遅くなりました、ごめんよ。
内容は前回予告した通りです。あらすじを一行でまとめると、
“このカルデアにフォウがいない理由”
ってところですかね
星を探す旅路ー1:『帰還』
私たちカルデア司令部の人間は、レイシフトに同行することができない。なぜなら、レイシフトは適性のある人物にしか行うことができないからだ。
そして今現在のカルデアにおいては、その適性所持者として銀弾と藤丸立香だけが存在している。即ち、その二人のみが実地で特異点攻略を行う人員であり、それ以外の職員はカルデアに居残りだ。当然、私も含めての話。
だからこそ、私たちにできる最大限の事というのは、現地で戦いに身を投じる彼らのサポートになる。物資を送ったり、存在証明をしたり、バイタル管理をしたり、とその内容は様々だ。
私たちにとっては、それこそが戦いのカタチだった。それが、地獄に送り込んだ同胞を安全地帯から眺めるだけの、酷く歪なものであるとしても。それこそが、私たちにできる事。精一杯の支援であるのだと。
──だから。
その歪みをよしとしていたから。
私たちは、失敗したのだ。
◆
走る、走る。コッコッと、脚を前に進めるためにヒールの底が地面を叩く音が鳴った。そしてそれは、私の吐く荒い息とあたりに響く怒号にかき消されていく。
指令室から1分もかからない距離、コフィンのあるレイシフトルーム、カルデアスの鎮座するそこに、私たちは急行していた。
「担架と救急箱を! 緊急治療室の扉を解放しろ! 医療スタッフは
「私の工房からありったけの治癒スクロールを持ってきてくれ! 止血剤と鎮痛剤も! 急いで!」
ロマニとダヴィンチが指示を飛ばしている。スタッフたちもそれぞれが慌ただしく動き、それに従っている。
そんな中で。そんな緊急事態の最中で私は──カルデア所長として皆を統率することもせずに、ただ、
もう、頭がぐちゃぐちゃなのだ。何を信じるべきか、何を信じないべきかもわかりはしない。けれど、唯一わかるのは──私たちは失敗した、というその事実だけ。
思えば、この特異点攻略は始まりからどこかおかしかった。
リツカのサーヴァントであるエミヤがレイシフトから弾かれ、さらに転移先は二人のマスターで離ればなれ。そしてこちらからの物資転送どころか、通信すらも受け付けない。できることは二人のバイタル管理と存在証明。そして、音声情報と映像情報の観測だけ。
そして、この状態がいずれ回復してくれるものだとも思っていた。
しかし数時間が経ち、一日が経ち、ついに数日が経ってもこの現象が──技師たちのどれだけの努力があっても──解消されなかったそのとき、私たちはどれだけ深刻な状況に立たされているのかを理解したのだ。
私たちは、
そんな深い後悔に苛まれながら、ようやく私たちはそこにたどり着く。カシュン──、とレイシフトルームの扉が開くのすらもじれったく思えた。
「──、はやく、コフィンを開けてちょうだい!」
想定していたよりも大きな声が口から飛び出した。私の後ろにいたスタッフたちは、それに弾かれたようにしてコフィンに駆け寄った。
スタッフたちがパネルを操作すると、頑丈な透明素材の蓋がスライドして開いていく。隙間からはコフィン内に満たされていた白い気体が漏れ出して、それが中の人間の様子を隠すようにしていて鬱陶しい。
私たちは手で仰ぐようにしてその靄を追いやった。そして晴れた先にあったのは、つい先ほどまでロンドンで戦い続けていた3人の姿。
リツカとマシュには一見して酷い傷は見当たらないが、顔は蒼白で意識もない。礼装の胸元には指先ほどの大きさの穴がぽっかりと開いていて、べっとりと血痕が付着しているのがわかる。一見すれば、まさに銃殺死体の様相だ。
二人のそばにいた医療班はすぐさま二人の手首に指先を当て、眼を閉じその感覚を正確に確かめていた。数秒の後、僅かに安堵の表情を見せる。どうやら、最悪の事態には至っていないらしかった。
しかし、予断を許さない状況に変わりはないだろう。なにより観測していた光景からして、すぐに治療が必要なことは間違いない。二人はすぐに担架に乗せられ運び出されていった。
その光景を見送りつつ、再度コフィンへと視線を戻す。残り一人、ハズムはいったいどうなっているだろうか──
「──うぅ、これは……」
始めに感じたのは腐った鉄のような──血の臭い。そして、焼け焦げた有機物の鼻を衝く刺激。どこを見ても生傷がいくつも刻まれた体だ。散見される火傷痕がこの
彼はどの特異点攻略においても傷を作って帰ってくることで、医療班スタッフの間では特に心配の声が上がっている人物ではあったが、今回のこれは今までで最も重症であることが一目でわかった。
医療班はその衝撃的な状態に一瞬怯む様子を見せたが、トップのロマニが率先して彼の診察を始めたことによって、自分たちの職務を思い出したようだった。てきぱきと治療を進めていく。
外傷の少なかったほか二人と違って、彼には担架で運ぶ前にこの場での応急処置が必要だと判断されたらしかった。
私は、医療の専門知識のない自身の出る幕ではないと理解していながらも、彼の肌に触れたくて仕方がなかった。そうでなければ消えてしまいそうなほどに、今の彼は儚くて。文字通りの風前の灯火に見えていたのだ。
コフィンの淵からだらんと垂れ下がった彼の傷だらけの腕が、とても痛々しいものに思えた。私は彼の力の抜けた左手を、その指先から手のひらにかけての全てを、そっと包んであげたい衝動に駆られていた。
「……オルガ、安心して。彼は見た目以上に軽傷だ。どの傷も既にある程度ふさがっている。誰かに処置されているみたいだ。見た感じからすると、モードレッドによるものかな」
「、そ、そう。それは、よかったわ」
ロマニが私の肩を叩いて告げた内容に、自分でもびっくりするほど急速に心が落ち着きを取り戻したのがわかった。
思い返せばモードレッドは、確かレイシフト帰還直前に彼を運んでいたのだったか。彼女は円卓の騎士だし、応急処置の技術にも精通しているのかもしれない。
「血や火傷の匂いも、ほとんどは服や皮膚にこびりついたものから立ち上っている。ひどい恰好だけど、命に別状はない──と、思う。いくらか傷痕が残ってしまうことは防げないだろうけど」
ともかく今すぐ命がどうこうなる様子ではない、というロマニの簡潔な診断結果を受けて、私は一つ息をついた。
そうとなれば、次にやることは決まっていた。とにもかくにも、治療だ。現在のカルデアとしては、3人の回復を図ることが急務というのに間違いはなかった。
「……応急処置処置は終わったかしら。運んであげて」
「……よろしいのですか?」
「──? ええ」
私の指示になぜだか一瞬躊躇した様子を見せた医療班の男は、私の返事に何か言いたげな表情を見せながらも、もう一人と共に協力して彼をそっと担架に乗せると、運び出していった。
彼の不可思議な態度に私が困惑して首を捻っていると、後ろからダヴィンチが私の背を叩いた。私を労わるような、励ますような。彼女には珍しい、優しい手つきだった
「ともかく、3人とも生きていてくれたのは喜ばしいことだね。これから治療して、目覚めたら事情を聴いて──そして、そこからだ」
「……ああ、そうだね。そこからが正念場だ」
ロマニと二人でなにか通じ合うようにして語り合うダヴィンチ。何かを心配している、ように見える。彼女たちが話しているのがどういうことか、私には理解できなかった。
「二人とも、何を話しているのよ」
「私たちは見ただろう。ロンドンで行われた決戦の様子を。このカルデアの全ての人間たちが、その光景を眺めていた」
「それが?」
「つまりは、そうだね。
「……まってちょうだい。どうするもこうするも、今まで通りでなにも問題は、」
「──本当に、そう思うのかい? オルガ」
ダヴィンチの物言いにとっさに反論しかけた私を諭すようにしてロマニが悲し気につぶやく。ダヴィンチも同様の表情。
想定外。そうあっけにとられている私の肩にそっと手を当てると、二人はハズムの乗せられた担架へと駆け寄った。
そして私はぽつんと取り残されたまま思考を巡らせ、そして思い出す。ロンドンで行われた決戦。そこでシロガネハズムがどんな言動をしていたのかを。
彼らが心配で。その感情でいっぱいいっぱいで今まですっかり忘れていた──あるいは、考えないようにしていたけれど。
シロガネハズムは言ったのだ。そこにどんな事情があり。そこにどんな意図があり。そこにどんな感情が注がれていたとしても。
『オレは──世界を滅ぼすことにしたんだ』
そんな、
さらには何か、今まで見せていなかった
今まであんなチカラがありながら隠していた──そういう認識が、皆の心に広がるまでにそう時間はかからなかっただろう。
そこまで考えて、ふと、周りを見渡してみる。ハズムが今まさに回廊へ続く扉を通り抜けようとしている──そして少なからず、それに向かって良いものとは言い難い視線を向ける者たちがいる。
ロマニとダヴィンチは、そんな者たちの視線からハズムを守るようにして位置取りながら、担架と共に医務室へと向かった。
周りに充満する懐疑の雰囲気に気づいたとき、ねばついた液体を背中に流しこまれているかのような酷く不快な感覚が、私の背中をどろりと撫でた。
人理継続保障機関カルデアは、人類の未来を守るための組織だ。だからこそ、ここにいる全ての職員が、選択の時を迎えていた。
今まで攻略を任せてきた立った二人の少年たちの片割れ。誰よりも努力を欠かさない、誰よりも真摯に修復に取り組んでいると思われていたシロガネハズムが、世界を壊そうとした。
私たちは、それをどう受け止めるべきなのか。きっと誰もわかっていなかった。
少なくとも、ロンドン攻略が始まる以前。カルデアのスタッフたちからシロガネハズムへの評価は──私の眼が正しければ──“頑張っていて応援したくなる子”だったり“無理ばっかりして心配になる子”だったりしたと思われる。
英霊たちと違って、私たちはハズムから何の予感も感じられなかったから、なんのバイアスも無く、彼の言動そのものが率直に評価の対象になった。その上で、皆はハズムのことを信頼していた。ハズムは努力を欠かさないし、与えられた任務の遂行に忠実だったからだ。
しかし、ここで問題となるのはハズムは誰もに
彼はカルデアにいる間、ほとんどの時間を自身の鍛錬に当てていた。まるでカルデアにいる時間を、“特異点攻略の合間の期間”とだけしか認識していないかのように。次の特異点に向けた準備だけを淡々と行っていた。
スタッフたちはその姿勢をこそ評価していたが、そんな生活ばかりでは誰かと親密になるような時間はなかったと思われる。
訓練に付き合っていたダヴィンチ及び技術班の数人、特異点攻略の旅に彼を治療するロマニ及び医療班の数人。彼と絆を育んだ可能性があるのは、そのあたりだろうか。
──つまり端的に言って、シロガネハズムには。
彼のロンドンでの言動を聞いて、“それでも信じる”と言ってくれるくらいに親しい人物が、それほど多く居なかったということなのだ。これが藤丸立香だったら、また違ったのだろうけれど。
ロンドン特異点の攻略はかろうじて終わらせることができた。けれどまだ3つもの特異点が残っているにも関わらず、マスターたちは全員、満身創痍だ。
カルデアには今、まさに絶望と諦観が侵食し始めていた。そしてそのどうしようもない負の感情の矛先がどこに向くのか、私はやっと明確に理解できていた。
“それが人理継続という大義に背かぬ限り。そこにどれだけの倫理の欠如、良心の不足が存在しようと、それを黙殺し無視し、カルデアの
“我々の役目は、倫理や人権の保障ではなく、ただ一つ人理継続の保障であるということを忘れてはならない。”
カルデアの職員たち全員が持つ構成員手帳には、その文言が記載されている。
初代所長、マリスビリー・アニムスフィア──父が決定し記載した、人理継続保障機関カルデアの理念とも呼べるそれ。
──人理継続保障機関カルデアは、人類の未来を守るための組織だ。
所属員の中で最も若い少年二人──最も未来ある若者たちを、無理やりに死地に追い込んでいるとしても。
デミ・サーヴァントという、任務に有用と目される兵器を作るためだけに、一人の女の子の生命と生活を弄んだとしても。
今まさに、一人の人間が人理という大義のために切り捨てられようとしていても。
私たちはその使命を、大儀を果たさなければならない。
──本当に、そうだろうか。
なんでもかんでも予想外だ。考えもぐちゃぐちゃだ。
マスターたちがもはや死体一歩手前の状態で帰ってきたこと。最も頼り、尊敬してきたレフ・ライノールが、裏切り者であったこと。シロガネハズムが世界を滅ぼすと宣言してしまったこと。彼が一時はまるで怪物のように豹変してしまったこと。
ロンドンで起こった全てのことは、本当に、もうどうしようもなく私の心を破壊して、虐めてくる。正直な話、勘弁してほしかった。私は心が強いほうではないのだ。今、冷静を偽って立っているのだけでも褒めてほしいくらいだ。
今すぐ自室に引きこもって、何もかもを忘れて、ヒステリーを起こして、全てを投げ出して眠りたかった。
──いつの間にか俯いていた視界の端に、垂れ下がった自分の手のひらが映っていた。
それを目の前に広げて、ぐっと握りしめた。するとまるで、その指先が点火装置になっていたかのように、握った拳全体が熱く熱く炙られた錯覚を覚えた。
そしてその熱は、私の腕を伝って、身体を駆け巡って──そうして、私の体のどこかにある“心”の場所にたどり着いた。
──クソッタレよ。絶対に、認めてたまるものですか。
自然と、私はそんな思考をしていた。
父の設定した理念などくそくらえ。さらに言えばこの時の私にとって、人理修復という最も重視すべき目的すらも、まるで路傍の石のように考慮する価値を失っていた。
私は、とうてい立派な人間ではない。誰にも褒めてもらえなかったし、認めてもらえなかった人間だ。
今ならそれが当たり前だとわかる。特筆すべき才能も持たず、人間関係だって壊滅的だった私をどこの誰が認めてくれるものかと。
どうしようもない人間であると、自分でも十分にわかっている。
──
これ以上、ダメな存在にはなりたくない。
あんなに役立たずで、あんなに嫌な性格の私を。一歩間違えれば命を落とすほどのケガを負いながら、助けてくれた人がいたのだ。
その手が。なんでもない言葉が。私にとってどれだけの救いであったかなど。
あれは間違いなく、私にとって最も輝かしい光景。夜空に浮かぶ一番星のような、それだけで夜闇を進んでいける、暖かな導き。
──彼があのロンドンで、一体何を思ってああしたかなど、推し量れはしない。
ただ、それでも。彼が目覚めた時に、最初に見るものは。聞くものは。
周りからの懐疑の視線と、罵倒ではなく。
差し出された手のひらと、「無事でよかった」という安堵の言葉であるべきだ。
私は、許されるならば。それを届ける、彼にとっての一番星になりたい。
私は、オルガマリー・アニムスフィアは。
このとき初めて。
誰かに与えられ、強制された
自分自身の最も内側、心の底から湧き上がる願望を。
こんな自分になりたい、という意志を。
──私を私たらしめる
ついに、手にしたのだ。
シロガネハズムは実質人理修復RTA走者みたいなもんなんだから、好感度ガバはお家芸なんだよなあ。
あまり描写はしてませんが、彼はカルデアに着いてからほぼ全ての時間を鍛錬に費やしていますからね。
そら(鍛錬ばかりして誰とも話さなかったら)そう(誰もかばってくれない)よ。
藤丸立香は、広く深く絆を結ぶのが得意とかいう圧倒的コミュ
対してシロガネハズムは、コミュニケーション能力クソ雑魚ナメクジなので(というか絆とかそういうの鼻から諦めているので)どんだけ頑張っても狭く深くで精一杯です。
つまり今回の件ですが、カルデアの皆さんは悪くないっす。コミュニケーションを怠ったシロガネハズムのせいです。
ではでは、最後まで読んでくれてありがとナス!
感想、お気に入り、評価いつもありがとうございます!
そして今回もどうぞよろしくお願いします!
燃料が注がれた車は走る。
反応を貰った二次小説作家は書く。
これが世の中の真理でございますれば。