低コスト化が進む対ドローン戦
米国がウクライナに供与する装備を見ると、高価なシステムに加え、機関砲やレーザーの誘導装置キットが含まれている。安価なドローンで高価な防空システムを枯渇させるロシアの戦術に対応する為だ。
レーザーの誘導装置キットは恐らくAPKWSだろう。または改良して地対空式に最適化されているのかもしれない。APKWSは、攻撃ヘリで使用される無誘導のハイドラ70ロケット弾に、セミアクティブ・レーザーの誘導装置キットを取り付け、4枚の動翼で制御して精密兵器に出来る。
使い方としては、ドローンを発見するとレーザポインターで照射、ミサイルはそのポインターめがけて自動で誘導される。ローテクだが、小型ドローンの機体は樹脂製で電波吸収材が塗布されているので、従来型レーダでは発見出来ない。また、レーダ電波を出すと、こちらの位置が特定され砲撃されるリスクもある。
米軍では2012年から配備が始まりこれまでに数千回発射され、実戦では90パーセントを超える命中率を達成しており、メーカのBAEシステムズは、2019年末までに35,000ユニット以上を出荷したという。
コストはスティンガーの1/5以下とされるが、オリジナルのままでは、性能も限定的、かつ射程が短い為、近接信管やロケットモータ強化など改良型の開発を進めているのかもしれない。
低コスト化の要因はミサイル先端に取り付けられるレーザシーカ※を使用せず、操舵翼に DASALS (分散開口セミアクティブ レーザー シーカー) と呼ばれるセンサを配置、40 度の瞬時視野と 28 度の視野を確保、光ファイバー で電子機器に接続され、各シーカのレーザ受信強度の差分から、ターゲットに誘導する方式を採用したことによる。
※セミアクティブ レーザー SAL 。赤外線フィルタ、非球面レンズ、四分割フォトダイオード (QP) と呼ばれる四象限シリコン フォトダイオードで構成される。標的に近づくと、SAL センサ アレイをアクティブ化する安定化装置も必要になる。
このセンサ付きの操舵翼を本体に格納するシールは格納時は内部機器を保護し、発射時には操舵翼展開の為、破壊される必要があるが、機能を両立する為、開発には苦労したという。
2022時点では以下の様に述べられている。(リンク先抜粋)
標準的なモーターと弾頭に、APKWS誘導キットと実証済の近接/点爆フューズを組み合わせることで、70mmロケット弾を使ってクラス2のドローンを破壊できます。精密となったロケット弾は、低コストかつ超音速で、発射後ロックオンが可能な攻撃兵器であり、約4.5キロ(10ポンド)の大型弾頭を搭載し、直接・間接接触のいずれにおいても、大型ドローンを数秒で破壊することが可能です。
無誘導のハイドラ70は、米国内に在庫が山の様に溜まっているはずで、これを活用する事で迅速に、かつ、低コストで効果的にロシアのドローン対策を進めようとするものだ。戦況を見ながら、次々と対策するのは、米軍の強さを感じる。こんな事が出来るのは世界で米国だけだが。
自衛隊には87式高射機関砲があるが、近接信管は準備されていないので、実戦での対ドローン対処は限定的になる。
ウクライナ紛争が始まった直後に対空機関砲VADSは廃止されたが、当初の戦況であればある程度の戦力になったと思うが、戦闘が進むにつれ、戦術が進歩、今では固定式の場合、遠距離の敵ドローンから位置を特定されて、長距離砲撃される為、もはや使い道はない。
後継には、コンパクト化された4輪搭載の新近距離地対空誘導弾が開発中だが、誘導弾は高価であろう。自衛隊は攻撃ヘリを廃止するので、ハイドラミサイルも大量に余るならば、費用対効果を考慮して、これらも活用する術を考えるべきだ。
榴弾砲でドローンを攻撃する研究は実施しているが、どうやって、ドローンを見つけるのか、無誘導でどうやって当てるのか謎だ。間違いなく消えてなくなると思う。
最近の対空射撃訓練。こんなんで当たりますか?