「若者の酒離れ」に風穴 サントリー“最古の工場”65億円で刷新、世界一目指す「ジン戦略」の勝算は
カギ握る「大阪工場」を大幅にリニューアル
ROKUを中心にジン攻勢を強めるに当たり、カギを握るのが同グループとして唯一国産ジンの原料酒を製造しているサントリー大阪工場だ。同工場は、サントリーが有する工場の中で最も長い歴史があることでも知られる。前身となる築港工場は、運河に面し水陸の運輸に利便性が高いことから、重要な生産拠点として稼働し続けてきた。 「工場ができた当時は、物品の流通は海運・水運がメインでした。中でも大阪の港は関西で生産している梅やブドウといった、洋酒の原料を調達しやすいことから非常に重要な役割を担い続けてきました。浸漬や蒸溜の施設も整っているだけでなく、瓶詰までワンストップでできるため、現在でも西日本に商品を供給する拠点として、機能しています」(矢野哲次・大阪工場長) 高まる需要を背景に、生産能力を高めるべく、2024年から2025年にかけて多額の投資を実施。まず55億円を投資し、敷地内に「スピリッツ・リキュール工房」を建設した。具体的には、浸漬を行うタンクを8つ新設し、4つの蒸溜釜をリニューアルしており矢野工場長は「ここまでのリニューアルは、長い歴史の中でも初めて」と話す。 「これまでは蒸溜釜の中で浸漬し、その後に蒸溜するサイクルだったので、釜1つにつき1日1回しか蒸溜できませんでした。今回のリニューアルにより、浸漬を蒸溜釜ではなく浸漬タンクで行えるようになり、1日に可能な蒸溜回数は2回に増えています。また、浸漬時の温度調節が容易になり、攪拌もしやすくなっています」(矢野工場長) その結果、工場全体の生産能力は約2.6倍、ジンの原料酒に関しては2倍に拡大している。この他「パイロットディスティラリー」と呼ぶ、品質研究や技術開発を行う小規模施設も新設し、製造だけでなく新商品の開発も旺盛に行う考えだ。
消費者との接点を着々と強化
さらに、2026年にかけては10億円を投じて消費者とのコミュニケーション機能も強化する。これまで一般公開はしていなかったが、蒸溜釜を見渡せるデッキや、360度シアターを備えたセミナールームを新設。これから敷地内に原料のボタニカルを植える計画も進んでおり、2026年春ごろから工場見学を実施する予定だ。料金や動員目標は検討中とのことだが、すでにサントリー山崎蒸溜所・白州蒸溜所で同様の見学ツアーを実施しており、インバウンドの誘致にも期待がかかる。 工場の外でも、さまざまな接点強化に取り組んでいる。接点として大きな存在感を占める居酒屋などで「食中酒」としての認知拡大を狙うほか、この5月には「BAR グラスとコトバ」というポップアップ形式のバーを開催した。 単に商品を提供するだけでなく、アルコールを楽しむスタイルの提案やバー文化のアピールを狙った取り組みで、約4500人分の予約枠はオープン前に完売するなど盛況だった。さらに、イベント終了まで3500人のキャンセル待ちが発生し、その9割近くが20~30代の若年層が占めていたという。若者の酒離れが叫ばれる昨今だが、まだまだ戦いようがあることを示すデータだ。 ジン市場を巡っては、アサヒビールが2024年にジンをベースにした「アサヒ GINON」を発売。キリンも同年に「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」を発売し、1週間で年間目標の3割を達成する好スタートを切った。同商品はこの2月にリニューアルも実施している。サントリーも含めて各社がどのように好調な市場で新たな成長の道をたどっていくのか、目が離せない。
ITmedia ビジネスオンライン
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