「骨も丸ごと食べられる魚」の養殖に成功 どうやって、骨をやわらかくしたのか?
日本人の1人当たりの年間魚介類消費量が減少し、「魚離れ」が進んでいます。この原因の一つに、「食べる際に魚の骨を取り除くのが面倒」ということが挙げられます。子ども時代に魚の骨に悩まされたという滋賀県立大学の杉浦省三教授は、「魚の骨」問題を解消すべく、「骨ごと食べられる魚」を養殖する技術を開発しました。どのような技術なのでしょうか。杉浦教授に聞きました。(写真=魚類調査やフィールドワークで使う投網を持つ杉浦省三教授。投網を打つようになったのは中学から。大学近くの琵琶湖で) 【写真】骨がやわらかいコイの透明骨格標本
魚を食べない原因は「骨」
水産庁が公表している「令和6年度水産白書」によると、日本人1人当たりが年間に消費する魚介類の量は、ピークだった2001年度の40.2キロから23年度は21.4キロと、20年余りの間にほぼ半減し、「魚離れ」が進んでいます。滋賀県立大学環境科学部の杉浦省三教授は、こう話します。 「魚離れは見過ごすわけにはいかない大問題です。魚には良質なたんぱく質やカルシウムはもちろん、ほかの食品にはない特殊な栄養素もたくさん含まれています。例えばEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は、子どもの脳の発育を促し、高齢者の認知症予防、中高年の心臓病など生活習慣病を抑える働きもあります。摂取量が減れば、幅広い年齢層の健康に影響を及ぼしかねません」 では、なぜ日本人は魚をあまり食べなくなってしまったのでしょうか。杉浦教授は大きく2つの要因があると指摘します。 「一つは水産物の価格が上がったことです。昔は魚の値段が肉よりずっと安かったのですが、近年は値段が上がり続け、気軽に買えない食材になってしまいました。もう一つは食べるときに厄介な『骨』の存在です。食べにくいし、小骨がのどに突き刺さったりして、魚嫌いになってしまうのです。脳や体の成長期にある子どもは、魚を食べないことによる健康への影響は大人よりも深刻です」 実際、「令和6年度水産白書」に掲載された大日本水産会のアンケート結果によると、中学生以下の子どもを持つ母親に聞いた「魚料理を食べるのが嫌いな理由」は、「骨を取るのが面倒」が71.1%を占め、断トツの1位でした。