一口エッセイ:闇バイト体験
闇バイトが話題なので、自分の闇バイト体験談を書きましょう。
20歳。貧乏まっさかり。電気が止まり、ガスが止まり、さすがに水道まで止められたくないと、Twitter経由で知り合ったアングル系ライターの紹介により、闇バイトへ応募させてもらう。
事務所は、新宿のハズレにある怪しいビルに構えられており、4階にあるのにエレベーターも無いのかよと早速やる気をなくす。事務所内は業務用机に印刷物が散らばっていて、汚な目ではあるものの、普通の会社の範疇に思える。ボスっぽい大柄なヒゲのおっさんに話しかける。
「なるほどね。お金が欲しくて犯罪じゃなければなんでもいいと。ふーん。キミは生まれつき嗅覚がないのか。じゃあ、あのバイトがいいな」
真っ白な履歴書と事前の情報から何かを納得するおっさん。特定の仕事があるわけでなく、数日に一度、この場で指定された職場に派遣されていく感じらしい。
「ならぴったりの仕事あるから。明日朝6時に事務所下にきてね〜。日給は期待していいから」
それだけ? と思ったが、案外こんなものかもしれない。朝早いのは辛すぎるものの、そこも含めていろんな事情があるのだろう。業務内容も不明だが、とにかく行くしかない。金銭のためでもあるが(日払い)好奇心もある。いったい、何をさせられるのだろうか……?
翌朝。ほとんど徹夜で事務所下に到着すると、軽自動車の運転手に呼ばれ、訳もわからないまま後部座席へ乗り込む。昨日とは違うおっさんと二人。簡単な挨拶だけ交わし、車はどこかへ走り出す。2時間程度。いつの間にか東京を離れ、車はどこかの小さな病院へ到着。薄暗い。おっさんに降ろされ、建物内へ。田舎の病院はぜんぜん人が居なくて怖い。二人で地下へと進む。
地下はめちゃくちゃに暗い。廊下は非常灯に照らされ緑に光る。静かな道をひたすら進むと、重く大きな扉が現れ、直感で「ここだ!」と確信。
「じゃ、入るよ」
謎のおっさんが扉を開くと、薄い緑色の光に包まれたカプセルのみが真ん中にぽつんと置かれた部屋が広がる。とてつもなく寒い。
「おっ、本当に臭いがわからないんだな。そりゃ天職だわ。俺はいま臭くて敵わん」
なるほど。きっとカプセル内の"何か"が酷い臭いをするのだろう。というか病院に案内された時点で薄々勘付いていたが、これは死体だ。イリヤの空で読んだような都市伝説、死体洗いだ。
「なんとなくやることは分かるよな? ここに用具を置いておくから、中を洗ってくれ」
中身のわからないスプレー、スポンジ、手袋、バケツ。全くもって普通の掃除用具。スプレーに満たされた液体の中身は怖くて聞けないけれど、"中身"さえ見慣れてしまえば、鼻の効かない僕にとっては問題ないかもしれない。寒いのは勘弁して欲しいけれど……。
恐る恐る"中身"を確認する。といっても、水槽の中は緑色しか見えず、中に手を突っ込んで引き上げるしかない。にやついたおっさんに見守られるなか、水槽の中に手を突っ込み、掴んだ"なにか"を引き揚げる。燃え尽きた炭のような灰色のか細い枝。おそらく、腕。
「中に何個かパーツがあるから、よろしくね。2時間くらいで終わるよ。次回もこの業務で登録しな」
おっさんが出ていく。つまり、複数ある闇バイトのなかで、僕の適した仕事がこれか。他のも知りたいが、今は水槽の中身を洗うしかない。
スポンジにスプレーの液体をつけ、少しずつ枝をこする。意外とぷにっとしている。ぷにっとしているというか、この感触なんか……魚? きっと、本来は生臭いのか? そんな感じがする。灰色を落としていくたびに、ドロっと黒寄りの青が露出する。なんだ……? 人間の腕じゃない。魚? いや、魚に腕があるわけがない。鱗のある人間? 普通の死体がこんな保管のされ方しているわけないから、やっぱり特殊な体質の人の死体なのか? というか、"先"を洗えばわかるよな。これがもし人間じゃないなら、手のひららしき箇所の指と指の間を擦ったら……。
でてきた。ヒレ。指の間にヒレがある。間違いなく人間じゃない。いや、元はと言えば人間の指はヒレから進化したものと聞いたことがある。じゃあ、このパーツは人間より前の生き物……?
水槽の中の他パーツを引き揚げてみる。枝が数本でてきたが、恐らく手足。さらに他の部位を探すため腕を奥に入れると、丸い形のものを掴んだ。多分、頭。大きさは人間と変わりはないけれど、耳が異様に大きく柔らかい。大きいって言うか、これは巨大なヒレ。つまりは、半魚人のような存在……。そのまま手探りで形をたしかめていると、眼窩に指を入れてしまった。イヤな感触。……瞬間、ぐりっと指先で何か丸いもの動いたのです。まるで、指の感触に驚いた眼球をぐるぐるさせているような。
うわ!っと両手を引き剥がす。中のものは"生きている"!あいつらは一度も「死体洗い」なんて言っていないし、人間とも言っていない。そもそも"洗え"とも言っていない。洗浄自体がフェイクで、真の目的は僕と"何か"が二人きりであることだとしたら……。
迷いはなかった。急いで扉を開き、廊下を駆け抜けて階段を駆け上がる。院内には誰もいない。そのまま走って走って20分くらいだろうか。どうにか民家の見える場所に着いた。意外と監視や追ってはこない。もしかすると本当に洗えば問題ない仕事だったのかもしれない。けれど、もしあの頭部を引き揚げるていたら……。通りすがりのおっさんに「キミ魚臭いなぁ」と言われつつ、駅を目指した。あの事務所は今もあるのだろうか?他の仕事はなんだったのか?時折、思い出す。
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