■注意喚起(以下の点にご注意ください)
・パトパトチャンネルの二次創作
・本編にはないカナロカ要素
・微ヤンデレ要素
・作品内容の改変
・キャラ崩壊
・語彙力の無さ
「───久し振りに帰ってきた気がするよ…四季神社」
芦花は今日、久し振りに自宅である【四季神社】に帰省した。
最近は地球防衛軍の任務で色んな戦場に出ていて疲労が溜まっていた為、休暇という体で仕方なくここに戻ってきた。
現在の芦花は中学を卒業してから、世界的英雄であり能力科学の教授である【リオ・カムニバル】の能力技術開発局の元に研究員として就職し、それと同時に地球防衛軍の隊員という二足のわらじを履いて活動している為、必然的に自分の時間というものは限られてくる。
その為芦花は父であり仕事の上司でもある【四季凍夜】から実家に戻る事を勧められて今ここにいる。
別に実家に帰らない事自体はよくある事だ、中学生の時も個人的な事情で東京の学校に進学してからは寮生活をするか友達の家に泊まるかで実家には滅多に帰らなかったので。
「あら?帰ってきたのね、芦花」
実家に帰るや否や聞き覚えのある声が聞こえる。
「あれ?珍しいね、まさか二人共も帰ってきてるなんて」
そこには芦花の姉である【四季 雪花】と【四季 月花】の二人がいた。
「そういうあんたの方こそ帰ってこないんだから意外よ」
「あはは…それもそうだね」
「それよりさ、二人がいるって事はパト兄も来ているの?」
「いいや、今回は私達だけ帰省したわ」
【パト】とは4年以上前に四季家の養子となった義理の兄の事である。
そしてこの雪花と月花の恋人という中々に奇妙な関係だ。
芦花は4年前の出来事がきっかけでパトに対しては少し距離を置いている、とはいえ別に嫌っているとかそんな話ではない。
「パトはまだ帝国の方でやる事があるっぽいからね」
「私達も普段パトの護衛だったり専攻部隊の仕事で色んな場所を飛び回ったりするけど、やっぱたまには実家の空気が恋しくなるのよね~」
帝国とはパトの所有している国の事であり、雪花や月花の二人は現在その国で活動している。
「そうそう、聞いたわよ?芦花最近は凄く頑張ってるらしいじゃない、リオ先生のとこの研究員でありながら地球防衛軍の隊員も努めてる、中々の経歴よ」
月花は自分の妹のキャリアを自分の事のように誇らしげにしている。
「世間で言えば普通に勝組の経歴なのよねぇ…中卒の癖に」
その反対で雪花は困惑している。
「そういう雪花姉も月花姉も中卒でしょ…」
それどころかもう一人の姉である【四季 桜花】もまた中卒であり、この四姉妹は全員揃いも揃って中卒である。
「もう私ら中卒四姉妹名乗っていいんじゃない?天才であるあんた達まで中卒なんて思いもよらなかったわよ」
武力的な面では雪花の方が才に恵まれているが、知能面では月花と芦花の二人は天才の域に達しているので普通に良い大学に行けるだけの能力は持っている、それ故に雪花は今のような状態になる事を予想していなかった。
「それどころか要君もパトも中卒だしね…」
「彼氏組も中卒って何このオール中卒パーティは!おかしいでしょ!」
(うーん…ぶっちゃけ地球防衛軍に入った時期から考えるとお父さんもお母さんも中卒なんだよなぁ~…)
四季家は見事に全員中卒だった。
「はぁ~…私は神になって今の地位を手に入れられたけど、もし人間のままだったらどうなってたことやら…」
雪花は大きく溜息を吐いた。
「まぁ私は人間のままでもあ・た・ま良いから職には困らなかったでしょうけどね!」
月花はドヤ顔をしながら持ち前の頭脳を雪花にひけらかす。
「こ、これ見よがしと…!!」
実は雪花と月花の二人は神である、二年程前までは人間だったけどパトの持つ恩恵の力によって二人共は後天的に神へと昇華した存在なのである。
対して芦花と桜花の二人は人間ではあるのだが、正直親の遺伝子によって不老不死という神に近い肉体を持って生まれている上に、桜花に関しては四季家相伝の才能さえも受け継いでいる、四季家はもはや。
「あ、そういえば桜花姉は?」
四姉妹の内三人は揃っているのだが桜花の姿は無かった。
「桜花は帰ってきてないわね、連絡は取り合ってるんだけどこっちに帰って来る気はないみたいね」
「まぁ、あの子は大方向こうで要君とよろしくやってるんじゃない?」
「っ……」
雪花の放った何気ない言葉によって、一瞬芦花の胸にはズキッとした痛みが走る。
「芦花?どうしたの?」
「ん、ん?い、いや…何でもないよ」
芦花は咄嗟に平常心を取り繕い誤魔化した。
「ふーん?そう」
「………」
芦花は複雑そうな表情をしながら沈黙する。
柊要、その名前を聞くたびに芦花は胸の奥が締め付けられるような気分になる。
それが嫌で毎日仕事をして忘れようとしていたのに、こうして自分の時間が生まれるといつも彼の事を考えてしまう。
実を言うと芦花は要に対して"恋慕"の感情を抱いていた、だけど彼は実の姉であり今この場にいない桜花と恋人関係なのだ。
その事実が脳に一瞬でもチラつく度に苦しくなって、心の中がグチャグチャにかき乱されたような感じになってしまうのだ。
何分芦花自身、桜花が彼と付き合う前から密かに要の事が気になっていた、だけどその時は少しいいなと思っていた程度で、この気持ちを明確に理解したのは第五回WCBTの前日に要達と再開した時月花から二人の関係を聞かされた時だった。
そしてその後ある騒動が起こり、芦花の体内には魔神が宿る事になったのだが、その時に要が自分を助ける為に動いてくれた事を知って以降、芦花はずっと要の事を意識するようになっていた。
「まぁそもそも桜花も向こうでの生活があるから、そうポンポンこっちに戻って来るわけ無いわよね」
「とは言っても私達が帰ってきた時なんて酷かったわよ、無駄に広い四季神社に一人ポツリといるお母さんがね…」
四季四姉妹の母親【四季礼花】は娘達が皆自立し、それぞれの居場所を作った事によって殆どの時間一人で過ごすようになっている、父である凍夜も仕事の都合上中々こっちに戻ってこられないのでそれも相まって尚更。
「私達がいない間にお父さんが頑張ってそれなりの頻度で帰ってきてたと思ったけど…やっぱりそれでも一人ぼっちの時間が多いのかな?」
「私もお父さんからそろそろ実家に帰れって言われたから帰ってきたし…」
「というかぶっちゃけ、地球防衛軍に入ってからはお母さんよりもお父さんと会う日の方が多くなっちゃったなぁ」
父は仕事の上司の為、ほぼ毎日会っていると言っても過言ではない、それに対し母は実家にいる上にその実家はかなり遠いので帰ることも中々無いのだ。
「お父さんかぁ~、もし芦花に彼氏が出来たらとことん詰められそうね」
「か、彼氏…!?いきなり何言ってるの雪花姉!?」
雪花は突飛な事を言い出し、芦花は驚いた。
「だってあんたもう16歳でしょ?そろそろ出来る年齢なんじゃないの?私も大体そのくらいでパトと付き合ったしね」
「というかもう芦花以外は皆彼氏がいるし、芦花も彼氏を連れてくるのも時間の問題ね!」
「そうね、防衛軍で良い人とかいないの?」
月花はニヤニヤしながら聞いてくる。
「い、いないよ、別に私は恋愛しに行ってるわけじゃないし…」
「へ~~??」
「な、何その反応!!いないんだから全然!!」
二人はニヤニヤしながら芦花の反応を楽しんでいた。
「そ、でも気になる人が出来たら真っ先に私達に言うのよ!見定めてあげる、そしてあわよくばクズなら私が鉄槌を…」
雪花はニッコリとしながら殺意を出した。
「過激過ぎるよ!!」
(……でも、好きな人…か)
そう考えるとまた要の顔が浮かび上がってくる。
「うっ……」
胸を抑える、そして鼓動がドンドン早くなっていく。
(まずい……発作だ……)
「あ、わ…私、お風呂入ってくるよ…」
「いってらー」
雪花と月花は息ピッタリにそう言った。
そして芦花はまるでその場から逃げ出すかのように風呂場へと向かおうと立ち去った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
動悸が激しくなり、胸を手で抑え、息を荒くしながら小走りで廊下を歩く。
そして脱衣所に駆け込み、扉を締め、その場にストンと座り込んだ。
「っはぁ……はぁ……!」
(駄目だ…やっぱり感情を制御しきれない…どうしても感情が強く出てきてしまう…)
実は芦花は1年前から七つの大罪の大魔神達を宿してからというもの、時折感情の制御が効かなくなる時がある。
これは強大な悪魔の力が芦花の身の丈に合わない為少しずつ漏れ出しているからこそ起こる現象であり、芦花自身が成長するまでしばらくの間はこの状態が続くとのことだ。
現在宿しているのは【憤怒の大魔神】と【嫉妬の大魔神】の二体であり、この二体の力が漏れ出す事で時折ムシャクシャしたり、今回のように何かに強く嫉妬したりとその魔神が象徴する感情に左右される事がある。
たった二体でこれなのだから残り五体の魔神をその身に宿した時、芦花の感情がどれほどまでに荒れ狂うのか彼女自身も想像ができない始末。
しかもタチの悪い事にこれは中にいる魔神達ではどうすることも出来ないとのこと、なにせこれは単純な力の差によって生まれている副作用なのだから。
力の強すぎる存在は何もしなくともそこにいるだけで他者に対し害を与えてしまう程の影響力を持つ。
芦花は単純な力にして下級神レベル、それに対し魔神達は上級神レベル、それ程までに力のかけ離れた悪魔が二体存在しているのだ、故に常日ごろから芦花はその強すぎる影響力に苦しめられている、主に"感情"が増幅する事によって。
そういう事例もあるからこそ悪魔や神の力は毒にも薬にもなると言われている、確かに扱えれば凄く心強い力だが、扱えない以上はただの毒でしかないのだ。
(取り敢えず…お風呂に入って落ち着こう…)
芦花は衣服を脱いで、風呂場の扉を開ける、湯船には母親があらかじめ入れておいたお湯がある。
芦花は湯に浸かった、そして先程の雪花達との会話を思い出す。
「好きな人…そりゃ、いるよ…私にだって…ずっと好きだった人がいるもん…」
(だけど…そうだよね、私も本当は別の人と付き合うべきだよね)
(もう既に要君には桜花姉がいるんだから、いつまでもそんな風に思い続けても、迷惑……だよね)
風呂場にて、芦花は湯船に浸かりながら一人考え事に耽る。
「……月花姉と雪花姉は、羨ましいな…二人共、同じ好きな人の所に行けてる」
「私だって…要君の側に行きたいよ…」
芦花は月花と雪花に対して羨むと同時に密かに嫉妬の感情を向けていた。
神という地位だからこそ彼女ら二人は同じ好きな人の元に嫁げるのだから。
でも自分は違う、自分は人間だから人間の規則に則って生きないといけない。
だからこそ芦花は心の底から愛している要の側にいく事が出来ない、そこにはもう既に桜花という存在がいるのだから。
姉妹の皆は各々が自分の好きな相手のもとに嫁げている、だけど自分だけはそれが叶わない。
そのどうしようもない事実がある以上、駄目だと分かっていても芦花は自分の姉達への嫉妬心が抑えきれずにいた。
「……ッ」
そう思った途端、芦花の脳内には桜花と要が幸せそうに笑い合いながら手を繋いでいる光景が浮かび上がる。
すると芦花はギリッと音が鳴る程に強く歯を噛み締める。
「桜花姉…桜花姉……桜花…ッ!」
どんどん心の中に黒いものが渦巻くような、そんな気持ち悪い感覚や強い不快感に襲われる。
駄目だと心では分かっているのに、それとは裏腹に嫉妬と憤りが心の底から湧き上がってくる。
「ズルいな…いいなぁ…私だって、私だって…」
頭を抑えて、歯を強く噛み締め、拳に思いっきり力を込める。
「気持ち悪い…気持ち悪い…気持ち悪い…っ!」
内に宿す嫉妬の魔神の影響が漏れ出しているのか、芦花はこの時非常に強い嫉妬心に苛まれていた。
「私だって…私だって…ッ!」
酷く嫉妬と憤怒の感情が渦巻いている、どこにも行き場のないストレスがどんどん芦花を蝕んでいく。
拳を強く握り過ぎて、手に爪が食い込み、血が流れる。
流れた血はポタポタと湯船に落ち、湯は少しずつ赤くなっていく。
それと同時に、芦花の瞳からは止めどなく涙が溢れていた。
「要君と…恋人になりたいよ…」
「要君に触れたいよ、要君に甘えたいよ…要君に……要君に……!」
「愛して……もらいたいよ……」
芦花は涙声になりながら一人風呂場にて叶う事の無い理想を、ただただ呟き続けるのだった。
───そして数時間後、時間は夕暮れ。
芦花は自室のベッドの上で丸く蹲っている。
「結局私は、どうすることも出来ない…」
(きっと私は自分の望みが叶わないまま、リオ先生の片鱗を掴む為に危険な事に身を投じて、そのまま消えていくんだ…)
(私の一生は…そんなもんなんだ…!)
芦花はギュッと拳を握る。
(そんな形で人生を終えるくらいなら…姉妹の皆に嫉妬しながら生きていくくらいなら…いっそ、私は────)
そう考えた時、芦花の脳内にはある方法が思い浮かんだ。
「あ……そうだ…そうだよ…」
芦花はこの数時間考えに考えた末に一つの結論に至った。
「彼の気持ちを私に向くようにすればいいんだ…そしたらきっと…きっと私は要君と一緒にいられる…」
「どうせ、このままじゃ私は幸せになれない、だったら…やるしかない、よね?」
どうせ幸せにはなれない生き方をするくらいならと、芦花は強引にでも自身の幸せを手に入れる事を決断した。
「……ふへへっ♪」
決断した芦花は今日一の笑顔を見せる、そしてその笑顔には彼女の強い嫉妬が生み出した狂気に満ちていた。
そして芦花はある準備を進め為に即座に動き出す事にした。
そして次の日の夜中、芦花は要の住んでいる住居の前へとやってきた。
「ふふ…要君、要君、要君…」
「この時の為に昨日からずっと準備を進めてきた、必ず成功させる…!」
「待っててね、要君っ♪」
芦花の目にはもう要しか映っていなかった、もはや他のものなどは視界にも入らない。
そして芦花はウキウキとした足取りで事前に用意していた侵入経路から家の中に入っていく。
今日の昼にも一度この家には来ていて予め色々細工をしていたのだ。
この家には要を含む8人が住んでおり、侵入するには難しい場所ではあったが芦花はそこも勿論織り込み済み。
気配を殺して着々と進んでいく、そして要が普段いる寝室へと入ってきた。
「あ……要君…っ♪」
早速芦花は要を発見、彼はベッドの上で熟睡していた、そしてその横には。
「ッ……」
それを見て眉を顰め、拳を握る。
そこには自身の姉である桜花もおり、桜花と要の二人がベッドの上で眠っていた。
二人とも幸せそうに密着し、気持ちよさそうに寝息を立てながら眠っている、芦花はただただそれが気に入らなかった。
だが次の瞬間には先程の様子とは一転し、ニヤリと微笑んだ。
なにせこれから要は自分の物になるのだから。
「精々、今は幸せな顔をしてるといいよ、桜花姉…?」
そう言いながら芦花は持ち込んだバッグの中に入っていた注射器を取り出した。
(私はこれでもリオ先生の下で能力を研究している…)
(勿論その中には相手に催眠をしたり、洗脳したりする能力もあったから、それについても色々調べていた)
(そしてそこからその成分を真似て私が薬を配合して完成させたのがこの睡眠薬…これを要くんに投与出来ればあとはもう簡単…)
芦花が配合した即効性の睡眠薬、実力のある能力者にも効果のあるように配合された非常に強力な薬、芦花はそれを要に投与するつもりである。
とはいえ桜花も起きる可能性があるので桜花にも一緒に投与する、そして薬が効き次第窓から逃げ出せば全て完了、それが芦花の作戦だった、前準備が難しいだけで終わりは案外簡単なのだ。
この注射は今回の事を想定して用意した特別性、刺されてもチクっとした痛みすらも起きないのでちょっとした刺激で起きる心配はしなくてもいい。
そして芦花は二つの注射を要と桜花の首筋に当てた、そして薬品を押し出し、二人に投与する。
二人はその間まるで起きる気配はなかった、そこから1分程様子見をして、声をかけたり、強い刺激を与えたりしたが二人共反応は無い。
すると芦花は確信した。
「効いた…効いた!やった…っ!!」
無事薬の配合は成功しており、芦花は十分に成功を喜んだ後にそのまま眠る要を抱え、窓から飛び出し、彼の拉致にも難なく成功する。
その後芦花は実家に戻ってきて、家族にバレないように自分の部屋に要を連れ込んだ。
扉にはしっかり鍵をかけ、要がいる事がバレないように気配遮断と内部の音が外に漏れないように事前に細工を施していた。
そして要の手足には、もし目覚めて反抗しようとオーラを使おうとしてきても大丈夫なようにと、オーラの流れが反転して身体に激痛が走るようにする手錠と鎖をつけて完璧に拘束する。
「これで、これで…あはっ!要君は、私のものっ!!」
芦花は自分の思惑が成功した事に打ち震え、心の底から歓喜する、その笑顔は狂気に満ちている、それはまさに狂愛と呼べるものだった。
こんな状況下でも要は未だ眠っている、芦花が手ずから配合した睡眠薬は未だ大きな効果を発揮しているようだ。
芦花はただただ幸せそうな顔をしながら、愛しい要の眠る顔を見つめ、息を荒げている。
心臓の鼓動がドクドクと自分でも分かるくらいに高鳴る、しちゃいけない事をしているその背徳感が芦花の興奮を大きく高めている。
「要君…要君っ♡」
芦花は眠る要の口に接吻をする、ずっとしたかった念願のキスが叶ったのだ。
「ん……んっんむっ…」
それだけに留まらず芦花は要の口内に舌をいれ、これまでずっと我慢してきた本能を全て曝け出すかのように濃厚なキスをする。
息苦しくなるくらい長く、長く彼の舌と自分の舌を絡ませ、二人の唾液は口内で深く混じりあう。
「っはぁ…!」
思う存分要の口を堪能した芦花は一旦口を離し、自分の身に纏っている衣服を脱ぎ捨て下着姿となったのだ。
可愛いらしいフリルの付いた男ウケのいい勝負下着とやらを身につけている。
「要君…要君…要君っ♡」
そして彼女は恥じらいながらも要の体へと深く密着する。
「好き、好きだよ、大好き…すっごく」
年相応に膨らんでいる胸を押し付け、彼の太い腕を胸の間と股の間に挟み、まるで動物かのように自分の匂いを要の身体に残すようにマーキングする為、自らの身体を擦り付けながら彼にしがみつく。
芦花は恍惚とした表情でただただ無我夢中に彼の匂いを堪能し、愛でていた。
彼女は能力の性質上匂いなどに敏感で非常に感覚が動物に寄っている為か、そのような習性を無意識的、そして本脳的に行っている。
それに加えて親譲りの強い性欲と動物の発情期のような状態が相まって、芦花はまさに今この瞬間本能に身を委ねながら、人生で一番幸せな一時を過ごせていた。
今この瞬間だけ、要と本当に心の底から繋がれていると、芦花は本心からそう思っていた。
だがきっと芦花のその行為に対して、彼女の体内にいる魔神や神は戦慄している事だろう、それくらい芦花のしている事は異常な事であった、だが芦花の暴走を止められる者などこの場には誰もいないのだ。
芦花が要の事をどれだけ好きなのかは皆彼女の感情を通して理解している、どれだけ我慢していたのかも知っている、そんな彼女の従属である魔神達は一般的な常識なんかよりも彼女の幸せを優先する他なかったのだ。
そうしてこのような事が1時間程続いた、そして────
「ん……んん……?」
薬の効果が切れたのか、要は目を覚した。
「あ、おはよっ!要くん♪」
それに気づいたのか芦花は笑顔で声がけをする。
「………」
「……は?ろ、芦花…?」
起きるや否や現れた情報量を処理しきれず要は一瞬思考停止した、だがすぐに我に返り芦花の方を見る。
「……うん?」
「んなァッ!!?」
要は自身の体に密着していた下着姿の芦花に気付き、素っ頓狂な声を上げた。
「な、なっなんで…て、てかどういう状況なんだ!?なんで下着姿なんだ!?」
要は突然の状況を前にして混乱する、これが普通の反応だ。
「つか、身体が…動かねぇ…なんだよこれ…!!体が痺れるし、しかも鎖!?」
加えて身体には力がまるで入らなく、手足は鎖や手錠で繋がれている。
「軽い麻痺状態だよ、これは私の能力でそうさせたの」
「は?な、なんで…」
「それはそのぉ……ね?」
芦花は赤面しながら自分の人差し指同士を合わせモジモジとする。
「ね?じゃねぇよ、なんでこんなことしてるんだお前は…」
(クソ、感覚が鈍ってた…闇側にいた時はこういうのには敏感だったのに…)
数年前裏社会で活動していた時は油断すれば死んでいた状況が多かったので自然と感覚が研ぎ澄まされていたが、闇を抜けた今ではすっかりその感覚は鈍っている。
「そんな事より……さ」
芦花は先程よりも深く要の身体に密着する。
「芦花…!?」
自分の体に押し当てられた胸は下着から溢れそうになっている。
「や、やめるんだ芦花…何故こんな事を…!」
「何故って、そんなの簡単だよ…君が欲しいから」
芦花は何かおかしいの?と言わんばかりの不思議そうな顔でそう言った。
「お、俺が…?」
「うん、私は君が欲しいの」
芦花は笑みを浮かべながらそう言い切った。
「な、えっ…」
要は更に困惑する、自分が好意を抱かれている事を知らなかったが故に。
そんな要はお構いなしに芦花は甘える猫のように彼の腕に顔をスリスリと擦りつけてくる。
「ッ…!!」
それと同時に要の身体には異変が起きる、今の状況を飲み込んだ結果、芦花が自分に対し好意的かつ大胆に接してきているのを実感し、要は自身の男性器が膨張しようとしているのを感じ取ったのだ。
(や、やばい…!本当にやばい!)
一度こうなってしまえばこれは到底この状況では抑えられるようなものじゃなく、自分の意志に反してソレの大きさは増していく。
(く、くそ…!まずい…!俺には桜花がいるのに、クソ…!収まれ、勃つんじゃねぇよ…!!)
どれだけ頭で念じ抵抗しようと要も性欲の有り余る健全な年頃の男だ、頭では駄目だと理解していても生物としての本能はそうはいかない、芦花のモチモチとした柔肌が直に触れてくる度に要も意に反して興奮していた。
それに要は桜花との行為は滅多にしない、間違えて妊娠なんてしても責任はまだ取れないので二人はその行為を制限している、その為正直性欲はかなり溜まっているのだ、それも相まってか芦花の大胆かつ性欲を刺激するような行為には要の生殖器は反応せざる負えない状況にあった。
芦花はそれを決して逃さない、芦花はニヤリと微笑み要の上にマウントを取る形で乗り、敢えて彼の膨張しかけている股に更なる刺激を与える様にその上に自分の股が乗るように被せた。
「んっ…!っふふ…ふへへ」
そして芦花はグリグリと腰を動かす、その度に快楽を感じ、そして徐々に大きさを増し、熱を帯び、硬くなっていく彼の性器を下着越しに感じ更に興奮していく。
「ろ、芦花っ…やめろ…!」
要は必死に抵抗するが力がまるで出せない、完全に主導権を芦花に握られていた。
「へへ、へへへ…まだ私の方が強いから、君はここから逃げられないよっ♪」
「これでも地球防衛軍の隊員だからね!それでどうする?能力使う?堕天の力を使う…?無理だよね、君は優しいもんね」
「大切な彼女の【ただの妹】を、殴れるわけないよね?」
嫌味を言うようかのようにわざと"ただの妹"という言葉を強調しながら言葉を述べる。
「それに、その鎖と手錠がある以上君はオーラも能力も使えない…私達はオーラさえなくなれば殆ど一般人より少し強い程度…」
「君はもうここから逃れられないんだよ、要君♪」
芦花はそう宣言した、要は能力やオーラが使えない以上この状況を打破する術がない、殆ど詰んでいる状況だ。
「……芦花、お前はこんな事をして、何がしたいんだ」
だが要は諦めない、なんとかする為にも芦花の説得を試みる。
「………」
芦花は要のその問いに対し沈黙する。
「俺が何か、お前に対して…酷い事をしてしまったのか…?だったら俺は謝る、だから理由くらい教えてくれよ…」
「確かにそうだ、俺はお前を傷つけられない…それはお前が桜花の妹だから」
「ッ……!!」
"桜花の妹"その発言に芦花は反応し歯を噛みしめる、所存自分は彼からは恋人の妹としてしか見てもらえてなかったんだとその言葉を聞いて彼女はそう思った。
「───けどな…本当はそんなの関係無しにお前を傷つけることなんて出来ねぇんだよ、だってお前も大切だから…」
「え……?」
要にとって芦花は家族も同然の存在だった、一度家族を失った彼にとっては彼女の妹とかそんなの関係無しにとても芦花は大切な存在となっているのだ、だから要は芦花を傷付ける事は出来ない。
「だからもう、こんなことはやめろ…な?」
「…………」
芦花はその言葉を聞いて心が揺らいでしまう、本心では自分のやっていることは正しくない事なんてとっくに分かっている、だからこそ迷いが生まれてしまう。
だけど、元より自分は嫌われる覚悟でここにいる、今更そんな事言われたって彼女は引き返す事なんて出来ないのだ。
「……今更」
彼女はボソッと小さな声でそう言った。
「え?」
要は聞き返す。
「今更ッ!!そんなこと言われたって!!」
「!?」
すると芦花は声を荒げ、要は驚く。
「…君には分かんないよ…私がどういう思いで暮らしてるのか…毎日毎日姉妹の皆に嫉妬しながら過ごしてるのか!!」
「君には分かんないよ、絶対に…」
芦花は下を向いた、芦花の表情は長い髪によって隠れて見えない、だけど彼女の声色は今の彼女のぐちゃぐちゃな心を表すかのように乱れていた。
「それがどれだけ苦しいのか!気持ち悪いことなのか!この気持ちのせいで大好きな姉妹の事さえも嫌いになっていくこの感覚が!!」
「もう嫌なの…誰も嫌いになりたくない…」
「だけど私は大好きな君の事も諦めたくないの…!」
「芦花、だからって……いッ!?」
一瞬、強い力で腕を握られ、腕に大きな痛みが走る。
「だから……もう……」
途端に声色が低くなる、まるで場が凍りつくかのようなそんな威圧感を声から感じ、空気が重くなる、そして芦花は顔を上げた。
「こうするしか、ないよね…?」
「ッ……!!?」
要は芦花の上げた顔を見た瞬間、身が震えるような強い恐怖を感じた。
顔を上げた芦花の瞳からは完全に光が失われている、それどころかドス黒く濁っているようにさえも見えた。
そして要の上に跨っている芦花は、彼の両手を握り恋人繋ぎをする。
「こうすればよかったの…最初から…」
「皆の事を嫌いになりたくないから、私は君を…桜花姉から奪う…」
「私は嫌われるかもだけど、それでいい、だってそれは仕方ないことだから」
「私は皆から嫌われても、要君がいてくれるならそれでいい」
「だからさ、要君」
「───私の、恋人になってください」
芦花は頬を赤く染めながら告白をする、だが要を見つめるその瞳は、酷く嫉妬に汚染され濁っているものだった。
「…………」
だが要は黙っている。
自分は桜花と交際している身、それなのに芦花の想いを受け入れてしまったらそれは桜花に対する裏切りだからだ。
だからといって適当な事を言えば芦花の事も大きく傷つけかねない、だからこそ要は頭の中でどうするべきか思考を巡らせていた。
「……お前は、本当にそれでいいのか?」
しばらく間が飽き、要は口を開いてそう言葉を述べた。
「…何が?」
芦花は首を傾げ、困惑した声で聞き返す。
「俺はお前達姉妹の関係を壊すつもりはない…お前達が俺のせいで壊れていいはずがない」
「お前は今一時の感情で今の関係を壊そうとしているんだぞ、俺を巻き込んで」
「よく考えろよ芦花、これは本当にお前のしたい事なのか?」
「………」
要は芦花への恐怖に屈せず言葉を述べる、芦花の間違いを正す事、そして改めさせる事がこの場を打破する最後の手だと考えたからだ。
「確かにお前は桜花に嫉妬してるのかもしれないけど、でもだからってこんな事をしたら今あるものが全部なくなっちまうかもしれないんだぞ…!!」
「関係はな、一度でも壊れてしまえば修復するのはとてつもなく難しいものなんだよ」
「それでもお前は今あるものを壊してでもそうしたいのか?」
「ッ………」
芦花は言葉が詰まる、要の言葉が響いているからだ、たとえ引き返せないと言えども迷いのある彼女にとってその正論は非常に苦しいものだった。
未練が残らないようこうすると決めた筈なのに、家族との関係や今あるものを天秤に乗せると、そのどちらが大事なのかの葛藤に苛まれる。
「お前がどう思ってるか知らないけど、俺はそれだけは勘弁なんだよ…」
「もう俺のせいで誰かの関係が壊れるのを見るのだけは…」
要は自分の過去の出来事と今の出来事を重ねていた、状況は違えど要は一度自身の軽い気持ちによって友人との関係を壊してしまった過去がある為、関係が壊れてしまうのがどれだけ残酷なものなのかを痛い程理解している。
芦花はそれらに対して結局何も言い返せずにいた、全部要の言葉が正しいと本心では分かっているから。
「だから、そんな事になってしまうくらいなら俺は、お前を受け入れるわけにはいかない」
「あ………あっ………」
その言葉を聞いた途端芦花の顔色は一気に悪くなった。
皆に嫌われる覚悟までしてこの行為に及んだ挙句好きな人に拒絶された事や先程までの正論、そしてこれまで抱えてきた色んな葛藤や感情が混じり、絶望してしまう。
「か…要君は…わた…私は…嫌…なの?」
「ね、ねぇ…私の事、嫌い…?ねぇ…」
芦花は大きく動揺し、今にも泣き崩れそうな状態になっている。
「芦花…」
要も苦しそうな顔をする、芦花の泣きそうな顔を見て気持ちの良い気分になれるわけもない、だけど要は屈するわけにはいかない。
(……嫌だ)
(要君に失望される…い、嫌、嫌だ…!!そんなの嫌だ!!)
嫉妬、葛藤、絶望、その色んなものが入り乱れた感情、そのせいで芦花は軽いパニック状態になりつつあった、自分が要に嫌われてしまうと早とちりしてしまっている。
皆に嫌われても、それでも大好きな要にだけは嫌われたくなかったのだ。
「わ、私だって…いいとこあるよ…?」
「ほ、ほら…お胸だって桜花姉よりかなり大きいんだよ?柔らかくて気持ちよくて、桜花姉じゃ絶対に出来ない事だって出来るから君を満足させられる…!」
「欲求不満なら毎日エッチな事だってさせてあげられるよ…?桜花姉は慎重だからさせてくれないんだよね?だったら私がいるよ…!!」
「それに頭もいいし、良い職にだって就いてるから君を幸せにだってしてあげられるよ…!!だから私にしようよ…!」
芦花は彼に嫌われたくない一心で、涙声で焦りながらも桜花にない自分の持っている魅力を必死に挙げていく。
「それでも、駄目だ」
だけど要は鋼のように硬い意志で断固拒否する。
「でも……でも……っ!!」
「駄目なものは駄目だ」
「なんで…ッ!!」
「………」
それでも要は頑なに認めない、そんな要を前に芦花の精神はズタズタになっている。
「なんで、なんで…なんでッ!!」
「なんでだよぉッ!!」
遂に我慢の限界が来て、芦花は泣きだしてしまう。
「なんで…なんで…なんで!!なんでなんでなんでなんでなんで!!なんでッッ!!」
ここまで色々完璧に準備は済ませたのに、ここに要を連れてくるまでは全て成功していたのに、結局は彼からは受け入れてもらえない、そんな現実が叩きつけられてしまった芦花はどうする事も出来ずに嘆いた。
そもそも最初から力で強引に分からせる事も洗脳して従わせる事も出来たけど、最初から要を傷つけるつもりがなかった芦花にはそんな残酷な真似はとてもじゃないけど無理だった。
大切な人を苦しめる手段を取るくらいなら自分がこの苦しい思いを抱きながら生きる方がマシだとさえ思っていた。
だからそれらの手段は省き、多少強引でも彼に受け入れてもらう事でこの作戦を成功させようとしていた芦花だったが、彼から断られてしまった以上はもうお手上げだった。
「芦花…」
苦しそうに泣いている芦花を前に、抱き締めてやりたいと思う気持ちが強く出てきたが、それでも要は耐える。
自分の事を心の底から愛してくれている、その事を知ってしまった以上要も芦花の事をすっかり意識してしまっている、だからこそ彼女の苦しむ姿を見るのはただただ辛いものだった。
だけど自分はパトのような神じゃない、人間でありこの社会で生きるにはパートナーは一人しか選べない、だから自分から芦花に対して手を差し出す事などは出来るわけもない。
結局この話は、芦花が諦めるしか解決する道は無いのだ。
こうして二人の間には暫く間が出来る。
芦花はあれから数十分程泣いた、要はただそれを見守る事しか出来なかった。
そんな時、芦花の方が口を開いた。
「ごめん…ね…」
その時に聞こえたのは、謝罪の言葉だった。
「え?」
「ごめん…ごめんね…要君…」
芦花は謝ってきた、そして涙声になりながらもそのまま続けて言葉を紡ぐ。
「どうしても、抑えきれなくなっちゃって…ごめんね…」
「好きだったの、ずっと…ずっと好きだった…」
「天界攻略をしたあの日、天から落ちた私を助けようとしてくれた君の姿を、意識が飛ぶ前に見た時にさ…」
「君の必死に私を助けようとしてくれていたその顔を、その行動を見て、惹かれてしまった…好きになってしまったの…!」
約2年前の出来事、ある事情で天界と言う場所を攻略していたとき、敵との戦闘によって崖から落下した芦花を要が助けた事がある、その出来事こそが芦花が要を意識するきっかけとなった話だ。
芦花は不老不死の体質を持っているが、それでもその高さから落ちた場合身体は肉塊のようになっていて、おそらく無事じゃすまない姿になっていた。
そうならずに済んだのはすべて要のおかげだった、だからこそ芦花は自分を救ってくれた要に恋したのだ。
「私にとって君は、ヒーローなの…命を救ってくれた大切な人なの…!」
「だから第五回のWCBTの時、君が桜花姉と付き合ってるって月花姉から伝えられた時、凄く驚いた…」
「そしてその時からずっと心の中がモヤモヤしてたんだ…」
芦花は自分の胸を手で抑える。
「それでさ…その後暴走した私を君があの時のように助けようとしてくれたって聞いてさ、君の事がもっともっと好きになったの…」
「もう好きになっちゃいけないのに…もう君には彼女がいるのに…!!」
「それでも、私は君が気にかけてくれる事が、とても幸せで…嬉しかった」
芦花は両の拳を握る。
「だから私は君の隣が欲しかった!!私がそこにいたかった!!でももう叶わないんだッ!!」
「私は神様じゃないから!人間だから!だから…!」
「雪花姉や月花姉のようにお互いにいがみ合わずに好きな人の所へ行く事は出来ない…」
芦花は下を向いた、そして両手で顔を抑える。
「もう嫌だ、我慢するのは、もう嫌だよ…」
「この抑えられない気持ちを抱えて、どう生きろっていうの…」
芦花はこれまでずっと溜め込んできた想いを全てぶちまける。
(芦花…お前はそこまで、俺の事を…)
要は芦花の純粋な気持ちを聞いた。
(……俺はそこまで、好かれるような人間じゃないのに…最低な事ばかりしてきた人間なのに…くそ…)
要は自身が過去に犯した大罪の件で、自分が幸せになる事に負い目を感じていた、それなのにこんなにも自分の事を好きになってくれる子がいる事が、正直嬉しくて仕方がなかった。
正直言って彼はもう、芦花を好きになりつつあった、だがそれでも─────
「───芦花…俺の事を好きになってくれて、ありがとな」
「きっと俺も"お前が好き"だと言ってやれればよかったんだろうが、やっぱり俺には桜花がいて、それを言ってあげることは出来ない」
「もしここでお前を受け入れてしまえば、今度は桜花が悲しむ事になる…それだけは、凄く嫌なんだ」
それでも要は桜花を選ぶ、桜花が何よりも大切な存在だから、だからこそ裏切って彼女の泣く姿だけは見たくなかった。
「……そ……っか」
「うん…そう、だよね」
「全部、私の独り善がりだもん…仕方な───」
芦花は改めて突きつけられた現実を頑張って受け止めようとする、そして彼の事を諦めようとしていた。
そんな時だった。
「だけどさ」
「え…?」
諦める覚悟を決め、この結果を甘んじて受け入れようとした時、要が芦花の言葉を遮るように言葉を放つ。
「確かにこの件は俺からはどうする事も出来ないけど、お前自身が親や姉妹に相談すればなんとかなるかもしれない」
「親が許して、桜花がもし認めてくれたら…俺はお前を受け入れる事が出来る」
「どうせ俺は婿入りだ、名字は四季になる、だったらありえない話じゃないかもしれないだろ?」
「え……え?」
予想だにもしなかった発言が要からされた事により、思考がフリーズする。
要は芦花が一人で苦しまない方法をこの数分考えていた、その結果この結論に至ったのだ。
「い、いいの…?そんなの…私を受け入れても、桜花姉がいるのに…」
「いいわけないだろ?けど、俺は出来るだけお前が悲しまないようにしたいんだ、だってよ…」
「こんなどうしようもない最低な俺を好きになってくれた人に、そんな思いだけはさせたくないから」
自分を好きになってくれた芦花が辛い想いをしない為に思いついたのが、自分が芦花と浮気をする事、そしてそれを彼女やその親に認めてもらうというあまりにも無謀とも言える荒業だった。
とはいえ要の方から彼女やその親に許してもらおうとするのはかなりリスキーなので、そこばかりは流石に芦花自身がするしかない上に、その方が成功する確率は高い。
加えてもう既に月花と雪花が同じ相手のもとへ嫁いでしまっているので、親達がそれを認める可能性も高くなっているのを考慮した話でもあった。
芦花も芦花でそうする為には自分の秘密を家族達に洗いざらい打ち明け、意思表明する必要があり、尚且つ認めてもらえるのが前提条件だけど、それでも芦花にとっては一筋の希望を見る事が出来た提案だった。
何せ、親や姉妹の承諾さえ得られればいいと言うことは、彼はもう既に自分の事を受け入れていると取れるのだから。
「きっと、俺の言ってる事は世間からすればかなりアレな発言なんだろうけど、それでもこれが俺の覚悟だ」
「だから芦花、俺はもし皆がいいというのなら芦花を受け入れるつもりだ」
「そしたらその時は俺は望み通り、お前のモンになろう」
「たとえ誰かから攻められるような事になっても、それでも変わらず俺はお前を愛し続けよう」
「だからもう、こんな事をしなくてもいいんだ、芦花」
要はただただ真っ直ぐな目で芦花に向き合い、そう言い切った。
「か…要……君……」
涙はさっき出し尽くした筈なのに、また溢れ出して来る。
要は自分を犠牲に芦花が悲しまない為に受け皿になろうとしている、その優しさが嬉しくて仕方なくて。
「も、もう…」
芦花はそっぽを向いてしまった。
嬉しくてニヤケそうな表情と涙を流すみっともない顔を真っ直ぐ見られるのが急に恥ずかしくなってきて、芦花は彼の顔を直視できなくなっていた。
だがそれと同時に芦花の中での彼への思いが大きく高まる、心臓の鼓動が高鳴り、顔が熱を帯び、次第に彼への好きという強い思いが彼女の心と脳を埋め尽くしていった。
(ああ…そうだ、私は…要君のこんな真っ直ぐな所を、好きになったんだ)
すると芦花は涙を拭い再度要の方へ向き直し、そして勢いのまま、思いのままに要へと迫り口づけをしたのだ。
「んっ…」
「むぅっ!!?」
要は非常に驚いた表情をする、そして数秒口を交わらせた後に芦花は口を要から離す、その際互いの口には細い唾液の糸が繋がっていた。
「ろ、芦花…!?まだ早」
「───ふふっ」
芦花は要の言葉を遮るように人差し指を彼の口に添える。
「これくらいなら…別にいいよね?」
「君がバラさなければ…だけどっ♪」
芦花は屈託の無い笑みを浮かべる。
彼女のその笑顔からはもう、これまであったような狂気は無くなり、ただ幸せそうな感情だけが残っていた、どうやら彼女の心を支配していた黒く渦巻くような感情は、綺麗さっぱり消えているようだった─────
終わり。
要と付き合ってる桜花にずっと嫉妬してて最終的には拗らせちゃった芦花のお話