お久しぶりです。
本当はロンドン編全部書いてから一気に投稿するつもりだったけど、あまりに書けないのでとりあえず1個投稿しときます。
一目見た瞬間、
それは、視界に入れれば否応にも襲ってくる謎の嫌悪感だったり。
あのアーサー王を従者なんて位置におき、あまつさえその騎士王本人から直々に「認めている」と評されていることに対する苛立ちであったり。
オレのことを美人だの綺麗だのとのたまうクソみたいな舌に対する殺意であったり。
原因は色々ある。本当に、アイツの全てが気に入らない。
──けれど。最も気に入らなかったことは。
オレからボロクソに罵倒されて、散々にこき下ろされて、面と向かって中傷されて。
それでも、
自分のような人間には、それだけの価値しかないのだと、心の底から信じ切ってやがるその人間性が。そのくせ、蜘蛛の糸よりも細いなにかに縋って、それだけのために自分が存在しているのだと思い込んでいるその馬鹿さ加減が。
──騎士王に認められたマスターとして、あまりに不足しているとしか思えない、その人格の欠落が。アイツに関係するどんなことよりも気に入らなかった。
◆
◆
ジキルの奴のアパルトメントに案内した後は、さほど間を置くこともなく市街の探索に乗り出すこととなった。どうやらカルデアの連中は父上たちだけではないらしく、他にもいるらしい。しかしはぐれたんだとか。その仲間と合流したいというわけで少しの休養を取って出撃となる。今頃、父上たちは装備の点検をしているだろう。
父上曰く、人類最後のマスターは二人いるらしい。アーサー王を従えたシロガネハズム、そしてもう一人。どんな人物なのか知らないが、シロガネハズムがあの様子では、もう片方も見ただけでイライラする輩の可能性もある。
もしそうだった日にはうんざりだ。最悪な未来予想図を心で描きながら、こみ上げてくる苛立ちを傍にいるジキルにぶつける。
「仲間ねえ、もう一人の奴もアイツみたいな感じだったら、いよいよキレるぞオレは」
「……すでにキレてるじゃないか、君は」
「うるせぇ。まだギリギリ耐えてるほうだろ。なんせ
「……ああ、そう」
「……冗談だよ」
ならいいけど、なんて言いながら。ジキルは紅茶をカップに注ぎ始めた。落ち着け、と言いたいのだろうか。その気遣いは不要と言いたいが、こいつが淹れる茶はそこそこのものだ。くれるというのなら遠慮なくもらうことにする。
紅茶は今やこのブリテン島の一大文化、らしい。貧しさを極めていた円卓時代では茶を楽しむ余裕なんてのは限られていたから、その感覚が抜けきれないオレとしては時代のうつろいとは不思議だと感じる。
円卓の騎士の時代。名君アーサー王の治世はとうの昔のお話だとジキルが話したことがあった。もはやおとぎ話に片足を突っ込んでいる類だと。そしてそのおとぎ話、アーサー王の伝説を終わらせたのがほかならぬオレ──モードレッド卿だというのも、伝わっている話であると。
「相変わらず、お前の淹れる茶はそこそこうめえな」
「それはどうも。光栄だよ、モードレッド」
ジキルは少しうれしそうに微笑む。そこそこだって言ったろ褒めてねえよ、と睨むが全く意に介していないらしい。むかつく。
ともあれ、オレが一度は滅ぼしたはずのブリテン島は、今や庶民でも茶が嗜めて、そこらに石造りの立派な家が立ち並び、貧しい民も──少なくとも円卓の時よりは──確実に減少していて。蛮族にも獣にも怯えることなく暮らしていけるんだと。
今飲んでいる紅茶と同じ。
「──未来を取り戻す、ねぇ」
何者かに焼却された未来。それを取り戻すためにカルデアは戦うのだとシロガネハズムは説明していた。
なるほど、確かに。それはこのモードレッドにとっても良き戦いだと感じる。
一度ブリテンを滅ぼした身で何をぬかすかと思うかもしれないが、オレはあの行動がブリテンのためであったと今でも信じている。もちろん、私情を混ぜたことは否定しない。当時は父上に対して思うことが色々あって、それをぶつけたかったというのは、あの時のオレの思考の大半を占めていた。間違いのない事実だ。
──けれど、それだけで動いたわけでもない。
アーサー王の清廉潔白かつ人間味を感じさせない非情な政治、それに見合うほどの部下はあのブリテンにいなかった。父上がどれだけ国や民を愛していても、諸侯は違う。自分の方が可愛い奴らが大半だったのだ。なんせオレの煽動ごときでアーサー王を裏切った醜い連中ばかりだった。
あのブリテンは滅ぶべくして滅んだ。そして一度滅ぶことこそが唯一ブリテンの未来を切り開く手段だった。オレは今でもそう考えている。
蛮族の脅威もあったろう。ブリテンの神秘を消し去ろうとする大いなる力の影響もあったろう。けれども、あの国は間違いなく、最後には
あの国は腐り落ちる寸前の果実のようなものだった。そんな国を延命して、何になるというのか。だから滅ぼした。アーサー王の治世が醜悪に染まりきる前に。そして、いずれブリテン島に芽吹くであろう新しい国のために。
事実、ほら──今のブリテンの方は、あの頃よりも
「だから、現状は許せねえ。オレたちの、オレのブリテンを汚しやがって」
その
それを戦う理由にするのは、とても魅力的だった。オレも英雄の端くれ。国を滅ぼした悪逆の輩でも、世界を救うためという戦いには少しばかり胸が高鳴る。それにこのブリテンを滅ぼすなんてのは──後にも先にもオレだけでいいのだ。
「──しっかしなぁ。それを口にする人間が、その言葉をまるっきり信じてねえってのはなぁ」
紅茶を豪快に飲み干しながらつぶやく。「未来を取り戻すために戦う」とシロガネハズムは言った。しかし奴自身はそうは思っていないらしい。
奴自身の意識は未来というよりむしろ──“過去”に向いているように感じられて仕方がない。そんな人間が“未来のために”と嘯いたところでどうなるのか。
なんにせよ、奴には詐欺師は向いていないだろうと思う。オレも腹芸は苦手だが、あそこまでじゃない。
良きにしろ悪しきにしろ、他人を動かす人間ってのは、まず自分自身のことを完璧に理解していなければならない、さもなくばヒトを動かそうとしていたはずが、逆に自分が動かされるなんてことになる。奴は自分という人間に対する理解が足りてないように思う。
結論。端的に言えば、奴の言葉自体は魅力的だったが、それについていこうとは思えなかったという話だ。自分に自信が持てない奴ほど、信頼できないものはない。
「でも、父上はあいつに付いて行ってるんだよな──
「──気に入らないのかい? 良い子だと思うけど」
「はあ? あんなのが? 正気かよお前」
ジキルは信じられないことをぬかす。視界に入れただけで嫌悪感お腹いっぱいだろうに。
「ん──察するに、君たち“サーヴァント”にとっては、何か特別な感覚があるのかもしれないね」
「というと、なんだよ?」
「つまり君が感じる嫌悪というのは、サーヴァントにはあって僕たち生者にはない、第6感に近いものじゃあないだろうか、と僕は考えたんだけど」
「──それじゃあ結局、アイツは何かしらヤバいやつってことだろ?」
盲目の者が、モノを見た目で判断できないように。ジキルにはシロガネハズムの脅威を認識する感覚器官が備わっていないのだろうか。だとしたら、結局。シロガネハズムには英霊に敵視されるだけの厄ネタがあるわけだ。
「それは否定できないけど……」
「あんだよ、はっきり言え」
ジキルは少し言いよどんだ。おかわりをあげよう、とオレのカップに紅茶を注いだあと、ゆっくりと口を開いた。
「人間というのは誰だって悪性と善性を兼ね備えるものだと僕は思うよ──悲しいことにね。生きる限り切り離せない悪性は存在する。君は彼の悪性を特別敏感に感じてしまって、だから彼の善性に目が向いていないだけじゃないかい?」
「……」
「それに、“未来を取り戻す戦い”ってことを信じ切れてなくても、彼はその達成のために動いているように見えた。ならそれでいいと思うよ。僕は」
なんにせよ、見限るのは早すぎないか? とジキルは言った。そんなもんかねぇと返す。
寝室につながる扉が開いた。父上と共に件の男、シロガネハズムが姿を見せる。
蒼玉色の眼の上には霧を見通すゴーグル、背中にはバックパック、腰には両刃の剣を差している。装備は整え終わったらしい。
「お待たせしました」
父上が言う。準備が終わったようなら早速出発だ。シロガネハズムの仲間とやらを見つけ出し、このブリテンをクソッタレの輩から救う。
ああ、生前はブリテンを滅ぼすことしか考えてなかったってのに。今ではどうブリテンを救おうかなんて考えてる。笑っちまう。これもジキルが言うところの悪性と善性の両立なのだろうか。
だとしたら──
「おい、シロガネハズム」
「──なに?」
「お前は、なんのために戦うんだっけか?」
「──もちろん、人類の未来を取り戻すために。
──ああ、やはり。こいつは自分のことを信じ切れてない。自分の言葉に確たる自信を宿せていない。これでも王を志した身だ。表情を見れば、声を聴けば、わかるとも。
けれど、その言葉を違えないようにと、どんなことがあろうと世界を救うと、こいつはそう思っているらしい。
「ああ、そうか。なら、お前のことは気に入らねえが、手伝ってやるよ」
オレはブリテンを、オレ以外の奴に好き勝手されるのが我慢ならない。
こいつは成し遂げたいことのために、この異常を修復せねばならない。
目的は一致している。そこに嘘はない。
──ならシロガネハズムがどのような人間であるにしろ、今だけは見逃してやろう。
そうすればいつか、こいつの悪性に隠されたささいな善性を──父上が認めた男の“価値”をオレは見抜くことができるだろうと、少しばかりの期待も込めて。
◆
「……つまり、この街の異常は色々あるが、そのほとんどはこの霧──“魔霧”に集約するわけだ」
ダヴィンチ印のマスクの影響下、少しくぐもった声で魔術師ハウラスさんは説明する。まるで大学の講義のようにして説明を進める彼は、どうやら人に教える事に慣れているらしかった。
魔術学びたてで、その神秘をあまり深く理解できない俺に対して、魔術的な概念を常識的な現象や単語に言い換えるなどして、わかりやすく解説をしてくれる。
ダヴィンチ印のマスクやゴーグルをハウラスさんにも貸し出して、俺たちは市街地を歩き回っていた。この街でなにが起こったのか──その解説をハウラスさんの考察も交え聞きつつ、魔霧の発生源を捜索している。
俺たちの探す特異点の原因──つまりは聖杯。それは霧の発生源となっているだろうとハウラスさんは言う。
一つの都市に毒の霧を散布するなどという真似は、魔術師一人二人でできることではなく、やるとすれば大規模な儀式を大人数で行うか──それとも無尽蔵の魔力リソースを用意するかの2択だとハウラスさんは睨んでいたらしい。
そして俺たちから聖杯の話を聞き、それが霧の発生源に違いないと結び付けたということだ。
「“魔霧”がより濃いほうへ行けば原因を突き止めることができるとはわかっていたのだが──霧は毒だからね。調査に行くことなんて無謀だと思っていた。それに危険な人形やホムンクルスがうろついている」
「つまり、このマスクがあれば。そして、マシュの力があれば」
「ああ。全く助かったよ。君たちは私にとって救世主にも等しいね」
ハウラスさんは出会った時の自信満々な様子に違わず、優秀な魔術師らしかった。街に毒の霧が蔓延し、生きるための資源すら不足していく中で、この異常の原因を突き止めていた。
ただ一つ問題であったのは、そんな優秀な彼でも、毒の霧や徘徊するエネミーを乗り越えて原因にたどり着くすべがなかったことだ。
しかし、俺たちはその
「唯一足りなかったパズルのピースが埋まった心地だよ。しかし、このマスクもそうだが、ゴーグルも。素晴らしい道具だね」
「ええ。私たちの組織の優秀な技師が作成したものです」
「──なるほどね。魔術と科学の融合とは、その技師はとても優秀らしい」
「というと?」
「魔術は秘匿するものであり、科学は解明するものだ。本来、相反する、融合など望めない関係に位置する。それを試みるというだけでも突拍子のない発想だよ──そうまでする必要があるほどの困難を、君たちは旅しているのだろうね」
尊敬するよ、とハウラスさんは言った。掛け値なしの誉め言葉に俺とマシュは少し気恥ずかしい気持ちになる。
「──ともかく。今の私はそんな君たちを手助けする立場だ。光栄なことにね。魔力感知は得意だから、私は
「はい。それが今の俺たちにできることですから」
ゴーグルの奥、ハウラスさんの糸目が優し気に曲げられる。お互いに頑張りましょう、と言葉ではなく視線で交わしあって、俺たちはひっそりとした街並みを歩みだした。
途端に俺たちの身の回りを霧が包み込む。しかし毒に侵される感じも、視界を覆われ仲間を見失うこともない。カルデア専属技師の技術のありがたみを改めて実感する。
「やはり “
まるで霧なんて無いかのようだ。とハウラスさんは若干の感動を見せた。
「では、行こうか。この街の異常の根源──聖杯のある決戦地へと」
ハウラスさんが深緑色のジャケットを翻した。にやりと不敵に笑いながら、彼は俺たちを先導していく。
「基本は聖杯に向かって進むが──君たちの仲間も、それに並行して捜索していこう。戦力は多いほうがいい」
「そうですね。ありがとうございます」
「構わないよ。では行こうか」
静謐な雰囲気に包まれた不気味な街並みを、俺たち3人は進んでいく。
ガス灯の明かりが、俺たちの後ろに小さな影を作っていた。
うだうだ書いてますが、これから戦いに行くよってことです。
ちょっと不安なんですけど、特異点ロンドンのジキルはその時代の生者でいいんですよね?
FGOって現地生者かサーヴァントなのかこんがらがるときがあるから怖い。
次の話はそこそこ早く出せると思います。今回話があまり進展しなかったので早めにお見せしたいという気持ちもありますしね。
感想やお気に入り、いつでも募集中です。
あと感想返し忘れてたので、返してない分は返しておきました。
物語の核心に関わるものでなければ、質問でも構いませんので、どうぞ気軽に入力お願いします。
貴方たちの一言一言が作者の励みになるんやで。
ではまた次回。