「やっぱり『日本人ファースト』の主張がいいですね」
参院選公示日の3日、東京・新橋。参政党の代表を務める神谷宗幣氏(47)の街頭演説を聞いていた50代の男性会社員は言った。
参政党を支持するようになったのは「ここ1カ月ほど前」のことだ。日本人を大切にしようとする参政党の姿勢に共感するが、政策をきちんと確認したわけではないという。
「でも参政党って今の政治を変えてくれそうな気がするんです」
5月には30万人ほどだった党のユーチューブの登録者数は7月11日時点で40万人を超え、それまでトップだったれいわ新選組(約38万人)を抜いて全政党で最も多くなった。
党の存在感が高まる背景には、この男性のようなライトな支持者が増えていることがある。
神谷氏はこれまで、新型コロナウイルスのワクチン接種を「人体実験」と称するなど過激な言動で注目を集めてきた。
しかし、最近は陰謀論めいた発言は減り、過去の極端な主張は鳴りを潜めている。
「日本人ファースト」は聞こえがよく受け入れやすい。ただ、ライトな支持者の全員が参政党の過激な主張を認知しているわけではないだろう。
これまでの党の主張の変遷をたどっていくと、決して変わることのない本質のようなものが見えてくる。
通説とは異なる主張を展開
2022年6月、神谷氏が編著した「参政党Q&Aブック 基礎編」が発行された。
「参政党を正しく理解してもらうために作った」と神谷氏があとがきで書いているように、党の公式ガイドブックという位置づけとなる。
Q&Aブックを読むと、頻繁にでてくるのが「あの勢力」という言葉である。
そこには通説とは著しく異なる、独自の歴史観が展開されている。
この本によれば、日本は数百年前から「あの勢力」の標的にされてきた。日本は「完全に『あの勢力』に支配下に入れられ」、現在では「経済的なプランテーション(農場)と見られてもしょうがないような状況」にあるとする。
「あの勢力」とは何か。Q&Aブックは「ユダヤ系の国際金融資本を中心とする複数の組織の総称」と記す。
この本で強調されているのは、この世界を裏で操るのは「あの勢力」という考えだ。
日本や欧米が採る資本主義経済も「あの勢力」の母体である国際金融機関が利益を得るために生み出したとしている。
太平洋戦争が起きたのも日本が「あの勢力」に逆らったことが原因とする、一般的な史実と異なる説を主張している。
「ユダヤ系」と名指ししたことについては、イスラエル大使館から日本政府に懸念が表明された。
最新の書籍でも大きな変化なく
そしてこの本発行の翌月に行われた22年参院選の比例代表で神谷氏は初当選し、党としても初めての議席を得た。
その2年後の24年6月、同じ出版社から「参政党ドリル」が発行された。これはQ&Aブックの改訂版であり、編著も引き続き神谷氏が務めた。
新しい本では「あの勢力」は「国際金融資本家」という説明に変わり、「ユダヤ系」という言葉が使われなくなった。
しかし、太平洋戦争は日本が国際金融資本家の意向に逆らったのが理由であるとの記述はそのままだ。
日本が「あの勢力」の標的になったのは戦国時代からであり、現在の日本は「国際金融資本家の経済的なプランテーション」であるという表現も同じだ。
言葉が微妙に置き換わっただけで、世界を国際金融資本家が操っているという構図に変化はない。
「マスクでがんリスク」は削除
新型コロナウイルスに関する記載も同様だ。
Q&Aブックではワクチン接種を「人体実験」とし、接種が奨励されたのは「利益を求める複数の勢力によって仕組まれた」とする。
また、マスクの着用を続けると「大人の場合はがん、子供ならば自己免疫疾患を発症するリスクが高まる」と記した。
一方、参政党ドリルはコロナについて「恐ろしい病原体だとメディアが煽(あお)っていました」と強調し、ワクチン接種については「『接種をどうしても進めたい』勢力によって政府もマスコミも動かされているのではないかと感じ」たと書かれている。
マスクとがんを結びつける主張はさすがに無理があったのか、削除されている。
ただ、ワクチン接種に批判的なスタンスを取り、接種することが特定の勢力の利益につながるという考えは変わっていない。
マスコミも「コントロール下」と批判
批判の色が強くなっているのは、マスコミに対してだ。
マスコミの情報を「そのまま信じてはいけません」と訴えるくだりは2冊とも同一だが、参政党ドリルではマスコミが前出の国際金融資本家によって「コントロール」されているとの記述が付け加えられた。
この本では、国際金融資本家は「グローバルアジェンダ(事業戦略)」を設定しており、マスコミの論調はそれに沿ったものになっているという独自の考えが展開されている。
そのうえで「アジェンダに反対する政治家が出てくると、『極右』『陰謀論者』とメディアからレッテルを張られる」と主張している。
あとがきでは、参政党の運動を続けるために、支援者が「共通の世界観を持つこと」の大切さが強調されている。
「あの勢力」に触れなかった街頭演説
神谷氏は7月3日の記者会見で、Q&Aブックについて「(前回参院選直前の)バタバタした状況で作った本だった」と釈明。「選挙後に発行をやめて書き直した」と説明している。
党の広報によると、そうして作られたのが参政党ドリルだという。
ただ、この2冊は一部表現が変わっているものの、基本的に同じ内容であり、世界観はあまり変わっていない。
神谷氏は3日、新橋で参院選の街頭演説をした際、「あの勢力」やコロナの話は一切、出さなかった。
会場は熱気に包まれていたが、このなかに参政党の一連の書籍を読んだことがある人はどれほどいただろうか。
演説の最後に「イチ、ニ、参政党」という神谷氏のかけ声に合わせ、数百人が一斉に右手を上げた。
参政党は今、その独自の世界観を共有しない層にも浸透しつつある。【川上晃弘、春増翔太】
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