5章を読み返し終わって、ある程度構成も十分に固まったので、投稿を進めていきます。
まあ全体を通した大まかなプロットは作ってるんだけど、章ごとの詳細は詰め切れてなくて、そこは割とその時の気分とノリで書いてるので、整合性はお察し。
矛盾を見つけたら広い心で受け流して、“なんだこの作者”と思いながら口を噤んでください。
お兄さんとの約束ね。
カントリー・ロードー1:『to be ...』
世の中は決して、平等ではない。
名もなき者に、力なき者に、スポットライトは当たらない。
私は、そんなことを何度だって経験してきたし、痛感してきた。
人類は繫栄し。領土を広げ。知恵と技術を発展させ。この星の頂点へと上り詰めた。
しかし、その偉業を成し遂げたのは、これまでに生まれ落ちた人類の総数から見ればあまりに少ない、一握りの者たち。
それを人は──名もなき者たちは
人類史に積みあがる生命。その99.9%は、ただの凡人。それを覗いた一滴だけが、英雄の存在に他ならない。
ならばきっと、生涯で
欲を言えば、恋と愛の女神様にも目をかけてほしいものなんだけれど。
──さて、そろそろ自己紹介をしようか。とはいっても、私のことなんて、誰も知りたがらないだろうけど。
──私の名前は
ちょっと特別な友達がいて、ちょっと長めな初恋を捨てられずにいる。
この地球じゃとくに珍しくもない。そこらに生えてる名無しの
◆
◆
ああ、えっと。
ちょっと、目の前の状況を理解したくないから、一つ回想してみるとしよう──走馬灯という言葉が脳裏をよぎった。努めて無視した。
あれは何時のことだったか。
──そう。いきなりの海外就職かなんだかしらないけれど、仮にも親友の私に大した言葉もかけずじまいだったあの二人を追いかけて引っ叩いてやろうと、旅費を稼ぐためのアルバイトに精を出していた昼下がりだ。
春先には珍しくうだるような暑さを差し向ける太陽に心底うんざりしながら空を見上げれば、雲一つない青色の空を切り取る白光の円環が現れた。
私も、バイトの先輩も、お客さんたちも、その場の皆がそろって不気味な空を見上げて、思い思いに感想を零した。
そしてその次の瞬間には、全てが終わっていた。
あの日、私の生きる日常は突如として、塵一つ残さず破壊──いいや、多分
それは、ゾンビものや世紀末ものの映画のように、荒廃した街に独りぼっちだとかそういう次元ではなくて。本当に何もない世界に、真っ暗で音も地面もない、五感の一つさえ刺激を受け取ることのできない世界に、私はある日突然放り出された。
なぜ私だけなのか、というのは当然の疑問だった。どうにか元の世界に、という欲望が湧き出たことには誰にも文句を言わせない。私は自慢ではないが、年齢相応の感性と能力を兼ね備えた、ごく普通の女性だ。私の反応はきっと誰だって同じようにするに違いない、当然のもののはずだろう。
だからこれも当然なのだが、私が生き残りとして選ばれた理由も、元の世界に戻る(あるいは世界を取り戻す)方法も、なんにも分かりはしなかった。私にこんなオカルトじみた出来事をどうこうする能力はないからだ。
だから私にできたことは、まるで大海原をふよふよと回遊するプランクトンのように無力に、このなんにもない世界を漂うことだけだった。
ところで、人は真っ暗な部屋に閉じ込められるだけで気が狂うとは有名な話だけど、それより酷い環境に気の遠くなるくらいの時間漂っていても、今のところ私は正気だ。(と自分では思う)
それがなぜかなんてわからない。そもそも今のところ正気なだけで、この日々が辛くないわけではないから、当然いつ発狂するかもしれない身ではある。
ただ私には一つ果たすべき約束と満たしたい欲求があって、それが今のところは私を私として保ってくれているのだと、私は信じている。
人は強い想いがあれば何でもできる、と唱えるほどロマンチストではないけれど。人は想いがあるだけ強くなれる、と思うほどには精神論を支持している身だ。
そういう意味では、私の初恋の人は、強い想いの権化のような存在だった。背負った想いが強すぎて重すぎて、はちきれんばかりだったから、いつ潰れるかと親友と二人で冷や冷やしていたけれど。
ああ、見えてる時限爆弾を処理するような心持で接する関係ではあったけれど、3人で過ごした日々はとても楽しいものだったなあ。
高校卒業の日に、あの人を引っ叩いて普通の幸せを掴めるようにしてあげるんだって、リツカと約束したんだよね。懐かしいなあ。約束を果たすためにも、早く旅費をためて二人を追いかけなきゃなあ。
──そろそろ現実を見ようと思う。
何もない地獄のような世界を漂っていたと思ったら。
いつの間にか、着の身着のままで赤土の荒野に放り出されていました。
しかも遠目ではあるけれど見える位置に、明らか戦闘民族ぽい人たちが行軍しています。
わたしなにかわるいことしましたか……?
◆
◆
その女を見つけたのは、ただ単に運がよかったからだ。いいや、運が悪かったととらえてもいいのかもしれない。
ともかく無限に広がる荒野で、放っておけば屍を晒すだろう世間知らずのお嬢様をケルトではなくオレが見つけたという事実は、数奇なもので良くも悪くも運命的な邂逅だった。
アイツにとっては運よく救助を得られて、オレにとってはお荷物が一つ増えたこの出来事。
そう考えれば、ああ、運が悪かったって言いきっていいだろうか。
ともかくとして、その女は西部の連中の張った最前線のそのまた東、エリアとしては当然ケルト勢力のホームグラウンドであるはずの場所に、武装どころか旅装すら身に着けずに立ち尽くしていた。
100ヤード先には当然ケルトの雑兵どもが行軍していて、そんなところに下手すればティーンエイジャーを抜け出していない女が一人なんていうのは、あまり良い結果を想像できない。
即殺してもらえればまだベターな結果。アイツらの機嫌次第では、性欲解消の奴隷として使われるだとか、それとも達磨にされて叫ぶ姿を見世物にされるだとか、命を失うよりも酷い結末はなんだってある。
まあとりあえず。あからさまに厄介ごとの種ではあったが、これでもまだ良識ある人間だと自負している者として、オレは目の前の女を見捨てられなかったわけだ。
──ああ、そういえば、まだ名前も名乗っていなかったな。
──オレの名前は、そうだな。まあ、大して珍しい名前でもない。“ジョン”とでも。そう呼んでくれればいいさ。
◆
◆
「──おいお前、何やってやがる」
そう声をかけて、その女の腕を引く。下に向かって強く力を込めて、地面に這いつくばるようにさせた。
女に手を上げる趣味があるわけじゃない。ただこの赤土だけが積みあがった荒野で黄色の髪と黒い服装はかなり目を引く。
サーヴァントとやらがいれば伏せた物音を聞かれて発見されるから意味のない行為だが、理性を飛ばした戦闘マシーンのケルト雑兵相手ならば、視界に入る入らないの問題を考えるだけでいい。
背後から大柄な男に押し倒されて、心底びっくりしたのか恐怖したのか。まあ当然の反応だが、叫ぼうとしやがったので、オレはとっさに手で口を覆った。
「──っ! ──!?」
「静かにしろ、あいつらに気づかれたらオレもお前も仲良く天に召されるぞ!」
静かに叫ぶなんて器用な真似をしながら半ば脅すように言えば、女はコクコクと頷いて大人しくなった。
随分と素直なもんだ。この年頃なら反発的なのが普通だし、そうでなくともこの女目線ではオレは下手したら強姦魔か人さらいの類だろうに。
じいっとこちらを観察するように見つめているが、そこに敵意があるわけでもない。困惑しているのは分かるが。
この殺伐とした北米の大地においては、珍しいタイプの女だな、とオレはなんとはなしに思った。
まるで、今の今まで普通の生活をしていたところ、急にここに連れてこられたみたいに、なんもわかっちゃいない面をしている。
「──さて、と」
数分ほどすれば、ケルトの大軍は地平線へと沈んでいった。あの量ならきっと最前線の連中は消耗を強いられるだろう。犠牲が3割で済めばいいほうだろうか。
──などと、今のオレには関係のない推測を巡らせていることに気づいて、意識を切り替える。
女の上から体をどけて、今度は手を引いて立ち上がらせた。女は砂や土で汚れた腹回りを手で払うと、こちらに向き直った。
「誰だか知らないですけど、どうもありがとうございました。強引なやり方にはちょっとびっくりしたけど、助けてくれたみたいですから。感謝します」
「──ああ、いや、ま、
「東部? 最前線?──なんだかわからないけど、気を付けます」
「わからないって、お前さんな……」
「それで、ここから一番近い街ってどっちにあります? 洋服以外になんにもないので、まずは人のいる街にいきたくて──」
「……そりゃ街なら色々ありはするが、どこもかしこもケルトどもしかいねえよ。自殺したいなら止めんが」
「ケルト……? なんでアメリカでケルトの話が……? えとじゃあ、危険じゃない街ってどっちにあります?」
「まともな連中がいるのは、こっからずっと西にいったとこだ。そこも安全じゃあないが、生き残りたいならそっちだろ。まあ、大統王が働き盛りのお前さんみたいなのを放っておくとも思えんから、死んだ方がましなくらいの労働を課せられる目に見えてるが」
「だいとう……おう? “りょう”じゃなくて……?」
どうにも話が伝わっていないのがわかる様子に、ため息をつく。
確かに数ヶ月前までのアメリカなら、戦争の情報なんぞ軍兵の連中だけが知っていればよかっただろうが、今や国民総動員の戦場と化しているのがこの北米の現状だ。言葉を覚えたてのガキでもこの北米の勢力図のことをそれなりにわかっている。
だというのに、この女は、本当になんにも知らないように見える。不思議なもんだ。怪しいともいえる。
「お前さん、なんでこんなところにいたんだ。人さらいにでもあったか? それとも東部の街の生き残りなのか?」
そう聞きながらも、脳内ではこの女がどういう存在であるのかの謎の答えを探している。
一つ。こいつは人さらいにあって、こんなところに放置された。昨今の事情を知らないのは監禁されていて知りえなかったから。
一つ。こいつは東部の生き残りで、戦争のショックで記憶を失ってしまった。
一つ。信じられないことだが、こいつは天使か悪魔の類で、無から生えてきた超常の存在。当然俗世の事情など感知していない。
こんなところだろうか。
はたして返ってきた答えは、予想したものと中らずと雖も遠からずといったところだった。1番目と3番目のあいの子と言えばいいか。
「私、今まで、ここじゃないどこかにいて──」
◆
お互いの情報を交換して、オレたちはとりあえずその場を去ることにした。
荒野のど真ん中、しかもケルトどもの通り道でもあるそこにとどまっていては命がいくつあっても足りはしない。
とりあえず見晴らしのいい荒野よりも、その辺の森に身を隠そうということになって、オレたちは歩いた。
距離にして15マイルほどの長さ。しかもケルト兵から発見されるのを警戒してそれなりに急いだ。鍛えているわけでも、大統王の兵士改造を受けているわけでもない目の前の女──ナツキにとっては、簡単ではない道のりだっただろう。
当然、息は切れていたし、脚もパンパンに張っていた。が、最後まで弱音を吐くことなく歩ききった。どうやら少しは根性がある女のようだった。
──見た目や年齢も相まって、あいつを思い返す。
すこししんみりとしながら、オレは火を起こした。すぐそばの倒木に腰かけて足を入念にマッサージしているナツキを横目に、オレはバックパックの中を漁った。
「──ほら、食い物と飲み物だ。まずいが残さず腹に入れろ、明日も歩くことになる」
「ううう、わ、わかりましたぁ。痛たたた」
「その様子を見るに、長旅の経験がからっきしなのは本当らしいな。お前さんが未来から来たってのは、どうも信じられんが」
「──そりゃあ、私だって、私みたいなのがいきなり現れてそんなこと言い出したら、信じませんよ。こうして物資を分けてくれて付き添いまでしてくれるジョンさんには頭が上がりません」
「はは、じゃあ存分に感謝すればいい。なんなら頬にキスでもしてもらおうかね。時を超えた女のキスなんて、あいつらが羨ましがる」
「いやいや、ダメです、ダメ! 私には心に決めた人がいるんです!」
「ジョーダンだよ、ジョーダン。ほら、さっさと食いな」
オレの言葉に促されて、不味い保存食と格闘し始めるナツキ。あの様子では食いきるのに30分はかかるだろう。新兵時代に誰もが通った道だ。
昔を思い返して懐かしさを感じながらも、オレはナツキから聞いた情報を整理する。
彼女は西暦2016年の極東の島国──名前はなんだったか、“じゃぽん”?──に暮らす学生だったらしい。
だがある日、暗くて広くてなんにもできないところに閉じ込められて、そして気づいたらオレと出会ったあそこにいたと。
突拍子もないし、信憑性もない話だ。ここは1783年のアメリカ。彼女の故郷とは物理的にも時間的にも遠い遠い異国の地。そんなところに降り立つなんぞ、あまりにおかしな話だ。
急に攻め入ってきたケルトの連中だとか、サーヴァントとかいう人間とは思えない戦闘力の化け物連中とかがいる今のアメリカにおいては、決してありえないと一蹴するほどではない話でもあるが。
こいつが特別で特殊で選ばれた人間だとして。仮に、の話だ。なんでこの時代のここに来たのか。
本人は「誰かに呼ばれたような、背中を押されたような……?」なんて曖昧なことを言っていた。しかしきっと、彼女が感じたその感覚の正体を解明するのは無理だ。
だがオレには、なにか理由があるように思えて仕方ないのだ。彼女がここの来たのは偶然などではなく、きっと、なにか
「──まあ、オレが考えることでもねえか」
運命だとか意味だとか、そういう高尚なものを考えるのは、もっと優秀な──それこそ“大統王”のような連中に任せればいい。
オレは既に心折れた人間だし、敗れた人間だ。最低限の義理と義務は果たすが、それ以上の活躍はいらないだろう。
ともかくとして、出会ってしまって、助けてしまった以上は、必要な分の面倒は見る。
このひ弱な女が少なくとも生きていける場所にまでは届けてやらねばなるまい。
ひーこら言いながら進んできた道を引き返すのは、あまりに勿体ない気もする。しかしここで彼女を放り出すのも寝覚めが悪いし、そもそも、あいつから怒られるだろうから。とっくに情熱も正義感も枯れ果てた身だが、良心まで捨てた覚えはない。
──それに。
「──? なんですか?」
「……いいや、なんでもねえよ。明日は早い。できるだけ疲れを引き継がないようにな」
「了解です! ジョン教官!」
「くだらねえ冗談いう暇あったら、その飯を流し込め」
ええー! これ不味いのにー! と泣き言を言うナツキを受け流しながら、オレは外套を毛布代わりに横になる。
見張りはいらない。オレのような常人の夜目でわかるほどに接近されていたら、イコール死だ。あちらの方がスペックは上なのだから、見通しのいい昼に遠目に発見する分には避けられるが、夜は祈るだけ祈って諦めたほうがいい。
それなりに長くケルトと戦ってきた身として得た、教訓の一つだった。
うええぇ、と言いながら咀嚼を進める音を子守歌代わりに、オレは眠りに落ちていく。
いつかの日、今は遠き東の地。貧しくも十分に幸せだった、あの頃の故郷を思い描きながら。
──今日は思い出したくないことを思い出す。きっとナツキが、あの子に似ているからだろうか。
さて、前話でオリキャラ視点がどうこうと言ったと思いますが、つまりはナツキ視点が始まるということでした、ちゃんちゃん。
まあ今まで特に掘り下げもなかったキャラですし、なんだこいついきなりでできて、となる読者さんも多いかもしれないですが、ご容赦を。
前書きであんなこと書いておいてなんですが、ナツキが5章で登場することはこの小説を書き始めた時点で確定していたことなので、その場のノリとかじゃありません。
作者の拙い考えではありますが、それなりの考えと理由があって、彼女はここにいるのです。
だから、まあ、その、なにが言いたいかって……温かい目で見守ってね(はーと)ヴォエ
ま。オリキャラ扱いきれるか不安だけど頑張りますね。
※章タイトルは“北米のサイカイ”なので、今まで通り“北米ー〇”がサブタイトルに付いたらハズム(カルデア)視点。今回のように“カントリー・ロードー〇”が付いたらナツキ側の視点です。ナツキ視点なんてとばすぜオレは! という方は参考までに。
ほんなら、最後のご挨拶をするばいた。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
更新したら温かい感想や評価、お気に入りなど、多くの反応をもらえて私は嬉しい限りです。
今回もよろしくね(はーと) ヴォエ……
ではでは次の更新で。ばいなら。