7つの銀弾   作:りんごとみかんと餃子と寿司

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前回の投稿日 → 4/9

前回のあとがき → “次の話はそこそこ早く出せると思います。”



今回の投稿日 → 5/16 


(´・ω・`)




ロンドンー4:『“生まれるべきではなかった”者たち』

 

 

「忌々しい赤子よ。こんなもののために杜若(あやめ)は──」

 

しわがれた声が聞こえる。背中に添えられた手は骨ばっていて固く、鈍い痛みを与えてくる。

 

これは、覚えているほうがおかしいくらいの、まだ母親のお腹から出たばかりの頃の記憶。それでも覚えているのは、その人物の言葉こそが、オレの人生を決定づけたからなのだろうか。

 

オレは、人から注がれた強い想いを忘れられない体質のようだった。それはその想いが良いものであろうと、悪いものであろうと。そしてその想いを注がれたのが、まだ言葉を知らない赤子の時であっても。

 

それは、ほとんど何の才能も持ちえなかった凡庸な人間、白金恥無にとって唯一、他人より秀でた部分だったと言えるだろう。

 

「あのような男との子。そんなもの、恥でしか無いというに──それでも産んで、最後には無責任にも逝きよって。全く持って度し難い」

 

オレを抱き上げるその腕は、怒りに震えていた。オレを見下ろす眼光は、憎しみにらんらんと彩られていた。

 

「──ハズム、ハズム。お前の名前は“ハズム”にしろと。それがアヤメの願いだ」

 

その男は、アヤメという女性──おそらくはオレの産みの母──を散々に罵っておきながら、それでも、その願いだけは聞き届けた。偏屈で歪んでいても、アヤメという女性にはたしかに愛を持っているらしかった。

 

「ハズム、ハズム──お前の名前は、“恥無(ハズム)”だ。恥でしか無い、度し難い忌み子めが」

 

なぜ、この男がこれほどまでに、オレという赤ん坊を憎んでいたのか。なぜ、オレは“恥無(ハズム)”などという名前を付けられたのか。その理由を本当の意味で知ったのは、ずいぶんと後の事だった。

 

 

 

──少なくとも、この時点で。オレの中で確実だったことは。

 

「──お前など、産まれてこなければよかったのだ」

 

オレの誕生は、まったく望まれていないのだと。その一点だけだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、ヴィクターのじーさんと連絡が途絶えたってのは、どうにもきなくせぇな」

 

顔にかかる霧を──おそらくの話。オレにはゴーグルの影響で霧は見えない──鬱陶しそうに払いのけながら、前を歩くモードレッドが愚痴るようにこぼした。

 

──ヴィクター・フランケンシュタイン。あのフランケンシュタインの怪物を製作した男の系譜、ロンドンの優秀な魔術師。ジキルと頻繁に連絡を取り合っていた貴重な協力者であったが、突如音信不通となったらしい。

 

リツカたちの捜索も兼ねて、オレたちはひとまずヴィクター氏の邸宅へと向かっていた。居場所が完全にわからない状態のリツカたちを闇雲に探すよりはよいと判断してのことだ。

 

リツカチームとカルデア、共に通信途絶の状態は改善していない。お互いの状況がわからないのはとても不安ではあるが──進むしかないというのが現状だった。

 

とれる選択肢が限られていて、仕方なくそれを行うという行為には、ひどく不安を伴う。原作知識を生かせれば、とも思うが、テキストで読んだだけのシナリオから実世界の攻略を行うというのは、とても難しいことだった。

 

特に、主人公──リツカと離れ離れの今では、原作知識が適用できるかどうかすら怪しいところだが。

 

 

 

本当に、これでいいのだろうか。

 

押し寄せてくる不安。知らず知らずのうちに、胸元のロザリオに左手が引き寄せられそうになる。不安を感じた時、そして覚悟が揺らいだ時。オレはいつだって、このロザリオを手のひらに握りしめてきた──のだと思う。思う、と曖昧な表現なのは、その行為が半ば癖のようになっていたというのを皇帝ネロに指摘されて初めて認識したからだ。

 

なぜこんな癖が知らずのうちに染みついてしまったのか。それはきっと、オレにとって──銀弾(シロガネハズム)という存在にとって、このロザリオは決して忘れてはならない失敗の象徴であったからだ。

 

胸元からそれを取り出す。鏡面のごとく磨き上げた銀製のロザリオは、こんな曇天の薄暗闇でも聖なる輝きを失っていない。よく手入れができているという証明だ。

 

これは、母の形見だ。今生で何よりも大切だった──大切にすべきだった、家族のぬくもりそのもの。人理焼却が行われた今では、正真正銘、世界で唯一オレが家族を感じられるものだ。他の遺品は全て憐憫の獣に焼き尽くされてしまっただろうから。

 

──だからこそ、なにより大切にしている。オレはずっとそう思ってきたし、きっとリツカやナツキ、ペンドラゴンなんかも同じように考えていることだと思う。しかし、その真実はもっと醜い想いによるものだと、オレは気づいたのだ。

 

オレの眼にはいつも、このロザリオが血に塗れて見えているのだと思う。あの夜のまま、事切れる寸前の母から手渡されたあのロザリオと何ら変わらないかのように映っているのではないか。

 

溶岩のように熱い鮮血と、氷塊のように冷え切った手のひら、チャリ……と静かに鳴るネックレスチェーンと、くすんだ銀色の表面に映る母の唇。そうして、その唇から発せられた、最後の言葉(テスタメント)。 

 

この銀色の十字に指を絡ませるだけで──あるいは、その輝きを眼にちらつかせるだけで。生々しいあの夜の感覚がよみがえってくる。

 

そんな悪夢を消し去りたくて。血濡れのロザリオの幻覚を振り払いたくて。だからオレは、このロザリオの手入れを欠かさなかったのではないか。手にこびりついた血痕があれば、誰もが必死になって洗い流そうとするように。

 

結局、一度足りとて、その手入れの努力が実を結んだことなどないのだろうが。

 

 

 

──ロザリオを握るたびに嫌な思いをして。見るたびに怖くて仕方なくて。

 

それでも、オレは窮地に立たされた時。どうしても、また胸元に手が伸びてしまうのだと思う。

 

そんな自己矛盾の塊が、きっとシロガネハズムという人間性なのだ。全く持って度し難いことに。

 

 

 

「──何してんだ」

 

「──ああ、モードレッド。ごめん、なにかあった?」

 

横合いから肩を叩かれる。この特異点で知り合った、叛逆の騎士モードレッドだ。一応、ペンドラゴンの子供に当たるとのこと。とはいえ、普通の生まれ──つまりペンドラゴンが誰かとの間に子を儲けたということ──ではなく、魔術によって作られたクローンのようなものらしい。

 

そういった意味では、オレはモードレッドに対して少しだけ勝手な親近感を持っていた。祝福されない誕生というのがどういうものなのか。彼女ほどでないにしろ知っているつもりであったからだ。

 

命が生まれることに、須らく祝福がもたらされるとは限らない。子は、親も生まれてくる環境も、自由に選べるわけではないのだから。

 

モードレッドの生涯にはそうした生まれから生じる負の出来事──すなわち“祝福”とは正反対の、“呪い”のようなものが付きまとっていたはずだ。少なくとも、普通の親子愛のようなものを育んだとは思えない。

 

母親からは陰謀の道具として扱われ、ペンドラゴンからは後継者と認められず──そうした彼女の境遇は、きっとオレなんかより辛く厳しいものだったろうに。

 

──そうした逆境を踏破して、今ではいち英雄まで上り詰めたモードレッドに対して、オレの中には少しばかりの憧れがある。そして()()()()()()()の同類として、いくらか親交を深めてみたいという好奇心もあった。とは言っても、すでに彼女に嫌われてしまっている現状では、叶わぬ思いだろう。

 

 

 

ともかく。モードレッドはオレの肩を叩いたあと、手に乗せたロザリオを興味深そうに眺めていた。視線をたどると、ロザリオを持つオレ自身の表情を観察しているようにも思えてくる。

 

「なんもありゃしねえが──なんだ、ロザリオってやつかそれは」

 

「うん──大切なものなんだ」

 

「……おいおい、それにしちゃあ、それ見るお前の顔は傑作すぎたが。まるで不貞を暴かれた時のランスロットのヤロウみたいな、ヒデェ顔してたぜ」

 

「──それは誉め言葉? ランスロット卿はイケメンだったって聞くけど。それに喩えられるっていうのは光栄な気もするね」

 

「そういうこと言ってんじゃねえんだがな──どうもお前はそうやって煙に巻くのが得意らしいな。突っ込まれたくなけりゃあ、そう正直に言いやがれっての」

 

「──それは、ごめん」

 

「謝んなよめんどくせーな。お前のそのめんどくささは死んでも治らなそーだ」

 

ふん、とモードレッドはそっぽを向いてしまう。

 

自覚はあった。オレという人間は、どうも人に干渉されることを好まない。過去のことも、未来のことも、自分という人間に関するあらゆることに、手を差し出して欲しくなかった。

 

価値のない人間のことなんて、放っておいてほしかった。

 

そうすれば、もう失わなくて済むと思って。それでも背中を押してくれたり、手を伸ばしてくれることが嬉しくて、我慢することができなくなってしまって。

 

そうして、何度だって、過ちを繰り返す。

 

 

 

気づけば、モードレッドはずかずかと霧の奥へと進んでいってしまった。

 

ペンドラゴンに背を押されて、その事実を把握した。一瞬のことだろうが、考えふけってしまっていたらしかった。

 

「……モードレッドの言葉を繰り返すことになりますが」

 

ペンドラゴンが口を開いた。彼女はこちらをなにか想うような眼差しで見ていた。

 

「私の眼にも、ロザリオを握る貴方は、ひどく辛そうで儚く映る」

 

ですから、と彼女はつづけた。

 

「貴方は、きっと、そのロザリオから手を放すべきだ。……それがどんなに、大切な証であるとしても」

 

そう告げる彼女の声が、オレのことを本気で心配しているのだと、否応にも理解させてくる。

 

「──わかっているよ。だからほら、きっと剣は手放さない。それが君に教えてもらった、最初のことだ」

 

ロザリオを首にかけなおして、左手を剣の柄に当てる。カチャリと軽い金属音がなり、剣先がわずかに揺れた。

 

“剣を手放さないことは、不屈の心につながる”と彼女は言った。事実、彼女と訓練している時だけは──憧れの人物を前に剣を握るその時だけは──オレはあの夜のことを考えずに済んだ。

 

襲い来る悪夢に、屈っさずに済んだ。

 

自分という人間のことをあきらめずに済んだのだ。

 

「ええ。そうしてください」

 

オレの返答に、彼女はどこか安心した様子で頷いた。そうして先を促す。オレは一度、わずかに曇ったゴーグルのレンズを袖口で荒く拭き上げると、彼女に従ってストリートの固い地面を踏みしめた。

 

 

 

 

 

 

オレは自己矛盾の塊だ。

 

死にたいと思いながら生き続けた。それがいつか、救いになると思って。

 

忘れたいと言いながら思い出し続けた。どうしても、捨てられない想いがあったから。

 

──ロザリオを握るたびに嫌な思いをして。見るたびに怖くて仕方なくて。

 

それでも、オレは窮地に立たされた時。どうしても、胸元に手が伸びてしまうのだ。

 

あの夜のこと、自分の罪を、ロザリオは突き付けてくる。

 

オレという人間が犯した過ちを。清算すべき罪科を。雪ぐべき失敗を。そして──返すべき想いを。

 

オレなどという人間が()()()()()()()()()()()()のだと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと。

 

十字架を握るという行為は、弱くて蹲ってしまいそうな自分(シロガネハズム)という人格を、そうして脅迫し、奮い立たせるための、罪の告白。懺悔なのだ。

 

それでも、この左手にロザリオではなく剣を握ったのは──

 

 

 

もうすぐ、決着がつくとしたら。きっとオレは果たせるのだろうか。

 

銀弾(シロガネハズム)という名前に込められた想いも。

 

白金恥無(シロガネハズム)という名前に込められた想いも。

 

捨てることなく、胸を張れるだろうか。

 

オレという人間を認めてくれた、あの人たちに、応えられるだろうか。

 

 

 

 

 

 

「──ああ、くそヤロウ。お前、ヴィクターのじいさんを殺りやがったな?」

 

その問いに、道化師の恰好をした不気味なサーヴァントは、唇を歪ませくひっと笑う。まるで人を殺すことを楽しみ、それを悼む人間の心をあざ笑うように。あのサーヴァントは知っている(覚えている)。メフィストフェレス。刹那的で残忍で、人間を悪性へとそそのかす悪魔。

 

原作通りに、あのサーヴァントはヴィクター・フランケンシュタインを殺したのか。ヴィクターと通信が途絶えたのは昨夜から。今日特異点に訪れたオレ達には、いかに努力しようと救えない命だったであろうが──ああ、吐き気がする

 

「──ええ、ええ。それが召喚主の御心なれば。お分かりで? つまり仕事ということですよ。本当はこんなことはぁ、ええ、やりたくはありませんでしたのに

 

まるで自分の意思ではない、と言った風に道化師顔が白々しくも悲し気な表情を作る。その態度がまた、目の前の存在に冠された悪魔という称号が偽りではないのだという予感を掻き立ててくる。

 

見え見えの嘘だ。腹立たしいほどに真っ赤なでたらめ。秩序・善の化身であるペンドラゴンはもちろん、モードレッドだって顔をしかめている。無論、オレ個人としても、かの悪魔には拳が音を立てるほどの苛立ちを覚えた。

 

 

 

はん、とモードレッドが鼻を鳴らす。そしてクラレントに赤雷を瞬時に纏わせると、それを正眼に突き付けて口を開いた。

 

「よく言うぜ、楽しくて仕方ねぇ、ってツラのくせによぉ!

 

剛ッ──と大気が爆発したかのような衝撃が走ったと思えば、モードレッドは雄たけびのように言葉を吐き捨てながらメフィストフェレスに肉薄した。

 

天から雷が落ちるがごとき速さで振り下ろされる銀の刀身。あと毛髪一本にも満たない程で極彩色の道化師衣装の表面に剣先が届く寸前、悪魔はどこからか取り出した身の丈ほどもある裁ちバサミで一閃をかろうじて受け流した。

 

本来であれば胴体を横凪ぎに両断するはずだったエネルギーは横に逸れ、通り一帯を深く抉りとった。白兵戦能力に乏しいキャスターと言えど、サーヴァント。見え見えの攻撃に一撃でやられるほど間抜けではないらしかった。

 

「──チッ」

 

モードレッドは先手をキャスターごときに受け流されたことに苛立っている様子だったが、頭は冷静に保っている様子だった。何かを察知した様子を見せたかと思えば、彼女はクラレントと鍔迫り合っているハサミを器用にかち上げて大きくバックステップした。

 

悪魔とほぼ密着していた位置から、オレとペンドラゴンの近くに帰ってきた形だ。

 

セイバーとキャスター。いかに初撃を防がれたといえど、それは()()()()()の事であり、あと数回でも剣を叩きつけてやればクラスの戦闘性能差からゴリ押せる──と思われた。

 

しかし、いま目の前の悪魔が浮かべている底意地の悪そうな笑みを見るに、一旦の離脱を選択したモードレッドの判断は、実際のところ間違っていなかったようだ。悪魔は楽しそうに口を開いた。

 

「ああ、ええ、残念です。もう少しでアナタのその柔肌の下に ステキなモノ(チクタク・ボム) を設置できましたのに」

 

キヒャヒャヒャアアァ──と尋常でない奇声を発する悪魔。ぞわり、と総毛だつ感覚がする。

 

「その小さな体に詰め込まれた勇ましさと勇気と自信。ああ、なんと素晴らしき英雄の素質──しかし、そんなもの関係ないとばかりに唐突なパァァアン!! アナタは終わり。と、そういう手はずだったのですが──ん、なかなかどうして、勘が鋭いご様子で」

 

残念、誠に残念。とこのセリフだけは本気で言っているらしさを滲ませている。モードレッドの額にはピキリと青筋が浮かび、ペンドラゴンの顔はしかめられた。

 

「ほんっと、最近はオレのことをイラつかせる輩しか出てこねえなぁ!」

 

その輩にはオレも入っているのだろうか──入っているのだろうなあ。ちょっとだけ悲しい。

 

「──落ち着きなさいモードレッド。相手はキャスター、貴公が正面切っての戦いで負ける相手ではないでしょう。最終的に勝つのは我々だ。あんな者には言わせておけばいい」

 

私も、ハズムも、サポートしましょう。共に速攻であの悪魔を打ち倒すのです。とペンドラゴンが言う。もとよりオレもそのつもりだった。回路は十分に回している(温まった)。いつだって援護できるとも。

 

把握できる限り3対1。しかも相手はキャスター。対してこちらには円卓の英雄が二騎そろっている。断じて負けるものか。

 

「へっ!?、父上が、父上が手伝ってくれるって──あ、ああ! 当然、ぶっ殺してやるよあんなやつ!!」

 

何だか嬉しそうに殺害の(エネミー撃破)宣言をしたモードレッドは、メフィストフェレスに向かってジェット機もかくやといった勢いで再び突っ込んでいった。

 

ペンドラゴンはそれを苦笑交じりに眺めて、風王結界(インビジブル・エア)をまとわせた獲物を中段に構えた。オレも鞘から両刃剣を抜き放ち、同様の臨戦態勢をとる。

 

そうしたこちらの様子を、悪魔は慌てふためくでもなく、むしろ何が可笑しいのか微笑みながら見つめていた。激突するほどの勢いで剣撃をかましたモードレッドに四苦八苦対応している間も、その様子は変わらずであった。

 

 

 

あの悪魔がそうした人をあざ笑う性質を持つのはわかっていたことだが、これほど劣勢の状況であってもそれを曲げるつもりはないらしい。あるいは、なにか隠し玉でもあるのか。

 

ペンドラゴンもオレと同じように考えているらしかった。その証拠に、“速攻で決める”という趣旨の宣言をした割には、オレのそばを離れることなく、モードレッドに対しては風王鉄槌(ストライク・エア)などの遠隔攻撃を用いた援護をしていた。オレの護衛として警戒をしている様子だ。

 

それに倣い、銃撃の魔術によって遠隔で適宜サポートを入れながら、オレはメフィストフェレスの様子を観察していく。

 

わざと苦戦している様子ではない。モードレッドの怒涛の攻撃に冷や汗を垂らしながら対応しているのは間違いなく、余裕はなし。

 

宝具の兆候も今のところ見られない。魔力エネルギーの増大を感じないし、あの様子では真名開放の間すら与えられていないはずだ。

 

増援の様子もない──確かに、薄く霧が立ち込めているため目視による索敵が十分ではないかもしれないが、敵意を持った存在が近づいてくれば直感持ちが二人いる以上気づかないことはほぼ無いだろう。

 

ンフフハハハァ……

 

唐突に、メフィストフェレスが笑い出した。腕や脚など様々な場所から流血し、霊核損傷(ちめいしょう)までは至らないまでも、ほぼ満身創痍の中で。叩きつけられるクラレントや、迫りくる暴風、飛来する弾丸、そうした到来しているはずの死の予感。しかしそれを恐れずに、むしろそれに酔っているかのように、かの悪魔は嗤う。

 

「ええ! ええ! 認めましょう! ワタクシは追い詰められている! 気高き騎士の剣戟にさらされ、宝具(ばくだん)の設置すらままならず、息つく暇もありはしませんとも──」

 

「この、しぶてぇヤロウだな! 素直に殺られろってんだ!」

 

「──そしてなによりアナタ! ええ、ええ、アナタですとも()()()()()()()さん!」

 

「……! なんで、オレの名前を──」

 

「これほど悪魔にとって怖いものもありますまい! こともあろうに()()()()! ああ、怖い。これではワタクシ、超劣勢というやつですねえ」

 

ですから、とメフィストフェレスは出会ってからこれまでで一番の笑みを浮かべて、こう告げた。

 

 

 

 

 

「ワタクシ、隠し玉を()()()しまおうかと……フアハアハハハァ!」

 

 

 

 

 

()()、と言ったのか? この悪魔は。

 

そんな、援軍の様子などどこにも──まて。

 

オレは先ほど、どう考えていた。()()()()()()()

 

 

 

“増援の様子もない──確かに、薄く霧が立ち込めているため目視による索敵が十分ではないかもしれないが”

 

 

 

()()()が見えていたって? オレは今、ダヴィンチちゃん特性の霧を見通すゴーグルを、身に着けているのに──!?

 

 

 

 

 

「……此よりは地獄」

 

 

 

 

 

緊迫した場に一見似合わなそうな、しかし何よりもこの場に適した。

 

酷薄なまでに洗練された無邪気な殺意が、オレの命へと牙を剝いた。

 

 

 

 

 

 







【銀のロザリオ】

凡人とは、えてして苦境に身をおけぬものだ。しかし、それでも立ち向かう者があるとすれば、即ちそれ相応の故に背を押されているのに違いない。

故、とは大別して2つであり。つまり、己が輝かしい未来への到達のためか、暗く厳しい過去からの逃走か、でしかない。

このロザリオの持ち主にとっては、果たしてどちらが“故”であったのか。今では、そのくすまぬ輝きだけが語ることだろう。












──簡単に言うと、皆さんの殆どは自分が中学生の時に書いた作文とか見ると死にたくなったり、“あの頃の俺死ねばいいのに!”となったりすると思うんですけど。

ハズムくんの場合は、その作文が広辞苑くらい分厚く束ねられたレベルの代物が首にぶら下がってると思ってもらえればいいんじゃないですかね。

握るたびに5万回死にたくなるし、見るたびに“死にたい”通り越して100那由他回くらい死んでそう。

それでも捨てないとかやっぱりドMじゃねえか!(真理)



最後まで読んでくれてサンガツ!

感想、お気に入り、評価、いつもありがとうございます。そして今回もよろしくお願いします!

どれもこれも嬉しいけれど、やっぱり感想が一番元気出るから、時間ある人は一言でも書いてくれたら嬉しく思います。



次は頑張って早く出すから(白目)



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