勝てなきゃ走る意味が無いと、俺はハルウララに言った   作:加賀崎 美咲

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一人じゃないから

 毎夜、眠る時に思っていたことがある。

 

 それは、単なる後悔。

 

 あの時、俺はどうするべきだったのだろう。

 

 そう自問する。

 

 もし、だったら、なら良かった。今となってはどうとだって言える。

 

 けど、俺は逃げてしまったんだ。

 

 どんな言い訳を述べようと、現実に残る結果は、変わりやしない。

 

 後悔している。

 

 俺はマックイーンから逃げるべきじゃなかった。

 

 後悔している。

 

 俺はあの時、あいつよりも我が身を大切にした。

 

 後悔している。

 

 あいつを悲しませた。

 

 自分が間違っていたことに今更気がついた。

 

 あの黒い喪服のような勝負服の意味を、俺は理解している。

 

 俺はずっとあいつに負担を強いていた。

 

 あいつを勝たせなければ、俺に意味がないと。舞台装置を気取っていた癖に、成果を残したいとわがままを抱いた俺を、あいつは背負ってくれていた。

 

 それなのに俺は自分に酔って、悲劇の主人公ぶって、自分が被害者だとでも言わんばかりに、振る舞っていた。

 

 お粗末な話だ。

 

 結局のところ。俺は自分のことしか見えていなかった。

 

 相手を信じている気になって、自分のちっぽけな誇りや、過分な自尊心をあいつに背負わせていた。

 

 勝てないのは俺のせい。なんて、傲慢な考えだ。

 

 俺はずっとバカにしていたんだ。

 

 マックイーンの努力を。たくさんのウマ娘の走りを。トレーナーたちの頑張りを。

 

 悪いのは俺だ。

 

 もっとマックイーンと話すべきだった。

 

 あいつの気持ちから目を離して、自分のことだけを見たことは俺の瑕疵だ。

 

 もっと周囲を広く見るべきだった。

 

 自分たちの努力が報われるはずのもの、なんて傲慢な考えは俺の驕りだ。

 

 なによりも、マックイーンの手を離してはいけなかった。

 

 俺が俺である理由を、気づかないうちに、俺は自分で捨ててしまっていたんだ。

 

 反省している。

 

 俺が間違っていた。

 

 そんな簡単なことに、気付くまでにずいぶんと長い時間がかかってしまった。

 

 だから、俺はもう間違えない。

 

 間違えたくない。

 

 傷ついても、苦しくても、逃げ出したくなっても。それでも、もう後悔だけはしたくない。

 

 だから俺はもう一度立ち上がることにした。

 

 みっともなくて、情けなくて、得るものがないかもしれない。

 

 それでも俺はまた歩き出したい。

 

 結局は俺のわがままだ。

 

 でも、それが俺なんだ。 

 

 俺が俺でいられる理由。

 

 それを取り戻したい。

 

 終わりだなんて言いたくない。

 

 誰にも言わせない。

 

 負けても終わりじゃない。

 

 テイオーが示してくれた道は、俺の中で輝くものに変わった。 

 

 最初に抱いた、あの熱を思い出させてくれた。

 

 だから、はじめの一歩は彼女とともに歩く。

 

 立ち上がらせてくれた礼に。そしてまだ終わっていないと証明するために。

 

 俺たちは世界と、マックイーンに証明しなくちゃいけない。

 

 まだ俺たちは諦めちゃいないと示す。

 

 さあ、行こうテイオー。

 

 俺たちがたどり着きたい場所、その第一歩を。

 

 折れた足で進んだ。

 

 

 

 ●

 

 

 

 テイオーのリハビリとトレーニングは並行して行っていた。

 

 二度の骨折を経て、テイオーの足は想像以上に脆くなっていた。だからいかに負荷をかけず、それでいてマックイーンに勝てる走りを完成させるか、それが焦点となった。

 

 完治と骨折手前を何度も往復する激痛の反復。それが俺たちが選んだ走り方だった。

 

 レースフォームの矯正と走力の強化を骨の折れるギリギリまで行い、限界点に到達したら休養を差す。

 

 一歩違えば二度と走れなくなる、そんな危うい綱渡り。当然、テイオーが感じる痛みは想像を絶する。

 

 骨を折る為に走るようなものだ。その激痛は一度の骨折を延々と繰り返すのと何も変わらない。

 

 それでもテイオーはやめるとは言わなかった。

 

 こんなイカれているとしか言えない方針を、それでもなお、彼女は笑って言った。

 

「骨折する痛みを我慢し続けるだけで良いんでしょ? 任せてよ。こっちは2回もやらかした骨折のプロだよ? あと何回味わったって、ボクが心折れるワケないだろ?」

 

 全てはマックイーンに勝つ為。

 

 自分は何一つ終わっていないと証明する為、彼女は痛みを背負いながら走った。

 

 俺に出来ることは彼女の足が折れるギリギリを見極めて、ゴーサインとストップを指示することだけ。

 

 一度でもヘマすれば、その時点で俺たちの再起は頓挫する。

 

 それでもテイオーはやってのけた。

 

 骨折手前になること十数回。

 

 約半年の期間を経て、無敗の伝説トウカイテイオーは、不屈のトウカイテイオーへとその力強さを変えていく。

 

 一度壊れてしまった器を繋ぎ合わせ、不恰好さと力強さを磨いて。

 

 予定通り、テイオーは完成しつつあった。

 

 彼女は約束を果たした。

 

 だからあとは俺がやるべきことを為す。

 

 その番が回ってきた。

 

 ここからは俺の戦いだ。

 

 

 

 ●

 

 

 

 一年振りにやってきたメジロ家本邸は変わりないようだった。

 

 門を叩いて入り、敷地内を進んでいく。

 

 一年も過ぎて中庭の様相も随分と様変わりして、自分がずいぶんと長い時間を離れていたことに、今更ながら実感する。

 

 見事な造園を通り過ぎ、やっと目的地にたどり着く。

 

 メジロ家本邸。俺が幼少期を過ごし、そして今日まで離れていた、俺が帰るべき場所。

 

 館の前に来て、執事が俺を待ち構えていた。

 

「お引き取り下さい。今一度面会の手続きを。お嬢様は貴方とお会いしないと——」

 

「家族に会うのに、断りが必要なのか?」

 

「——っ!」

 

 執事はずっとお世話になった人だ。こんな傍若な物言いをすることに抵抗はある。

 

 けれど、それでも俺は今日、あいつに会わなければいけなかった。

 

 執事はそれ以上何も言わず、道を開けてくれる。

 

 深く一礼して、押し通る。

 

 すれ違いざま、彼から一言だけ乞われた。

 

「お嬢様をよろしくお願いします」

 

「——俺の責務を全うします」

 

 俺に言えることはそれだけだった。

 

 出来ると保証できない。

 

 俺は、俺が為すべきことをするだけだ。

 

 上手くいくかは俺次第。

 

 本邸に乗り込み、廊下と階段を迷うことなく進む。

 

 目的地はハッキリしているんだ。間違えるはずがない。

 

 2階の奥の角の部屋。

 

 あいつの部屋は変わっていない。

 

 ドアの前に立ち、一度深呼吸する。

 

 これからやることを再確認して、意を決して扉を叩く。

 

「入るぞ」

 

 返事は無い。

 

 それでも前へ進む。

 

 扉を開けて部屋に入る。

 

 灯をつけず、カーテンも閉め切った部屋。

 

 その奥で彼女は椅子に腰掛けていた。

 

 待ち構えたように俺に正対して、足の上に手を重ねて。

 

 彼女は俺に気がついている。

 

 何も言わない。

 

 俺に言うことなど無いのだろう

 

 だから俺は言う。

 

 もう一度、走り始める為に。

 

「秋の京都大賞典。それに俺とテイオーは出る。そこで俺を見極めてくれ」

 

 秋に行われる京都大賞典。秋の天皇賞をはじめとする、重賞の試運転と云われるレース。

 

 そこが俺とテイオーが選んだ決戦の時だった。

 

 秋の天皇賞にも、マックイーンは出場するのだろう。ならば京都大賞典にも彼女は出る。

 

 だから俺たちはそのレースを選んだ。

 

 しかしマックイーンは何も言わない。

 

 黒いヴェールに隠された顔から、表情は読み取れない。

 

 かろうじて見える唇は真一文字に結ばれ言葉を発さない。

 

 しばらくの沈黙があった。

 

 そしてマックイーンはゆっくりと口を開く。

 

「なぜ、なぜなのですか? あなた? あなたはレースから、私から逃げたのでしょう? なら、それでいいではないですか」

 

 分からない、理解できないとマックイーンは言う。

 

「あなたは頑張りました。私のために人生を費やして、何も得るものがなかった。私たちでは勝てなかった。それだけではないですか」

 

 諭すような優しい口調。悲しいけれどそれが現実と、彼女は語っていた。

 

「あなたには、あなたの人生がある。今からでも別の道を選び、違う形でも、人生の幸いを探せる。他の生き方なんていくらでもある。それなのに、なぜ、そうなさってくれないのですか?」

 

「俺の幸せはお前と走ること。ただそれ一つだ」

 

 ハッキリと言葉にする。

 

 面食らったようにマックイーンの言葉が止まる。

 

「逃げたことを謝りたい。またお前と走りたい。それが自分勝手なことは充分承知している」

 

 いまさらそんな資格が俺に無いことは分かっている。分かっているけれど、それではい、そうですかと受け入れられるほど、俺はまっすぐでいられない。

 

 諦められない。諦められるものなら、初めから夢に見やしない。

 

 いつかテイオーが言った言葉は俺の中で息づいていた。

 

「だから、お前に許してもらえるように、俺が諦めてなんかいないと示すために、俺はもう一度戦うことにした」

 

 メジロマックイーンのトレーナーは俺だ。誰にも、否とは言わせない。

 

「お前のいるところ、お前が見ている景色に、すぐ追いつく。俺はまたお前と肩を並べて歩く。だから少しだけ待っていてくれ」

 

 マックイーンは何も言わない。

 

 静かにヴェール越しに俺を見ている。

 

 不快に思っただろうか。

 

 今更遅いと怒っただろうか。

 

 諦めが悪いと失笑しただろうか。

 

 沈黙して、マックイーンが出したのは疑問だった。

 

「なぜ、あの時私を捨てたのですか?」

 

「あの時、俺は自分のことしか見えていなかった。俺の身勝手でお前に迷惑をかけた」

 

「私では、あなたが立ち上がるのに力不足、私ではダメだったのですか?」

 

「違う。けどテイオーに、諦めていいはずがないと教わった。お前のために、俺は今ここにいる」

 

 離れたことも、こうして戻ってきたのもまた、俺の身勝手だ。

 

 俺はまた身勝手さをマックイーンに押し付けていた。

 

 それでも俺にはマックイーンが必要だ。

 

 俺たちは命と魂を分け合った運命共同体。

 

 俺たちは互い無しには飛べない比翼の鳥。

 

「だから見ていてくれマックイーン。俺を。お前の俺を」

 

「——」

 

 マックイーンは小さく息を呑む。

 

 そして顔を伏せ、ポツリと声を小さくつぶやく。

 

「京都大賞典。当然、私も出場します。けれどトウカイテイオーが勝つことはありません。あなたの最高のウマ娘は私。それが揺らぐことはありません」

 

 テイオーが勝つ。そう前提して話を進めていたことにマックイーンの負けず嫌いが引っかかったようだ。

 

 挑発するようなマックイーンの物言いに、俺は内心浮き足立っていた。

 

 自信満々で、誇り高く、自分を信じている。いつものマックイーンが少しだけ顔を出している。

 

 それがたまらなく嬉しくて、俺は笑っていた。

 

「それはどうだろうな。テイオーは完成したと言えるくらいに仕上がっている。油断していると、案外あっさりとお前に勝つんじゃないか?」

 

 挑発するような物言い。

 

 マックイーンは軽く口調を荒立てる。

 

「あんな横からひょっこり出てきただけのちびっ子に私が遅れを取ると? 私の何を見てらして?」

 

「昔から乗せられやすいのがお前の欠点だからな。割と正当な評価だと思うぞ?」

 

「言いましたわね。ええ、良いでしょう。私に勝てたらトレーナーに復帰でも、なんでも好きになさって。でも、負けたらどうなさるおつもりで? まさか負けて、はいさようなら。なんて言わないのでしょう?」

 

「お前の好きにしてくれ。煮るなり焼くなり、俺はお前の自由だ」

 

「それは、それは。とても良いことを聞きました。今からあなたに何をさせようか考えるのが楽しみで仕方がないですわ」

 

「言ってろ。勝つのは俺たちだ」

 

「いいえ、勝つのは私たち」

 

 言い合い。くだらないやりとり。

 

 でも、それを俺たちは求めていた。

 

 途切れていた繋がりがまた結び直されていくような感覚。

 

 壊れていたものが、また形を変えながら、少しずつ新しい形を成していく。

 

 底にある繋がりは断ち切られてはいなかった。

 

 それだけ確認できたならもう、十分だった。

 

 マックイーンから踵を返して、宣戦布告する。俺たちの結節。また歩き始めるための日。

 

「京都大賞典でまた会おう」

 

「ええ、楽しみにしていますわ」

 

 それ以上、言葉は不要だった。

 

 あとはレースで、証明するだけだ。

 

 

 

 ●

 

 

 

 京都大賞典は小さくないどよめきと賑わいを見せている。

 

 最強と名高いメジロマックイーン。そして怪我から復帰した元無敗、不屈の心で蘇ったトウカイテイオー。二人の二度目の対決に。

 

 レースの始まる前、待機する俺たちの下にマックイーンがやって来た。

 

 彼女が纏うのは変わらず、黒い喪服のような勝負服。貴婦人のそれらしい黒は、王子然とした基調の白いテイオーとは対象的で、二人は相対する。

 

「約束通り、潰しに参りました。復活も、奇跡もない。諦めてもらいます。あなたも、あなたのトレーナーにも」

 

「奇跡を見せて、キミのトレーナーをキミのもとに送り届けにきたよ。今から嬉し泣きする準備は良い?」

 

 互いに挑発。けれどそこに悪感情は無く、ただ勝利を乞い願い、そして勝つという想いがあった。

 

 ゲートに向かう直前、テイオーは俺に振り向いた。

 

 そこにあるのは満面の笑み、そして自信満々ないつもの瞳。

 

 今更俺たちに多くの言葉は不要だ。

 

 何も成せなかった苦しみも、逃げてしまった後悔も、諦めの喪失も、俺たちは味わった。

 

 だからあとは勝つだけだ。

 

 絶対は俺たちだ。

 

 負けを知る者、そしてそこから立ち上がった者にしか見えないものが俺たちには見えていた。

 

「勝ってくる」

 

「勝ってこい」

 

 言葉は同時だった。

 

 俺たちはゲートに入る。

 

 そしてレースが始まった。

 

 一斉にゲートが開かれ、レースが始まる。

 

 先頭集団が駆け抜けて、わざとマックイーンは先行を許す。

 

 考えていることは分かる。

 

 春の天皇賞。俺たちの挫折を、あの指示を彼女は再現していた。

 

 彼女はその上で勝って見せるつもりなのだろう。もはや俺は不要だと示すために。

 

 なら俺は証明しなければならない。

 

 俺は、過去の俺を超えたと。

 

『連なった集団を、誰かが追い抜いた! あ、あれはトウカイテイオーだ! 二度の骨折を乗り越え、ターフに舞い戻ったトウカイテイオーがその走りを見せる! その走りは不死鳥の如く!」

 

 得意の大外からの突破。通常選ばないような早期の段階でテイオーは勝負を仕掛けていた。

 

 序盤ですでに後方をぶっちぎる勢いでテイオーは駆け抜けていく。

 

 これはマックイーンへの挑発だ。過去の作戦では、今の走り方ではもう追いつくことはできないぞと、勝負に誘っていた。

 

 そしてマックイーンは駆け出した。過去のではない、今のマックイーンの走り方で、彼女も集団を置き去りにして、そしてテイオーに食らいつく。

 

 一対一。白と黒とがターフを駆け抜けていく。隣を走る相手に負けるものかと、さらに速度を上げていく。

 

 レコードなどとっくに超えている。記録だとかそんなのは関係ない。

 

 今隣にいる相手には絶対に負けられない。二人にはお互いしか見えていなかった。

 

 あっという間に最後のコーナー。それでもなお二人の速度は増していく。

 

 鼻先での優越を交互に繰り返し、どちらが先に到着したのか分からないほどに接戦を繰り広げながら、ゴールなんてとっくに過ぎて二人は観客席の前を通り過ぎて行った。

 

 会場にどよめきが溢れる。

 

 誰にもどちらが早かったかなんて分からなかった。

 

 長い沈黙が続き、そして電光掲示板に名が連なっていく。

 

 結果が示されて、会場は歓喜と歓声に包まれた。

 

 勝ったのは——。

 

 

 

 ●

 

 

 

 秋と冬が通り過ぎた。

 

 季節はあっという間に春、もうすぐ新学期。

 

 袖を通した新しいスーツはまだ少し硬く、自分もまた新入生になった気分だった。

 

 トレセン学園の校舎裏にあるターフ。吹き抜ける風は爽やかで、麗かな陽光は俺を優しく照らしていた。

 

「あっ、いたいた! もう! 集合時間には早すぎるんじゃない?」

 

 授業が終わって着替えてきたらしいテイオーはからからと笑いながらやってきた。

 

「待ち合わせをしているのに遅れるわけにもいかないさ」

 

「そういうところは、よく似てるんだね。まったく、似た者同士だよ君たちは。本当に」

 

 揶揄うような物言い。テイオーらしい物言いにすっかり慣れた自分。そういえば今日で俺たちが出会ってから一年になる。

 

 俺たちが出会って再出発して。

 

 そして今日もまた、違う再出発の日だった。

 

「あら、それは私について言っているのでしょうか?」

 

 軽い調子でその声は言った。

 

 二人で振り返るとそこにはマックイーンがいた。

 

 新調した白い勝負服はよく映えて、彼女によく似合っていた。

 

 以前の喪服のような勝負服とは対照的に、白い勝負服はレースやリボンがあしらわれ、どこか花嫁衣装を連想させた。

 

 本当に、マックイーンに良く似合っていた。

 

 そのまま前に出ると、俺の腕をとって、定位置だと言わんばかりに、寄り添われる。

 

 揶揄うような、花の咲く笑みでマックイーンは言う。

 

「当然でしょう? なぜなら、私たちは運命共同体。似ているのは当たり前です」

 

「お、おい、マックイーン……」

 

 最近、こうしたやりとりが、マックイーンと増えた。気恥ずかしさこそあれ、引け目があって俺はやめてと言い難かった。

 

 何もいえず、されるがままの俺を半目でテイオーは見て鼻で笑う。

 

「イチャつくなら他所でやってよねー。ボクこれから春のレースに向けて仕上げなきゃだから」

 

「あら、そんなこと言って。また天皇賞でどちらが上か分からせて差し上げますわ」

 

「言うねー。ボクに負け越してるくせに。まあ、いっか。じゃあトレーナー! 今日も元気に張り切って行こうか!」

 

「ああ、今日から新入生が入ってくる。俺たちのチームの新メンバーになるかもしれない子たちだ」

 

 挫折して、へこたれて、それでも俺は立ち上がってここに戻ってきた。

 

 これからまた挫折することも、力及ばず悔しいこともあるだろう。

 

 けど、それで俺が、俺たちが諦めることは絶対にない。

 

 テイオーが、マックイーンが、俺がいる。俺たちにはお互いがいる。

 

 ならそれ以上に何が必要だって言うんだ。

 

 三人でなら俺たちはどこまでも走り続けられる。

 

 それぞれの目標を掲げ、俺たちは走り出した。

 

 そしてまた新しい日々が始まる。

 

 




これにてトウカイテイオーIFルート完結となります。
長いお付き合いありがとうございました。
たくさんの感想・評価、とても励みになり、楽しい気持ちで書くことができたことが私にとっての幸いでした。
もしまた別の作品で会うことがあれば、またよろしくお願いします。

追伸:私の中の恒例、今作のテーマ曲です。
テイオールートはいくつかありますが、代表して二曲、
米津玄師さんの『ピースサイン』
BLUE ENCOUNTさんの『BAD PARADOX』
を挙げさせていただきます。
どちらも素敵な曲ですので宜しかったら拝聴ください。 
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