───最近、なんだか【七曜の魔女】達の様子がおかしい気がする。
法界での出来事を経て、この家に七曜の魔女達を迎え入れてからそろそろ1年が経とうとしていた。
その一年という時の間、俺達は一つ同じ屋根の下に住むある種"家族"として、共に今日まで生きてきた。
皆心に何かしらの傷を負った者達を寄せ集めた集団、完全に打ち解けるにはそれなりに時間を要したが、今ではもうすっかりと打ち解けている。
だがしかし…これまでは大して気にしてはいなかったものの、なんだか最近はやけに彼女達との距離が近いような気がしているんだ。
ただの勘違いと言われればそうかもしれないし、俺達は家族のような関係だからそういったのもよくある事で俺がただ気にし過ぎな可能性もある。
だが、仮にも俺は恋人がいる上、この家の中では唯一の男である為かそういった距離感にも少しばかり敏感になっていたりするのだ。
そんな俺が気にしている状態を説明するとするなら、例えば…。
「柊さん!」
「「要お兄ちゃん!!」」
声の聞こえた方を向くと、デフテーやトゥリー、そしてペンプの七曜の魔女達の中の年少組達が俺の方へと駆け寄ってくる。
そして【月の魔女】デフテーと【火の魔女】トゥリーは俺の左右の足に抱き着いてきた。
「おっ?どうしたんだ?二人共」
「お兄ちゃんあったかいです~」
「あったかいなの~」
この調子でなんだかこの二人は最近すごく甘えん坊になっている気がする、まだ小さいから誰かに甘えたい年頃なんだろうか。
まぁでもデフテーやトゥリー、そしてペンプはまだ他の子達に比べたら幼い、きっと本当に俺を兄のように慕ってくれているのかもしれないな…正直それは嬉しいと俺は感じている。
最初は初対面が戦場だったからか中々すぐには打ち解けてくれなかったからな、でも今はこれだけ俺に対して砕けてくれたなら家族としてとても接しやすい。
「………」
そんな傍ら、椅子に座っていた俺の恋人である【日の魔女】桜花はジッと幼い魔女三人の方を見つめていた。
「ん、桜花?どうしたんだ?」
「……いや?なにも?」
俺がその視線に気づき桜花に声をかけると、桜花は顔を背け、何事も無かったかのように振る舞う。
けど、なんだか一瞬、先程の桜花のあの子達を見る目が威圧的なモノのように感じたのだが、気のせいなのだろうか…?
俺は直感で深く考えてはいけないような気がし、それ以上は触れないようにした。
「柊さん柊さん、ちょっと能力修行、手伝ってほしいんだ~!」
桜花の視線に気を取られていたそんな時、【木の魔女】ペンプが俺の手を握ってブンブンと上下に振ってきた。
この頃俺はよくこうやってペンプや他の魔女達と能力の鍛錬に付き合うようになっている、今日もまたペンプは俺に修行を手伝ってほしいとせがんできた。
「私のおかげで調和も使えるようになったんだし、ちょっと手伝ってよ~」
「分かった分かった、けどこの後でいいか?まだやることがあるからさ」
「うんうん全然オッケーだよー、でもなるはやでお願いね~!」
「じゃあ!いつもの場所に集合!」
そう言いながらペンプは外に出ていった、きっといつも俺達が修行する際に使っている遺跡に向かったのだろう。
あの子はいつも楽しそうに修行に励む、たった1年でオーラ量も数万程まで伸びた、それだけのモチベーションがあればきっとあの子は強い魔女になるだろう。
とは言っても流石に待たせ過ぎたらペンプはとんでもなく拗ねるので、俺はやる事を手早く済ませる為にデフテーとトゥリーの面倒を桜花に任せ、作業に取り掛かった。
……やはり、なにか桜花の彼女達を見る目に違和感があるような気がした。
「ふふ、ふふふふ…」
「今日もまた柊さんと一緒にいられる♪」
ルンルンとご機嫌なペンプは軽い足取りで道を歩いていた。
(修行は本当にいい口実だよ、簡単に彼との時間が作れるから)
(修行の時だけは誰も邪魔しない、私と柊さんの二人だけの時間…彼と一緒にいられるなら、たとえどんなに修行がキツくても絶対に耐えられるよ♪)
(だって…柊さんは他のやつとは違うもん)
(柊さんは私を無視しない、私を否定しない、私を拒まない…私の事をちゃんと見てくれる、褒めてくれる、昔私を無視してきた人達とは違うんだ…)
(そんな彼との時間を奪うなら、たとえ恋人である桜花ちゃんでも容赦しない…)
過去の出来事から彼女は誰かに無視されたり、否定される事を恐れ、人間不信となっていた。
そんな中ペンプは自分の事を見てくれた彼の事をとても慕っていた、だがそれと同時に彼女は要に対して強い恋慕の感情が芽生えていた。
だが、彼にはもう既に恋仲となっている女性がいる、故にそれは最初から決して叶わない恋…だからこそせめて二人でいられる時間は確保したかった、そうじゃないとペンプは嫉妬という感情によって狂わされてしまう。
まだ15歳になったばかりの少女はそのような感情を抑え込めるだけの力は持ち合わせていないのだ。
その後ペンプは用事を済ませた要と合流し、数時間二人だけで修行を行った。
その間色々とくっついて来たり等のスキンシップが多く、距離を取ろうとしたもののペンプは少し悲しそうな表情をしたので、仕方なく許す事にした。
日々彼女達には模倣した能力の使い方やコツなどを教えてもらっているので、彼女達の存在は日常的にも戦闘的にもとても貢献してくれている、だからこそこういうのも多少は許してやるべきなのかもしれないと俺は思っていた。
何より突き放すのは心が痛む、過去の出来事で俺は人間関係に亀裂が入るのを恐れてしまっているのかもしれないな。
そういった感じで最近この子達の距離感が非常に近いのだ、それでいて俺も距離を取ろうにも取れない状態なのだ。
───勿論それは他の魔女も例外ではなく…。
まずはパラ…【金の魔女】パラスケの様子を説明していこう。
それはある昼頃の話なのだが。
「あ、柊さん、ちょっといいかな?」
「パラ?どうしたんだ?」
「実は買い出し手伝ってほしくて、いいかな?」
「ああ、構わない」
「やった…!」
パラは小さな声でそう呟き、小さくガッツポーズする。
「ん、どうした?」
「あ、コホン、なんでもないよ、それじゃあ準備してくるね」
「ああ、分かった」
それから数十分くらいしてパラが部屋から出てきた。
するとそこにはただ買い出しに行くだけとは思えないくらいに着飾っているパラがいた、それに俺は少し困惑した表情を浮かべる。
「パ、パラ?ただ買い物行くだけだぞ?そんなおめかしして…」
「気分だよき・ぶ・ん!」
「そ、そうか…?」
気分にしては少し凝りすぎてる気もするが、俺にはおめかしとかそういうものはあまり分からなかったものなのでそれ以上の言及はしないようにした。
「それじゃあさ、早速行こっ?」
パラは俺の手を引いて玄関の扉を開けた。
こうして俺とパラは一緒に買い出しに向かう、いつもはこういう時は桜花と共に行っているのだが、今日は桜花は修行と言うことで不在であり、特別にパラが俺同伴ということを条件に管理者から許可をもらい、外界に連れ出す事が出来た。
そしてパラは久し振りに外界に出たのか少し興奮気味になっているらしい、かれこれ1年ぶりだから仕方ない話ではあるが。
そんなこんなで俺ら二人は目的の大きなショッピングセンターへと到着し、買い物ついでに色んなものを見て回る事にした。
(……あはっ♡計画通り…今まで良い子のフリして、色んなことに貢献したから、彼同伴で外界に出る事が出来たよ♡)
(わざわざ桜花ちゃんが忙しい日を選んでよかった♡じゃないと同伴者が桜花ちゃんになっていたからね)
(ふふふふ…周りの人達から見れば私達はカップル…だよね?)
(あぁ♡楽しいなぁ、柊君とのデート♡)
パラはこれから彼とのデートを行う事に期待に胸を膨らませ、自然とその顔には笑みが浮かんでいた。
「どうしたんだ?パラ、そんなニマニマして」
「え?あっ、ううん!なんでもない!それよりもほら!あっちに行ってみようよ!」
「ちょ、ちょっとまってくれ!」
指摘されて焦ったパラは咄嗟に彼の手を引いて早歩きをする。
そして手を引かれた俺は仕方なく彼女の行きたいところを一緒に回る事にした。
その際、パラはナチュラルに腕を組んで来たり、手が冷えるからと言って手を繋いできたりと色々とスキンシップの距離感が近かったのは俺の気のせいなのだろうか?
でも、流石に腕を組んでくるのは結構厳しい、こう言ってはアレだがパラはかなり胸が大きい、七曜の中ではおそらく一番…だからか腕を組まれたときに結構当たるのだ。
けれど、そう指摘するとパラはきっと悲しい表情を浮かべるだろう、以前もこういうことがあったから、だから俺は注意しようにも出来なかった。
そんな事を考えながら二人でショッピングセンターを見て回っていると、気づけばもう数時間は経過していた。
「あ~!楽しかった!こんなに楽しいのは久し振りだよ~!」
買いたい物も買えて、行きたい場所も行けてパラは非常に満足したような顔をしていた、まるで女子高生のように。
あぁそうだ、この子はまだ未成年…あんな田舎で根を詰めて過ごすよりも、こうして都会で年相応に自分の好きなように遊んでいたいはずだ。
だからたまには彼女達にもこういう息抜きは大事なのかもしれないな、特にパラはここ最近色々頑張ってくれていたしな。
(……桜花ちゃんには悪いけど、私も柊君が好きなの、本気なの…だから私は柊君を手に入れたい…)
(でも、桜花ちゃんには嫌われたくない…身勝手なのは分かってるけど、桜花ちゃんの事も好きだから…でもそれ以上に私は柊君が欲しいんだ…)
(だから私は彼を手に入れて、あそこをどんな手を使ってでも抜け出すよ…)
(最悪私の恩恵"愛"で彼の身体の自由を奪って、私達だけの愛の巣を作って、そこに連れて行こう…)
(私の柊君への愛は大きいよ、だからきっと恩恵の威力も桁違いだと思うんだ…彼の体には大きなダメージが残るかもだけど大丈夫♡)
(傷つける度に私の能力で貴方を癒やしてあげる、そしていつか…私しか見れないようにしてあげるからね♪)
彼と共に歩く傍ら、パラはそんな狂ったような思考を巡らせていた。
一方自分を連れ出した理由がそんな事とは露知らず、要は呑気な事を考えてパラの横で歩いている、一体自分がどういう目で見られているのかも理解せずに。
そうして歪んだ視線を向けている少女と、向けられている青年は帰路を辿った。
もしかすると彼女達には、彼女達の元師匠 キリアの狂愛が感染っているのかもしれない。
続いては【水の魔女】テラールだが、テラールはあまり目立った変化はないものの、それでも最近はよく俺に色んな知識を教えてくれる事が増えてきた。
俺も正直彼女の持つ知識には興味があったから、度々その知識を教えてもらっている。
それに俺は大火災が原因で高校を中退してしまったからか、学問の分野においての知識は正直それ以降は増えてはいないので、名門のお嬢様学校である神聖女学院に在籍していたテラールの話は勉強がてらに丁度いいのだ。
「テラールは俺なんかよりもずっと頭が良いな、偉いぞ」
「……えへへ」
テラールは顔を赤くし、そっぽを向いて照れ隠しをする。
こうして毎度彼女はこんな感じで俺に褒めてもらおうとしてるのか、俺に自分の持つ珍しい知識を話してくる。
今年で18歳になる子とは言え、まだまだ甘えたい感じなのだろうか、皆環境には恵まれてこなかったみたいだからな。
それにこの子は過去に自分の能力を暴走させて心に傷を負った過去があるらしい、その事から彼女は自分の事を抑えて我慢して生きてきたんだろう、だからこそこうやって好きなように自分を出せる環境は彼女にとっては良い影響を齎してくれるのだろうな。
……それにしてはちょっと、距離は近い気もするが。
(柊さんが褒めてくれた…嬉しい、ニヤけるのが止まらないわ…!もっと、もっと褒めてほしい…もっと私を褒めて?私だけを見て?)
(我慢しなくてもいいって、自分を抑えなくてもいいって言ってくれた貴方には、私の事をもっと見ていてほしい…)
「っ………」
そう思っていると、脳内に皆の顔がフラッシュバックし、先程まで嬉しそうにしていた表情とは裏腹にテラールの表情は少しずつ暗くなっていく。
(……けど、彼は私を特別扱いしない、皆を平等に見てる、私も結局彼からしたら皆と同じなんだ)
(この家にいるのは何も私と彼だけじゃない…彼は決して私達に愛を持って接してるわけじゃない、愛は愛でも、友人として、家族として…そんなものだ…)
(本当の彼の愛は全部、全部桜花ちゃんに吸われている…仕方ないとはいえ、心の底から嫉妬してしまうの…)
(本当は私を見てほしい、私を愛してほしい、ただ…それだけなのよ…)
「…テラール?」
「はっ…!?」
要がテラールの顔を覗き込みながら声をかけると、彼女はハッと我に戻り、先程まで強い嫉妬心によって歪まされていた表情は元に戻る。
「わ、私…部屋に戻ってるわ…!」
「あ、ああ…分かった」
そう返事するとテラールは急いで部屋に駆け込んでいった。
「……はぁ」
テラールは机に顔を伏せて、ため息を吐く。
(どうせ私は見てもらえない、私は彼にとってはただの同居人、良くて家族くらいだ…もしかしたら私には仕方なく付き合ってくれてるだけなのかもしれない…本当は鬱陶しく思ってるのかもしれない…)
(私は彼にどう思われてるの…彼は私をどう思ってるの…分からないわよ…)
(私には知識はあっても、彼を振り向かせられるほどの力は持ってない…)
(どうしたって私が彼と一緒になることはない…私にも、力があれば…)
(……力…ん?力…?)
「……あぁ…そうだ、そうだよ…!」
テラールは突然何かを思いつき、机に伏せていた顔を勢い良く上げた。
そしてテラールは自分の両手を眺めた。
「そうだ…力はあった、私には…そうさせるだけの力が…」
「私の能力、知識を奪う能力…」
「これで…私の能力で…彼の知識を奪って、少年くらいの知識量まで下げたら…そこからは少しずつ私の事が好きになっていくように刷り込んでいけば…ふふふ…」
「そうすれば、きっと彼を私のものになるじゃない…!」
「そして頃合いを見たらここを抜け出して二人で一緒に暮らすか…」
「ふ、ふふ…ふふふ…柊さん、柊さん…」
テラールは不気味な笑みを浮かべている、そしてそんな彼女の瞳には今黒く濁っているような闇が宿っていた。
「柊さん柊さん柊さん柊さん柊さんひいらぎさんひいらぎさんひいらぎさんひいらぎさんヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサンヒイラギサン…」
彼女は狂ったように彼の名前を連呼した、そして徐々に彼女の瞳には更なる歪みが帯びていく、彼への歪んだ愛情と欲望がまるで風船のように大きく膨らんでいく。
「……好き♡」
「もっと私を見てほしい、もっと私と喋ってほしい、もっと私と、私と…ふふ、ふふふふふ♡」
テラールは彼の知らぬところで一人歪んだ思想によって彼との恋に期待を膨らませながら狂気に満ちた妄想に耽っていた。
最も狂気的な少女は、もしかしたらこの子、テラールなのかもしれない。
最近【土の魔女】サーヴァは何か元気が無いような気がする、ここ最近は部屋に篭りきりになって他の魔女達ともあまり会話をしないようになったと聞かされた。
何か精神的に辛い出来事でもあったのだろうか、経験上今はそっとしておくべきなのだろうと判断した俺はなるべく彼女に話しかけないようにすることにした。
だがある日から、彼女は体中には傷のようなものを作るようになって、それと同時に彼女からは殺気に近いようなものを感じるようになった…。
「柊君、柊君…」
布団に包まりながらサーヴァはボソボソと復唱するように要の名前を口にしている、サーヴァの瞳には生気が感じられず、まるで生きた死体のような形相をしている。
「どうして私を見てくれないの…どうして私を心配してくれないの…」
「可能性の無い何も出来ない私を受け入れてくれた君が好き…私が辛い事があると相談に乗ってくれる君が好き…」
「でも最近柊君は私を見てくれない…見てくれない、見てくれない…」
「こんなに"努力"してるのに、こんなに見てもらう為に頑張ってるのに…いつも彼の視線は他の子達に奪われる…」
「結局彼にとって私はただの家の住人の一人に過ぎない…だから私の気持ちにも気づいてくれない…」
「桜花ちゃんと付き合ってるから私の気持ちに気づかないふりをしてる可能性もある、でもここは外の法律は適応されないんだよ…?そして私達は余程のことが無い限りは外に出られない…特例を除いて…」
「だったら見てくれるくらい、いいじゃん…君がいないと、私は駄目なんだよぉ…」
私は七曜の中の最年長だから、皆のお姉ちゃんでいないといけない…でも彼は唯一私と同い年で価値観も凄く合うから…七曜の子達とは別で凄く私が私でいられるくらいに安心できる存在…。
いつからか私は彼の存在をたまらなく欲してしまうようになり、今ではこんなにも彼に依存してしまっている。
だから彼が欲しい、私だけを見てほしい、私だけを特別に考えてほしい、私だけ…私だけを…。
「……あっ、そうだぁ…♪」
そこで私はある事を思いついた、そして魔法で小さな刃物を作り出し、私はそれを見つめ、ある想像をするようになった。
「もし怪我したら…柊君は私のこと、見てくれるようになるかなぁ?あはは♡」
狂った妄想、狂った行動、それを心の底では分かっても、私はこうした方が確実だと思った。
そして私はその刃物を自身の腕に向け…突き刺した。
───ある日からサーヴァは高頻度で大怪我をするようになった、そして彼女はその怪我を治すにも妙な事に桜花やパラに治療を頼むのではなく、何故かわざわざ俺に治療をするようせがんでくるのだ。
俺も一応桜花やパラのおかげで治療術は使えるものの彼女らに比べると精度は低い、それなのにも関わらずサーヴァは必死に頼み込んで来る為、その事を不思議に思いながらも日々彼女の手当をしていた。
そして徐々に日を跨ぐ毎に彼女の怪我はエスカレートしていき、日に日に怪我をする部位やその規模が増えてきたのだ、それでも変わらずサーヴァは俺に治療を頼んでくる。
それにともなって色々と問題も生じてきており…あまりにも酷い怪我をしてこられるとこちらとしても治療が難しくなっていくのだ、そして何より…傷を治すためには実際に怪我した部位も見ないといけない為に、相手が異性なこともあってか少しばかり抵抗があった。
なのにも関わらず彼女は治療を頼んでくる訳であり、たまに胸や股に限りなく近い部分の治療を任される時は意識しないように務めるのがあまりにも大変だった。
以前は誰よりも家庭的で、誰にでも優しい魔女達のお姉ちゃんみたいだった彼女が、どうしてこうなっているのか正直わけが分からなくなってきたが…。
ただ一つ言えることは、俺に治療してもらっている最中のサーヴァはどこか幸福そうな表情を浮かべており…。
その瞳には"狂気"に近い何かが宿っているような気がしたとだけ───。
最近魔女達の仲が悪いような気がする、俺と桜花は都合によって外に出る機会があるからかその間に彼女達はどうやって過ごしてるのかが分からない。
たまに好奇心で聞いてみても皆「普通」とか「いつも通り」とか言っているのであまり俺らが不在の間の様子が分からない。
一応パトから家主の権限は貰っている以上、同居人である彼女達の事は把握しておきたいのだが、やはり女性ということで踏み込み過ぎるのはデリカシーが無いのかもしれないな。
せめて喧嘩とかしてないといいけど。
───そしてある日の事だった。
「サーヴァさぁ、いい加減にしてくれない?一体何回柊さんに治療を頼んでるの?」
「そんなのテラールには関係ないよね?」
「関係あるけど、どれだけ彼を独占してるのって言ってるのよ」
要と桜花が不在の間、家の中ではサーヴァとテラールの二人が何やら言い争いをしていた。
内容は案の定要絡みのことであり、最近のサーヴァのエスカレートしている行いに対してテラールは糾弾していた。
「独占?あぁ~!もしかしてテラールは嫉妬してるのかな?」
「はぁ??そんなわけないでしょ!」
サーヴァはテラールのその問いに対して煽るように返答し、図星なのかテラールは勢い良く反発するように否定し、眉間にしわを寄せて睨み付ける。
「でもごめんね~?柊君は年下のテラールより同い年の私の方がきっと価値観も合ってて幸せになれると思うんだけどな~」
「そういう年上マウントいいから」
「大体さぁ~、柊さんに構ってもらいたいからってわざと怪我して帰ってくるようになって来てから、パラや桜花ちゃんじゃなく彼に傷を癒やしてもらおうとしてるだなんて少し露骨過ぎるんじゃない?どれだけ彼が心配してたか分かる?」
「大方もしかしたらこうして部屋に閉じ篭っていたら彼が御見舞に来てくれるかも~とか、怪我をしてたら彼が心配していっぱい構ってくれるかも~なんて身勝手な妄想してたんだろうけど、逆に彼はそんなサーヴァに気を使って構ってくれなかったのはお笑いね!」
さっきのお返しと言わんばかりに今度は嘲笑するかのような口ぶりでテラールはサーヴァを挑発した。
「っ…よく言うね~、私よりも頭悪い癖に彼に知識を引けらかして褒めてもらおうとしてる子が何を言ってるのかな~」
対してサーヴァは腸が煮えくり返りそうな気持ちを表には出さずにテラールに反論を仕掛ける。
「サーヴァよりは全ッ然マシだと思うけどね?貴女みたいのを世間ではなんていうか知ってるかしら?メンヘラって言うのよ」
「怪我の治療を口実にわざと胸やお股の近くを怪我して彼に触らせようとして発情しまくってる痴女メンヘラ以外の何者でもないわよ」
「きっとその腕の裾めくったらリスカ痕でも出てくるんじゃないの?w」
「いい加減、黙ってよ…ッ」
流石のサーヴァも我慢の限界が来たのか普段は出さないような低い声色で怒りを顕にする。
「そっちこそ…」
負けじとテラールもサーヴァを思い切り睨みつけた。
そしてテラールとサーヴァはお互いにバチバチに睨み合っている。
同じ屋根の下に男が住んでる弊害か、彼女達は皆彼に好意を寄せている。
彼の普段の行動、彼の性格、それらを長い間共に過ごして知っていく内に彼女達はどんどん要に惹かれていってしまい、どうにかして彼に振り向いてもらおうとしていると、たまにこうしてギスギスとした喧嘩が始まってしまう。
前まで仲が良かったこの二人でさえも例外ではなく、今では一人の男を取り合う為に牽制しあっている始末。
「嫌だな~本当、昼間からくだらない喧嘩してるのを聞かされる身にもなってよね、二人共」
「ただ私のように真っ当に生きて彼との時間を作ればいいだけなのに、わざわざそんな狂った手段を選んでるなんて、本当笑えるよね」
「パラ…」
「パラちゃん…」
テラールとサーヴァが言い争いをしている最中にパラが割り込んできた。
「あんた、何しに来たのよ」
「なにって、この無意味な言い争いを見に来ただけだけど?」
「なに、勝者面でもしてるの?」
「いやいやそういうわけじゃないよ、ただ…貴方達のように狂った手段ばっか考えてる間にも私は一番彼の役に立ってるってことを伝えたかっただけだから!」
「何よりも私の能力も一番彼に貢献しているからね!」
「はぁ?治療なんて桜花ちゃんでも使えるでしょ、ダダかぶりしてるのよ」
「でもその能力に助けられてるのは確かだよね?そもそもサーヴァに関しては私の能力があったから柊君がそれを模倣して治してくれてるんだし、感謝してほしいね」
パラは二人に対して自慢するかのように誇らしげな顔をする。
その顔を見てサーヴァとテラールの表情は一層険しくなった。
「…なに?喧嘩売ってるの?」
「事実を述べただけだよ?」
「そもそも皆の能力だって柊さんが模倣してるから使えるんだし、ダダ被りなのはそっちも同じだと思うんだけどなぁ~」
「その点私の能力は一人で戦闘してるときにも使える便利な能力だよ、つまり私は戦闘面でも一番柊さんを支えてるんだよ!」
「大体、知識を奪うなんてどこで使うのかな?諜報活動?w」
「パラ…あんた、いい加減に…ッ!!」
パラはテラールの能力を嘲笑し、対してテラールは自分の能力を侮辱され、堪忍袋の緒が切れかける。
「……でも」
だがそれと同時にさっきまでの態度が一変するようにパラは暗い表情を浮かべ、俯いて沈黙する。
「……でもどうせ…こんな事言ったって、彼はそもそも桜花ちゃんの彼氏…誰も付き合えないよ…」
「もうちょっと、彼と出会うのが早ければな…」
パラは吐露した。
結局の所彼女達はただ要の事が好きなだけなのだ、だけど叶う事のないこの行き場の無い想いをお互いにぶつけ合って消化しているだけに過ぎないのだ。
これだけ仲が拗れても、彼女達は同じ運命を共にした魔女であり、考える事も同じだった。
好きになった人とはどうあがいても一緒になることはない、大好きだった同じ傷を分かち合った仲間たちとの関係は日々険悪になっていく毎日、そういった日常は彼に依存してしまった魔女たちにとって、ある種の地獄のようなものとなっている。
もしかしたらこの状況こそが…悪魔界の門を開いてしまった罪人である彼女たちに課せられた本当の“罰”なのかもしれない。
そしてこれからも死ぬまでこの罰を、彼女達はこの世界で受け続けていく事になるであろう状況に強い恐怖を抱いていた。
「要お兄ちゃんはデフテーと遊ぶのー!!」
「お兄ちゃんはトゥリーと遊ぶのですー!!」
「お、落ち着けお前ら…二人共遊んでやるから…な?」
「トゥリーばっかりずるいのですー!」
「デフテーもいっつもお兄ちゃんを独り占めするのー!」
「いっだだだだだだ!!?」
魔女たちが言い争いをしているその裏では、要と共に外出していたトゥリーとデフテーは彼を取り合うかのように要の手を引っ張っており、その様はまるで綱引きかのようになってる。
齢10とは思えない程のパワーで左右から引っ張り合ってるので、中々に痛いのだ。
こんな調子でいつも二人は俺を取り合っている、あまり親に甘えられなかった反動なのか年上に構ってほしいのかもしれないが、それで二人が喧嘩し、仲が悪くなっていくのはあまり良くない気がする。
それに何もこれはこの子達に限った話じゃなく、他の魔女達も俺と絡む際は何故だか互いに互いを睨み合ってる、そんな気がしている。
その点で言えばペンプが一番この家では接しやすい、ちゃんと彼女を認識して話してあげればそれで満足してくれるから。
───でも結局の所。
「………」
なんでこいつら、こんなにギスギスしてるんだ…?
俺にはそれが分からなかった。
───やっぱり、同じ屋根の下に女の子を大量に住ませちゃ駄目だね、嫌でも一緒に住んでる男の人の事が好きになっちゃうから。
───何より要君はとても優しくて、頼りになって、強くて…女の子が付き合うならトップな性格と顔の盛り合わせみたいな人なのに…。
───はぁ~あ…残念だよ、皆の事はかなり信頼していたのになぁ…。
───私が気付かないとでも思った?
───結局、皆も要君を私から奪おうと考える卑しい泥棒猫達なんだね…。
───私の要君を奪うなら、私達の愛を邪魔するなら…容赦しないから…。
だから、もし彼に何かするなら…覚悟してね?
み・ん・な?
終わり。
少女達は皆心に傷を負っている、だからこそこうやって誰かに甘え、依存するようになるのかもしれない
本編では生憎魔女達は皆桜花に懐いているのだが、もし懐かれる立場が要だった場合は……今回はそういう話になっています。