なんか筆がのった。
サブタイトルに0とあるようにロンドン攻略の前の話だからね。
原作を読まなくても書けたっちゅー話。
めんどくさい関係は整理しておかなきゃね。じゃないと片付ける時に面倒だし。
もしまだ見てない人がいたら、前の『プラチナム・メモリア』を見てから来てね。
「痛っ──もうちょっとくらい手加減してくれてもいいじゃないか、
「貴方ならばこのくらいは大丈夫だろうと思って、剣を振るっているのです。そしてその見立ては間違っていない。その証拠に──」
もう一度、上段に構えた剣──もちろん聖剣ではなく、刃引きされた訓練用の──を一息に振り下ろす。魔力放出はもちろん使っていない、私からすれば遅すぎる剣筋だが、ハズムの眼には結構な速度に見えているだろう。
彼は左手に握った剣であわてて私の一撃を受け止めた。私の膂力に少し押し戻されてはいたが、しばらくすると勢いを殺せたのか、つばぜり合いは拮抗の状態になる。
手加減しているとはいえ、両腕で押し込む私に対して片腕で受け止めている彼がこうも簡単に止められるというのは、きっと彼の身体がかなり鍛えられているからだ。
彼の肉体は非常に運動に適した仕上がりをしている。トレーニングによって後天的に獲得した部分だけではなく、先天的な部分でも、彼のように恵まれている者はそういないだろう。
「いきなり切りかかってこないでくれるか。一応これでも、君のマスターなんだけど」
「──なにを今更。いつでも首を刎ねろと言ったのはあなたでは? それとも撤回しますか?」
「いや、いい。そうだね、オレの自業自得だ。じゃあ、あの
そうして彼は剣を構えなおした。左手一本で中段に構えられる剣。これは非常に珍しいことだ。ふつう、刀剣の類とは両腕で持つものだ。
戦いの最中に片腕で持つ瞬間はいくつもありはするが、最も安定する形として、あるいは他の動作に最も迅速に移行できる形として、両腕での中段構えが選ばれることは多い。
私は宝具で武器が隠せることもあって、そのアドバンテージを生かせる構え──日本剣道でいうところの“脇構え”を多用するが、それは文字通り私のような特殊な事例に限ることだった。
だけれども、彼はこの構えが良いのだという。正確には“右手は常に開けておきたい”のだとか。理解しかねる言葉だが、理解できないのは今更といった感じもするあたり、私は彼に毒されているのだろうか。
「──
「ああ、わかってる」
そう言ってまた剣を振り上げる。カン、カンと、刃がぶつかる音が修練場に鳴り響いた。
なぜ、私が彼とこんなふうに剣の訓練をしているのかといえば。それを語るには、いくらか時をさかのぼる必要がある。
◆
今日あたりには眼を覚ますだろう、というDr.ロマンの言葉通り、我がマスターであるシロガネハズムは朝とも昼とも言えない──少なくともリツカが朝食を食べ終えて訓練に励んでいるくらいの時間帯──には起き上がった。
まずは簡単なバイタルチェックと、彼が眠っていたために後回しにされていた特異点攻略の報告が行われた。これは下手すればハズムの異能が暴かれる事態であったが、聴取を担当したオルガマリーは特になにも聞いてこなかった。一応、いくつかの言い訳は用意していたのだが。
しかし、彼女は何も知らないにしては様子がおかしかったので、おそらくは知っていて触れていないのだと思われる。共犯者ができたということだろうか。お互いにそうと実際に確認したわけではないけれど。
『あなたの報告を素直に書類に残して、それ以上は何も聞きませんでしたね、彼女は。……よかったですね。隠し事が暴かれずに安心していますか、ハズム?』
『まあ、そうだけど。言う必要あったのそれ。嫌味ならやめてほしい。カルデアの皆に隠しているのは悪いと思っているよ、本当に』
そんなことを念話で交わす。
彼との関係は、オケアノスでの出来事があってから幾分変わったように思える。今までの相互不干渉から、お互いに刺々しい態度ながらも交流をするくらいには、変化があった。それが良いことなのかは分からないが。
彼の不機嫌な顔がさらに悪化していく。端正な顔を歪めさせるのは良い趣味ではないと理解しているが、ハズムに対しては許して欲しいと心の中で願う。(誰に願っているのかは知らないけれど)
それが良い感情ではないにしろ、彼が何かの思いをぶつけてくれるのはとても得難いことのように思えた。誰かに貰ったものではない、彼自身から生まれるもの。それをきっと、引き出すべきだと思うのだ。
「ああ、疲れた」
いつの間にか彼の自室に到着していた。入室した瞬間、彼はベットにどさりと倒れ込むようにしてダイブする。まあ、それは疲れただろうと思う。寝起き(3日の睡眠からの起床)で身体は固まっているだろうし、報告には神経をすり減らすような思いだっただろうから。
「──なあ、セイバー」
「……」
「──セイバー?」
布団に顔をうずめたまま私に問いかけてくる彼を、私は努めて無視した。子供じみた真似かもしれないが、彼と距離を縮めるためには必要な措置だった。
不思議に思ったのか、我慢できなくなったのか、彼は起き上がって私に顔を向けなおした。
「無視しないでくれよ。聞きたいことがあるんだって」
「──ペンドラゴン、です」
「は?」
「貴方は私のことを、“セイバー”ではなく、“アルトリア”でもなく──“ペンドラゴン”と、そう呼ぶといい」
「なんで?」
「貴方の記憶の中に、
「──っ、は?」
「だから、貴方だけの特別な名前を考えました。“ペンドラゴン”──ただの家名ですが。そう、呼んでください」
彼の頭は事態に追い付いていないらしかった。だらしなく口を開けて、驚きが顔じゅうに現れている。また一つ彼の感情を引き出せた、と良い気分になる。
「──オレの記憶、だって?」
たっぷりと時間をかけて、彼はおそるおそると言った風に、それだけを聞き返した。
「ええ、そう言いました」
それは今までに見てきたものではない別の記憶。家族を一夜にして喪った哀れな少年──
凄惨なことには巻き込まれなかったけれど、命がけの戦いなんて経験しなかったけれど、自分の意味を見失った悲しい少年──良い両親にも、よい友人にも、よい恩師にも恵まれたけれど。名前に答えるだけの才能に恵まれなかった、
「それは、オレが蘇生したときに君が口走ってた、オレの家族が死んだときのやつか?」
「いいえ。というか、気づかないフリを続けるのは往生際が悪い。わかっているでしょう? 私は、あなたではなく、
「────」
絶句、といった表現がぴったりだろう。彼は今生で最も“意味が分からない”という感情が胸を支配しているに違いない。
なんせ、それは彼が絶対に隠し通したかったもののはずだ。絶対に暴き立てられてはならない秘奥であったはずなのだ。
それを覗かれた。それも、自分に剣を向けてきた、首を刎ねるとまで脅してきたアルトリア・ペンドラゴンに。それが彼にとって、どれだけ驚嘆に値することで、どれだけ恐怖を煽ることか。
わかっているとも。それでも私は口を閉じなかった。
「──この世界はFate/Grand Orderでしたね。それと私に関係するものといえば、Fate/stay nightもありましたか」
彼が進路を決めた──あれを
そして見つけたのはそのほか
それでも、いま最も重要なのは、この世界──“Fate”についての、記憶だ。
前に一度、私は彼の持つチカラについて、“千里眼”のようなものではないだろうか、と推理したことがあった。
──とんでもない。彼は一つ上の次元から、この世界のシナリオを観測していたのだ。魔術の到達目標、根源との接続とどちらがより
「前に貴方は言いましたね。自分は本来、アルトリア・ペンドラゴンのマスターになるべきではないのだと」
「……」
「私には確かに、
彼の記憶から物語として俯瞰した、二人のマスターとの物語。唯一無二の相棒と正義と夢のために戦った
彼の夢から目が覚めた時、私は胸は焦がれるように熱く鼓動していた。おぼろげな記憶に輪郭が生まれて、その記憶が確かにあることを理解した。
そして同時に、彼が“マスターになるべきではなかった”と告げた、その真意を理解した。
理解した時、それは違う、と思った。
「──ハズム」
「……」
「貴方の中を勝手に覗きました。それは申し訳ないと思っています。そして知った事に絆されて、簡単に態度を変える私を、きっと貴方は信頼できないと思います」
「……」
「私は貴方に剣を向けました。そして、またいつかそうするでしょう。貴方が今のままである限り、きっとそうしなければならない時が来ます」
彼の能力は依然わからない。覗いた記憶にそれを把握できるような情報はなかったからだ。けれど、彼がしたいことはわかっている。
第四特異点ですべて終わる、と彼は言った。シナリオを思い返せば、なるほど、不可能ではないだろうということは理解できた。
彼は
──彼は危ういと思う。私は直感を排した。嫌悪感を無視するように努めた。そうしたときに残ったのは、
聖女ジャンヌも、皇帝ネロも、海賊ドレイクも、きっとこれを感じていたのだ。
彼という人間は、英雄になるべき人間ではない。もっとささやかに暮らして、もっと普通の目標に邁進して、大切な人々に囲まれて死ぬことができるような、普通の人間なのに。
今更、彼は戻れないのだろう。戻ってはいけないと思っているのだ。振り返った先には、血生臭い夜の光景と、殺したいぐらい憎い自分がいるのだという強迫観念に駆られている。
「貴方は道を間違えました。けれど、行いは
彼という人間に見合わないものでも。彼という人間にふさわしくない行動でも。そこに設定された目標だけは、行いだけは正しい。
「ここまで来たのです。最後まで正しく終わらせましょう。きっとそうなってくれたなら──私も剣を抜かなくてすむ」
彼は止まれば壊れてしまう。無理に道を変えても、後ろ髪を引かれて結局戻ることになるだろう。
私にできることは。彼が進んでいる道を何より早く完走できるように手伝うことだけだと、悟った。
きっと彼に関わり絆されてきた人々は、私と同じようにそのことを理解しているのだろう。藤丸立香も──もう一人の親友も。それを知ったうえでどうするかは、皆ちがうのだろうけど。
「
「──え」
彼はずいぶんと久方ぶりに声を漏らした。困惑する彼に構わず、私は彼の右手の人差し指を、私自身の胸元──竜の心臓が鼓動する、急所へと突き付けさせた。
「貴方の能力はよく知りませんが。私を存在ごと抹消するくらいのことはできるのでしょう?」
「それは、そう、だけど」
「おあいこ、というやつです。命を奪う者は、命を奪われることを覚悟しなければ。不公平でしょう、生殺与奪の権を私だけが握るのは」
彼に対する不信はなくなった。我ながら自分勝手なことをと思う。彼を散々避けて傷つけておきながら、今は笑顔で彼に語り掛けている。
それでも──私は、後悔しないために。私にとって正しいと思えることをする。
最後の最後に。彼とどのような形で分かれることになるとしても。私のしてきたことは
「剣を突き付ける者、銃で狙う者。私たちは信頼しあえるような良きパートナーではなかったかもしれませんが、きっとそれで良いのです」
「……絶対にそんなことない。貴方にそんなことを強いているのはきっと、オレの至らなさのせいで。きっと、シロウやリツカなら──」
「──貴方に剣を突き付けている間、貴方は正しいということです」
なぜなら、正しくなくなったときに剣を振りぬくから。
「──貴方が私を銃で狙う間、私は正しいということです」
なぜなら、ハズムは正しく生きる人を殺したりしないから。
「二人がお互いの命を狙う限り、私たちは正しい。私を信じなくてもいい。それだけを信じてくれれば──」
背中を預けることで生まれる信頼があるのなら。相対することで生まれる正しさもあるだろう。
私が正しくあるために。ハズムが正しくあるために。
これは、証明だ。シロガネハズムは正しい人間なのだということの。
「──ペンドラゴン」
「!」
「そう呼べばいいんだな?」
「──ええ! そうですとも!」
「きっと、迷惑をかける。だから、先に謝っておくよ。ごめん」
「謝罪ではなく、感謝を告げるのです。自分が正しい人だという自負がある人間は、軽々に謝罪をしはしない」
「そうかな──じゃあ、ありがとう」
「ええ、どういたしまして」
彼は
「なんだろう。なんだか懐かしいな」
「懐かしい、ですか?」
「そういったことを、誰かに言われた気がする──いや、誰かに言ったのかな」
もう、思い出せないけれど。
「では、明日から訓練をします!」
「訓練? なんの?」
「剣の、です。きっと筋は悪くありません。選択肢も増える。悪いことは無いでしょう?」
「そう、だね。それになんか憧れてたし──君に剣を習うなんて」
そうして一緒に笑いあった。
信頼関係とは程遠い──剣を突き付ける者、銃で狙う者。これ以上ないくらいには殺伐とした関係だけれど。
きっと、お互いを見ようともしない今までよりは、間違いなく。
良い関係、だった。
◆
「ハア──ハア、っ」
息も絶え絶えにへたり込むハズム。しかし、どんなに疲れても剣だけは放していなかった。第一のステップとして教えたことを守れていて何よりだ。“剣を放さないこと”それは、不屈の精神につながる。
諦めた者から死んでいくのが世界だ。だから形だけでも不屈の意思を示すのは大事なことだった。
「──さて、第二ステップですが。左半身の守り。意識が定着してきたようで何よりです」
彼が左だけ、という片手剣術を所望してきたから教え込もうとしていることだ。彼は呑み込みが早い。もう体得し始めているところだった。
「それは嬉しい。けど、剣を左手で扱っているのに、左の守りを意識するってなんか不思議な感じがする」
「確かに人間の直感には反していますが──だからこそ大事なのです」
左手で剣を中段に構えるとしてその姿を想像してみるとわかりやすい。右から切りかかってきた敵には拳を寝せて刃ですぐに受けることになる。そして左から切りかかってきた敵には、拳の手のひら側を上に向けるようにして受けることになる。
両手で剣を持っていればどっちの受けも問題なくこなせる。では左手だけを使うとするとどうだろう。途端に左半身の守りが脆弱になってしまうのだ。簡潔に言うと右護りの時より剣が
そんなことを説明する。へぇ、と感心した様子で彼は頷いた。
「──では休憩を。また10分もすれば再開しますが」
「はいはい」
汗をハンドタオルでふき取り、水を浴びるように飲んでいる彼。結構なスパルタでやっているつもりだが、へこたれずついてくる。死ぬほど努力することに慣れているのだろう。
「──なあ、ペンドラゴン」
「はい」
座って彼の休憩時間を待っていれば、彼が話しかけてきた。さっきまで息を切らしていたくせに、もう体力が戻っているように見える。人間にしては恐ろしい体力バカだ。
「結局あのとき聞けてなかったんだけどさ」
「あのとき、とは?」
「昨日、マイルームであんたを呼んだら、あんたが無視決め込んだ時の話だよ」
「ああ──あれは悪いと思ってはいます。私のことを“ペンドラゴン”と呼ばせるのによいきっかけだったもので」
「いや、べつに気にしてないんだけどさ──結局なんで、オケアノスでオレのこと切らなかったのかなって」
「それは──」
「聞く限り、あのときはオレの──前世の記憶見てなかったわけだろ。じゃあ、オレは怪しいところしかなかったんだろうと思うんだけど」
「それは、その通りですね。事実殺すつもりでしたから」
「じゃあ、なんで──」
言われて考える。確かに、道理に合わない判断ではあるだろう。今でこそ後悔していない、ああしていてよかったと思えるが、なにも知らなければ正気を疑う判断だ。
それでも切れなかった。切れなかった理由。
「後悔したく、なかったからでしょうか」
「えと、ごめん聞こえなかった」
「別になんでもありません。まあ私に
「──は!? そんなとこまで知ってるのか!? というか、それはあのとき知らなかったはずだろう!?」
「うるさい。本当のところを聴きたくば、剣で私から一本とることだな」
そう、きっと後悔なんてしたくなかったのだ。
そして、ハズムにも、その家族にも同じようにおもっている。
アルトリア・ペンドラゴンは後悔したくないし、後悔させたくない。
だからハズムも後悔させない。
彼に託された想い、願い──今としては呪いと化してしまっているそれが、いつの日か正しく伝わることがあれば。
きっと彼の誇るべき家族は、後悔することなく、あの世に旅立っていけることだろう。
いつの日か、シロガネハズムが目標を達成して、曇りなき目で、素直に彼らの思いを受け止められる。
──ああ、それはなんて。輝かしい未来だろうか。
出戻りした4つ、出ていってしまった4つ、まだ行き先が決まらない5つ。
都合13つ。今の
一日に2話も投稿しちゃったぜよ。
これ以上は時間かかるからね!? 本当に無理だからね!? 嘘じゃないからね!?
最近ね、感想が欲しくてたまらないの(強欲)(大罪)(ちくわ大明神)
だからいっぱいくれ!
最後まで読んでくれてありがとナス!
また次回。いつかね!