陸上自衛隊が佐賀駐屯地を開設し、輸送機V22オスプレイの配備を始めた。地元住民にはオスプレイの安全性や、有事の際に標的となることへの懸念がある。国は今後の運用について積極的に情報を公開し、説明する責任がある。
陸自によると佐賀駐屯地は隣接する佐賀空港の滑走路を使う。千葉県の木更津駐屯地からオスプレイ17機が移駐するほか、佐賀県の目達原駐屯地のヘリコプター約50機も移す。民間空港を軍民共用化することで運用は過密化、複雑化するはずだが、安全性に影響を及ぼすことがあってはならない。
オスプレイは死亡事故などが相次いでいる。2016年12月、名護市沖で米海兵隊機が墜落、大破し、23年11月には米空軍機が鹿児島県の屋久島沖で墜落して8人が死亡。陸自機も昨年10月、与那国駐屯地で損傷事故を起こした。
一連の事故を受け、昨年12月に米海軍航空システム司令部が全ての米軍機の運用停止を提言し、陸自機も飛行を一時見合わせる事態に陥った。いずれも安全対策を取ったとして飛行を再開したが、防衛省は不具合の詳細や対策内容について「回答できない」としており、リスクが低減されたかは不透明なままだ。
そのような経緯から、周辺住民の懸念は根強い。佐賀県は2018年8月にオスプレイ配備を受け入れているが、山口祥義佐賀県知事は「安全な運用がなされるよう注視していく」と述べている。
オスプレイの主任務は離島防衛専門部隊「水陸機動団」(長崎県)の輸送だ。駐屯地開設式の訓示で、陸自西部方面総監の荒井正芳陸将は、中国やロシアなどの活動の活発化に触れ「九州、沖縄の防衛の重要性は年々高まっている」と述べた。
ただ「南西シフト」による防衛力強化が進めば、武力侵攻が現実となった際、駐屯地が開設されている石垣島や宮古島、与那国島をはじめ、沖縄が戦闘に巻き込まれる恐れがある。駐屯地が開設された佐賀県も水陸機動団の拠点として標的となる懸念がある。
佐賀県の住民からは「米軍の利用はないようにしてほしい」との声もあった。水陸機動団は日米共同訓練に参加するなど、米軍との一体的な運用が進められている。
今回の配備が南西シフトの一環である以上、沖縄を含む南西諸島全体の軍事要塞(ようさい)化が前提となる。「台湾有事」を前提にした戦争準備をこれ以上許せば、沖縄は80年前と同様に戦場になってしまう。辺野古新基地建設を含め、沖縄に一層の負担と犠牲を強いて防衛力強化に突き進む政府の強硬姿勢は際立っている。
自衛隊基地や米軍基地の周辺で暮らす人々は戦争の標的となることに懸念を抱いている。政府がその声に正面から向き合うには、周辺国との軍事的緊張を高める南西シフトをはじめとする防衛力強化の方針を見直す必要がある。