日本で起こるかつてない「政治不信の高まり」

社会が壊れてきているという意識変化に関しては、政治が従来と比較して機能しなくなっているという認識の高まり、すなわち政治不信が、ひとつの要因となっていることは間違いがなさそうである。

イプソス社の同調査では、この点の調査項目も設けている。すなわち、「既存政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」かどうかを問う設問で、政治との距離感が広がっているかどうかを調べている。

【図表3】特に目立つ日本人の政治不信の高まり

図表3では主要国における推移を追っているが、ここでも、日本の場合、2016年の段階では、39%と非常に低いレベルだったのが、最新の2025年の68%へと急激に政治不信が高まっているのが目立っている。

他の主要国ではどの国でも以前から政治不信が高かったのに対して、日本の場合は、最近、政治不信が高まっているのが特徴である。

ポピュリストにヒトラーを連想するドイツ

イプソス社のこの調査の報告書が「ポピュリズムレポート」と題されていることからも分かる通り、この調査で「社会が壊れているか」、「政治不信が高まっているか」を調べているのは、実は、これらの状況が、各国でポピュリズムの台頭につながっているのではないかという点を探るためである。

最後に、こうしたポピュリズムの台頭、すなわちポピュリストへの期待がどの程度高まっているかの調査結果を見てみよう。

設問は、「金持ちや権力者からこの国を取り戻す強いリーダーを必要としている?」である。

図表4には、この設問への同意回答の比率の推移を主要国についてまとめた。

【図表4】ポピュリスト期待の推移:低いレベルのドイツに対して、大きく高まる日本

主要国については、かなり以前からポピュリスト期待が高まっていることが明らかである。

ところが、日本の場合は、社会崩壊認識や政治不信ほどではないが、やはり当初低かったレベルから最近はかなり高まってきている点では同じ動きを示している。

別の動きの中で、非常に特異なのはドイツである。

これまで見て来たようにドイツも社会崩壊認識や政治不信は高まりつつある。特に社会崩壊認識は世界一のレベルにまで達している。ところが、ポピュリスト期待の点では、主要国の中で最低レベルを維持している。

これは、戦前のナチズムの苦い歴史的経験から、いくら社会が乱れ、政治が信じられなくなろうとも、ヒトラーへの個人崇拝というような間違いは繰り返すまいというドイツ国民の強い意志からだと考えられる。

日本も戦前の軍国主義に対してはドイツに匹敵する苦い歴史的経験を有しているが、個人崇拝を反省すべきとは考えていないので、ポピュリスト期待もそれなりに高まっていると考えられる(天皇崇拝は個人崇拝というより国体崇拝という別種の国家主義のあらわれだったに過ぎないと日本人は考えていよう)。

そうだとすると、ヒトラーという歯止めの存在により、ドイツが総選挙で極右政党が第2党となってもポピュリズム政治には必ずしもむすびつかないのに対して、日本の場合、今回の参院選の結果、新興政党が大きく勢力を拡大し、次の衆院選でも同じ流れが継続した場合……。日本はドイツよりポピュリズム政治へと傾斜しやすいと見ることも可能だろう。

今回の参院選でおそらく躍進するだろう新興政党の党首らが、今後、どんな言動を取っていくのか。そしてまた、既存政党がそれにどう対抗していくのか、例えば新しいヒーロー、ヒロインを生み出そうとするのか、今後の展開に目が離せない。

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