パリ協定離脱も 気候変動で各党に違い 岩手選挙区、訴えは控えめ

小泉浩樹 三浦英之 佐藤善一
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 気候変動問題は年々深刻になり、岩手県内でも様々な悪影響が出ている。国や自治体が一致して取り組む課題だが、参院選岩手選挙区(改選数1)の候補者が演説で訴える場面はほとんどみられない。物価高など目前のテーマに重点が置かれているためだが、各党の政策には違いもある。

参院選岩手選挙区の候補者

吉田 博信 59 NHK党支部長    諸新

横沢 高徳 53 〈元〉パラ競技選手 立現①

及川 泰輔 46 製造派遣会社員  参政新

平野 達男 71 〈元〉復興相    自元③

*届け出順。年齢は投開票日現在。丸囲み数字は当選回数

政府、2040年度に温室効果ガス13年度比73%削減目標

 国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は2023年公表の報告書で、人間が出す温室効果ガスが温暖化を引き起こしたことは「疑う余地がない」と指摘。政府は40年度、13年度比で温室効果ガスを73%削減する目標を掲げる。

 岩手県は21年、19年の東日本台風による被害や秋サケ漁獲量の減少などを挙げ、「県民の生活や農林水産物に深刻な影響が出ている」として、「いわて気候非常事態宣言」を発表。「温室効果ガス排出量の50年実質ゼロ」を掲げ、「オール岩手で気候変動対策に取り組む」と表明している。

立憲 再エネ電気100%

 「地方で暮らすには車が必要。ガソリン代、軽油代の暫定税率を引き下げ、0%にし、物価高対策を進めていきたい」。立憲民主党現職の横沢高徳氏は13日、盛岡市内の公民館前に集まった約20人に訴えた。

 立憲は気候変動問題について公約で「できる限り早期のカーボンニュートラル」に向け、「再エネ電気100%」と掲げる。温室効果ガス削減には電気自動車への移行が有効だが、横沢氏の訴えは排出を増やすガソリン車の利用を促すような内容だった。

 横沢氏は約9分間の演説で物価高対策のほか、教育費の完全無償化や社会福祉の現場で働く人の処遇改善などを訴えたが、気候変動問題には触れなかった。横沢氏は「農業や物価対策など他にも語らなければならないことがあり、なかなか触れることができていない」と取材に答えた。

参政 炭素目標撤回

 「岩手も暑い。軽く熱中症になっていて、頭が痛い」。8日午後、JR盛岡駅前。盛岡の最高気温は観測史上最も早い猛暑日となる35.5度で、参政党新顔、及川泰輔氏の応援に来た参政党代表の神谷宗幣氏が演説の冒頭で触れたのは暑さだった。

 だが及川氏の約9分、神谷氏の約40分の演説で中心だったのは「日本人ファースト」や農業問題、都市と地方の格差問題などで、気候変動問題には言及がなかった。

 同党は温暖化問題について「科学的な議論の余地がある」とし、気候変動の国際ルール「パリ協定」からの離脱や炭素目標の撤回、再生可能エネルギーの縮小など現行政策からの転換を掲げる。

 及川氏は温暖化対策について、取材に「積極財政や減税の方をしっかり言及しているため、なかなか触れることができない」と述べた。

自民 再エネ、原子力「最大限」

 「黒潮がどんどん北上して三陸沖まで来ている。三陸沖は世界でもっとも水温の変化が激しい地域になった」。自民党元職の平野達男氏は宮古駅前で5日に行った街頭演説で、黒潮の蛇行による海水温上昇に触れた。

 「大きな影響だ。サケやサンマが来ない。水産加工施設も大変な状況になっている」と危機感を表し、漁業者らへの支援を約束した。ただ、気候変動を抑えるための対策には言及がなかった。

 自民党は公約で50年の脱炭素に向け、再エネや原子力など「脱炭素効果の高い電源を最大限活用」すると掲げる。

 コメ作りが盛んな地域の演説では、足元で深刻化するコメ問題に多くを割く。平野氏は「異常気象やCO2削減はとても大きなテーマ。政治家の仕事だろうが、どうしても足元の問題に注目がいってしまう」と苦笑した。

 東京大学未来ビジョン研究センターの江守正多教授(気候科学)は「世界の平均気温は産業革命前から1.3度上昇している。パリ協定は今世紀末の上昇を1.5度に抑える目標だが、十分な対策が進んでいない。このままでは3度上昇し、世界的な食糧不足となり難民が増加したり国際秩序が不安定化したりする懸念がある。長期的な目線で考えられる政治家が必要だ」と指摘する。

参院選岩手選挙区に擁立している3党の主な温暖化関連政策

立憲民主党

・できる限り早期のカーボンニュートラル、再エネ電気100%を目指す

原発新増設を認めない

・将来世代への影響を検討する「未来世代委員会」創設

参政党

・パリ協定の離脱により炭素目標を撤回。企業の脱炭素投資を見直す

・FIT制度、再エネ賦課金を廃止

・次世代型小型原発や核融合など研究開発を推進

自民党

・2050年ネットゼロ(温室効果ガスの排出と吸収を差し引きゼロ)に向け、地域脱炭素を支援

・再生可能エネルギー、原子力など、脱炭素効果の高い電源を最大限活用

*政党の並びは公認候補の届け出順

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この記事を書いた人
小泉浩樹
盛岡総局|県庁担当
専門・関心分野
社会保障、消費者問題、地方自治
三浦英之
盛岡総局
専門・関心分野
社会全般
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