「東京ロカビリー・ジェネレーション 80s」
“リーゼント” というドメスティックな響きで括られた音楽ジャンルを1冊にまとめたいという思いがかつてからあった。それが先日シンコーミュージック・エンタテインメントより発売された拙著の『東京ロカビリー・ジェネレーション 80s』である。
フィフティーズ・ブームと共に1980年代初頭に大きな盛り上がりを見せたロカビリー / ロックンロールの系譜。この起点にあるのは1972年にデビューした矢沢永吉率いるキャロルの熱狂だ。デビュー以前、ハンブルクでの巡業に明け暮れていた頃のビートルズを模倣した革ジャンにリーゼントというスタイルでデビューしたキャロルは、舘ひろし率いるクールスがファンの受け皿となる。
そして、このキャロルやクールスから大きな影響を受けたシャネルズ(現:ラッツ&スター)やザ・チェッカーズ(以下:チェッカーズ)は、1980年代にレコード売上においてナンバーワン・グループとなる。
チェッカーズ武内享のロングインタビューを敢行
こういった流れが当時、音楽評論で語られることは稀であった。ツッパリやフィフティーズ・ブームといった現象で語られることはあっても、その本質は空回りしていたように思う。そういった長きに渡る状況を踏まえ、シャネルズの佐藤善雄、チェッカーズの武内享といった当事者たちのロングインタビューを敢行し、当時の現象を再定義していった。ーー 本書の中で武内は以下のような興味深い発言をしている。
「結局チェッカーズは最後まで何かに惑わされることもなく、ずっとチェッカーズでいた。今はこういう音楽に興味があるから、それを反映させてということを貫いてきた。その強さが人気の秘訣だったのかなと思う。俺たちは全然ブレていなかった。最近のネット記事でも、チェッカーズについて書いてくれている人は何人かいる。ただ良く書いてくれていても “80年代に大ブレイクした” とか、詳しく書いてくれても “後半〈NANA〉でメンバーが楽曲を手掛けるオリジナルに変わって…解散しました” と。だけど “日本のロック史” みたいな特集になるとあまりチェッカーズが出てこない。それが悔しいとかではなく、面白くて。多分、音楽ジャーナリズムとしてどう扱っていいのかわからないんだと思う」
チェッカーズもそうだが、キャロルにしても、クールスにしても、横浜銀蝿にしても、武内の発言にあるように、音楽ジャーナリズムとして扱われることが稀だったのは、やはり、どう扱っていいのかわからないというのが本音だったのかもしれない。ティーンエイジャーが熱狂するルックスに惑わされてしまい、その本質まで届かなかったのだ。こういった部分を1冊の本にまとめ、言語化することができた。

全国の不良少年たちを夢中にさせた “クリームソーダ” の存在
本書の帯には “80年代の東京で懐古とは異質な熱狂的現象が僕らを虜にした” とある。この、キャロルを起点とした熱狂的な現象を掘り下げていく中で、特筆すべきは、1980年代に全国の不良少年たちを夢中にさせたドクロタグの財布が社会現象になった “クリームソーダ” の存在だ。
クリームソーダの店員で結成されたブラック・キャッツは1982年、「バケーション」のヒットで知られるガールズバンド、ゴーゴーズ北米ツアーのフロントアクトに抜擢される。原宿のロカビリーバンドは本場アメリカで大歓迎され、数奇な運命を辿ることになる。
その経緯についても、メンバーの久米浩司、当時のマネージャーだった三輪眞弓氏、そしてクリームソーダの社長・山崎眞行氏にインタビューを敢行。さらにはブラック・キャッツのプロデューサーとして名を連ねた作家の森永博志氏にも話を伺い、海外での評価も踏まえ、当時語られなかったバンドの実像を浮き彫りにした。森永氏は2025年4月に逝去。残念ながら、これがラストインタビューになってしまった。
1980年代初頭にピークを迎えたリーゼント・カルチャーは、1983年を境に大きく潮目が変わってしまう。チェッカーズがリーゼントだった髪を下ろした瞬間に、この熱狂は引き潮のように遠のいていった。しかし、このカルチャーは令和の今の時代も存在し、確実に次の世代に継承されている。当時の熱狂をリアルタイムで知る人も、若い世代でこのカルチャーに興味を持った人もぜひ本書を手に取って、その本質を存分に堪能して欲しい。
Information
東京ロカビリー・ジェネレーション 80s
・著者:本田 隆
・ページ数:296ページ
・価格:2,970円(税込み)
・インタビュー掲載アーティスト:
久米浩司(ブラック・キャッツ)
Misaki(The Biscats)
岩川浩二
佐藤善雄(ラッツ&スター)
武内享
ビリー諸川
LITTLE ELVIS RYUTA
・対談:デューク佐久間 × 川上剛(ヒルビリー・バップス)
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2025.07.17