これには会場も騒然です!」

 

「な、なんやて!?」

 

 竜崎は嫌な予感がした。

 

 【スキルドレイン】は効果を失わせる強力なカードだが、反面自分のモンスターも効果が使えないデメリットがある。

 デメリットの大きさゆえに、どんなデュエリストも使用を避けてきたカードだった。

 

 恐るべきは、デメリットを上手くかわしてスキルドレインを有効に活用しているわくわくアーゼウス。

 

 そうだ、チーム俺たちのカードプレイスキルは、プロデュエリストでさえうならされるほどに高い。

 

 忘れるな、先ほどの羽蛾とソリティアガールのデュエルを。

 あのデュエルの速度が異常すぎて、感覚がおかしくなっていたが、わくわくアーゼウスも彼らチーム俺たちの一員なのだ。

 

 少しでも気を緩めたら───負ける!

 

「私はデッキから永続魔法【呪われしエルドランド】をセット」

 

「ワイは、カード2枚を伏せるで!ターンエンドや!」

 

 諦めない、諦めてなるものか。

 

 気を引き締め、気炎が感じられる竜崎。

 その姿を見て、わくわくアーゼウスは仮面に隠れた顔を輝かせた。

 

 楽しい。なんて楽しいんだ。

 

 これが原作キャラの持つ熱なのか。

 

 竜崎の心がデュエルを通して、こちらの心にも伝わってくるようだ。

 こんな体験、チーム俺たちとのデュエルでは、現実世界では感じ取ることができない。

 

 これがカード世界の熱。

 心と心のぶつかり合い。

 こんな非現実的な体験ができるなんて、もう、言葉にできないぐらい楽しい。

 

 デュエルモンスターズは、この世界ではただのカードゲームではない。

 OCGとは違い、心と心のぶつかり合い。

 プライドを賭けた魂の決闘なのだと理解し、わくわくアーゼウスの心は蕩けそうになった。

 

 遊戯王、最高。

 

 一方、対話拒否でそんな実感を少しも感ずることなく勝利したソリティアガールは、指をくわえて二人のデュエルを様子を羨ましそうに見つめていた。

 

 わくわくアーゼウスはそんなソリティアガールを努めて無視した。

 

「草がうんたらなんて言ってられない件。私のターン、ドロー。【天獄の王】の効果でセットされていた【呪われしエルドランド】を発動」

 

 妖しくも美しく、輝かしい。

 

 魔性の美とも呼べる黄金の居城が、大きな振動と共にわくわくアーゼウスとエルドリッチの背後に出現。

 その荘厳な城は多くの人々を魅了し、竜崎は嫌な予感を感じて後ずさる。

 

「ライフを800払って、効果を発動。デッキから───2枚目の【黄金卿エルドリッチ】を手札に加える」

 

「その城の王様を呼べるってことかいな。だが、そのカードは【天獄の王】の効果でこのターンの終わりに除外されるはずや!」

 

「それで充分。私は手札から【黄金卿エルドリッチ】と罠カード【御前試合】を墓地に送り、【黄金卿エルドリッチ】の効果を発動」

 

「な、なんやて!?【黄金卿エルドリッチ】も手札で発動できる効果を持っとるんかいな!?」

 

「このカードと、手札の魔法・罠カードを墓地に送ることで、フィールドのカード1枚を墓地に送る。私は相手の伏せカード1枚を墓地に送る。やれ、エルドリッチ」

 

 ───『征服王葬送』。

 

 エルドリッチの効果の発動と共に、エルドリッチの黄金の腕が出現。

 消えゆく刹那、それは竜崎の伏せカード1枚を握り潰した。

 

「フィールドのカードを墓地送りやって!?ワイの、【ジュラシックハート】が!?」

 

「さらにフィールドの【呪われしエルドランド】を墓地に送り、墓地の【黄金卿エルドリッチ】の効果を発動」

 

「な、なんやと!?」

 

「【黄金卿エルドリッチ】を手札に加える。その後、手札からアンデット族モンスター1枚の攻守を相手ターン終了時まで1000上げた状態で特殊召喚する。この対象には、【黄金卿エルドリッチ】も含まれる」

 

 崩れ行く黄金の都。

 しかし、崩壊する都の奥から、金色に輝く黄金卿が整然と現れ出た。

 

 その攻撃力、2500ではなく攻撃力上昇を受けた3500。

 もう伝説のカードである【青眼の白龍】ですら、真正面からでは勝つことができない驚異のパワーライン。

 

「手札からの除去能力に加え、自己蘇生強化持ちとかふざけとる!いや、なんで【スキルドレイン】があるのにも関わらず、攻撃力アップしとるんや!?いや、まさか!?」

 

 竜崎の顔から血の気がさーっと引いた。

 

「それも、それもフィールドではなく墓地で発動した扱いになるってことかいな!?」

 

「その通り。でもどちらの効果も1ターンに1回だから安心してほしい」

 

「い、1ターンに1回?このターンだけではなくて、倒しても毎ターン【黄金卿エルドリッチ】は復活できるなんて、そんな無茶苦茶なことは」

 

「うん、その通り。あ、ついでに【呪われしエルドランド】の効果でデッキから【黄金卿のコンキスタドール】を墓地に送る」

 

「あ、あはは……。1枚のカードで何枚動かすんや……。無茶苦茶やん」

 

 攻撃力、3500。

 

 それはデュエルモンスターズに存在する、モンスターのほとんどを破壊できる攻撃力だ。

 しかも【黄金卿エルドリッチ】は毎ターン蘇る、恐るべきイモータルキングだったのだ。

 

 このフィールドで、それを打開できるモンスターの効果は、強力な永続罠である【スキルドレイン】で封じられている。

 デュエルモンスターズにおける多彩なモンスターたちの効果は、もはや何の役にも立たない。

 

 ここにきてようやく、会場の観客、テレビの向こうの視聴者たちは、この戦いの全貌を理解した。

 

 ソリティアガールと羽蛾の戦いは、とても分かりやすい象とアリの戦いだった。

 あんなに劇的であり、圧倒的な戦いはなかなか見られるものではない。

 

 そしてこのわくわくアーゼウスと竜崎の戦いは、沼のような戦いであった。

 同じ土俵で戦っているようで、同じ土俵で戦っていない。

 

 気がつけば対戦相手は沼の中に引きずり込まれて溺れかけており、わくわくアーゼウスはそれを安全圏でジュース片手に見物しているような状況だ。

 

 解説でお嬢様が言った「真綿で首を締めるような戦い」。

 これ以上相応しい言葉がない、強者の恐るべきデュエル。

 

 最初から、二人は同じ土壌に立っていなかった。

 そこには天と地ほどの圧倒的な力の差があったのだ。

 

 竜崎も、観客も、このデュエルを見ているデュエリストたちも全て戦慄する中。

 

 当の本人であるわくわくアーゼウスはというと……。

 

「そしてフィールドには、レベル10が3体いる」

 

「まだ、何かあるんか!?」

 

「いや、何もない」

 

「何もないんかい!?」

 

「何もないんだ、何も、ないんだよなぁ。……草」

 

「なんでお前が追い詰められた顔をしとるんや!?」

 

 何故かメンタルにダメージを受けて落ち込んでいた。

 

 肩を崩し、無念そうな溜息を吐き出し、グロッキー状態なわくわくアーゼウス選手姿。

 竜崎は「なんやこいつ」と冷や汗を流し、会場の観客も首をかしげる。

 

「黄金卿とか天獄でロマン砲グスタフどっかん、列車砲ロマン変形し大型どんどん、そして列車砲が変形してお馴染みアーゼウスに。黄金卿を材料にしたアーゼウスはカッコいいのに、どうしてこんなことに。いや、もう最終的にそれが見えるなら、黄金卿はやっぱりアーゼウスでいいのではないだろうか。もうこいつ9割はアーゼウスだよ」

 

 強者の余裕を滲ませていたエルドリッチたちが、今はもうめちゃくちゃ気まずそうである。

 ソリッドビジョンなのに無茶言わないでくれという、彼らの心の声が聞こえてくるようだ。

 

 そんなわくわくアーゼウスに、お嬢様は手を振って声を上げる。

 

「わくわくアーゼウスさん、安心してくださいまし!【スキルドレイン】が発動されているので、アーゼウスはただの置物ですわ!」

 

 わくわくアーゼウスは肩をびくりと震わせた。

 そして目に怒りの炎を燃やして顔を上げる。

 

「あ、確かに。アーゼウスを妨げる【スキルドレイン】とか、やっぱりろくでもないと確信して草生えた」

 

「じょ、情緒不安定すぎるやろこのお嬢ちゃん」

 

「【スキルドレイン】は許さない」

 

「それ自分で発動したんやろうが!しかもお前は全部効果を【スキルドレイン】すり抜けて使ってくるやんけ!」

 

 わくわくアーゼウスは秒で我を取り戻したが、対する竜崎からすれば振り回されてたまったものではない。

 

 お嬢様やソリティアガールと同じく、ひょっとしてチーム俺たちは変人しかいないのではないかと竜崎は訝しんだ。

 

 また、とても有利なフィールドのはずなのに、何故か【天獄の王】も【黄金卿エルドリッチ】も微妙な雰囲気である。

 素材扱いされて、気まずい思いを感じているようだ。

 その様子はパンドラのブラックマジシャンを思い出させる。

 

 「なら遠慮なくいこう。バトルフェイズ、【天獄の王】と2体の【黄金卿エルドリッチ】で攻撃」

 

 【天獄の王】が雷撃を迸らせて右手を天に掲げ、2体の【黄金卿エルドリッチ】が竜崎へ素早い動きで向かっていく。

 

 「3000、2500、3500のモンスターが竜崎選手を襲います!これは決まったか!」

 

 司会の叫びに会場の誰もが竜崎の敗北を確信する中。

 竜崎だけは勝負を諦めていなかった。

 

 「……【黄金卿エルドリッチ】の効果先、失敗やったな!伏せカードを発動や!」

 

 【天獄の王】の雷撃、【黄金卿エルドリッチ】の強靭で重い拳が【ヘルホーンド・ザウルス】を襲うその瞬間。

 

 【ヘルホーンド・ザウルス】の前に不可思議な何かが出現。

 わくわくアーゼウスが目を見開く。

 

 「残された1枚は【聖なるバリア―ミラーフォース】やで!お前のモンスターは全滅や!」

 

 轟音。そして衝撃。

 

 【天獄の王】が自らの雷撃の反射で自壊。

 【黄金卿エルドリッチ】も拳の衝撃が反射され、耐えられずに吹き飛んで粉々に。

 

 強大なモンスター三体の攻撃による反射エネルギーは、まるで地震のように会場を大きく揺らしたのであった。

 

 あまりの振動と衝撃に多量の粉塵が舞い上がるが、それすらもミラーフォースは反射しているのか。

 わくわくアーゼウスのフィールドに粉塵が押し寄せ、小さな少女をそのフィールドごと覆い隠した。

 

「これは竜崎選手!全国大会準優勝の意地を見せました!逆転に次ぐ逆転、これはわくわくアーゼウス選手もモンスターたちの全滅は苦しいはずだ!」

 

 会場が沸き立ち、歓声が大きな波のように伝播していく。

 

 【黄金卿エルドリッチ】は再生能力があるが、このターンはもう効果を使い果たした。

 わくわくアーゼウスの残りライフは2200。

 

 竜崎のフィールドには竜崎の【ヘルホーンド・ザウルス】が健在であり、わくわくアーゼウスのフィールドのモンスターはゼロ。

 そう、逆転の目は一気に竜崎へと流れ込むことになったのだ。

 

 強者は人を惹きつける。

 しかし、強者の敗北という展開も人を惹きつけるものだ。

 

 チーム俺たちの強さは、もはや世界が知るところとなった。

 ならば、次は誰が彼らを打破できるのかという疑問と興奮が生まれる。

 

 この瞬間、世界の人々はチーム俺たちに勝てるかもしれないという未来に魅せられた。

 ダイナソー竜崎の勝利、その可能性に魅せられたのだ。

 

「いいぞー!ダイナソー竜崎!」

 

「がんばれー!」

 

「熱いデュエル、最高だ!」

 

 ダイナソー竜崎へ応援が届き始めた。

 

 竜崎は一瞬呆けたが、これは自分の存在がチーム俺たちの対戦相手ではなく、一人のデュエリストとしてようやく会場に認知されたのだと理解した。

 

 王国でのデュエルから、長い間日の目を浴びることが出来なかった竜崎。

 応援の声に感動で心が震え、胸の奥からあふれ出る思いに目頭が熱くなる。

 そしてここからだと気合を入れなおし、拳を握りしめた。

 

「会場もダイナソー竜崎の応援一色になりました!一転してアウェイになりましたわくわくアーゼウス選手ですが、これからどうなってしまうのでしょうか!」

 

 わくわくアーゼウスの様子は、未だ立ち上る粉塵の影響でうかがい知れない。

 

 司会のお姉さんもこの逆転こそ「これぞデュエル」と楽し気にマイクパフォーマンスを披露する。

 彼女のマイクパフォーマンスによって、観客はより一層盛り上がりを見せた。

 

 さて、こうなってくると気になるのは、隣に座るお嬢様の反応だ。

 わいわいと賑やかなお嬢様にしては、これまでと打って変わってやけに静かな様子である。

 これは仲間の危機にはらはらしているのだろうか。

 

 意外と人間らしい一面もあるんだなぁとお嬢様をちらりと見れば、予想外の様相に言葉を失った。

 お嬢様は仲間の危機にも関わらず、少しも余裕を崩さず、微笑んでいたからだ。

 

「あの、お嬢様はこの勝負をどう見ますか?」

 

「この勝負ですの?それはもちろん決まっておりますわよ」

 

 お嬢様の場違いのような弾む声に、竜崎が、観客が、カメラが、カメラの奥の視聴者が注意を惹きつけられたその時。

 

 

 

 

 粉塵を引き裂いて、黄金の一筋の光が現れ出た。

 

「わくわくアーゼウスさんの勝ちですわ」

 

 光の正体はなんと【黄金卿エルドリッチ】であった。

 

 その輝かしい鎧には、驚くべきことに傷一つない。

 悠然と腕を組んで構えるその姿に、会場の誰もが言葉を失った。

 

 【黄金卿エルドリッチ】は一歩、一歩と竜崎の【ヘルホーンド・ザウルス】に歩み寄る。

 【ヘルホーンド・ザウルス】が苦悶のような唸り声を上げ、ついにはこらえ切れずに【黄金卿エルドリッチ】に飛び掛かった。

 

 【黄金卿エルドリッチ】は決死の【ヘルホーンド・ザウルス】を一瞥すると、腕を振り上げ、一閃。

 

 「やれ、エルドリッチ」

 

 ───『征服王撃掌』。

 

 そのエネルギーが込められた一撃は、【ヘルホーンド・ザウルス】の頭部を陥没。

 悲鳴すら上げさせずに粉砕する。

 

 さらに不可思議な力に満ち溢れた掌は、【ヘルホーンド・ザウルス】の体すらも貫通。勢いそのままにフィールドに突き刺さった。

 花火のような爆音、観客たちの悲鳴。

 

「なん……やて……」

 

 呆然と佇む竜崎。

 破壊されたはずの【黄金卿エルドリッチ】の登場に、竜崎は動揺を隠せない。

 

「【黄金卿エルドリッチ】は、自身の効果で再生させたモンスターに効果破壊耐性を与える。つまり、【聖なるバリア―ミラーフォース】の破壊効果では、再生した攻撃力3500のエルドリッチは破壊されない」

 

 粉塵の奥から進み出てきた仮面の少女、わくわくアーゼウスの言葉は、小さな声にも関わらず静かな会場によく響いた。

 

 その内容は驚くべきものだった。

 

 黄金卿は何度も蘇る不死性だけではなく、死に対する破壊耐性すら獲得していたのだ。

 なんという強大なモンスターなのだと、このデュエルを見ていた世界中のデュエリストが顔を歪め、歯を噛みしめた。

 

 また、現れたのは少女と【黄金卿エルドリッチ】だけではない。

 その横には謎の獅子の像も浮遊していた。

 

「さらに私は伏せていた【黄金郷のガーディアン】の効果を、ミラーフォースにチェーンして発動していた。このカードは罠モンスターとしてフィールドに特殊召喚できるカード」

 

「罠モンスターやと!?」

 

「さらに場に【黄金卿エルドリッチ】が存在するとき、【黄金郷のガーディアン】は1体のモンスターの攻撃力を0にする追加効果がある。このカードを守備表示で特殊召喚したことで、【ヘルホーンド・ザウルス】の攻撃力は0になっていた」

 

「でましたわ!俺はカードを発動していた宣言!」

 

「え、罠モンスターなのに、守備力2500!?しかも、罠モンスターだから【スキルドレイン】も効かないってこと!?」

 

「そうなんですわよ!しかもここで使うってことは、デュエルを終わらせに来たってことですわね!」

 

「な、なんということでしょう!? 【黄金卿エルドリッチ】が竜崎選手のエースモンスターを破壊してしまいました! そして効果破壊されないとか、え、どうやって倒せばいいんですかこれ!?」

 

 お嬢様が楽し気に笑い、司会のお姉さんは驚く。

 

 実は他2体のモンスターは破壊されても、再生した【黄金卿エルドリッチ】は【聖なるバリア―ミラーフォース】で破壊されていなかったのだ。

 さらに【ヘルホーンド・ザウルス】の攻撃力は【黄金郷のガーディアン】によって2000の攻撃力が0に変動していた。

 

 つまり、竜崎の【ヘルホーンド・ザウルス】は【黄金卿エルドリッチ】の3500の強大な攻撃力をそのまま受けてしまったのだ。

 

 竜崎の残りライフは───たった500になってしまった。

 

「まだや、まだライフは500も残っとるんや!!」

 

 竜崎の手札は尽きて、フィールドのカードも全滅した。

 

 相手の場にはモンスターの効果を完封する【スキルドレイン】が発動中。

 

 【ヘルホーンド・ザウルス】を破壊した強大な【エルドリッチ】は健在であり、仮に戦闘で破壊できたとしても、次のターンには破壊耐性を獲得して再び蘇ってくる。

 

 誰もが竜崎の敗北を確信する中で、ただ一人竜崎だけは諦めていなかった。

 デュエルは最後までわからない。

 自分のデッキを信じて、カードを信じて戦い抜く。

 

 その想いに、きっとデッキは応えてくれるはずだ。

 

 膝を折らぬ竜崎の姿に、会場のチーム俺たちの面々は眩しいものを見たと、思わず目を細めてしまう。

 

 竜崎の在り方は正しい。

 これこそがデュエリストのあるべき姿だ。

 そして諦めなければ、デッキはきっとそのデュエリストに応えてくれる。

 

 そんな数多くの熱いデュエルをたくさん画面越しに見てきたチーム俺たちだからこそ、観客たちが可哀そうな目で竜崎を見ていたとしても、竜崎の勝利の可能性を見誤らなかった。

 

 そう、この世界のデュエリストはどんな小さな可能性でも、勝利に結びつけるチャンスがある。

 

 その輝かしい原作キャラの可能性を見誤らなかったが故に、わくわくアーゼウスは次のターンなど絶対に竜崎に与えるつもりはなかった。

 

 舐めプダメ絶対。

 

 ソースはアニメの中で遊戯を前に、余裕かまして散っていった数多のデュエリストだ。

 主人公補正は怖い。

 

「そして、黄金卿のしもべはガーディアンだけではないよ」

 

「ッ!?まさか、その残り1枚の伏せカードは!?」

 

「罠カード、【黄金郷のワッケーロ】を発動。このカードは攻撃力1800の罠モンスターであり、【黄金卿エルドリッチ】がフィールドにいるときに特殊召喚に成功した時、相手の墓地のカード1枚を除外する」

 

 呪いによって生ける屍となった、盗掘者の罠モンスター。

 

 不穏な空気が流れる中、倒れ伏した竜崎の【ヘルホーンド・ザウルス】を食い破って出現する。

 それは体中が腐敗し、崩れ、それでもなお動きうめき声をあげるゾンビであった。

 

 そんなR18映画のようなあまりにも惨い光景に、会場の女性子供は悲鳴を上げ、熟練のデュエリストでさえ顔をしかめた。

 

 わくわくアーゼウスも、このソリッドビジョンの本気にドン引きしている。

 思えば漫画でも結構エグイ描写のカードがあったが、リアルで目の前にするとさらに酷い。

 これは子供が泣いてしまうだろう。

 

「んな、阿呆な……」

 

 竜崎は呆然とエルドリッチを眺める。

 

 何度でも蘇り、破壊耐性を獲得する黄金卿。

 そして特別な専用罠モンスターに、相手を封じ込める恐ろしい永続罠。

 さらにはその罠を守り、手札から発動可能な異形の王。

 

 何か自分にできることはあったのではないか。

 何かミスはあったのかと、悔しい思いを飲み込んで自問自答する。

 

 そして様々な葛藤を繰り返したのちに、彼は一つの結論に達した。それは非常にシンプルな答えだった。

 

「インチキ効果もいい加減にせぇ!!」

 

 カードパワーが違い過ぎた。

 

 何度も蘇るカード、しかも攻撃力3500。

 しかも破壊耐性持ちとか、どうやって倒せばいいんだ。

 仮に1体を対処できたとしても、後2枚もいるに違いない。バカげている。

 

 自分はどうすれば良かったんだと吼えた竜崎。

 それにわくわくアーゼウスはきょとんと一言。

 

「え?【神の宣告】とか【王宮の勅命】を引けてなかったから、【ハリケーン】で負けるって実は焦ってた件」

 

「そんな都合よく、必要なカード引けるわけないやろ!?」

 

「引けないの!?」

 

「当たり前やろ!?」

 

 そんな都合よくカードが引けるんだったら、自分は全国大会優勝できているに違いない。

 ぐわーっと頭をかき乱す竜崎に、わくわくアーゼウスは戸惑いを隠せない。

 

「デュエリストとは、時に必要なカードをデッキの一番上に創造したりするんじゃないのか!?」

 

「どんな発想があったら、デュエルモンスターズにそんなトンチキなオカルトを絡められるんや!?」

 

「デュエルモンスターズってオカルトでしょ!?」

 

「アホ!カードゲームや!」

 

「ならリストバンドに隠していたカードをこっそり使うとか!?」

 

「そんなことする屑みたいなデュエリストがいるわけないやろ!?それにもしそんなことをしたら、デュエルディスクが感知してアラームが鳴るで!」

 

「ピンチの時には、カードの効果が書き換わるってこともあるはず!?」

 

「まるで意味がわからへんこと言うな!」

 

 わくわくアーゼウスの奇天烈な発言に、頭を沸騰させた竜崎はすばやいツッコミを入れていく。

 デュエルモンスターズのデュエル中なのに、二人がこんな有様なので漫才のような空気になってしまっている。

 

 観客も司会のお姉さんも戸惑いを見せる中、ご乱心中の主人にエルドリッチは大きく肩を落とした。

 

 そして、心配そうにこちらを見つめるワッケーロを見つめると、「もういいからやってしまえ」と言わんばかりに指先を竜崎に向けた。

 

 頷いたワッケーロは、恐る恐るツッコミに夢中になっている竜崎に忍び寄る。

 竜崎が自分に覆いかぶさった影に気づき、ぜぇぜぇと荒い息をそのままに影の方を見れば、そこにはその腐れ落ちつつある腕を振り上げたワッケーロの姿が。

 

「……あ?」

 

「あー、はい。【黄金郷のワッケーロ】でダイレクトアタック」

 

 気がついたわくわくアーゼウスの気の抜けた声。

唖然とする竜崎に振り落とされた手は、竜崎の頭を軽くたたいた。

 

わくわくアーゼウスWIN。

 

 

 

 

「くぅ、覚えとれよ!必ずこの借りはいつか返したるからな!」

 

「はい!ありがとうございます!よろしくお願いいたします!」

 

「めっちゃええ返事やな!?くそ、気が抜けるでほんまに……」

 

 仮面越しでも笑顔が分かるようなわくわくアーゼウス。

 最後の握手として差し出された竜崎の手を、小さな両手で包んで何度も何度も楽し気に握りしめている。

 

 戦っている最中はこれ以上ないくらいに恐ろしい相手だったのに、デュエルが終わるとこうも見た目相応の子供らしさが見えてくるのは何とも言えない。

 

 だが、この見た目に騙されるデュエリストはもういないだろう。

 

 司会席で先ほどの試合を総括する、金髪カールのお嬢様。

 わくわくアーゼウスをうらやまし気に、指をくわえて見ているソリティアガール。

 そして手を大きく竜崎に向かって振りながら、壇上を弾むように降りていくわくわくアーゼウス。

 

 可憐な乙女たちだが、いずれも恐るべきカードを驚異のデュエルタクティクスで扱う凄腕のデュエリストなのだ。

 

 世界中に放送されたこのデュエルは、多くの驚きと歓声によって迎えられた。

 そして世界中のデュエリストたちにその存在と強さが改めて知られることとなり、チーム俺たちの名声は大きく高まることになった。

 

 それはチーム俺たちの社会的な価値を上げることに繋がり、ひいては彼らを看板とするカンパニーの評判を押し上げていく。

 BIG5は狙いが見事に達成できたと各々笑みを浮かべ、さらなる野心を燃やした。

 

 これでにやにや動画を含めた、自社のソーシャルネットサービスを取り巻く交渉の壁が低くなり、ネットにおける広告収入ビジネスにも大きな利益が見込めるようになったからだ。

 BIG5は自社拡大、利益の増加、顧客の獲得、さらには企業・政府間への交渉にこれからさらに尽力することなる。

 

 一方、デュエリストはこのたった2回のデュエルによって、いやでもチーム俺たちを意識しなければいけなくなった。

 

 世界はチーム俺たちを知ってしまった。

 その異常なデュエルは彼らの個性であり、常識から外れた普通ではないデュエルであることは間違いない。

 

 しかし、これから世界のデュエリストは比べられる。

 チーム俺たちは評価のひとつの基準になる。

 

 世界のデュエリストにはランクがあり、その実力からデュエリストの団体からは順位付けされることもある。

 これまではそれだけが絶対の基準であった。他に彼らの名声・実力を示す基準はなかった。それだけで十分であった。

 

 だが、そこから外れたチーム俺たちという存在が、どこからか飛び出してきてしまったことで世界の評価は変わる。

 

 「このデュエリストは強い。どこどこの大会で優勝している」

 「ランク上位層のデュエリスト。世界的な評価も高い」

 「しかし、このデュエリストはあんな衝撃的なデュエルをするチーム俺たちに勝てるのか」と。

 

 プライドが高いデュエリストにとって、自分の実力を疑われるなんてこれほど屈辱な話はない。

 故に、己の実力を自負する世界のデュエリストたちは、「打倒チーム俺たち」の決意を心に刻む。

 

 そう、この日のチーム俺たちのデュエルは、チーム俺たちの想像以上に大きな影響を世界に与えてしまった。

 

 本人たちは「スマホを落としただけなのに」よろしく、「普通にデュエルしただけだったのに」ぐらいなもの。

 求められたから、失礼がないように全力で戦っただけであり、「生でインセクター羽蛾とダイナソー竜崎と会えた!」と大興奮していたわけだが……。

 

 カードゲームで人が死ぬこともある、そんな本来架空のものであった遊戯王の世界観。

 

 それをリアルの社会でお金を稼いで生きている、いわゆる普通の人間が、この世界の常識を本当の意味で理解ですることがそもそも難しい話であった。

 

 

 

 

 

 

 

「やったー、ダイナソー竜崎のサインゲット!リアル世界初!これは草を超えて森!」

 

「い、いいなぁ。私、結局サイン、もらえなかった……」

 

「顔芸はリアル世界初ですわよ」

 

「草」

 

「は、ははは。手札が良すぎて、カード回しが、もう、楽しすぎて、抑えきれなくなりました。はい」

 

「気持ちはわかりますけど、ねぇ?」

 

「インセクター羽蛾選手に合掌」

 

「わくわくアーゼウスさんも人のこと言えませんわよ?」

 

「!?」

 

「いや、『!?』じゃありませんわよ」

 





私生活の理由でぐだぐだしてましたが、なんとか目途がたって一安心。
いろいろあったせいで竜崎戦が気がついたら長くなってました。ストレス発散で二次を書くのって楽しい。

次回も一気にかけているので、割と早く投稿できるかも。四日後ぐらい?

◎わくわくアーゼウス

アーゼウスの仮面を被った少女。
大好きなデッキは語感で気に入っているわくわくアーゼウス。

が、使用できないために、うんうんと頭捻って選んだデッキがあれ。
割と長期戦を見て、ソリティアガールみたいに一気に攻めるのではなく着実に勝てるデッキを選択したが、そもそもカードパワーが段違いなことを忘れている。

ダイナソー竜崎のサインは特殊加工され、万全の体制で壁にかざられているそうな。

◎【黄金卿エルドリッチ】

なんでこんなカードを出した。

エルドリッチをあらゆる場所から特殊召喚する「エリドリクシル」、相手を妨害する「黄金卿」罠モンスターを従えて暴れまくった化け物。

この話での描写では使用後に書かれていないが、実は相互に墓地から除外してデッキから「エリドリクシル」と「黄金卿」をサーチできる。
しかもフィールドに、しかも相手ターンに。

こんなカードでもてっぺん取れないのがOCGの魔境具合。
というか、もっとやばい炭酸野郎が大暴れ中。
その結果、餅とカエルが禁止されたと言われて、遊戯王知らない方がどれだけ理解できるのだろうか……。

◎【スキルドレイン】

フィールドの効果モンスターの効果が全て無効になる。
こんなカードが許されていいのかって思うかもしれないが、使っている人以外は誰も許していません。

◎【虚無空間】

なんでお前、禁止になっていないの?

そんな長年の問いにコンマイが応え、目出度く最近禁止になりました。
だがきっと多くの遊戯王プレイヤーは「判断が遅い」と某先生みたいになってるはず。

制限だからギリギリ許されていたらしいが、最近これを安定してサーチできるようになったので禁止に叩き込まれた模様。

◎【王宮の勅命】

「どうしてわざわざ二回も殺すんだっ! なぜあのまま死なせてやれなかった!?」というブラックジャックの名言を思い出させてくれたカード。

実は登場してないだけでちゃんと入っていました。やったぜ。

きっと、遊戯王プレイヤーの誰もがずっと死んでてくれと願ったカードに違いない。
エラッタされて復帰したが、結局効果がぶっ飛んでいた肝心のところが修正されていなかったのでまた禁止に。

その効果は魔法の永続無効。
遊戯王で許されるのは、罠の永続無効ぐらいなものだと思う。
つまり許されなかったので、こいつは再度禁止になった。

たぶんこのカードをエラッタした担当はおハーブをキメてるんだと思う。

エラッタで再度禁止に叩き込まれたのはこのカードが初。
そんな運営が考えなしなカードゲーム、遊戯王は大変楽しいゲームなので、みんな楽しく遊びましょう(白目)

※追記
間違えておりました。
クリッターくんという可哀想なカードもおりました。
今は無事無制限なので、大切にしてあげましょう。
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