7つの銀弾   作:りんごとみかんと餃子と寿司

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一月ぶりくらいでしょうか。ようやく投稿──と思ったら本編じゃないやんけワレェ!って方はご安心を。

今週中には本編も出すからね。(多分)

ちなみに、プラチナム・メモリアとサブタイトルに付く場合は読まなくても構いません。

そもそもFate要素ゼロだからね。みんな二次創作読みにきてるんだから、こういうの読むのつらい人もおるでしょう。そういう人は飛ばして結構です。

いちおう本編だけでも物語は理解できるようにしている──はず。あ、インタールードは読んでくれんとつながりがおかしくなるけどね?







プラチナム・メモリアー2:『カゾク(ギ)』

自転車を漕ぐこと数十分。車の通りが多い大道路沿いをようやく抜けて、しばらくわき道を進んだ先に、オレの家はあった。

 

5年前に父は念願のマイホームを建てた。決して豪邸と言えるようなものではなかったけれど、両親と兄妹の4人で過ごすにあたっては十分な広さの一戸建てだった。

 

玄関の2重ロックを開けて、靴を脱ぎ散らかす。家の中はしんと静まり返っていた。いつもの光景だ。両親は共働きだし、妹は部活。3年になって部活を引退したオレが一番に帰宅するというのはごく当たり前の風景だ。

 

参考書でパンパンのリュックを二階の自分の部屋に投げ捨てるように入れて、制服から部屋着に着替える。ベットに身を投げだす。そうして、自転車を漕いで火照っている体をいくらか冷ました。

 

「『今日は遅くなる』か。『いつもご苦労様です』……っと」

 

寝ころびながら眺めるスマホには両親からそれぞれ今日の帰宅時間が送られてきていた。無難にねぎらいの言葉を返して一階のリビングへと向かう。縁側に干されている洗濯物を取り込み、ちゃんと乾いているかをチェックする。

 

「うーん、おひさまの匂い」

 

しっかりと乾燥できているものからぽいぽいとリビングに投げ込んでいく。父のシャツ、母の靴下、オレのパンツ、妹の──

 

「……あいつは兄に洗濯物触られて大丈夫なのかね」

 

妹は不思議とそういう思春期めいた反抗──男の家族と洗濯物を一緒にするなとか、父や兄の後のお風呂は嫌だとか──をしたことがなかった。

 

もちろん今までに無かったからと言って、以降そのままとは限らない。これから始まるのかも、と父が戦々恐々としているのはちょっと笑えてくる。それが抗えない父心というやつなのだろうか。

 

両親が共働きという関係上で家で家族と接する時間は少ないが、仲は比較的良好といってもよかった。先も言ったように妹は反抗と呼べるようなことをほとんどしてこなかったし、両親も時間があるときには家族サービスを欠かさなかった。オレも、家族に迷惑をかけるような真似はほとんどしてこなかったように思う……最近は、だけど。

 

ともかく、大きな軋轢を生むようなこともなく、オレ達4人の家族は上手くやっていけてる。はずだ。

 

全ての洗濯物を取り込み終えたので、窓を閉めてリビングの床に座り込んだ。散乱している洗濯物を自分の近くに引っ張り寄せて、たたみ始める。

 

もう6時を回る。窓から注ぐ夕陽はほとんどなくなってきていた。リビングのフローリングに反射する赤黒い夕焼けの残光。その中で黙々と洗濯物をたたむオレ。

 

 

 

何の変哲もない、いつもの光景だった。

 

 

 

 

 

 

夕飯は生姜焼きと味噌汁と白米。無難な構成にしておいた。男子高校生らしく、付け合わせに千切りキャベツなんてものは無い。しかし、若いオレや妹、美容のために運動を欠かさない母はともかくとして、父にだけはキャベツがあったほうがよかっただろうか。悩ましいところだ。

 

「さて、じゃあ勉強を……」

 

洗濯物はたたんでしまった。風呂は洗った。夕飯も用意した。ひと段落したので部屋に戻って勉強でも、と考えてエプロンを外すと、ガチャリと玄関の扉が開いた音がした。

 

「ああ、有理が帰ってきたか」

 

じゃあ先にご飯だ。そのあと勉強ってことで。

 

「ただいま、兄さん──」

 

「お帰り、有理。着替えてきな、ご飯できてるよ」

 

黒髪ロングに整った顔立ち。すらりとした足と、きゅっと引き締まった腰回り。胸は──ともかくとして。兄の贔屓目もあるやもしれないが、そんじょそこらにはいないレベルの美人であるところの妹。ザ・美少女といった佇まいの彼女は白金有理(しろがねゆうり)

 

今日も部活を頑張ってきたらしい。お疲れさまだ。

 

「ごはん! ──ああええと、ありがたいけれどね? 兄さんも受験生なのだから、家事くらい私に任せてくれていいのに」

 

「いや、ちょうどいい息抜きになってるから。気にしないで」

 

テーブルに並ぶ生姜焼きを見て「ごはん!」なんて可愛い反応をしたかと思えば、心配そうな顔になる有理。クールな印象の割に表情はこうしてころころ変わる子だった。

 

「さ、オレもお腹すいたからさ、ちゃっちゃと食べちゃおう」

 

「お父さんとお母さんは?」

 

「遅くなるってさ」

 

そうなの、と言いながら妹が自分の部屋に行った。着替えが終わり戻ってきた彼女と席に着く。「いただきます」と二人で手を合わせた。

 

 

 

「美味しいわ、兄さん」

 

「そりゃよかった」

 

料理上手の母の直伝だから、おいしくなければ逆に困ってしまう。ただ、生姜焼きは妹の好物の一つだから、失敗していなくてなにより。

 

「兄さん」

 

「ん?」

 

有理はある程度食べ終わったかと思えば箸をおいた。そうして不安そうな顔で語り掛けてくる。

 

「あの、さっきも言ったけれど、家事くらい私に任せてくれていいのよ? もし必要なら、兄さんが受験終わるまで部活休んだって──」

 

「だめだ」

 

「でも、家事をしているから、兄さんの勉強の時間はいっつも夜遅くになってるじゃない。だから睡眠時間も短くなってるみたいだし……そうやってあまり無理はしてほしくないの」

 

「大丈夫だよ。睡眠時間なんて5時間もあれば十分なくらいだろ。有理は弓道の実力があるんだから、それを殺さないでくれ。わざわざ部活を休んでまで手伝わなくていいよ」

 

「……でも」

 

「そもそも、オレの進学先にはそこまでの猛勉強は必要ない。毎日の予習復習数時間で大丈夫だって──」

 

「え! 進学先、決めたの?」

 

しゅんとして俯いていた有理が勢いよく顔を上げた。口が滑ってしまった。迂闊なことは言うもんじゃない。

 

オレの進学先が決まっていないのは家族内でも周知の事実だった。両親も有理もそれにヤキモキしていたのは想像に難くない。

 

心配をかけている自覚はあった。けれど、中々に決められなくて。今日の放課後に教師に呼び出されてやっと、国公立の理系大学に行くと決断したばかりだ。これだと、お世辞にも“進路を決めた”とはいいがたいだろう──普通なら。

 

「ああ、決めたよ」

 

「ど、どこに?」

 

有理は興味津々のようだ。そういえばオレが高校に進学するときもこんな風にグイグイと質問してきた気がする。彼女は(恐らく)一般の兄妹よりも、兄に対しての興味が大きいらしかった。迷惑なことだった。

 

兄弟姉妹を持つ友人はいくらかいるが、ほとんどの場合において相互不干渉というか、仲が良いとは言えないのが普通らしいのだが。有理はそんな風ではない。そんな風であったらよかった。

 

いつになっても、オレのことを思ってくれるし、寄り添ってくれる良き妹だった。それが鬱陶しかった。

 

「近いところにある○○大学?、それとも隣県の××大学? あ、△△専門学校とか?」

 

「いや、専門学校に行く気はあんまり。とりあえず国公立大学の理系にって決めただけだよ」

 

「……あ、そうなんだ。あれ、ならさっき、“猛勉強は必要ない”って言ってたのはどうして? だって具体的に決めてないのに──」

 

「どうしてってそりゃあ……」

 

言いよどんでしまう。自分の胸の内にあるのが、あまり褒められた考えではないと理解しているからだ。それでもこの場面を何も告げずに乗り越えることはできまい。有理はじいっとオレを見ていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、大丈夫ってこと」

 

「……え」

 

有理は何を言っているのかわからない、というような顔を見せた。オレからすれば予想していた反応だった。多くの人間は進学先を“行けるところ”ではなくて“行きたいところ”で選ぶ。そこに今の自分の学力が届かないようならば努力をするものだ。進学校にきている奴らなんかは特にそんな考えの者が多い。

 

けど、オレはそういうことをするつもりはなかった。受験期前の自分の模試の結果だとかを考えて、確実に通るところに行くつもりだった。

 

有理は“どうして”と言いたげな視線をよこした。テーブルの上に箸が置かれて、食事の手が完全に止まった。

 

「……なんでかっていえば。ほら、オレが私立なんかに行くもんだから、父さんと母さんには迷惑かけてるし」

 

理由、という名の言い訳を口が勝手に紡ぐ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()という言葉は飲み込んだ。

 

「私立大学はもちろん、浪人も、する余裕なんてきっとウチにはない。そんなことしたら両親だけじゃなくて、お前にも迷惑かける」

 

3年前、分不相応な考えで高校受験をして失敗した時のように。

 

「だから、オレは行けるところにいく。わかった?」

 

言い聞かせるようにして、俯いている有理に言う。彼女はしばらくの間無言で微動だにしなかった。リビングの壁にかかった時計の秒針が、しばらくカチリカチリと時を刻んだ。

 

「──わからない」

 

急に顔を上げたかと思えば、有理はテーブルを強くたたいて立ち上がった。パシャリ、と味噌汁が少しだけ跳ねた。

 

「に、兄さんにはそんな考えで進学してほしくない! 家族に迷惑かけるとかそんな考えいらない! 私はそうだし、お父さんとお母さんもきっとそう! だから兄さんは、自分のしたいように──」

 

 

 

バァンと、オレは思わずテーブルに拳を叩きつけた。ビクリ、と有理は怯えたように口をつぐんだ。並べられた味噌汁もお茶も、テーブルにぶちまけられてしまった。

 

「──そういう気持ちは嬉しいけどさ」

 

お前にだけは、言ってほしくなかった。

 

「したいようにできるっていうのは、それに見合うだけの能力がある奴が持つ特権だよ」

 

お前のように、と言いたかった。言えなかった。

 

「とにかく、もう決めたから。口出ししてこないでくれ」

 

言い捨てて、キッチンから台拭きを持ってきた。散らかった机をパパっと拭いて、自分の部屋に逃げるようにして引きこもった。

 

妹の顔を見たくなかった。

 

 

 

 

 

 

有理は大切な家族だ。彼女が母さんのお腹の中にいた時から、オレは彼女の兄として立派な人間になるのだと意気込んでいたくらいだった。

 

生まれた後の事だって、初めて立ったときのこととか、初めて喋ったときのことだとか、誕生日プレゼントをオレにくれたときのことだとか。いろんな思い出でいっぱいだ。

 

父さん母さんの大事な子供で、オレの大切な妹なのだ。いつだって大切な家族だ。愛している。嫌いになれるものか。それが普通だろう?

 

 

 

 

──だから。オレはオレが嫌いだ。

 

オレはずっと、彼女のことが大切だと嘯く心の奥底で、抱いてはいけない気持ちを持ち続けてきた。

 

全ての教科で満点を取る妹──オレはどれだけ勉強しても達成できなかったのに。

 

いろんなスポーツで良い成績をとる妹──オレがどれだけ努力しても人並みの実力しか身につかなかったのに。

 

いろんな大人から褒められる妹──オレは“もっと頑張れ”と言われる回数の方が多かったのに。

 

そして。

 

出産のときに、母から、父から、「生まれてきてくれてありがとう」と誕生を祝福される妹。

 

──オレは、オレの誕生は、多くの人たちにとって望まれないものだったのに。

 

 

 

オレは、オレが大嫌いだ。

 

くだらない劣等感で、筋違いの恨みを抱いて、情けない嫉妬をして。

 

まさに、()()()()()()生き方をし続けている。恥無(ハズム)という名前が表す運命から逃れられないかのように。

 

──白金恥無は、今までに散々な恥を積み重ねてきた。

 

いつからだったか。自分でも覚えていないときから、オレは何か一つでもいいから、妹に勝るものがあるという証明をしたかった。そうして色々なことにチャレンジして、結果は散々で。一度足りとて、妹に勝つことは無かった。

 

そしてその集大成というか、最も大きな失敗──恥というか。オレは自分の学力では行けもしないような難関公立高校、県一番の学力を謳われるそこを受験した。結果は当然失敗。オレは滑り止めの高校──今通っている私立の高校に入学した。

 

失意の中、オレは高校入学までの短い春休みをただ無為に過ごしていた。そんなあるときに、夜中ふとトイレに向かったオレは、リビングで声を潜めて話をしている両親の話を盗み聞いた。

 

『──家のローンもあるけど、学費は大丈夫かしら』

 

『今のところは。ただ、もし有理も私立高校となると、大学の学費は結構きついかもしれんな』

 

『そう。あの子たちの将来を狭めたくはないけれど……』

 

『大学が国公立ならなんとか。私立は、どうだろう。くそ、夢のマイホーム! なんて浮かれてたあの時の自分を殴ってやりたいよ。もっと考えるべきだった』

 

『仕方ないわ。あの時は私も賛成したんだから、あなただけの責任じゃない。ともかく、こうなったら私も働くわ。昔の職場に復帰できないか聞いてみるから──』

 

気づけばオレは、自分のベットに潜り込んでいた。そうして布団を口に当てて嗚咽を殺すように、涙を流した。その夜は、どうしても眠ることができなかった。

 

オレのくだらないプライドのために、両親は大きな負担を受けてしまった。このままでは、オレだけではなくて、妹の将来まで──

 

そうしてオレは、今までに散々、自分が無意味で無価値なことをしてきたのだと知った。だからもう、妹を越えようとするのをやめた。

 

数年後。有理はオレについてくるようにして俺と同じ高校に入学した、私立で学費がかさむと思われたが、彼女は特待生で学費を免除されていた。両親に迷惑をかけたオレなんかとは比べ物にならないくらい、彼女は優秀だった。

 

その時にオレは悟ったのだ。世の中には、生きているだけで恥を量産するようなバカもいれば、生きているだけで価値と功績を生み出し続けるような天才もいるのだと。

 

 

 

 

 

 

──白金恥無は、今までに散々な恥を積み重ねてきた。

 

だから、これ以上の恥を積み重ねるのは、もうたくさんだ。

 

挑戦することで誰かに迷惑をかけてしまうなら、もうやめようと思った。

 

今までにないがしろにしてきた家族のために、家族に迷惑をかけないために生きる。

 

白金恥無が出しゃばらなければ、両親に負担をかけることは無い。

 

白金恥無が我慢すれば、才ある妹はもっと上へ進むことができる。

 

オレにとっては、その事実だけで十分だった。

 

 

 

 






誰にも負けない頭脳と、誰にも負けない身体能力が欲しかった。

そうすれば、オレも妹のようになれたんじゃないかって。

()()()()()()()()

結果はどうなったのかって?

──知っているだろう? オレみたいなやつが持つには不相応だったんだ。



プラチナム・メモリアー2:『家族(())』──終了。











だいぶ前のことだから、ほとんどの人は忘れてるだろうし、銀弾の1,2発目の使用用途を唐突に載せておきますね。べつにナンノイミモナイヨ。



1.幼年期、無意識使用。上手く歩行ができないという問題を解決。運動神経が向上。

2.幼年期、無意識使用。言葉を上手く覚えられないという問題を解決。頭脳明晰化。



ちなみに、シロガネハズムは、聖杯を捧げ先からもわかるように、Fateのキャラクターの中ではアルトリア・ペンドラゴンが好きです。

では、彼の最も嫌いなキャラは誰かといえば、間桐慎二です。

理由は言いません。





最後まで読んでくれてありがとナス!

また今度、今週中に多分投稿できるから!

感想と評価とお気に入りよろしくお願いいたします。(切実)


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