二章

第36話 雑談枠

「──そういえば話したっけ? 子猫君の名前、正式に『コネッコ』に決まったって話」

「ミャッ」


︰いや聞いてないが?

︰なんだその名前

︰子猫じゃねーか

︰ネコちゃん可愛いでちゅね

︰猫に猫って名前を付けるのは正直どうなん?

︰シンプルに可哀想では?

︰名前は飼い主の自由であるけれど、流石にそれは……


 諸々の事情から料理配信の頻度を減らす代わりに、定期的に行うようになった雑談配信。

 その途中、大鳴きしながら乱入してきた子猫君こと、コネッコ君を抱っこしたところで、ふと思い出して話題に挙げてみたのだが……。

 まあ、はい。コメント欄が案の定な空気になりましたね。と言っても、我ながらこの名前はどうかと思っているので、反論もなにもないのだけど。


「一応言っておくけど、これ俺も不本意だからね? 弁明というか、経緯を説明すると、暫定的に子猫君と何度か呼んでたら、それでうちの子が反応するようになっちゃって……」

「ミャウ!」


 はい。証明のように元気な声で返事をしてくれましたね。偉いね、偉いね。良い子だから、ちょっとケージの中に……服に爪立ててまで抵抗すんじゃないよ。


「こらっ、登ってくるな……と、失礼。こんな感じで、子猫を名前だと認識しちゃったわけですよ。再教育するにも、猫飼い素人には難しいし、子猫って俺が言うと全力で鳴くか駆け寄ってくるから……」

「ミャァ」


 はいはい。分かったから、襟首から服の中に入ってこようとするのは止めなさい。あと地肌の部分を舐めまくるのも勘弁してくれ。……なんでこんな甘えん坊になったのかねぇ? 引っ付いてきすぎて、猫かどうかも疑わしいレベルなんだけど。


「そんなわけで、気に入ってるっぽいものを変えるのも可哀想だから、仕方なく正式採用した感じです。流石にドストレートに子猫だといろいろ紛らわしいから、コネッコ君が反応できる程度には弄ったけどね」

「ウミャミャ……」

「シャツの中で寛ぐのやめれ」


︰わりと切実な理由だった

︰飼い主が可愛い連呼しすぎて、ペットが名前を『可愛い』と思い込むやつかw

︰シンプルに草

︰だから動物相手に仮名をつけちゃアカンのよ

︰とりあえず、ラブラブそうだから安心した

︰まあ、うん。ネコって種名も、人間が勝手につけたものだからね……

︰エグいぐらいに懐いてるな

︰コネッコ君にとって、山主は大好きなパパなんだね


 いや本当、子猫を弄ったのはせめてもの抵抗なんですよ。コネッコ君からすれば関係ないんだろうけど、ネコにネコって付けて許されるのはフィクションの中だけだし……。

 呼んでてペットって感じしないし、外聞もわりと悪いので、正直かなり渋い顔して決めてたり。

 てか、リスナーとはいえ、知らない人にラブラブとかパパとか言われるのキツイな。なんかゾワッとする。


「まあ、コネッコ君についてはこんな感じかなー。じゃ、この甘えん坊をケージに突っ込んでくるので、ちょいとお待ちを。シャツの中で眠られるとシンプルに困るんよね」


 完全に人のシャツの中で根を張る勢いだけど、そんなことはさせません。寝るのなら自分のベッドで寝てくれ。配信に支障が出る。

 とりあえず、ケージに突っ込んでから少量のオヤツでも与えとくか。わりと単純な子だし、それで誤魔化されてくれるだろ。


「──はい、ただいま。いやぁ、やっぱり生き物飼うって大変よねぇ。ケージに戻したら不満そうに鳴かれちゃったよ」


︰おかえり

︰別に一緒に配信してくれてもええんやで

︰にゃんこの声は癒しじゃ

︰寂しいんじゃない?

︰完全に子育てに苦労するパパで草

︰動物は人間の都合を考慮してくれないからなぁ

︰お猫様に逆らうとは何事じゃ


 いやだって、構いすぎて分離不安とかになっても困るし。ネット知識だけど、現状ですらわりとアウトな気配がしてるのに、これ以上悪化されても困るし……。適度な距離って大事だと思うんだよね。


「まー、最終的にオヤツに夢中になってたし、そこまで気にする必要もないでしょ。飼い主よりも食い気だよ。動物ってそんなもんだよ」


 ということで、コネッコ君の話はこれで終了。引っ張ってもアレなので、ささっと次の話題に移りましょうか。


「あー、そうだ。コネッコ君繋がりで思い出したんだけど、マカロンとかでコラボとかの質問が結構来てるんだよね。特に多いのが、具体的に『誰としてください!』ってやつなんだけど」


 なお、その『誰』の部分に当てはまるのは色羽仁さんで、さらに言うならライブラとのコラボが望まれてる感じかな。

 いやさー、少し前のウタちゃん騒動以降、ライブラとのコラボに対する問い合わせが増加してるんだよね。なんか、いろんな意味で期待されてるっぽくて。

 ちょうど俺が、外部コラボのフェーズに入ったのも大きいんだけどね。ちょっと前に、何人かの先輩たちとのコラボも済ましたから。

 実際、その気になれば実現可能なのが難しいところ。ライブラ側は俺に借りがあるようなもんだし、なんだかんだでチャンネル登録者とかの数字は近くなってる。

 なにより、あの一件から裏での交流が地味に増えてるのがデカイ。一番多いのはやっぱりウタちゃんなんだけど、他のライブラメンバーともチャットしたり。まあ、ウタちゃん以外は業務寄りのやりとりなんだけど。

 なのでまあ、コラボを持ちかければ、なんとかなるとは思う。半分男子禁制みたいな事務所だけど、一部ゲームの大会とかでは男とコラボしてたりするし。


「まあ、コラボに関してはおいおいって感じかなー。一応、積極的に行きたいとは思ってるんだけど、まあ相手が中々見つからなくてね」


︰そうなん?

︰山主ぐらいのチャンネル規模だと、大抵が二つ返事だと思うんだけど

︰それこそ、ライブラやばーちかるのライバーとだってコラボできるだろ

︰普通に声とか掛かってそうだけど?

︰なんか新人Vらしい悩み口にしてるけど、あなたチャンネル登録者80万オーバーよ? 男性Vのトップ層よ?


 むぐ。コメント欄から無数のツッコミが。まあ、全部正論だとは思います。思いますとも……。


「いや、結構大変なのよ? なんてったって、俺とコラボとなるといくつかの選択肢が死ぬのよ。普通さ、コラボ配信だと一緒にゲームとかなんだろうけど、探索者って部分がどうしても足を引っ張るんだよね。仕方ないことなんだけど」


 反応速度の問題で、オンライン対戦系のゲームがほぼ全滅するのがねー。中々にネックだったりするのですよ。下手にこっちのチャンネル規模が大きくなった分、やらかしたら相手方に大迷惑を掛けかねんし。

 まあ、あとは裏事情的な話になるんだけど。俺、デンジラスの中でも完全な稼ぎ頭となってしまったのでね。運営サイドもかなり慎重になってるのよ。そういう意味でも、初コラボの相手を見つけるのを難儀してたりするの。


「まあ、やっぱりオイオイネーって感じになっちゃうのよね。もちろん、コラボ自体は積極的にやっていきたいとは思ってるんだけど。わりと皆も知ってると思うけど、俺かなりのV好きだから」


 妙にあっちらこっちらトラブルに遭遇してるけど、元は推しのVとコラボしたいがためにライバーになったぐらいだからね俺。

 まあ、気づいたら推しの数字をぶち抜いてたんですが。そしてここまで来ると、推しとのコラボが近いようで遠くなるという不思議。

 いやだって、事務所経由で声掛ければOKしてくれそうなレベルにはなってるけど、なんかそれ嫌じゃん。なんかこう、しっかり仲良くなっていきたいというか。

 一足飛びに『お願いします!』と頼み込むより、段階踏んでその後も定期的にコラボできるぐらいお近づきになりたいじゃん。

 なので直近の目標は、ライバーの知り合いを増やしつつ、ジリジリと推しとの距離を詰めていく感じで。シンプルに企業所属のライバーとして、業界での交友関係を広めたいというのもあるけど。



ーーー

あとがき

 シンプルに更新時間をミスってました。さーせん。


 ちなみにちょっとした解説を入れると、主人公の考えは学生のアレに近いです。

『好きな娘がいるけど交流はゼロ。その状態でいきなり告白するより、まず周りの友達と仲良くなって、友達の友達から徐々に距離を詰めた方が堅いよね』的な。

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