ただ
オルガマリー:レ//フ = 9:1
みたいになってるけどね。やっぱ美少女に時間割くほうが人生有意義だからね、仕方ないね。
シミ一つない白壁に、清浄された空気。鼻につく薬品特有の臭い。まあつまり、私はカルデアの病室にいる。
私はどうも、この空間が好きではないし、それはほとんどの人間が同意してくれるだろうと思う。病室という存在を好むような者は、きっと希少に違いない。
無論、好む好まないにかかわらず、病室に縛られる人間というのは一定数いるものだ。
それは例えば、デミ・サーヴァントとしての調整を必要とするマシュであったり。
──例えば、毎度毎度、特異点攻略に赴くたびに大けがをして帰ってくる、
「どうなの? ハズムの容態は」
「バイタルをチェックしましたが、特に問題はありません。ケガがいくつもあるのは見た通りですが、命にかかわるようなことは無いでしょう」
「──そう。結構なことね」
相変わらずふわふわした雰囲気を醸し出す
父は人を見る才能があった。才能を見極める才能があったと言い換えてもいい。ともかく、ゆるふわでなよなよした目の前の男も、その例にもれず優秀な人材ということだ。
その彼が大丈夫だというのだから大丈夫なのだろう。
しかし、私は知っている。オケアノスで観測したバイタルを信じるのであれば、シロガネハズムはあの程度のケガだけで済むようなはずではないということを。
ダヴィンチやロマニなど、なにかがおかしいと感じている者は少なからずいるだろうけれど。
──私は、シロガネハズムが何かを隠していると、確信している。カルデアの司令部の中では、きっと私だけが。
決定的瞬間を目撃したのは、私だけだったのだから。
◆
特異点攻略の際、これは当然の話ではあるが、特異点攻略に実際に赴くマスター二人以外が暇をしているのかというと、そんなことはない。
二人の意味消失を防ぐための存在証明、迫るエネミーを発見するための魔力観測、そしてマスター二人のバイタル管理など。仕事は多岐にわたる。
つまり、レイシフトという高度かつ難解な技術にあたって必要とされる人員は、とても多い。今のメンバーでは本来とてもではないが足りない。ではどうやって業務を回しているのかといえば、兼業と長時間勤務の二つが頼りなわけだ。
「存在証明安定しています──そして、エネミーの類もヘラクレス以外には観測されていません」
存在証明作業と魔力観測を同時にやっているものがいたり。
「通信接続不安定です。安定化作業に移ります。すみません、ハズム君のバイタル管理から少し外れることになります」
そうやって兼業で回しているから、時には穴が開いてしまったり。
「なら、代わりに俺が受け持つ──っ、す、みません。すこしめまいが。受け持ち、たかったですが。こんな様では大事なバイタルを見逃しそうです。誰か──」
長時間の作業で疲れ果てた者が出てきて、その穴埋めすら滞ってしまったり。
「──なら、私がやるわ。あなたは仮眠。所長命令よ」
そうして、私がその作業をやることになったり。ともかく、カルデアはそうしたギリギリの運営の中で動いているのだ。
まあ、私はレイシフト適性こそないけれど、カルデアの全作業について誰よりも完璧にできる自信がある。……言い過ぎたかもしれない。ダヴィンチとかいう万能サーヴァントの次に、完璧にこなせる。だから、こういう非常事態に私が穴埋めをするのは間違いではない。
なぜ作業に精通しているのかといえば、レイシフト適性がない自分にとって唯一、努力すれば得られるものがそれだったからだ。レイシフト適性は生まれ持った才能。努力ではどうしようもない。けれどカルデアの運営であれば、作業であれば、努力で身につく。勤勉さが結果を残してくれる。
私に残された余地というのが、それだけだったという話。それだけだ。
「さて、と」
手元のコンソールにデータを映し出す。通信の乱れによって状況を正確には拾えていないが、今はヘラクレスと追いかけっこをしているところだろうか。
ならば当然、バイタルデータのチェックは欠かせない。まあ、チェックしたところでこちらから治療支援などが行えるわけではないが。見ていることしかできないというのは、歯がゆいものだ。
映し出されるハズムのバイタルに問題は見られない。走っていることによる心拍数の上昇くらいで、魔力は安定域、外傷は無し──ホッと息をついたその瞬間。
「なっ──」
BPM : 0
Magic Circuit : Destroyed
Physical Condition : Danger
・
・
・
L / D check... Answer : Die
瞬きをした瞬間に起こった、急激なバイタルの悪化。いや、悪化どころではない。これは、どう考えても
胸元に氷柱が刺さったかのような、冷たくて鋭い痛みの感覚が忍び寄ってくる。
「嘘、ウソよ……いや、嫌、嫌ぁ……」
小さくあえぐように、私の口からは掠れた声が零れ落ちる。
覚悟していたのだ。そのはずだった。カルデアの人員一人も欠けずに人理修復を成し遂げるのは難しいだろうということ。そして、もっとも命の危険にさらされているのはマスター二人とマシュであるということも。
どれだけ命が零れ落ちようとも、私たちは、私は、進むのだと思っていた。それができるのだと信じていた。
こんなに簡単に足がすくんでしまうなんて、考えてもみなかったのだ。
「マリー、どうしたんだい?」
「ああ、ロマニ、ハズムが──ぇ?」
そして、こんなに簡単にその絶望が覆されてしまうなんてことも、きっと想像していなかった。
BPM : 0 90
Magic Circuit : Destroyed Perfect
Physical Condition : Denger Normal
・
・
・
L / D check... Answer : Die Answer : Live
「あ、え、なんでも、ないわ」
まるで、なかったことになったみたいに。まるで死という事実そのものを破壊し貫いてしまったみたいに。いつの間にかハズムのバイタルは正常値に書き換わってしまっていた。
「──そうかい? ならいいけど」
ロマニはそう言って自分の持ち場に戻っていく。
なぜ、こんなことが起こった? まるで悪夢でも見せられているかのようだ。
ログをチェックする。それでも、ハズムのバイタルは現在に至るまで正常だったことに
機器の故障? 観測ミス? 疲れすぎて幻を見ていた?──様々な可能性が浮かんでは消える。
けれど理論的になにかの原因を探そうとする頭の奥底、本能にも似た部分できっと私は確信していた。
「──あなたが何かしたのね、ハズム」
脳裏に浮かぶのは忌まわしいあの日の記憶。人理継続保障機関カルデアが壊滅に追い込まれた、炎揺らめくあの日のことだ。
◆
管制室爆破事件の起こった日、藤丸立香とマシュは特異点Fを舞台に強敵との命がけの戦いの最中にいた。
そしてその裏では。オルガマリー・アニムスフィアとシロガネハズムだけが知る、ある脱出劇があったのだ。
「早くコフィンに入って頂戴、キリシュタリア、ガットも! ゼムルプスやファムルソローネを見習いなさい!」
Aチームメンバーといえば個性的で手綱の握りようがない、というのが私の本音だった。こんな奴らをどうやって御していたのかと、冥界にいるだろう父を問いただしたいくらいには彼らは自由人だった。
特異点Fへのレイシフトはもうすぐだというのにぺらぺら雑談をしている男二人を、スタッフを使ってコフィンにむりやりねじ込ませた。ようやく準備が整ったとため息を吐く。
父が死んでから非常にストレスフルな毎日を送っている。Aチームとの関わりのせいというのはもちろん、慣れないカルデアの運営、スタッフからの不信の感情など、
それに加えて今日は、説明会最前列で居眠りをするなどという大変失礼な人間にであったり、今も私のすぐ後ろで礼儀を欠いた顔をさらしている
「はあ……なんで、こんな大事な日に……」
今日はようやくレイシフトという大偉業を成し遂げることのできる記念すべき日なのだ。それが一般候補生のせいですでに憂鬱だ。厄日だ。
「所長、存在証明班の準備、完了しました!」
「バイタル観測班も大丈夫です!」
「──わかったわ。ではこれより特異点Fへのレイシフトを開始します。実証を開始してください」
司令部スタッフからの合図を受けて、作戦開始の号令を上げる。それにこたえてレイシフトプログラムが走り始めて──
──私の意識は吹き飛んだ。
まあつまり。爆弾が起爆したということだ。厄日なんかではない。今日という一日は、どう考えても私の人生史上最低の日に違いなかった。
だれかが、わたしのてを、にぎってくれている。
腐ったような甘い匂いともに炭のかけらが鼻をくすぐる感触がする。
めらめら、ぱちり、炎の音がする。
そうして、一滴。ぽたりと。私の頬に冷たくて暖かい涙が落ちた。
「──わたし、は」
反転した視界の奥に、燃え上がる指令室と、赤く染まったカルデアスが見える。
レイシフト、失敗。それを悟る。
生きる価値を示したかった。私はこの世にいる価値があるのだと。私には生きる資格があるのだと証明したかった。
レイシフト──魔法にも近しいだろうこの大偉業を成し遂げることができれば、きっとみんな、私を認めてくれるのだと。そう信じていたのに。だから頑張ったのに。努力したのに。
ああ、まったく──これだけ頑張っても、私は失敗してしまうんだ。そんな諦念が心から湧き出してくる。生きるための気力が、濁流のような負の感情に押し流されていく。
もう、すべておしまい。
そこまで考えて、私は、私の手を握っている誰かに意識を向けたのだ。
泣いている。涙を流している。何に対して、だろうか。私の頬に落ちる雫は、増え続けている。いっぱい落ちるものだから、頬にたくさんの涙の跡が残ってしまっているだろう。きっと私が泣いているように見えてしまうに違いない。
やれやれ、死ぬときはせめて笑顔で死にたかったのに。泣きながら死んだみたいに見えたら恰好がつかないじゃないなんて、そんなことを考えた。そのとき。
「よかった──生きてて、助けられて、よかった……!」
彼は、そう言った。そう言ってくれた。
諦めと、絶望と、後悔と──おおよそ負の感情と呼べるすべてが押し寄せて溺れていた、そもそも息をする気すらなくなっていた私に。その一言がどれだけの救いであったか。
あなたは生きていていいのだと、生きていてほしいのだと。
それはきっと今の私が──いいや、今までの私がきっと、一番欲していたものだったのだ。
「──立てますか、オルガマリー所長」
「──ええ、もちろん。立ちあがれるわ。あなたのおかげね」
彼は私に肩を貸してそっと持ち上げた。足を少しばかりひねってはいたが、あの火災の中にあって私にそれ以外のケガはなく、奇跡的なほどに軽傷だった。
指令室の扉を開けて、廊下に脱出する。ここにまで火の手が迫っていた。脳内でカルデアの緊急事態用マニュアルをめくる。たしかこのような事態の場合には、被害拡大防止のために隔壁が閉まるようになっていたはずだ。
「事故発生から数分もすれば隔壁が下りるわ、だから急がないとあなたも──」
「先ほど警告アナウンスが流れたばかりなので、まだ猶予はあります。安心して」
「──そう」
彼に体重を預けて歩みを進める。このあたりで、やっと私は彼が誰なのかを理解していた。シロガネハズム。急遽選抜され今日配属というギリギリの日程で滑り込んできた、一般候補生ペアの片割れだ。
そして、どんな時でも崩さない不機嫌顔で、無礼だという印象を受けていた男だ。けれど今はそんなことを感じさせない。しかめっ面は変わっていないくせに、なぜだろう。さっき泣き顔を見てしまったからだろうか。
「──ハズム!」
近づいてくる足音と共に現れたのは、もう一人の一般候補生である藤丸立香だ。確か友人関係であったはずだから、ハズムを助けに来たのだろうか。だとしたら少しうらやましく思う。そうして身を案じてくれる友人がいるというのは、貴重なことだ。
「無事だったんだね、良かった。あと、所長も無事だったんだ」
「ああ。管制室はひどい状況だ。隔壁がもうすぐ閉まるんだろ? 早く脱出を──」
「いや。俺は、マシュを探しに行かなきゃ」
マシュといっただろうか、この少年は。今日であったばかりのはずの少女を、この少年は命がけで助けにいこうとしているのだろうか。それはなんて非合理的な──そして無謀な行いなのだろうか。
「──オレもあんまり詳しく見たわけじゃないけれど、管制室で生きているのは所長とオレくらいだ。それでもいくのか?」
「うん。そうじゃなきゃ、きっと後悔する」
「──マシュ・キリエライトを探しているのね。彼女はコフィンに入っていたはずよ。いるとしたら管制室の奥の方だわ」
「ありがとうございます。じゃあ、ハズム──またあとで」
「ああ。またあとで、だ」
そうして藤丸立香は立ち去った。ハズムは彼が駆けていったほうをしばらくじっと見ると、脱出に向けて歩みを再開した。
「……よかったのかしら、止めなくて」
「いいんです。きっとこうなる
「運命?」
「オレは、あいつがやってくれるって信じてるんです。あいつが主人公だからっていうのもあるけど、あいつの友達として信じてる」
「──主人公?」
「あー、えっと。あいつは運がいいというか、運命を引き寄せる力があるというか──とにかく、だから、オレはあいつでも救えなかったもの、こぼれおちたものを拾えたらってそう思って」
おっと、と彼がふらつく。何かに躓いてしまったのか、それとも──
「ちょっとあなた、よく見たら血が出てるじゃない! ああもう、無理して!」
彼の背中からは結構な量の血があふれ出ていた。私も藤丸立香も、彼の正面しか今まで見てこなかったから気づくのが遅れてしまったのだ。
「──できないと思ってて」
「しゃべらないの、ほら歩いて!」
先ほどまでとは逆に彼に肩を貸す。体格差があって持ち上げにくいが、魔術でなんとか運べるようにする。あと10メートルもすれば脱出だ。
「オレなんかには、救えないんじゃないかって。チカラがないから、オレは。失敗してばっかりで。これまでずっとそうで、だから今回も同じようになってしまうんじゃないかって」
「しゃべる元気があったら足動かすのよ! ああもうなんでマスターたちは私の話をきいてくれないのよ! キリシュタリアもガットもそうだし、フジマルも居眠りするし! あんたもなんかぶつぶつ言ってるし!」
どうにかこうにか、隔壁の外へと体を投げ出す。本当は彼を医務室まで運ぶべきだろうけど、とりあえず火急の危機は乗り越えることができた。
ぜえぜえと息が切れる。まったくこんなことでは、どっちが救助されたんだかわからない。
「──オルガマリー所長」
「なあに?」
「生きててくれてよかった」
「──さっき、きいたわ」
「あなたが生きててくれた。俺は間違ってないんだって、誰かを救えるんだって、その証明になってくれた──そうして、生き残ったことを喜んでくれた」
それだけで、オレは満足です。と目の前の男はすがすがしい表情で言った。私が初めて見た、彼の
そうして彼は眼を閉じた。あわてて駆け寄って脈をとる。どうやら息はあるようだ。安心した。
「ありがとう」
傷だらけ、煤だらけの彼の顔を真っすぐ見て告げる。ああ、いつぶりだろうか。誰かにこんなに心の底からお礼を言うなんて。
「──ありがとうっ」
胸からこみ上げるものがある。こみ上げてきたものが、口からあふれて嗚咽になり、目からあふれて涙に変わった。
「──助けてくれて、あ゛りがとう! 生きることができて、よかった!」
意識のない彼にはきっと聞こえていないだろうけど、いいのだ。これは彼に届けるためのものではない。もと自分勝手な──心からあふれた感情、抑えきれない思い。それを享受しているだけで。
私はこの日、きっと人生で初めて、自分自身の生存を喜ぶことができたのだ。
◆
回想から意識を戻す。
目を開ければ、シミ一つない白壁に、清浄された空気。鼻につく薬品特有の臭い。まあつまり、私はカルデアの病室にいる。
目の前ではシロガネハズムが眠っている。体中にまかれた包帯は、オケアノスで負ったものだ。彼は自分を省みない悪癖がある。特異点攻略に赴くたびに、こうして自身の身に傷跡を刻み続ける。
そうして今回はそれどころではなく──きっと、死んだのだと思う。帰還後に報告された状況を鑑みるに、リツカをかばったことによって。もちろん、そんな証拠は残っていないけれど。
「──ねえ、それはあのときと同じ“奇跡”なのかしら。あなたの手の届かないところで起こった偶然? それとも──あなた自身が起こしたことなの?」
語りかけても返事はない。当然のことだ。今の彼は治療中。麻酔によって深い眠りについている。
“奇跡”とは、爆破事件の際にハズムが口にした──言い訳というか、言い逃れというか、そんなものだ。
隔壁から脱出し彼を医務室に届けて、特異点Fに飛ばされていたリツカとマシュの指揮をとり、聖杯を回収し、ようやく落ち着いたころ、爆破事件の検証が始まったときのことだ。
『所長、これを』
『これは──本当なのね?』
『はい、もちろんです。ここにあるように、爆弾の位置は──』
スタッフの一人の報告によれば、爆弾はコフィンをはじめとして私の
キリシュタリアを始めとする一流の魔術師たちがあの場には大勢いた。彼らはコフィンに入ってリラックス状態にあったとしても、私より優秀な者たちでさえ致命傷を受けたのに、私はほぼ無傷なんて。
そしてハズムも、深い傷を負ってはいたが、私の真後ろに居ながらにして生き残った。魔術にかかわりのなかった一般候補生であるにも関わらず。
彼にそのあたりについて聞いたことがある。そしてかえってきた答えは「自分にはわかりません」や「“奇跡”だったんじゃないですか」だ。
まあ別に聖杯とかそういうものがあると証明されている現在において“奇跡”というのは頭から否定できる話でもないが。
それでも、怪しいというか、まあなにかを隠しているんだろうなということぐらいはうかがえた。
「──もっとましな言い訳を考えれば、ダヴィンチにもうちょっと親しく接してもらえたでしょうに」
彼の頭を慰めるように撫でながらつぶやく。ダヴィンチも彼のことを敵として認定しているわけではないが、彼の言い訳で疑惑が芽生えたのは確かだろう。「もしかして」と思わせたのは何も、英霊特有の嫌悪感だけが原因ではないということだ。
とは言っても、彼は自分に向けられた嫌悪や不信を仕方ないと受け止めているように見える。そしてその大小もたいして興味をいだいていないのだろう。
大物なのか、
「──ハズム。無理はしないようにしてちょうだい」
彼の手を握る。あの時私を救いあげてくれた、傷だらけの、ごつごつとした、あたたかい手。握るだけで心が落ち着くような、魔法の手だ。
彼が死んだであろうこと。そしてよみがえったであろうこと。私だけがバイタルを観測していたという事実にこれ幸いと、私はそれを隠蔽した。
そしておそらくは、彼のサーヴァントであるアルトリア・ペンドラゴンも、同じように気づいていながら、胸にしまっている。
死んで、よみがえる。幻想種でもない人間がたどり着いていい領域ではない。魔法を会得しているのか、死徒などの人外であるのか。
あるいは──彼には“奇跡”が宿っているのか。
どれであろうと、カルデアの──人類のことを思うとすれば、私は彼の蘇生という事実を少なくともダヴィンチやロマニ、リツカに共有し、またアルトリア・ペンドラゴンからも事実を聞き出すべきであった。
でも、それができなかった。
「ああもう、なにが正しいんだか、わからなくなっちゃったじゃない! どこかのバカのせいで!」
きっと、私は怖い。
彼が何者であるのか。それを確かめてしまった時に、私の信じているものが崩れ落ちるような幻想を抱いている。
心から信じている、頼りにしている人が、もし人間ではなかったとしたら。世界を左右するようなとんでもないものを隠し持っていたとしたら。そのときに私はどうなってしまうのだろうか。
だましていたのね、と糾弾するだろうか。
なんで信じて話してくれなかったの、と悲しむだろうか。
そんなの関係ないわ、と胸を張れるだろうか。
手を握る。
傷が痛むのか、手のひらにも、額にも汗がにじみ、いつものしかめっ面がさらに歪んで苦しそうな表情をしている。
きっと私は、人類の未来を救うための機関の長として、致命的に許されないことをしているのだと思う。
それでも、私はきっと、彼の手を放すことだけはしたくない。
私がまた迷子になってしまうからだけではない。彼が迷子になったときに救い出してあげられるように。
大きな絶望に押しつぶされて、悲しくなって、生きる気力さえ沸かなくなってしまったとき。
そこにどんな想いが込められていようとも──
「──なんの見返りもなく差し出される手っていうのは、なによりもあたたかいの。救いになるんだから」
人理継続保障機関カルデアは、人類の未来を守るための組織だ。
たとえそれがたった一人であろうとも。
たとえその一人が、いずれ獣に成り果てるとしても。
◆
◆
「蘇生、ね。ハナから奴を殺すことはできないだろうとは思っていたが。思った通りだったということか」
ますます殺しにくくなって忌々しいかぎりだ、と吐き捨てるように言う。
「それと──次の特異点で終わらせる、と奴は言ったか?」
まるで次に何が起こるか知っているかのようにのたまう。あのような下賤な小僧がわれらが王の千里眼と同等のチカラを持つと? そんなわけはあるまい──あるまいが。
「次の特異点、王は出向かれる予定であったはず──ならば」
王には姿を現さぬように──だけでは意味がない。それではこちらが逃げただけ。シロガネハズムを止めるのに
では──利用するのだ。この先を知っているのだと慢心している愚か者に、チカラによって万事解決と侮っている愚者に。
無意味なことを、とせせら笑ってやるのだ。
「人間が絶望するというのが、どういう時なのか。我々は知っているぞ、シロガネハズム」
果たされたと思った悲願が果たされなかったとき。
己の武器で敵を殺したはずが、味方を殺してしまったとき。
仲間の誰もに見捨てられてしまったとき。
お前は果たしてもう一度、引き金に手を添えることができるだろうか。
アルトリア・ペンドラゴンが道を踏み外した彼を引き戻す役割で
オルガマリー・アニムスフィアは彼が道を踏み外したとしても一緒にいる役割です。
どっちの方がいいとか、そういう話ではなくて。
どっちも彼には必要というはなし。
ちなみに、サブタイトル『シルバースター』は、
もうとっくに誰かを救っているんですよ、あなたは。ってこと。
胸にぶら下がった勲章に気づかずに進んでいる大バカ者ってことですね。
まあシロガネハズム君は、別に超人でも何でもないし、前世でも今世でも失敗ばかりする無能なのでしかたない部分はある。
さらにちなみに、以前『ハズム君の活躍がない特異点は描写しない』ということを言ったと思うんですけど。つまりこれは冬木を省いた理由とイコールだったってことですね。
だってハズム君、冬木行ってないもん。
ながながとあとがき失礼。ま、たまにはね?
最後まで読んでくれてありがとナス!
感想いっぱいくれ! 最近忙しいから次の更新まで時間あくけどね!(ド畜生)
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