ラピダスは、自動運転やAI=人工知能などに欠かせない先端半導体の量産化を目指し、ことし4月に稼働させた千歳市の工場で試作に取り組んでいます。
ラピダスの小池淳義社長は18日、記者会見を開き、今月10日に半導体の基幹部品「トランジスター」の試作に成功したと発表しました。
ラピダスが量産を目指す非常に微細な「2ナノ」相当の先端半導体では、特殊な構造のトランジスターが必要で、国内で試作に成功したのは初めてだとしています。
小池社長は会見の中で「日本で初めて“2ナノ”のトランジスターの動作を確認できたのは記念すべきことだ。今後、試作を重ね、さらに性能を高めていく」と述べ、予定どおり再来年の量産開始を目指す方針を改めて示しました。
ただ、半導体世界最大手の台湾のTSMCはことし、「2ナノ」の先端半導体の量産を計画していて、海外の大手が先行する中、ラピダスとしては巨額の資金調達や量産技術の確立、それに顧客の獲得をどのように進めるかが課題になります。
ラピダス 2ナノ相当の半導体の基幹部品の試作成功 “国内初”
国の全面的な支援を受けて先端半導体の量産を目指すラピダスはことし4月から稼働を始めた北海道千歳市の工場で半導体の基幹部品の試作に成功したと発表しました。
【先端半導体の量産化には多くの課題】
先端半導体の量産化には巨額の資金調達や量産技術の確立など多くの課題があります。
資金調達
1つめが、資金調達です。
ラピダスは2022年、トヨタ自動車やソニーグループなど日本を代表する企業8社がおよそ73億円を出資し、発足しました。
ただ、ナノメートル=100万分の1ミリというレベルの超微細な「2ナノ」相当の先端半導体を量産するために必要な資金は合わせて5兆円にのぼるとしています。
政府は先端半導体の国産化は経済安全保障の強化につながるとして、ラピダスの計画を国の重要なプロジェクトと位置づけていて、先端半導体の量産を後押しするため、工場の建設や製造技術を確立するための費用などとして最大で1兆7200億円余りの支援を決めています。
さらに政府は経営の重要事項に対して拒否権を持つ「黄金株」を保有することを前提として今年度1000億円を出資するほか、ラピダス向けの融資の一部に政府保証をつけるなどして資金調達を支援する方針です。
ラピダスはさらに1000億円規模の資金を民間から確保したいとしていますが、それでも不足するおよそ3兆円の資金をどう賄うのか具体的なめどは立っていません。
量産技術の確立
2つめは量産技術の確立です。
半導体メーカーの間では回路の幅をできるだけ細くして性能を高める「微細化」の技術開発にしのぎを削っていて、世界のメーカーではこれまでに3ナノの半導体が量産化されています。
一方、日本で量産化できたのは40ナノまでで、世界のライバルとの実績には大きな開きがあるのが現状です。
今回、ラピダスは世界でもまだ実現されていない2ナノ相当の先端半導体の量産に向けて「EUV露光装置」と呼ばれる最先端の装置を導入しました。
この装置は特殊な光を使って半導体の基板に微細な回路を焼き付けることができますが、制御が極めて難しいとされ、今後、量産するための技術を確立できるかが課題になっています。
顧客の獲得も大きな課題に
顧客の獲得も大きな課題です。
半導体世界最大手の台湾のTSMCはすでに多くの販売実績があるうえ、ことし、「2ナノ」の先端半導体の量産を計画しています。
一方、ラピダスはまだ試作の段階で販売実績はなく、量産化技術の確立と平行して顧客の開拓を進める必要があります。
ラピダスは顧客を獲得していくにあたってニーズにあった少量多品種の半導体を短い時間で提供するというビジネスモデルで他社に対抗するとしていますが、「そもそもどの程度の需要があるか分からないうえ、世界のライバルもいる中、ラピダスの思惑どおりに物事が進むかは不透明だ」という指摘もあります。
半導体産業の復活をかけて国も巨額の資金を投じる中、いかに着実に課題を乗り越えられるか、これからが正念場になります。
専門家「国がしっかりサポートしていく必要がある」
今回のラピダスの発表について半導体産業に詳しい早稲田大学大学院の長内厚教授は「多くの予想で試作も難しいのではという話もあったので、このタイミングで試作が順調にいっているということは、2027年の量産開始を占う上でも非常に重要で、その意味では好材料だ」と述べました。
そのうえで今後の課題として「技術」と「ビジネス」の2つの点を挙げ、このうち技術については「順調に進んでいるように見えるが、試作レベルでできることと潤沢に歩留まりよく生産できることは話が違う。どれくらいの歩留まりでできたかを見極める必要がある」と述べました。
一方、ビジネスについては「ラピダスは『先端半導体を作る』と宣言してから顧客を開拓するという順番で顧客がいない。技術先行で物事を考えるのは従来の日本企業のやり方で、その結果、技術的にすぐれていたのにビジネスで失敗したということを繰り返している。ビジネス先行で物事を考えるやり方を徹底的にすることが重要だ」と指摘しました。
また、5兆円にのぼるとされる量産化に向けた資金の調達については「短期的な収益性だけで判断できないようなことは、国がしっかりサポートしていく必要がある。そのうえでどう転んでもこのビジネスは失敗しないという安心感を示すことが重要だ。かなり厳しいことだが、国のお金が入ったプロジェクトだと考えるとこのくらいの要求はしかたない」と述べました。
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