シンガポール金融業界への就職、大学のエリートクラブ加入が必須に
Gabrielle Ng-
学生は学内の金融クラブ入りを目指して激しい競争を繰り広げている
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学生は今や、金融クラブ加入を履歴書の必須事項とみなしている
シンガポールの大学で、学生は憧れの金融業界への就職につながる切り札になると考え、学内の金融クラブ入りを目指して激しい競争を繰り広げている。
シンガポールの雇用市場が厳しさを増す中、金融業界での就職を目指す大学生にとって競争は一段と激化している。
シンガポール国立大学の社会科学学科を卒業し、現在はグローバル決済企業で働くマヤさんは、「少し常軌を逸していると思う。本当にばかげているほど競争が激しい」とした上で、プレッシャーを経験したかいがあったと述べた。「クラブに入っていなければ、何千人ものビジネス系学生の中から人材を選べる採用担当者に対し、自分を売り込むことができなかったと思う」と振り返る。
マヤさんのような学生が抱える不安は、シンガポールで金融機関の採用者の増加幅がここ数年で鈍化していることも背景にある。学生は今や、こうした金融クラブ加入を履歴書の必須事項とみなしており、これは複数のインターンシップ経験などと共に、学生の競争が過熱する要因となっている。
人材の採用が減速する一方で、人気のビジネス・経営系学部の卒業者数は過去10年間の大部分で増加傾向にあり、政府の統計によれば、2023年には3500人を超えた。ビジネス系学部の卒業生の就職率は昨年に84%だったが、その前の2年間に比べると低下している。
米中貿易摩擦や市場の混乱によって、世界中の若手バンカーの見通しが悪化する可能性があるほか、人工知能(AI)の台頭も追い打ちをかけている。特に人口約600万人のシンガポールでは、金融業界が大きな位置を占め、成功への最も明確なルートと多くの人が考えているだけに、こうした脅威は一段と大きくなっている。
ブルームバーグ・ニュースの調査によると、シティグループを含むグローバル銀行およびシンガポールの銀行は、エントリーレベルの応募者の選考において幅広い基準に基づいて評価している。例えば、オーバーシー・チャイニーズ銀行の人事担当マネジングディレクター、アーネスト・ファン氏によれば、クラブ加入は応募の必須条件ではないものの、スキルやリーダーシップ、コミットメントの「意味のある指標」になり得るという。
こうした金融クラブに入ることが、最初のハードルになる。いわゆる「スーパーデー」と呼ばれる選考日には、学生のパネルが何時間にもわたり複数回の面接を行う。これは、最終的な内定者を絞り込むために大手投資銀行が用いる手法を模倣したものだ。
シンガポール経営大学(SMU)の学生運用型投資ファンドで副代表を務めていたマシュー・クエック氏(25)によれば、同クラブでは加入希望者に対し、2週間以内に株式の銘柄提案と財務ケーススタディーを執行委員会に提出するよう求めていた。アイディアが上級生のパネルに承認されると、最終選考として「雰囲気を見極める」ためのコーヒーチャットが必須になる。
同氏によると、同ファンドには毎年約200人の応募があるが、合格者は20人強にとどまる。国内の他の金融クラブでも、平均的な合格率は10%程度だ。
クラブへの加入が決まってからは、活動はいっそう過酷になる。
シンガポール経営大学の投資ファンドは、毎週土曜日に3-8時間に及ぶミーティングを開催している。そこでメンバーは、上級生や卒業生から財務モデルの構築方法やプレゼンテーション資料の作成方法を学ぶ。同ファンドは、米国の学生運用ヘッジファンドの成功例として自らを売り込んでいるハーバード大学の「ブラック・ダイヤモンド・キャピタル・インベスターズ」など、実際のファンド運用を模倣する海外の学生グループを手本としている。
しかし、多くの人は、たとえストレスがあっても、こうしたクラブへの加入熱が冷めるとは考えていない。
人材紹介会社セルビー・ジェニングスで香港在勤のディレクターを務めるベサン・ハウエル氏は、「悲しいことに、成績優秀で名門校の出身である人は極めて多いため、何かしら差別化できるものが必要だ」と語る。「クラブに所属することで自信がつき、面接で安心できるのであれば、それもいいと思う」と述べた。
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原題:Singapore’s Future Bankers Vie for Spots at Elite College Clubs(抜粋)