イギリスで最も有名な木を切り倒した男らに実刑判決
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英ニューカッスルの刑事法院は15日、世界的に有名で映画にも登場した「シカモア・ギャップの木」を違法に伐採したとして、男2人に4年3カ月の実刑判決を言い渡した。
ダニエル・マイケル・グレアム被告(39)とアダム・カラザーズ被告(32)は2023年9月、イギリス北部ノーサンバランドの世界遺産「ヘイドリアンの壁(ハドリアヌスの長城)」近くに立つ木を、チェーンソーで切り倒す様子を撮影していた。この行為により、刑事損壊の罪で有罪判決を受けた。
量刑を言い渡したクリスティナ・ランバート判事は、「酔った勢いによる愚行」とする弁護側の主張を退けた上で、明確な動機は不明だが、木を倒し、それによって世間の怒りを買ったことが2人に「ある種のスリルを」もたらしたと指摘した。
被告らは、世間が自分たちをどれだけ嫌悪しているか気づき、友情が崩壊したとしている。
この樹齢100年以上の木を管理していた英ナショナル・トラストは、この木は「決して代わりのきかない」ものだと被害の大きさを語っている。
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2人は2023年9月28日未明、闇に紛れて現場に車で向かったことが明らかになっている。
審理によると、2人は当時接近していた低気圧「ストーム・アグネス」の強風を利用し、この木を長城の上に倒したとされている。
この木の価値については異論があり、検察側が約45万8000ポンド(約9100万円)と主張した一方で、グレアム被告の弁護団は約15万ポンドと主張した。しかしランバート判事は、正確な金銭的価値は本件にとって本質的な問題ではないと述べた。
ランバート判事は、シカモア・ギャップの木はノーサンバーランドの象徴であり、ハドリアヌスの長城周辺に広がる「手つかずの自然美の象徴」だったと述べた。
また、この場所は「平穏で静謐(せいひつ)」な場で、多くの人々が何度も訪れていたと指摘。多くの人にとって、個人的な意味を持つ場所だったと語った。
判決によると、カラザーズ被告はスプレーペイントとチェーンソーを使って木に印を付け、くさび状に切り込みを入れた。一方、グレアム被告はその様子を携帯電話で撮影していた。
ランバート判事は、明確な動機は不明としながらも、「主な要因は純粋な虚勢だったと確信している」と述べ、木を倒し、それによって引き起こされた世間の怒りが2人に「ある種のスリル」を与えたと指摘した。
さらに、2人が事件後に「自らの悪名を楽しんでいた」とも述べた。
カラザーズ被告が酔っていたと主張した点については、この行為には技術と連携が必要だったこと、また、2人の「経験豊富な樹木医」による「高度な」計画性が必要だったことを挙げて退けた。
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シカモア・ギャップの木は、1800年代後半に「風景の中の特徴的な存在」となることを目的に、丘と丘の間の自然なくぼみ(ギャップ)に植えられたセイヨウカジカエデだった。その目的を果たしただけでなく、ローマ帝国のかつての国境に位置する観光名所および象徴的な存在として、広く親しまれてきた。
1991年には、ケヴィン・コスナー主演映画「ロビン・フッド」に登場したことで世界的に知られるようになり、写真家や芸術家の間でも人気を集めていた。
法廷で読み上げられた声明の中で、ナショナル・トラストのアンドリュー・ポード代表は、「この象徴的な木は、決して代わりがきかない存在だ」と述べた。
また、この「象徴的な木」はナショナル・トラストが国を代表して管理していたもので、「国民のものだった」と話した。
ポード代表は、シカモア・ギャップの木は多くの人々にとって「心の拠り所」だったと指摘。その破壊が「前例のない」愛情と感情の噴出を引き起こし、「世界中で圧倒的な喪失感と混乱が広がった」と語った。
その上で、今回の「悪意に満ちた無分別な」破壊行為は「理解を超えている」と述べた。また、木がローマ時代の長城をまたぐように倒されたことも、「あまり無謀だった」と強く批判した。
一方で、切り株から新芽が出て「生命の兆候」が見られるほか、木から採取した種子から育てた苗木が今後イギリス各地に植樹される予定だと明らかにした。