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いま、伝えたい『鯨肉料理』の魅力  第4回 鯨肉は美味しい! と叫びたい

 すでに大きな反響をいただいている『鯨肉料理』。今回は、長年、松本さんの本の編集を担当している編集者の増本幸恵さんから、本書のレシピがいかに理にかなった調理法であるかについて、紹介していただきます。撮影に密着し、すべての料理を味見し原稿を編集した人だから書ける、鯨肉料理の魅力です。
(写真撮影:板野賢治)

「なめろう」にときめき、「なます」にうっとり

「まっさん、まずこれ食べてみて」とスプーンで味見をさせてもらったのが「なめろう」です。鯨の赤肉を包丁でざく切りにして、ニンニク、ショウガ、信州味噌を加え、ねっとりとするまでたたき合わせた一品。鯨肉特有のわずかな匂い(獣臭)が、薬味の香りと味噌と合わさり、なんとも魅力的な味わいになっているのです。「クセにはクセを」とは松本さんが得意とする調理法の一つ。青じそになめろうをのせて焼いた「さんが焼き」も、美味しい!と叫びたくなります。

 私はこれまで、鯨肉にそれほどよい印象を持っていなかったのですが、このなめろうを食べて、鯨肉に対する思いがガラリと変わりました。


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肉質がやわらかい鯨肉は、包丁でたたけばミンチも手軽。薬味と味噌を加えてたたき合わせるだけで、間違いなく日本酒に合う最高の肴ができる。

 鯨肉の刺身も美味しいのですが、それを上回るのが「なます」でしょう。表面だけさっとゆでた鯨肉を薄く切り、合わせ味噌であえる際、奈良漬の床味噌が入るのが松本さん流。奈良漬は京都の「田中長奈良漬店」のものがお気に入りです。田中長さんは漬床の酒粕にみりん粕を加えているため、風味が豊かで上品な甘みがあります。私も大好きで、「漬床は捨てずに豚肉にぬるなど活用せよ」との松本さんの教えを守っています。まさかその漬床が登場するとは。もちろんこれもすてきな酒肴です。


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「なます」には、奈良漬の床味噌をかくし味に用いる。瓜の奈良漬を細かく刻んでともにあえ、好みで一味とうがらしをかけて。

焼肉に粉山椒をふる理由

松本さんが子どもの頃から親しんできた鯨肉料理といえば、この焼肉だそうです。ジンギスカン鍋で焼いて、おろし醤油でいただきます。鯨肉には焼く前に粉山椒をたっぷりふりかけます。

 羊の脂が鍋のわきに落ちるよう、ドーム型で鉄板に溝がついているジンギスカン鍋。この形状が、水分が多い鯨肉にぴったりだというのです。焼いたそばから出てくる水分を逃し、高温でジュッと獣臭を飛ばしながら焼きます。肉にあらかじめ山椒をふっておくのは、焼いている間に出てくる脂に山椒の香りを移すため。脂と混じって焼かれた山椒は、ほうじ茶を思わせる香ばしさが加わって、鯨肉のよいスパイスになります。


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焼肉には、鯨肉から出る水分を逃すためにジンギスカン鍋を使うとよい。ねぎやしいたけなど好みの野菜を添えて、たっぷりの大根おろしと醤油でいただく。

鯨肉ならではのコンフィマジック

 鯨肉をコンフィにすると聞いた時、どんな味になるのか想像ができませんでした。マグロのコンフィのようなものか、ほろほろとやわらかい鶏肉のオイル煮のようなものなのか。

 鯨肉の大きな塊を、50〜55℃の温度帯の油の中で50分ほど加熱。この温度帯は、肉の場合(60〜68℃)より低く、魚(45〜60℃)よりやや高いもの。理由を聞くと「鯨肉は哺乳類と魚類の性質をあわせ持っているから」だそうです。

 仕上がりは、なんともしっとりとして、やわらか。ローストビーフとも違って、噛み締めると「鯨の肉です」とそっと主張するというか。とにかく初めての体験でした。


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コンフィの手法でしっとりと仕上げた鯨肉は、わずかに残る獣臭を柑橘が香るポン酢で生かす。紅葉おろしとおぼろ昆布を添えて。

夏は尾羽たっぷりの鯨そうめんで

本書では、鯨の尾にあたる部分「尾羽」を使った料理をいくつか紹介しています。その中で、夏におすすめなのが、鯨そうめんです。

 めんつゆに、つゆから飛び出るほどの尾羽を入れて、好みの薬味をたっぷりと添えます。ただそれだけなのですが、尾羽のシャリシャリとした食感と、その中に感じるコラーゲン質がアクセントになり、そうめんが2倍美味しく感じられます。松本さんも尾羽はこの食べ方が一番好きだそう。ぜひ試してみてください。


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「おばけ」「さらし鯨」とも呼ばれる「尾羽」。酢味噌で食べるのが定番だが、めんつゆに加えるだけで、いつものそうめんがごちそうになる。

鯨という生きものの不思議

 本書を通して、鯨という生きものにより興味を抱くようになりました。日本で捕鯨対象となる鯨だけでも6種ほどあり、ヒゲ状の捕食器官で餌生物を濾しとる「ヒゲクジラ類」と歯を持つ「ハクジラ類」では、食べるものが違うから肉の味が異なるというのです。

 また、なぜ鯨が大量の皮下脂肪を蓄えているのか。なぜ畝須(うねす)のような部位があるのか。すべて、大きな体で大海原を何千キロにもわたって旅をするために進化を遂げてきたことを改めて知ると、生命の不思議を思わずにいられません。

おまけ。


 本書のカバーデザインにと、アートディレクターの須山悠里さんが別案も用意してくださっていました。採用となったのはツチクジラのイラストを用いたものですが、もう一つはこちら。


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鯨ベーコンによく用いられる「畝須」と、それをデザインに落とし込んだカバー別案。このカバーは世に出ることはなかったが、とても印象深い。

 これは、須山さんが畝須の部分に鯨肉らしさを感じ、赤肉と脂肪、黒い本皮のひとつづきをグラデーションで表現したものです。なんて美しいんだろうと見惚れ、デザインの力を感じました。


■執筆:増本幸恵(ますもと・ゆきえ)
編集者。レクスプレス、エイ出版社、文化出版局で暮しまわりの雑誌やムックに携わり、現在はフリーランスで活動。2023年に鎌倉でひとり出版社「リトルギフトブックス」を立ち上げ、本づくりを楽しんでいる。


 

 次回は、本書のもう一つの魅力である、充実した解説ページの読みどころについてご紹介します。


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『鯨肉料理』
松本青山 著

定価 3,960円 (税込)
ISBNコード 9784540251108
判型/頁数 B5判 144ページ
購入はこちら https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54025110/


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