法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

AFEEの参院選アンケートへの回答や反応を見ていると、そこで語られる「表現の自由」が極めて限定されたものとしか思えない

 2025年の参院選に向けて、「エンターテイメント表現の自由の会」略称AFEEが表現の自由について候補者にアンケートをおこない、結果を公表していた。
衆院選2021 表現の自由に関する政策アンケート結果 - AFEE エンターテイメント表現の自由の会
 しかし最初の質問がエンターテイメント全般ではなく児童ポルノに限定されているのはともかくとして、後述のように複数の具体的な質問まで相当に偏りが見られる。
 はてなブックマークでは多数のコメントがついているが、質問があまり良くないという批判はあるが、具体的な不足を指摘しているのはid:tukanpo-kazuki氏など数少ない。
[B! 選挙] 衆院選2021 表現の自由に関する政策アンケート結果

tukanpo-kazuki 表現の不自由展に対する意見も同時に聞けばいいのに。


 はてな匿名ダイアリーにおいてアンケートの簡単な集計や感想を書いたものがあり、そこでAFEEの性質から質問項目が限定されるのはしかたがないと許容していた。

設問(2-a)

以下の項目について「表現の自由の観点から問題がある可能性がある」とご自身が考える規制をすべてお選びください(複数選択可)


A.刑法のわいせつ物頒布規制

B.AV新法による規制

C.クレジットカード決済の制約

D.過度なジェンダー平等論や多様性への配慮に基づく表現規制

E.新サイバー犯罪条約による創作物への規制

F.いわゆる「エロ広告」等、不適切とされる広告への法的規制

G.国連女子差別撤廃委員会の勧告による表現規制

H.表現の自由を不当に制限していると思うものは特にない

I.その他(自由記述)

「エンターテイメント表現の自由の会」が実施したアンケートの選択項目なので、当然ながらエンタメ表現の自由に偏った内容ですが、いずれも問題とみなすことに異論はありません。

強いていうなら、ややフェミニズム由来の規制に偏っている感がある(世相を反映しているといえるかもしれませんが)ので、「青少年の健全育成を名目とした表現規制」や、「宗教への配慮や過度な史実の尊重を求める表現規制」といった、右派への踏み絵として機能するような項目があっても良いように思いました。

 しかしフェミニズム由来の規制というより、娯楽から芸術などを除外した上で、特に性的に楽しむ表現に偏った質問と考えるべきではないだろうか。
 エンターテイメントにかぎっても、『やさしい猫』や『虎に翼』のような反差別的なドラマや、多様性への配慮に基づくと解釈されたゲーム『アサシンクリード シャドウズ』は大手メディアや政治家からも攻撃されてきた。
連続テレビ小説『虎に翼』に自民党参院議員の和田政宗氏が圧力をくわえた件をメモ - 法華狼の日記
入管問題をテーマにしたNHKドラマ『やさしい猫』に対して、自民党現職議員の矢口やすゆき氏も圧力をかけようとしていた問題をあらためてふりかえる - 法華狼の日記
実在神社をモデルとした『アサシンクリード』の破壊描写に許可が必要であるかのように産経新聞や電ファミニコゲーマーなどが問題視 - 法華狼の日記
 匿名ダイアリーは「宗教への配慮や過度な史実の尊重を求める表現規制」が『アサシンクリード シャドウズ』を意識して提案しているのだと思うが、「史実」を尊重させたいという批判は口実にすぎない。史実を題材にした作品として極端に逸脱しているわけではないと専門家が説明しても反発されている。
弥助が黒人の「侍」だったという話を今さら否定することはできない - 法華狼の日記
 また、不適切とされて撤去された広告は近年も多数あるが、なぜかAFEEは「エロ広告」を例示している。たとえば医療関係では脅迫的なメッセージをもつ広告がよく批判され撤去されてきた。
「見たくない表現に触れない権利」は存在しないとしても、「見たくない表現に触れない要望」を出す権利はあるだろうし、それを行使してきたのは「フェミニスト」だけではない - 法華狼の日記

 医療関係では脅迫的なメッセージの広告がたびたび注目されては問題視されてきた。献血ポスターへの批判理由のひとつだったし、厚労省吉本興業に委託したポスターに批判が殺到して発送中止にいたったこともある。
小籔さん起用の「人生会議」ポスター、批判受け発送中止:朝日新聞デジタル

 性的合意の重要性を啓発するイラスト広告に対しては、よりによってAFEEの最高顧問をつとめた自民党議員の山田太郎氏が介入し、理由はともかく撤去されたことも記憶に新しい。
自民党の山田太郎氏がインボイス反対や啓発ポスターに冷淡だったことを思い出している - 法華狼の日記

 表現が行政によるものであれば、議員の介入が必ずしも表現の自由への侵害になるわけではないが*2、性行同意にまつわる山田氏の見解に疑問があるとなれば話は別になる。

 クレジットカードの決済もアダルト作品の購入に影響をあたえるようになってから注目されたが、ロシアのウクライナ侵攻時のように制限そのものは以前からさまざまな理由でおこなわれている*1
「マスターカード」と「ビザ」 ロシアでのカード決済事業停止 | NHK | ウクライナ情勢

マスターカードは「世界は、軍事侵攻による衝撃的な状況を1週間以上にわたり見てきた。前例のない衝突と不透明な経済状況を考慮し、今回の措置を決定した」としています。


 ともかく匿名ダイアリーは候補者の回答から気になった部分を抜粋し論評していく。
 興味深いのは、虚偽をもちいた扇動などで選挙をゆがめたばかりのNHK党の立花孝志氏について、表現規制に反対しているという回答に全面的に同意して、留意する表現をつかっていないこと。
2025年参院選「表現の自由」アンケート感想(回答編3)

ご存知NHK党党首。設問2-aの回答でA~Gを全て選んでいる、数少ない候補の一人。他の回答も同意できる内容です。

 NHK党は浜田聡氏も同様の回答。ここで匿名ダイアリーが初めて『アサシンクリード シャドウズ』へ政治家が介入したことを言及し、そこが浜田氏とあいいれないことを表明している。
2025年参院選「表現の自由」アンケート感想(回答編6)

設問2-aの回答でA~Gを選択しています。表現規制問題へ強い関心がある現職で、多数の質問主意書の提出等、議員として精力的に活動されています。旧統一教会との関係も指摘されていますが、少なくとも回答にその影響は見られないです。

アサシンクリード シャドウズ』をめぐる一連の騒動では、「日本文化を歪めている」等の理由で作品を問題視し、関係省庁への問い合わせまで行っていて、そこは相容れないです。

 つまりAFEEのアンケートでは、明確にエンターテイメントを攻撃してきた政治家ですら、あたかも表現の自由を完璧に守るかのように回答できてしまう。
 表現の自由全般はもちろん、エンターテイメント表現の自由を守る政治家の参考にすることは難しい。

*1:念のため、それぞれの制限が同等に妥当だと主張しているわけではない。