匿名で、株式会社図書館流通センターの実態についての情報提供がありました。
【内容】
○「町の本屋に自治体図書館との取引のための専用の銀行口座を作らせ、株式会社図書館流通センターがその口座の通帳と印鑑を共に預かり、自治体からの書籍購入費の支払い金額を引き出し、3%の手数料のみを町の本屋の主要取引口座に入金するというビジネス」を行っている。
○「TRCからの書籍購入の場合、TRCの提供するオンラインサービスからの検索発注がで
きること、TRCがその巨大な取引量を背景に出版社や書籍卸に対して、優先的に新刊本
の割り当てを得ているため、迅速に書籍の調達ができること。TRCは納品時に、書籍に
カバーを付与し、指定の管理ラベルの貼付などを行っており、これらの業務軽減が図書館側の大きなメリットとなっている。書籍を地元書店からではなく、大手1社独占的企業から購入していることを議会や有権者から隠蔽する目的で、このスキームに自治体が関与している。従来、地元書店に入っていたビジネス上の収益の大半をTRCが得ることとなり、もともと公共図書館への納入が収益の柱となって存続していた地元書店が廃業し、過疎地で書店が壊滅する最大要因となっている。本来、TRCは各自治体に対して、業者登録を行い、地域経済空洞化の批判に対抗してビジネスを展開すべきであるが、立場の弱い小規模書店の名義借りをしてビジネスを行っているといえる。またそもそも、書籍納入時にカバー掛け、ラベル張り等のサービスを「無料」で付与して競争優位を確保することに対して、抱き合わせ販売、再販価格維持制度の骨抜きであると評価している。また、TRC自体が出版業界大手を株主として持つなど業界全体の構造であることも問題としてある。」
念のため、浜田聡事務所より消費者庁へ情報提供し、さらに、これらの事実確認のため、国会図書館へ調査依頼を出しました。
【依頼内容】
1.上記の事実が確認できる資料
2.株式会社図書館流通センターに関する問題を指摘した資料
3.現在、株式会社図書館流通センターが取引している自治体がどこか(可能なら一覧)、公費はいくらかかっているのか等の詳細(可能な範囲で)
【回答】
1 上記の事実が確認できる資料
株式会社図書館流通センター(TRC)は、図書館への本の納入時、分類を示す背ラベルや汚損防止用のブックカバーの貼付などの「装備」を無料で行うほか、汎用書誌情報データベースであるTRC MARCを普及させることで、本・装備・MARCを一括して販売し、地域書店に比べ有利な立場であると指摘されています。また、こうした販売方法が政治問題化すると、TRC は、従来通り一括して納入するものの、見かけ上は地域書店から納入されたこととし、地域書店に手数料として本の定価の 2~5%を支払う(TRC は装備済の本を定価の 95%で書店や書店協同組合に卸し、書店は定価で図書館に納入するという体裁とする)販売戦略を採用したとされます。さらに、TRC は、話題書や新刊を出版社から買い切って一定部数確保するベルシステムを実施しているとされます(資料1-3)。
資料4(pp.4, 9-10, 15); 資料 5 は、TRC とは明示されていませんが、図書館専門業
者がMARC納入から選書・発注・図書資料納入、目録作成、資料の装備まで図書館の
運営全体をカバーしており、資本力の小さな地域書店は競争できない点や、図書納入
の際に地域書店等が図書館専門業者に名義を貸し、その見返りにわずかな手数料を得
るという取引形態が散見される点を指摘しています。
2 株式会社図書館流通センターに関する問題を指摘した資料
TRCが公立図書館の指定管理者になり運営し、その図書館にTRCが資料を納入するのは利益誘導に当たるとの批判があります(資料 1)。なお、令和 3(2021)年時点で、TRC が指定管理者となっている図書館は、指定管理者制度導入図書館の半数以上、うち民間企業を指定管理者とする図書館の約6割を占めています(資料6, pp.5-6)。そのほか、TRC が図書館職員に選書のアドバイスを行うことで地域書店の売上を奪っている(資料 7)、指定管理を行う TRC の賃金は低いため(※)図書館に有能な人材を確保し辛い(資料8)といった意見もあります。
(※)株式会社図書館流通センター(TRC)/契約社員・アルバイト求人情報
https://trc-recruit.net/jobfind-pc/area/All?jobtype=00001%2C00002%2C00003&page=1
地域別最低賃金の全国一覧/厚生労働省ウェブサイト https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
3 現在、株式会社図書館流通センターが取引している自治体がどこか(可能なら一
覧)、公費はいくら支払われているのか等の詳細(可能な範囲で) 今回の調査の限りでは、御依頼の趣旨に沿う資料は見当たりませんでした。
なお、御参考として資料 9-11 を提供いたします。図書館への納入先は、大半の場合、その図書館が採用しているMARCによって決まるとされ(資料1, 9)、 令和7(2025)年6月時点でTRC MARCの普及率は89.3%となっています(資料10)。 また、資料11の調査によると、公立図書館 805 館のうち、自治体内の地域書店又は書店組合から図書を購入していない図書館(206館)及び地域書店以外からも図書を購入している図書館(552 館)は 9割以上に及び、そうした図書館のうち約6割がTRCから主に購入していることが明らかになっています。
【提供資料】
※紙資料はタイトルと該当ページのみご紹介します。
資料1. 飯田一史『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか―知られざる戦後書店抗争
史―』平凡社, 2025, pp.233-276.
資料2. 清田義昭「書店と図書館をめぐる経緯と読者という立場」月刊『創』編集部
編『街の書店が消えてゆく』創出版, 2024, pp.60-63.
資料3. 清田義昭「七万冊を是とする―出版とはどのような営為か―」『地平』1号, 20
24.7, pp.229-233.
資料4. 活字文化議員連盟公共図書館プロジェクト「公共図書館の将来―「新しい公
共」の実現をめざす―(答申)」2019.6.24.
https://www.mojikatsuji.or.jp/wp/wpcontent/uploads/2019/06/toshin.pdf
資料5. 太田剛「図書館と地域の関係を再編集する―日本の活字文化・読書文化の未
来を考える―」『みんなの図書館』573号, 2025.1, pp.12-21.
資料6. 桑原芳哉「公立図書館の指定管理者制度導入状況―2018 年以降の動向を中心
に―」『尚絅学院大学紀要 人文・社会科学編』54号, 2022, pp.1-17.
https://doi.org/10.24577/seia.54.0_01
資料7. 岩田徹「なぜ書店は潰れ、図書館は残ったのだろうか?上」『みんなの図書館』
383号, 2009.3, pp.38-45.
資料8. 森下芳則「指定管理者制度の困難」『みんなの図書館』558号, 2023.10, pp.10-1
6.
資料9. 深田健治「地域経済&福祉にも通ずる問題 読書文化を廃らせない施策を」
『文化通信』2024.11.5, p.1.
資料10. 「TRC MARC」株式会社図書館流通センターウェブサイト
https://www.trc.co.jp/solution/marc.html
資料11. 吉井潤『事例で学ぶ図書館情報資源概論』青弓社, 2023, pp.104-110.
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下記は、この情報提供に関連する可能性のある法令等についてご紹介します。
※あくまでも可能性の範囲として、機械的に出されたものをお示ししています。
①地方自治法
第234条: 契約の方式(競争入札、随意契約など)
②独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)
第2条第9項: 不公正な取引方法の定義
第2条第9項5号: 優越的地位の濫用
第3条: 私的独占の禁止
第19条: 不公正な取引方法の禁止
③不公正な取引方法(一般指定)
第4項: 取引条件等の差別取扱い
第8項: ぎまん的な顧客誘引
第9項: 不当な利益による顧客誘引
○景品類の提供方法は懸賞の有無により大別され、それぞれ景品類の限度額等が定められています。懸賞によらずに提供される景品類は「総付景品」と呼ばれます。
総付景品については、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年3月1日公正取引委員会告示第5号、いわゆる「総付制限告示」)が規定しています。
同告示第1項は、景品類の最高額について、取引価額が1000円以上の場合は取引価額の10分の2、1000円未満の場合は200円の範囲内と規定しています。
第2項は、第1項の適用が除外される事項について規定しています。具体的な運用基準については、「「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準について」(昭和52 年4月1日事務局長通達第6号、いわゆる「総付運用基準」)が規定しています。なお、一部の業種は、一般の景品規制とは異なる業界の自主規制である「公正競争規約」を設けています。
⑤犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)
第28条: 預貯金通帳等の譲渡等の罪
⑥金融機関の約款が分かる資料
※オンラインで確認できる範囲で、主要なところをピックアップしてお示ししています。
「みずほ普通預金規定」みずほ銀行. https://www.mizuhobank.co.jp/deposit/sogo/regulation/index.html
「みずほキャッシュカード規定(個人のお客さま用)」みずほ銀行.
https://www.mizuhobank.co.jp/mmc/optionalregulation/card.html
「盗難された通帳等を用いた預金の払い戻しによる損害の補てんならびに本人確認の取扱に関する特約」みずほ銀行. https://www.mizuhobank.co.jp/mmc/optionalregulation/hosho_tsucho.html
https://www.chibabank.co.jp/regulation/pdf/009.pdf
「≪ちばぎんキャッシュカード規定≫(個人用)」千葉銀行.
https://www.chibabank.co.jp/regulation/pdf/060.pdf
「通常貯金規定」ゆうちょ銀行.
https://www.jp-bank.japanpost.jp/kitei/pdf/tuujyou-tyokin.pdf
「キャッシュカード規定」ゆうちょ銀行.
https://www.jpbank.japanpost.jp/kitei/pdf/cashcard.pdf
https://www.mizuho-tb.co.jp/regulation/pdf/futsu_kitei20200901.pdf
「キャッシュカード規定」みずほ信託銀行.
https://www.mizuho-tb.co.jp/regulation/pdf/cashcard_kitei.pdf
「盗難された通帳等を用いた預金の払戻しによる被害の補てんならびに本人確認の取
扱に関する特約」みずほ信託銀行.
https://www.mizuho-tb.co.jp/regulation/pdf/tokuyaku_yokin2202.pdf