やまゆり園事件・植松死刑囚と獄中結婚の女性がイベント生出演!語られた植松氏の最近の生への執着とは

篠田博之月刊『創』編集長
満席で立錐の余地もない阿佐ヶ谷ロフトA(筆者提供)

急きょ、植松死刑囚の妻がリアル生出演!

 7月15日夜、阿佐ヶ谷ロフトで行われた『死刑囚と家族になるということ』出版記念トークイベントに、やまゆり園事件・植松聖死刑囚と獄中結婚した翼さんが生出演し、約3時間、いろいろな議論が行われた。周知のように彼女は先頃、ABEMAに初めて顔出し出演し、その動画は予想をはるかに超える大反響を巻き起こした。

 今回は、画面を通してでなく本人と直接顔をあわせて話ができるという貴重な機会だった。ただ実は、翼さんは前日まで出演はしないと言っており、イベントの告知画面でそう伝えたため、直前にキャンセルしたお客もいた。ところが最終的に出演はあったわけで、その人たちには本当に申し訳ないろの思いもあって、イベントの動画をアーカイブ視聴できるようにした。議論の中身はABEMAよりずっと充実したものなので、ぜひ観ていただきたい。もちろん元々予約していなかった人でも、翼さんの肉声や植松死刑囚の近況など視聴可能だ。

https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/380865

 

 どうして翼さんが急きょ出演になったかといえば、実は前日の14日夜、翼さんと渡辺一史さん、雨宮処凛さんと4人で飲み会を行った。その時点で翼さんの生出演はない予定だったため、登壇予定の2人が翼さんと面識もないままではイベントが成立しないと思ったからだ。しかし、そこでの話が盛り上がり、渡辺さん雨宮さんとともに登壇することへの不安が払しょくされたようで、急きょ、翼さんはやはり出演することに話がまとまったのだった。

 翼さんはABEMA出演の翌日から記憶障害などを発症し、連日点滴を打つ生活となった。初対面の人たちと自分自身について話し、しかもいきなり「売名行為だ」などと批判されたり、ネットでもそういうバッシングが起きるなど精神的ストレスが重なって、以前からの病気を発症し、同じような体験はしたくない、15日のトークイベントもまた病気につながるのではと恐怖に駆られたのだが、2人の登壇者と一緒に飲んでだいぶ安心したらしい。

 ただそうはいっても、当日、会場に近づくにつれて恐怖が再燃する恐れもあるため、私が彼女の自宅アパートまで行き、一緒にタクシーで会場へ移動した。周囲のいろいろな気遣いも彼女を安心させたようだ。そうして、一度は中止となったイベントへの生出演が実現したのだった。

左から雨宮処凛さん、植松翼さん、渡辺一史さん(筆者提供)
左から雨宮処凛さん、植松翼さん、渡辺一史さん(筆者提供)

『死刑囚と家族になるということ』めぐり議論

 15日夜に登壇したのは、植松翼さんのほか、『こんな夜更けにバナナかよ』作者の渡辺一史さん、作家の雨宮処凛さん、やまゆり園元職員の西角純志さん、死刑囚と養子縁組した大倉ゆかりさん(オンライン出演)。全体の進行は私が務めた。実は会場には、オウム元幹部の土谷正実死刑囚と獄中結婚した女性なども参加していたが、顔出しNGなので発言はなかった。

 私が編集した新刊『死刑囚と家族になるということ』では、翼さんのほかに元オウム幹部の新實智光氏と土谷正実氏の獄中結婚相手女性や、死刑囚と約10年間、養子縁組を続けた大倉ゆかりさん、池田小事件の宅間守氏、首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗さん、寝屋川事件の山田浩二氏などの獄中結婚の話が当事者や関係者の手記やインタビューで詳しく書かれている。15日当日も植松死刑囚の話がメインだったが、他のケースについても取り上げた。

 詳細は前述したアーカイブ動画を観ていただきたいが、そこで議論になった幾つかの問題を指摘しておきたい。例えばやまゆり園事件を私と一緒に取材してきた渡辺一史さんは、もともと障害者問題には詳しいので、その観点から、この間の植松死刑囚獄中結婚をめぐる反響について議論することになった。 

 ただその話の前に、私がトークイベントの前半で話した、6月27日に死刑執行された座間殺人事件の白石隆浩死刑囚と植松死刑囚の執行をめぐる関りについて触れておこう。

 

白石死刑囚の執行と植松死刑囚獄中結婚

 この白石死刑囚の刑執行は、死刑問題に関わってきた者にとっては衝撃の出来事だった。実は日本では死刑執行は3年近く行われておらず、死刑制度に反対する人たちの間ではそのことが大きな関心事になりつつあった。どう考えてもこれは、昨年の袴田事件の再審無罪など死刑再審問題への関心が高まり、再審法改正の動きなどの動きを受けて、死刑執行がしにくい雰囲気になっていることと関わりがあると思われた。

 ただ、今回、法務省は明らかに、その気運に対して、それでも死刑執行はやっていくという意思を示したのだと思う。

 ただ、そこで気になるのは、白石氏の死刑判決が確定したのは2020年12月だった。ところが同じ2020年3月には、植松氏の死刑が確定している。両人とも自ら控訴を取り下げて死刑を受け入れたことなど状況はよく似ている。この時点で約3年ぶりに死刑執行するからには、誰を処刑するのか、法務省でいろいろな検討がなされたことは間違いない。

そして白石死刑囚の存在が浮上したとすれば、同じ年に約3カ月早く死刑が確定した植松死刑囚についての検討がなされなかったとは考えにくい。

植松死刑囚が獄中結婚によって「生への執着」

 では死刑確定をめぐって同じような状況にあった植松氏でなくなぜ今回、白石死刑囚だったのか。植松氏が確定後、再審請求を起こしたことも考慮の対象にはなったろう。しかし、どうも私には、昨年秋以降の彼の獄中結婚が影響したのではないかという気がする。死刑囚は法律的には確定から半年以内に執行とされており、それを前提として接見禁止によって外界との関わりを絶って、死を受け入れる心の準備に入ることを求められる。

 前述したように、仮に白石死刑囚と植松死刑囚がともに検討の対象になっていたとすれば、その時期に起きた獄中結婚の話は、法務省としては受け入れがたい事柄だったのではないだろうか。

 15日夜の植松翼さんの話を聞いてわかるように、植松死刑囚には明らかに「生への執着」が強くなっている。結婚して愛する女性ができた時期に死刑執行というのは、世論の反発も招きかねないし、粛々と執行を進めるうえでは、獄中結婚は執行を検討する際の妨げになると思われたのではないだろうか。

 

 そう考えると、昨年9月以降、今年2月まで、東京拘置所がこの獄中結婚に異例なほど反発した理由が理解できる。死刑が確定してからの年数や、本人が死を受け入れているかどうかなど、多くの要素を勘案して執行を決めていくという作業にとって、獄中結婚というのは、排除したい事柄と受け止められたのではないだろうか。今回の白石死刑囚の執行を考えると、そう思わざるをえない。

 植松氏の結婚に激しく反対したのは直接的には東京拘置所だが、恐らく法務省上層部と協議しながら、ちょうどその時期に浮上したこの獄中結婚騒動についてどう対処するか検討がなされたのではないだろうか。そう考えると獄中結婚に東京拘置所が異例なほど反対したことが腑に落ちる。

ヤフーニュースのコメントをめぐって議論

 さて、それと別に15日夜、議論になったのは、この間のABEMA動画と私の前回のヤフーニュース記事についたたくさんのコメントをどう評価するかだ。ちなみに私の前回の記事は下記だ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3632081dd4edda263edf13cd8a18334e9158aab2

やまゆり園事件・植松死刑囚の結婚相手の動画が大反響!女性が心労でダウンし植松死刑囚が語った言葉とは

 その記事でABEMA動画についたコメントを引用紹介したが、その記事自体にも多くのコメントがついた。特に注目したのは、障害者の家族や、障害者施設で働いているなど、やまゆり園事件のある意味での関係者たちの生の意見だった。それがこんなにも多く書き込まれたというのは、驚きでもあるし、とても貴重なことだと思う。

 ただ、そのコメントをめぐって、渡辺さんは2つの疑問を提起した。一つは、翼さんが植松死刑囚との結婚を考えるようになった背景と言える、彼女の15歳の時の性被害をめぐってだ。彼女は警察に被害届を出し、加害者を名指しで訴えたにも関わらず、相手は逮捕もされなかった。この警察の対応のどこかに、相手が知的障害者だったからという事情が関わっているのではないか。翼さん自身もそういうニュアンスのことを述べているし、ABEMA動画のコメントでも多くの人がそういう見方をしていた。

 しかし、長年障害者問題に関わってきた渡辺さんに言わせると、立件されなかったのを障害者ゆえと考えるのは明らかな間違いで、実際には証拠不十分といった理由ではないか、それを加害者が知的障害者ゆえと考えるのは、障害者への差別につながるというわけだ。

 この意見は私も異存はないし、改めて渡辺さんがそれを指摘してくれたのは良いことだと思った。

障害者の家族や施設職員らの生々しい書き込み

 そしてもうひとつ、渡辺さんが提起したのは、多くの障害者関係者のコメントで、現場はこんな大変な状況だと指摘することが、障害者というのは困った存在だという見方につながるのではないか。本当は施設の支援のあり方が問題なのに、問題が障害者にあるかのような誤った見方がなされかねないというわけだ。これも慎重に考えないと障害者差別を助長するのではないかという指摘だろう。

 これについても渡辺さんの指摘はもっともだと思う。ただ私がトークイベントの場で敢えて異論を唱えたのは、コメントを書き込んでいる障害者施設関係者などは、そういうニュアンスで書いてはいないのではないか、ということだった。障害者支援の現場がこれほど大変だ、きれいごとでは片付かないという指摘は、だからあの事件はやむをえないと言っているわけではない。渡辺さんは議論をめぐる落とし穴を指摘したわけだが、私自身は、あのたくさんのコメントについての受け止め方は渡辺さんとは異なる、と申し上げた。

 この辺はなかなか微妙で難しいところなので、ぜひ皆さんには、コメントの一つ一つを検討してほしい。障害者に関わる現場からこれほどたくさんの声が上がったのはとても貴重だし、これをきちんと議論に生かさねばならないと思う。

 

障害を持つ子どもを育てている母親から電話も

 そういえばこれを書いている今日も、強度行動障害の子どもを育てている女性から電話をいただいた。ABEMAやヤフーニュースのコメントを見て、確かにそういう子どもを支援するのは大変だが、きちんと対応すれば子どもは必ず理解できる、これはいけないことだと叱るといったことを考えながらやることで、障害当事者も必ず理解するはずだ、と切々と自身の子育て体験を語ってくれた。私は、そういう当事者の声こそが大切なので、ぜひメールで詳しい話を送ってほしいとお願いした。

 いただいたメールはヤフーニュースや『創』で取り上げて、議論に供したいと思う。この女性以外でも、大変な思いしている障害者家族や支援者はぜひ体験に基づく声を送ってほしい。メールアドレスは下記だ。

 mail@tsukuru.co.jp

 さて、15日の阿佐ヶ谷ロフトの議論については、もっと紹介したい論点が幾つかあるが、長くなるのでこの辺にしておこう。

 先の白石死刑囚の執行については、死刑問題に長らく取り組んできた「フォーラム90」が、7月25日(金)18時から文京区民センター2Aで集会を開く。私も集会に足を運ぶし、ぜひ多くの人に参加を呼び掛けたい。詳細は下記だ。元々は、死刑執行ゼロが続いたことの意味を考える集会として設定されていたものだが、急きょ、それが破られたことに抗議する集会となった。

http://forum90.jp/event/archives/68

 死刑をめぐる問題はとても重たい。冒頭に書いた新刊『死刑囚と家族になるということ』を一人でも多くの人に読んで、一緒に考え議論していただきたい。

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月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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