生成AI(人工知能)によるビジネスの未来を議論する「NIKKEI生成AIコンソーシアム」(日本経済新聞社主催)は2025年2月6日、東京都内でシンポジウムを開いた。「進化する生成AI〜人間との共生、生産性の向上」をテーマに、最新のAI動向に加え、先行きが不透明になった国際ルール、企業によるユースケースなど多岐にわたって紹介した。
シンポジウムで恒例の登壇者である松尾豊・東京大学教授は基調講演で、中国発の低コストAI、ディープシークについて見解を述べた。さらに今後の動きとして、「AIエージェント」や人間並みの知能を持つ汎用人工知能(AGI)について解説した。
ディープシークに東大数学を解かせてみた
先日からディープシークという生成AIが話題だ。東京大学の数学試験の問題を解かせてみたが、2025年1月に公開された「ディープシークR1」は、7分間、長考した上で正解した。これは米オープンAIの「o1(オーワン)」に相当する賢さだとされている。
これがオープンAIの大規模言語モデル(LLM)よりも何百倍も少ない画像処理半導体(GPU)で作られた、ということで大きな話題になった。そのため、「もうGPUはそこまで必要ない」という話が出て、米エヌビディアの株価が大幅に下落する騒ぎにもなっている。
しかし、実際には違う。少数のGPUで学習されたのは、2024年12月に公開された「ディープシークv3」。こちらはオープンAIの「GPT-4o(フォーオー)」と同等の賢さだ。R1はv3を賢くするために強化学習をしたもので、そもそも強化学習にはあまりGPUは必要ない。R1が出た段階で話題になるのは少しおかしな話だ。
ディープシークv3は560万ドルで学習されたとされている。これはオープンAIと比べて数百分の1の少なさだ。ただ、LLMの学習では試行錯誤を繰り返す。チューニングしながら最終的な精度を出すために何回も何回も演算を繰り返すものだ。
ディープシークv3の学習が560万ドルだったという話は、最後の1回の学習コストだけを指したものだ。当然その前に何十回・何百回と試行錯誤しているはずで、最後の1回だけを取り出してコストを語るのはおかしい。
ただ、ディープシークに悪意があったわけではないだろう。論文上はそういう書き方をすることもある。だが、そこだけ取り出して「GPUはもう不要」というのは短絡的だ。中国が絡むと急に政治問題化する部分がある。大規模な投資の是非も絡み、不正確な論説につながりやすい状況だ。
人間を超える知性を持つ「AGI」に向けて進む社会
AIが今後どう進んでいくかについて解説したい。
まずは「AIエージェント」。米アンソロピックが2024年10月、オープンAIが2025年1月にサービスを発表して話題になった。コンピューターの操作をAIが代わって行う。命令すると「キャンプ用品をネット検索し、カートに入れる」ところまで自動で行う。コンピューターをより簡単に少ない操作で使えるようになる可能性が高い。
フィジカルに動作するAIロボットの開発も進んでいる。米フィジカル・インテリジェンスの汎用ロボットプラットフォーム「π0(パイゼロ)」は、乾燥機から洗濯物を箱に入れ、机を運んでいき、机の上に広げてから畳むまでのデモを実施した。
エヌビディアは「世界基盤モデル」と呼ぶ「Cosmos(コスモス)」を公開した。物理シミュレーションを使わず、生成AIで現実の現象を再現し、映像を生成していく。
AIの進化は人間を超える知性を持つAGIの開発につながる。AGIの定義は企業によってもまちまちで、いつできるかも明確でない。10年以内には実現するという声もある。そして、AGIを持っているかどうかが今後の競争力を左右する、いう意見もある。
まだ技術的課題は多いが、潜在的な市場が大きいことは間違いない。しっかりと競争力をつけていくことが、日本全体にとっては重要だ。
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