ロシアからの世論工作が本格化してきた。アレクサンドル・ドゥーギンという、プーチン大統領のブレーンと目され、ウクライナ侵攻の理論的な土台とされる「ネオ・ユーラシア主義」の代表的な思想家が、3月9日に突然日本語でXにこのように投稿した。
「今こそ『日本を再び偉大にする』方法を考える時です。中国は偉大です。これまで日本は、グローバリストシステムの惨めな付属物に過ぎませんでした。主権ゼロの占領された国。過去の偉大さの影しかありません。トランプはその状況を変えるチャンスを与えてくれます」
2016年のトランプ当選にはロシアからの工作と支援があった。彼の「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」や反グローバリゼーションという路線は、ロシアの望む方向やドゥーギンの思想と合致している。このポストは、日本における民族主義の熱をあおり、日米安保の同盟を引き裂くことを目的とした工作だと理解できる。ドゥーギンの発言は「NewsSharing」と呼ばれる13万人超のフォロワーがいるアカウントが頻繁に拡散している。
「諜報(ちょうほう)国家ロシア」(中公新書)の著者・保坂三四郎はXで、ドゥーギンは「ゲオポリティカ(地政教)」という「ネオファシズム的新興宗教」の「教祖」だと評した。実際、ロシアに侵入する西側の「リベラリズム」はロシアの価値観を破壊する「悪魔」だと繰り返し主張している。2014年の論文「第四の政治理論の構築にむけて」ではその支配を覆すために、ファシズムの活用を提案している。1997年の著書「地政学の基礎」では、アメリカで分断と対立を加速させ、過激派や反体制運動を支持し内政を不安定化させ地政学的な状況を変えることを提案している。アメリカはこの通りになり、同様のことが日本を含む世界で起こっている。
ドゥーギンと関係の深い「ゲオポリティカ」というサイトには日本語訳まであり、東日本大震災が起こった日に合わせた今年3月11日の彼の投稿は「大国秩序における日本の覚醒」と題し、このような未来像を提示している。「アメリカのリベラル・グローバリストへの依存が低下」「日本の伝統的な価値観を見直す機会が生まれる」「ロシアの伝統主義的な思想との対話が可能になる」。ナショナリズムや伝統主義や保守的傾向に呼びかけ、リベラリズムを弱体化させる意図は明らかだ。昨年12月15日には、技術革新や規制緩和を至上とするイーロン・マスクやピーター・ティールらテクノ・リバタリアンを称賛し、その「暗黒の加速主義」を「男性的で力強い」と評している。
SNSではこの「認知戦」の影響を受け、その思想や世界の捉え方に染まった者が少なくない。日本も、そろそろ、危険な水域に入ってきている。(文芸評論家)
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