――海外にコメを大量に輸出したことがコメ不足に拍車をかけたのではないか、という意見がありますが。
2024年のコメの輸出量は4万6000トンでした。他方、コメの不足量は、すでに述べたように62万トンと推定され、輸出量はそれに比べてケタ違いに小さいです。影響がないとは言いませんが、決定的な要因ではないと考えるのが妥当でしょう。
「海外からの旅行客のせいでコメの需要が急増した」説は真実か
――「国内で不足している最中に海外にコメを輸出するのはおかしいではないか」という意見も少なくないですが。
海外に輸出するとなれば、遠い国の人と面倒くさい手続きを経て契約する必要があるわけですから、価格や量も早い段階で約束していたはずです。「国内で不足しているから」を理由に輸出をやめたら、信用問題になります。急に約束を勝手に反故(ほご)にするわけにはいかないでしょう。
――「海外で売られている日本のコメは安いのに、国内で販売されているおコメは高い、おかしいではないか」という意見も少なくないですが。
すでに述べたように、輸出ともなるとかなり前から量や価格を契約しておく必要があるでしょう。コメが高騰する前に契約していた通りの価格で輸出した、というだけだと思われます。本当なら国内で売った方が高く売れるのが分かっていても、契約を守ったのですから、むしろ信義を守った行為だと言えると思います。安易に批判する話ではないように考えられます。
――「コメ不足は、大量の外国人が日本に旅行しに来たインバウンド効果も影響しているのでは」という声も聞きますが。
計算してみましょう。2024年の訪日外国人観光客数は3686万人でした。平均滞在日数は9日だそうですから、
36850000人×9日÷365日=90.9万人
の国民が増えたのと同じ効果があったといえます。日本の総人口は1億2500万人ですから、人口が0.72%増えた効果と同じと言えるでしょう。
他方、コメの不足した量は、すでに述べたように62万トン。2024年のコメの生産量679万トンに対して、9.1%分のコメが不足した格好です。そこに0.72%の人口が増えたとしても、やはり桁違いに小さいといえます。影響はゼロではないでしょうが、インバウンドがコメの不足の主因と考えるのは無理があるでしょう。
以上述べてきたように、令和のコメ騒動は、「コメの生産量よりもコメの需要量の方が大きく、コメが不足していたから」ことが原因だと言えるでしょう。
誰かを悪者にし、つるし上げる考え方は、非常に問題があります。特に監督官庁である農林水産省とその大臣には、今回の米騒動の原因の調査結果がはっきりとするまでは、不用意に誰かを悪者と感じさせかねない言動には、十分注意していただきたいと思います。
そして今後は、コメ不足が起きないような政策をしっかり打っていただくことが大切だと思われます。そのためにも、コメ農家が安心して生活していけるような価格設計も重要だと言えるでしょう。あるいは、コメ農家の所得を補償する制度も検討する必要があるかもしれません。そうした政策を進めるのは、容易なことではありませんが、ぜひ頑張っていただきたいと存じます。






