歴史資料に残る黒人侍という珍しさから外国のゲームの主人公に抜擢された弥助。
ゲーム『アサシン クリード シャドウズ』の販売後に判明した、神社内オブジェクト破壊や弥助の立ち位置などの意味について - 法華狼の日記
IGNのレビュー記事で指摘されたように、最初は女忍者の奈緒江でしかプレイできない状態がつづくのだという。
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実際は途中から操作可能となるサブ主人公くらいの重みだったようだが、黒人が活躍することへの反発からか史実では侍ではなかったかのような反発が生まれ、外国の研究者による捏造であるかのような誤解も広められた。
もちろん現実には過去から日本の物語においても侍という立場で登場しているし、資料が少ないため存在そのものが確定しづらいが日本の研究者も「侍」という立場を特に否定はしていない。
弥助が黒人の「侍」だったという話を今さら否定することはできない - 法華狼の日記
WL641884氏のエントリにまとめられた「歴史学者たちの意見」という小見出しを読めば、意見の異なる歴史学者も「侍」という位置づけを完全には否定していないことがわかる。
弥助関連史料とその英訳 / YASUKE in historical materials - 打越眠主主義人民共和国
そして歴史的な位置づけをふりかえると、1954年の別冊文藝春秋で弥助を「侍」と記述した歴史小説が、国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索で簡単に見つかる。
そして実際にゲームが発売されたことで反発の多くが見当外れと判明して騒動はおちつきつつ、専門知に反する見解がインターネットの一部で定着してしまった。
そのような状況で日本の新たな小説、それも新聞連載というそれなりに広く読まれる場において、弥助が「侍」どころか「武士」となったとする作品が生まれていたわけだ。
該当する描写は、上毛新聞では約半年前の2025年2月10日に掲載されていた。本能寺の変で逃げることに成功したひとりという、それなりに重要な場面ではある。
上毛新聞
連載小説「未だ本能寺にあり」116回 三章 逸れ烏の託ち(45)【安田作兵衛譚】 | 上毛新聞社のニュースサイト
弥助が資料にのこる数少ない記述のひとつが本能寺の変に関連しているため、歴史的に活躍していたわけではないのに物語に登場しやすい。
具体的な記述を引用すると下記のとおり。インターネットで弥助の侍視への反発が起きて産経新聞のような一部メディアが同調したことを意識したような表現とも感じられる。
確かに武士じゃ。上様が武士と認めたのだからな。しかし、どれほどの者が武士と認めておったか。名は弥助と謂う。お主らも知っておったか。そう、黒坊主の弥助じゃ。
ちなみに「侍」と「武士」の身分は少し異なっていて、弥助を侍とあつかう研究者が同時に武士ではないと考えていたりもするので*1、この物語はちょっと踏みこんだ表現といえなくもない。もちろん「侍」と「武士」をほとんど同義にもちいる研究者もいるし、過去の人物の視点による虚構において致命的な誤記とはいえないが。