7つの銀弾   作:りんごとみかんと餃子と寿司

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だーいぶ時間かかったねクォレワ……

本当は一話にまとめたかったけど、このペースで書いてたら合計20000文字超えそうな勢いだったから、分割って感じで。

とりあえずそれでも13000文字はあるのでいつもよりも長いけど。

宝具や令呪について幾らかの独自設定があるかもしれないので、そこんとこ注意で。




ロンドンー9:『貫く、いし ①』

 

 

 

時は少しさかのぼる

 

 

 

 

 

 

 

いざ聖杯の下へ、と意気込んでロンドンの地下下水道へと向かった私たちの目の前に現れたのは、空色の眼を爛々と輝かせた大柄の男性であった。

 

彼は地表より数メートルほど浮き上がり、体中にばちりばちりとけたたましい音を鳴らす電気を纏っている。その様子は触れるもの全てを威圧し屈服させるかのような荒々しさを感じさせたが、当の本人はいたって落ち着き払ってこちらをじいっと見つめていた。

 

「私はニコラ・テスラ。人類史にその名を刻む、雷霆を地に落とした天才である」

 

尊大に名乗り上げる彼は、確かに“原作”記憶にあるニコラ・テスラ本人に違いなかった。神の御業であった雷霆を人の力にまで貶めた天才。ケラウノスの覇者、星の開拓者、雷電王ニコラ・テスラそのひと。

 

“原作”においては、その身にまとう雷によって魔霧を活性化させ人理崩壊をなす寸前であったこの科学者は、人理修復にあたって越えなければならない最大の障害の一つだった。

 

本来であれば、この特異点の黒幕の一人“M”ことマキリ・ゾォルケンの召喚によって現界し、その身に施された狂化の影響によってカルデア陣営とは望まぬ対立をさせられる羽目になる彼。

 

しかし、まだ我々はマキリとは邂逅していない。それにも関わらずニコラ・テスラが現れ地上に向かっているということは──いまだに合流できていないリツカ達が先行してマキリと出会ったのか、それともシナリオから逸脱して事が進んでいるのか。判断しがたい。

 

兎にも角にも、目の前のサーヴァントを素通りして大空洞へと向かう選択肢は無いに等しい。放っておけば世界を滅ぼすだろうというのは明白な話。迂回することを許されぬ障害というわけだ。私たちは望まぬ足止めをくらわされていた。

 

「一気に叩こう。ここに時間をかけてはいられない」

 

シュリン、と薄い金属音を鳴らしてハズムが抜剣する。銀とも灰とも形容できるであろうその刀身に、相対するニコラ・テスラの雷光がちらついた。彼の号令を合図に、私たちは各々が得物を構えた。ひりついた空気が場を支配する。

 

目の前のサーヴァントは生前より科学者でしかなく、また人類の歴史から見てさほど古い人物でもない。

 

英霊は基本として、生前において戦場に栄光を打ち立てたものほど強く、また古い者ほど対応に困らされる神秘を宿している。

 

いかに雷霆を地に落とした者とてその法則に逆らうことはできず、つまり円卓の騎士が二人もこちらにいる現状、私たちが正面火力という面で負けることは考えにくいだろう──しかし、油断していい相手でもなかった。

 

どうあろうと彼は“星の開拓者”である。不可能を不可能なままに可能にする、運命や限界を乗り越える力を持つ者である。彼にはそれだけの力があり、ゆえにこうして、こちらがどれだけ闘志をぶつけようと揺らがないのだろう。

 

彼の空色の瞳は全くもって真っすぐにこちらを見据えたままである。それに委縮した、というわけではないにしろ、仕掛ける瞬間を逸してしまったのは事実だった。

 

 

 

「──どうした、こないのか?」

 

「いくってんだよ、いわれなくても!!」

 

挑発なのか、単純な疑問であったのか。真実はわからないが、少なくともモードレッドは挑発と受け取った様子だった。吠えたてるかのような気合と闘志をその体にみなぎらせて、赤雷の一塊が突貫する。そのさまは横に走る稲妻のようでもあったし、軌跡を描いて飛来する弾丸のようでもあった。

 

「ウゥ……!」

 

さらにその赤い軌跡の後方からは、薄緑色の援護射撃が放たれていた。それを成したのはフラン。彼女もまた雷を操る人物だ。地面を這うようにして伝導していくその稲妻は、赤い雷が記してくれた道標を追うようにしてモードレッドの背後をぴったりとつけていった。

 

ついに赤に緑が追い付いた。二人の雷光が不思議とすんなり混ざり合っていく。渦を巻くようにして、脇構えに控えられたクラレントの刀身にうねり集まった。

 

二重雷の一撃。並みのサーヴァントなら、いいや、優秀なサーヴァントであっても直撃すれば即死を免れないだろうと思えるそれ。事実、アヴァロンを持たない今の自分では耐えられないだろうと直感が叫んでいた。

 

「ふはは! なるほど、面白い!!」

 

しかしかのサーヴァント、ニコラ・テスラは不敵に笑ったかと思えば、ガントレット状の絡繰りに包まれた右腕を高々と掲げると、空を裂くかのような宣言を伴いながら──宝具を解放した。

 

 

 

人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)!!」

 

 

 

鼓膜を破壊するかのような轟音と、英霊の私ですらふらついてしまう程の衝撃が一帯を襲った。つよき雷たちの衝突はそれだけのエネルギーのぶつかり合いであった。

 

数瞬もすると、立ち込める煙の向こうから、悔し気な表情を浮かべたモードレッドがこちらに後方跳躍してくる。その腕や頬には裂傷が走り、やけども見られる。ニコラ・テスラとの激突は、ぶつかり合って、痛み分けに終わった様子だった。

 

「ふははは、まさか不本意にも呼び出された先でこのような雷に出会おうとは、何があるかわからんものだな」

 

「ちっ、化け物がよ。傷一つねえだと? ナメやがって」

 

どこか満足そうに笑うニコラ・テスラに、負けたと感じているのか、モードレッドは辛辣な態度だ。しかしそれすらも良いと言わんばかりに笑い声は大きくなった。

 

「騎士に戦闘面で勝てるとは思わんが。自分の土俵(でんき)では勝つとも。それができてこその“雷電王”だ」

 

それが雷の英霊としての矜持である、と誇りながら言うニコラ・テスラ。敵ながらその宣言には気持ちの良いものを感じた。

 

「私は満足した。であれば、潔く消えたいところだが──内に宿る狂気がそれをさせないのだ。雷の騎士(サー・ライトニング)よ、そしてその仲間たちよ。私を打ち倒せ! そうでなくば──世界が滅びるぞ!!」

 

再び右腕に電気を迸らせながら、彼は自身の存在の打倒を願った。それは人類史に名を刻まれた英雄としての意思であり、またモードレッドやフランという()()()を眼にしたことで取り戻した幾らかの正気の賜物なのだろう。

 

私たちはその言葉に背を押されながら再び武器を構えた。ニコラ・テスラはそんな私たちの様子に満足そうに微笑むと、その巨体を目いっぱいに広げて胸を張った。

 

そうして高らかに、咆哮するように、笑う。その様子は挑戦者(チャレンジャー)の挑戦を待つ最強(チャンピオン)のような風格であった。自分がこれから打ち倒されるとわかっていながら、その姿は威風堂々としていた。

 

「──彼の印象は薄くて、正直あまり覚えていなかったけれど」

 

私の背後でハズムがそんなことを言い始める。その表情は何かを懐かしむように穏やかで、同時に新しい何かを発見したかのように煌めいていた。

 

「貫くべき意思を、ちゃんと貫ける人なんだ、彼は。すごくカッコいいし、誇り高い人だ」

 

「……ええ。“星の開拓者”の肩書は、伊達ではないということですね」

 

彼の評価には同意であった。知識としてニコラ・テスラという英霊を知っていても、実際に会ってみた後では大きな印象の乖離があった。彼は人類史を大きく躍進させた科学者でありながら、自分の信じた思想を裏切らない真っすぐな人物であったのだと。

 

その傲岸不遜とも取られかねない態度や、自身の雷に対する高いプライドも、全てはその身に宿る偉大な功績と自負から立ち上るものであるのだ。彼は確かに尊敬できる英霊だった。

 

 

 

 

 

 

「──む?」

 

──突然。ニコラ・テスラは訝しげに振り上げた自身の右手を見上げた。目線の先のガントレットには、先ほどと同じように雷が輪の形をした刃のようにまとわりついている。よほど高圧の電流が渦巻いているのだろう。チュンチュンと鳥の鳴き声にも似た甲高く鋭い音が断続的に響いている。

 

「これは……」

 

「あん、どうした。まさか今更怖じ気づいたとは言わねえよな?」

 

「……」

 

モードレッドの挑発じみた態度に、ニコラ・テスラは反応を示さなかった。そうしている間にも、右腕に纏わる雷撃は尋常ではないほどの様子を見せている。先ほどモードレッドとぶつかり合った時よりもさらに大きく見える。

 

「──逃げろ、諸君」

 

何かを覚悟した表情でニコラ・テスラは私たちに退避を促した。先ほどまで闘志にみなぎっていた彼からは考えられないほどの静かな声色であった。

 

「ああ? なんだって──」

 

ぞわり、と背筋に冷たいものが触れる感覚を覚える。途中で言葉を切ったモードレッドも同じように感じたに違いない。私はとっさにハズムを抱きすくめて包み込むようにした。残されているであろう時間で彼を守るためにできることが、それだけしか思いつかなかったのだ。

 

「ペンドラゴン!? なにを──」

 

「だまって! 息を止めて、耳をふさいで、眼を閉じなさい! そして、最大限の防護を張るのです!」

 

「おいおい、おいおいおい!! なにするつもりだおまえ!!」

 

「……私も残念でならない。これは私の力不足だと認めよう。願わくば諸君らと雌雄を決して去りたかったが──どうやら我が召喚主は、それを許さぬようだ」

 

とたん、彼が天に掲げていた右腕からバチリとひときわ大きな音が響いた。それは彼のガントレットから発生したものであり、故障音のようなものであった。金属部品がはじけ飛び、彼の手のひらの皮膚が直に晒される。そして、頭上に回り続ける雷鳴の輪は肥大し続けていた。

 

「私というサーヴァントの霊核(いのち)を捧げての一撃をみまえと、そういうことらしい。抗うことができればどれほどよかったか。過剰機能(オーバー・ロード)など科学者として許せぬ仕様だというのに」

 

「──ジキル、フラン、ああもう、おめえもだよ偏屈作家! とっととずらかるぞ! ()()()()()()!!」

 

本当に遺憾だという風につぶやくニコラ・テスラ。どうやら彼は、彼の召喚者に強制されて命を犠牲にした一撃を放とうとしているらしい。その意思に反して行動を縛るとは、令呪の強制命令だろうか。なんにしても英霊として人間としての尊厳を考慮しない悪辣な行為に違いはない。

 

高まる魔力の奔流に、あわてて仲間たちを回収するモードレッド。ジキルとフランは両脇に、アンデルセンは背中に背負って、全力で疾走する。

 

そして私は、ハズムの身体を潰れるほどに抱きしめた。へたに離脱するよりも、彼を私の肉体という強固な()で包み、風王結界(インビジブル・エア)をはじめとしたいくつかの手段で防護を固めたほうが良いと判断したからだ。

 

そしてついに、タイムリミットは訪れた。

 

「さらばだ、諸君。これよりの一撃は、私至上最も強大で、同時に最も()()()()()一撃となるだろう。嗚呼──」

 

──願わくば、諸君らの命が残らんことを。

 

その言葉を最後に、一帯から音という音、影という影が消え失せる。

 

電気なんて言葉では生ぬるい。稲妻でも全く足りない。雷霆という表現でも十分かどうかわからない。これはきっと人類史上降り注いできた雷の中で、他に比類なきものであったに違いない。

 

それはまさに神話の一撃。只ヒトが到達するには過ぎたモノ。文字通りの人類神話。降臨せし雷電──

 

 

 

 

 

 

「──人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐわんぐわんと、絵の具を無差別にぶちまけたようかのような色彩の視界が揺れる。鈍痛が体を苛み、立ち上がろうという気力を奪ってくる。オレは投げ出された腕を体の前に引き寄せて、地面に付く。体中に散らばったなけなしの気合を振り絞って、上半身を起こした。

 

それだけがやっとだった。視覚はいまだに明瞭になってくれない。聴覚は破壊されてしばらく機能しないだろう。正常なのは触覚だけ──それすらも、痛みと熱を運んでくるだけだったが。オレのような矮小な人間にとっては、英霊の身命を捧げた一撃を耐えるのに、それだけの身体機能を犠牲にせざるを得なかったということだろう。

 

あるいは、生きているだけで奇跡と言っていいのかもしれない。もしやオレは既に一度死んでいて、蘇生したのかもしれないとも疑ったが、銀の弾丸が減っている感覚は無かった。正真正銘、オレは一つの命であの天災にも似た一撃を生還したらしかった。幸運だった。

 

痛みの最もひどい腹部を探れば、流血等は感じられないにしろ、酷くぶつけて痣になっているような感覚があった。もしかすれば幾らか骨が折れているかもしれない。

 

腰に手を伸ばす。装備していたバックポーチには負傷回復のスクロールがあったはずだからだ。しかしいくら探ってもそれは見つからず、空の鞘だけがその存在を主張していた。直前まで左手に握っていたはずの剣は、衝撃でどこかへと吹き飛んでしまったようだった。不安がこみ上げた。

 

胸に、手を伸ばしてしまいそうになる。その衝動を何とか押し込めた。それは、その行為はとても甘美で楽な逃げ道だった。しかし、シロガネハズムは注がれた想いに対してだけは裏切らないと誓っているのだ。ペンドラゴンに言われた言葉が、オレの弱い心を制した。

 

“剣を手放さないことは不屈の心につながる”──既に左手の剣はどこかへ落としてしまったとしても、そこに別の何かを握らない限りは、左手に残る冷たくて滑らかな柄の感触は消えないままだ。

 

まだオレは諦めたわけでも、絶望したわけでもなかった。ならばそれが空想の剣だとしても、それを放り出して十字架に縋るわけにはいかなかった。

 

 

 

「──ズム、ハズム! 無事ですか!?」

 

しばらくすれば、回復した聴覚はそんな声をオレに届けてくれた。ペンドラゴンがこちらを心配している声だった。ずいぶんと遠くから聞こえるように思える。あの衝撃からオレを包み込んで守ってくれた彼女は、吹き飛ばされてオレと離れてしまっていたらしい。

 

安定してきた視界を見渡せば、そこは焦土と表現するにふさわしい惨状になっていた。

 

俺たちがニコラ・テスラと遭遇したのは、地上から数階分下がった下水道、ロンドンのストリートを基準としておよそ15~20メートルほど下の地下空間だったはずだ。その分の空間、地表からここまでの全ては円形にえぐり取られ、頭上には曇天が顔をのぞかせていた。

 

地面はチリチリと火花や火の粉を散らして、レンガすらも焦げ跡と灰を残すのみの状態になっている。どれほどの出力で宝具が放たれたのかは、それだけで察せられようものだ。

 

あたりはまるでコロッセウムのような円形の平坦な闘技場の様相であった。その中心地から、ペンドラゴンがこちらに叫んでいるのが見えた。そこに向かって、痛みを覚えながらも大きく手を振った。

 

「おーい、こっちだ、ペンドラゴン」

 

「よかった、ハズム。本当に──良かった」

 

こちらに駆け寄ってきたペンドラゴン。しかし、オレに触れようかと言ったところで、バチリ、と伸ばした右手が弾かれた。まるでそこには見えない壁のようなものがあるかようだった。

 

いや、事実そこには明確な隔絶があったのだと思われる。そう言えば、とオレの脳裏にはある記憶が蘇ってきていた。

 

ニコラ・テスラの宝具『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』は、()()()()()()()()()()()()()()()ものらしい。

 

であれば、出力が本来の何倍にも跳ね上がったであろう今回の宝具によって、()()()どころではない本当の時空間断裂が起こってしまったのかもしれない。

 

曖昧な記憶だ本当のところはわからない。しかしここで原因を正確に確定させることに何の意味もありはしないだろう。真実として何が原因であるにしても、彼女とオレの間にはなにか越えられない壁がそびえたってしまったことだけが現実にあった。そのことを理解したのか、ペンドラゴンは焦った表情でオレにまくしたてた。

 

「は、ハズム。少々待っていてください。すぐにそちらに向かいます。大丈夫です、きっとどうにかなりますから──」

 

「ペンドラゴン──」

 

ざあざあと、突然に雨が降り出した。ニコラ・テスラの宝具は気候変動さえ起こしてしまったのだろうか。地表から何メートルも離れた地下空間で雨粒にうたれているのは、なんだか不思議な感覚になっていく。

 

透明な壁を一枚隔てて、こちら側にいるのはオレだけ。ペンドラゴンも、モードレッドも、ジキルも、フランも、アンデルセンだって。全員が向こう側。孤立無援。あと少しで触れ合えるほどの距離にいながら、きっと仲間たちとの合流は絶望的なほどに難しいのだろうと思う。

 

きっと、どれだけ希望を持とうとしても、不可能な場面に違いなかった。冷たい汗が体中から噴き出して、血が廻らなくなって、それぐらいの反応があって然るべきなのだろうと。しかし、しかし。

 

降り注ぐ大粒の雨。濡れそぼった体は、意外と冷え切った感覚は無く、不思議な感覚に包まれていた。それはきっと、()()()()だったのだと思う。その決意が果たして良いものか悪いものかは置いておくとしても、シロガネハズムという人間はこの時、大きな決意を抱いたのだと。

 

──どこからか()()()()が聞こえた。それはきっと、ニコラ・テスラとは違う新たなタイムリミットがオレ達を襲ったということ示していた。

 

「──これは、なんで! 今! こんなときに!」

 

「お、おい父上、なんだってんだ馬の声くらいでそんな──いや、なるほどな」

 

喚き散らすようなペンドラゴンに、モードレッドが宥めるように近づくが、その言葉の途中で彼女の優秀な直感がその正体を漠然と警告してきたようだった。

 

それがアルトリア・ペンドラゴンの別側面だということまでは流石に看破していないだろうが、きっとニコラ・テスラに勝るとも劣らない脅威が現れたことぐらいはわかっているだろう。

 

その事実が。黒いアルトリア・ペンドラゴンが現れたのだろうという現実が。オレの決意を後押しする()()()()()()()()をもたらしてくれる。

 

オレは──きっと最低なのだと思う。最低な人間なのだと。もはや人類の裏切り者と言われても仕方ないのではないかと。それでも──オレには果たしたいことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

努めて冷静に、オレはペンドラゴンに語り掛けた。

 

「ペンドラゴン、二手に分かれよう」

 

「……え、な、にを」

 

「オレは聖杯の下へ行く。リツカ達も心配だし、なにより()()が現れるかもしれない」

 

「それなら、それなら一緒に!」

 

「──だから、ペンドラゴン達には、あの馬の持ち主を頼む」

 

「し、かし、貴方を一人にするわけには! この壁が原因というのなら、きっと何か方法が……令呪、令呪はどうですか!?」

 

ペンドラゴンは何が何でもこちらについてくるつもりのようだった。当たり前だろう。彼女が優しい人物で、オレというマスターを心配しているのもあるだろうし、何よりオレから目を放すというのは、何をやるかわからない爆弾を放置することに等しいからだ。

 

しかし、それが我儘でしかないとしても、()()()()()()()()()()()()

 

「カルデアの令呪は万能なものじゃない。少しばかり魔力をブーストする程度で、冬木の令呪程の奇跡は起こせない」

 

この反論は事実だった。カルデア開発の令呪は、宝具のブーストやステータス補正くらいはできたとしても、空間転移などの魔法じみた効果までは持たない性能面では劣化の令呪でしかない。しかし冬木版と違って()()()()()というのが利点でもあったわけだが。

 

きっとペンドラゴンは“令呪で自分を呼び寄せろ”と言いたかったのだろう。エミヤシロウがマスターだった冬木の聖杯戦争においては、そういう使い方をした経験があったのだから。しかし、先も言ったように、冬木版とカルデア版は違うのだ。

 

「空間転移でこちらに来るような効果までは出せない──だから、別のことに使うよ」

 

オレは、令呪の刻まれた右手を持ち上げた。十字架模様の2画に、そこから垂れるような液体模様の1画。この令呪のデザインがオレは嫌いだった。液体に濡れた十字架なんて、オレにとっては悪い印象しか覚えないものだったから。発動を待機している令呪は赤く赤く瞬いている。血のような色だと、オレは思った。

 

「令呪をもって命ずる──あの馬を駆る敵を打倒せよ」

 

液体の模様がはじけるように消える。

 

「令呪をもって命ずる──打倒したならば、全力でオレに追いつけ」

 

十字架模様を構成する縦のラインが消える。

 

「令呪をもって命ずる──()()()()()()()()()()

 

そして、最後の令呪が消えた。馬を駆る敵──アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕、この特異点のラスボスを撃破し、オレに追いつき、約束を守れ。ごく単純で、それでも、オレにとっては大事な命令だった。

 

「──ハズム、本当にいいのですね」

 

「ああ、オレは先に向かうよ。きっと君が追い付いてくれるって信じてる。だから、オレは、怖くないんだ」

 

「ハズム……」

 

ペンドラゴンは煮え切らない表情をしていた。何か嫌な予感を感じ取っているのかもしれない。優しい人だった。俺みたいな人間のことを、いつまでも慮って信じてくれて──正しい道に戻そうともがいてくれる、最高のサーヴァントだ。

 

だから、オレはきっと進めるのだ。オレが最低最悪の存在に堕ちてしまったとしても、きっと彼女が──殺してくれるのだと思うから。

 

 

 

「──ばいばい、ペンドラゴン」

 

「またあとで、ハズム。きっとすぐに追いついて見せます」

 

「──ああ、信じているよ」

 

最後まで、()()()()()と口にすることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

シロガネハズムという人間は、自分で思っていたよりも随分愚かで、最低な人間なのだろうと思う。

 

オレは世界を救うために戦っている。誰かを救うために戦っている。そんな大層なお題目で誤魔化して、まるで自分が正義の味方であるかのようにふるまっている。

 

違うのだと、ずっと前に気づいていたのだ。物語の主人公たちのように、清廉で真っすぐなその願望を胸に進めたら、どれほどよかっただろうと思う。

 

はっきりと言おう。オレは、シロガネハズムという人間は、()()()()()()()()()()()()()()

 

オレは、“世界を救った英雄”という称号が欲しくてたまらない。“人々を助ける正義の味方”であるという名声が欲しくてたまらない。

 

“シロガネハズムという人間には価値がある”という証明がしたくて、たまらない。

 

だってそうでなくては嘘だろう。オレに価値があると語り掛けながら死んでいった家族たちの存在は、無駄になってしまうだろう。誰より死んではいけない傑物を生かすために、彼ら彼女らは死んだのだと。そのくらいの理由がなければ、報われないじゃないか。

 

オレは愛をもらった。そして、それを返す前にみんなは死んだ。

 

死んだ人間に向けて愛を返すことはできない。骸に愛を囁くことに意味はない。だから、オレは、貰った愛に見合うだけの()()()()()()()()になると誓ったのだ。

 

シロガネハズムという人間は、()()()()()()()()()()。それが何であろうと。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それだけは、いくら世界が移り替わろうと、いくら時が経とうとも──それだけは、オレの中にある捨てられない白金恥無の残滓(プラチナム・メモリア)だ。それが俺の起源(オリジン)だ。

 

ペンドラゴン達を置いて一人で向かったのは、物理的に合流不可能だった、という理由以上に、名誉に目がくらんでいたからだと思う。誰かに手を借りるよりも、一人で成し遂げる方が、きっとより大きい功績であるだろうと、そうしたバカな考えだ。

 

果たして成し遂げることができるかは分からない。しかしやるしかないことだけはわかっていた。家族の犠牲も、これまで特異点で目の当たりにしたすべての犠牲も、今日この日のためにあったのだと、そう思わなければやっていられなかった。これ以上、決着を先延ばしにしたくはなかった。

 

 

 

 

 

 

痛む体に鞭をうって、オレは下水道の濡れた地面を踏みしめた。永遠ともいえるだろう時間歩き続けて、とうとうオレはたどり着いた。

 

そこは大空洞だった。霧があたりを覆っている。この都市で最も濃い霧に覆われているだろうこの場所は、間違いなく聖杯の所在地に他ならない。

 

周りを見渡す。感覚を研ぎ澄ます。右手の人差し指と親指をぴんと立て、銃を形作る。一つ深呼吸をして、心を落ち着かせて、覚悟を決めた。

 

いつだって来い、と内なる闘志が燃えていた。火照って何が何だか分からなくなりそうな頭を、ペンドラゴンとの訓練でやった瞑想を思い出しながら、必死に正常に保った。

 

じりじりと、一歩進むのに数時間かけてるのではないかという感覚を覚えてしまう程の速度で、オレはそびえたつ高台に向かって進んでいった。

 

すると霧の向こうに、一つ、大きな人影が見えた。その人影はいきなり両手を尊大に広げたかと思うと、高らかに、何かを嗤うように宣言した。

 

「我が名は()()()()()()()!! 人類を過去と未来にわたって焼き尽くし──無価値なる人類史を滅ぼす者!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、オレは指先に全意識を集中させた。

 

 

 

照準する──霧の向こう、霧に目を凝らしてみれば、その男は間違いなく、原作で見たことのある、ソロモンの姿そのものだ。

 

 

 

銃弾(ねがい)を込める──あの魔術王ソロモンと名乗る存在を、魔神王ゲーティアを(たお)したい。

 

 

 

準備は全て整った。あとは引き金を引くだけだった。

 

 

 

白銀(しろがね)の浄化、(ひじり)の貫徹。脅かす者は地に。悪意ある者は天に。化物は灰と消えろ。道を穿つは──

 

 

 

こっぱずかしいとも思える詠唱を真剣に唱える。銀の弾丸は、解決不可能を解決に導く突破の力であり、撃退不可能を撃退せしめる浄化の力。阻む者はなく、たとえあろうと貫通して見せる。

 

これは貫く意志。または、意志を貫く力。真摯に込めた祈りが、想いが、銃弾に()()()を与えるのは、きっと間違いではない。

 

込めるは打倒。願うは突破。運命なんかくそくらえ。この弾丸こそが終幕の一撃。運命(FGO)を幕引け──頼むから、もう終わってくれ。

 

そうして、懇願ともいえるほどの想いが胸にいっぱいになって、決壊するか否かの刹那、オレは何時よりも力強く、引き金を引いた。

 

 

 

「──白銀の意志/遺志(シルバー・バレット)

 

 

 

指先に体中の魔力が、血液が、心が、魂さえもが、集まっていく心地がした。

 

収束したすべてがシロガネ色の弾丸を形作って、回転し、渦巻き、貫く力を蓄えていくようだ。

 

そうして著しい発光。朝日にも似た優しく清浄な光。これがオレのような人間から形作られたとは信じられないほどの、負の想いが混じることはもちろん、触れることすら能わないと思える、浄化の弾丸。

 

ゲーティアを()()という、その醜い想いのためだけに形作られた、決戦の一撃。

 

瞬きの間に発光が収まり、ついにその弾丸は発射された。

 

空気の抵抗なんて知った事ではない。魔力の込められた霧なぞ些末事。ゲーティアの心の臓、壊れてしまえば存在を滅ぼすことになる急所をめがけて、その道程にある障害は全てを貫いて、その弾丸は進んだ。

 

あまりの反動に、指を銃の形にしたまま、オレはへたりとしりもちをつく。今生においてオレが放ったものの中で、最も強き弾丸だっただろう。それに疑いはなかった。

 

成し遂げた、という感動と虚無感が飛来する。一つ息をついて、オレはゲーティアが立っていたはずの高台を見上げて──

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺にはやることがある。だから置いていくがいい。ああ、護衛にジキルとフランも残せ。あの存在は武闘派のお前たちだけで十分だろう』

 

『勝手に決めやがって、なんだよ、やることって! どうせしょうもないことじゃないのか?』

 

『愚問だな。作家がやることなど執筆のほかに何がある! ちょうどバカげた威力の宝具であたりが平らになったところだ。机には困らんな!』

 

『あぁ!? このタイミングで執筆ぅ!? てめ、ふざけんなよ──』

 

『──今だからこそ、だ。ほら、いいからいけ。間に合わなくなっても知らんぞ』

 

それが数分ほど前に交わされた会話だ。有無を言わせない態度のアンデルセンに、とうとうモードレッドは口論をあきらめて、私と共に地上へと向かっていた。

 

ハズムに令呪で命じられたとおりに、私たちは()()()()()を打倒しに走っていた。それが今の私に唯一できることだった。

 

「──父上は」

 

「はい?」

 

全身全霊で急いでいれば、併走しているモードレッドが話しかけてくる。こちらに対して何か聞きたいことがあるようだった。

 

「これから戦う相手がわかってる風だけど、それはなんでなんだ? ハズムも知っている風だったよな」

 

「それは──私とハズムには特別な共通認識があるのです。それだけでいいでしょう」

 

「よかないが──まあ、言いたくないこともあんのか。今聞くことでもなかったな」

 

原作知識と呼んでいるそれのことを話す気はしなかった、時間もないし、信じてもらえるとも思えない。

 

原作知識──より正確には、異世界の住人である白金恥無という少年の生涯の記憶。彼はそれを持つがゆえに上手く特異点を攻略できているし、それを持つがゆえに苦しんでいる。

 

幸せな記憶も、つらい記憶もあった。いや、つらい記憶の方が断然多かっただろう。今の彼を支えているのは実質、前世の母親からの言葉と、今世の母親からの言葉の二つでしかない。

 

それがなければ死を選んでいたほどには、きっと彼は崖っぷちに立っているのだと思う。

 

「──そいや、オレとあいつがあったときは初対面って反応だったけど、ジキルやフランとあったときはなんかそうでも無かったよな? 知り合いではないけど、顔は知っているくらいの反応をしてた気がする」

 

「余計なことをしゃべる前に足を動かしな、さ、い──」

 

「動かしてるって。なーんか不思議だよな。まさか()()()でも持ってんのか? なんてな、はは……どうした、父上?」

 

「──」

 

ぞわり、と背中に鳥肌が立つ。モードレッドの言葉には聞き逃してはいけない、何よりも大事な可能性が隠れていた気がしたのだ。それを見抜けねばすべてが終わってしまう程の、重大な──

 

 

 

 

 

ハズムは、記憶を無くしている?

 

モードレッドの言った通り、彼はモードレッドのことを初対面の人物として扱っていた。しかし、ジキルやフラン、あるいはジャックのことは覚えていた。

 

そんなことがあり得るのか? 特異点ロンドンではモードレッドも登場していたはずだろう。それを忘れる? メインキャラクターだったはずの彼女を?

 

昔の記憶だから風化してしまった?……そんなはずはないだろう。ならばロンドン全体の記憶が虫食いだらけのはずだ。ピンポイントでモードレッドの事()()を忘れたとしか思えない。

 

そんなことがありえるのだろうか。いや、きっとありえているのだ。可能性は高いだろう、現実を見るのだ、アルトリア・ペンドラゴン!!

 

きっと記憶をなくしているのは事実だ。以前夢で彼の記憶を覗いたが、今思えば銀弾(シロガネハズム)の記憶と比べて、白金恥無(シロガネハズム)のそれは、不自然に抜け落ちた光景が多かった。時間軸は飛び飛びで、一人の人間の生涯にしては少ない情景しか浮かんでこない。

 

では()()? なぜ彼の記憶は抜け落ちる? 決まっている。彼の奥の手、蘇生や獣の打倒すら叶う、万能の──万能だと思われたその力には、明確な代償があったのだ!!

 

それは記憶、あるいは魂なのかもしれない。白金恥無という少年を構成する要素、それを切り分けて消費しているとしたら。

 

彼の命綱ともいえる、母親の──杜若(あやめ)の言葉を、注がれた想いを忘れ去ってしまった時、果たして彼はどうなってしまうのだろうか。

 

 

 

ぞっと悪寒が体を這いずり回る。

 

それは、それは、それだけは。やめてくれ。尊き思いだったのだ。母親という存在を知らない自分でも胸が熱くなったくらいには、煌めいた願いだったのだ。

 

それを犠牲にするくらいならば──シロガネハズムが世界を救う必要などないと、思うくらいには。

 

 

 

 

 

「──ああ、おいなんだ!! 今度はなんだよ!? もうお腹いっぱいだっての」

 

不意に、直感が警鐘を鳴らす。本日何度目かもわからないほどの感覚だが、今回の者はそれに輪をかけて強い警告だ。

 

ニコラ・テスラよりも、アルトリア(わたし)よりも、もっと明確な脅威が現れたのだと、私の感覚が告げている。

 

「──ハズム」

 

ハズムがいるはずの方向、聖杯のある大空洞へつながる道を見やる。

 

私は、私は何をすべきだ。このまま黒のアルトリア・ペンドラゴンを打倒するのか? それとも──

 

 

 

私が捨てずにいるべきものとはなんだ。私が貫くべき意志とはなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──モードレッド。頼みがあります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 







銀の弾丸は聖なる弾丸。悪なるを寄せ付けない清浄、化生を滅す一撃。

であれば、使用者の持ち物の中で()()()()()()こそが、それと吊り合う代償であろう。






【ここから砕け口調】

今回は独自設定のようなものが多かった気がするのでいくつかピックアップ!

・命をもって宝具をブースト
→これってどうなんですかね。ステラみたいにそもそも命を代償とする宝具はあるけど、ただの宝具を自爆覚悟でオーバーロードした例ってあったっけな。fateの各作品の詳細な記憶は無いし、そもそもくまなくチェックしたことないのでわがらん。まあうちの世界ではできるってことで! なんか例があったら教えてちょ。

・カルデア製令呪は冬木と比べて使い道が限られている
→これはね、なんか原作で言われてた気もするけど、じゃあどこで言われていたのと聞かれれば答えられないですね。半独自設定のようなものとして私は判定していますが。どーだったかなー。

・働きすぎな直感
→直感万能説。今回だけで何回働いとんねん。過重労働すぎる。直感さんは泣いていい。これも原作でここまで感知能力が高いのかは不明。多分ここまでじゃないような気がする。



こんなところですかね。この小説は作者のもつシロガネハズム君よりがばがばな原作知識と、厨二心と、一滴の作家魂で作られています。設定主義の人はごめんね。

ではではあとは締めのご挨拶を。

速いものでこの小説も投稿開始からちょうど一年。一年で半分言ってないのマ? 大丈夫ですかねこれ。

何にせよ、皆さまが読んで応援してと反応してくださるうちは細々続けていこうと思っております。相変わらずの不定期更新ですがそこはご愛敬ということで。

そういえば、ロンドンはあと2話ほどで終わる予定ですが、それを投稿し終わった後には“後書き”ならぬ“中書き”というか、中間地点到達記念で、これまで書いた部分で作者がどういう思いを込めていたのか、などをまとめたものを投稿しようかと思っております。もちろん明かせる範囲でですが。

つきましては、中書きにおいて読者の皆様に聞きたい疑問や書いてほしいことがあれば答えていこうかなと思う次第です(答えられる範囲で)

匿名設定を外して活動報告に疑問投稿箱を用意しておきますので、なにか聞きたい奇特な方はそちらにどうぞ。

感想欄でのアンケートは禁止されているようなので、感想欄には書かないこと! 約束!



では、今回も最後まで読んでくれてありがとナス!

こんながばがば小説でも読んでくれる人がいて嬉しい! 良かったら評価とかお気に入りとか、感想とか感想とか感想とかよろぴく!

ではまた次回、ばいなら!


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