農水省は予見できなかったのか
――なぜ農水省は、コメが不足することを予想できなかったのでしょうか?
これは多くの人が指摘していることですが、農水省がコメの出来を調べる「作況指数」の調査では、目の細かめの網(ふるい)を使うのですけれど、農家が農協や業者に出荷するコメは、目が大きめの網を用います。
目の細かい網で調べたら「平年通りとれている」という結果になったけれど、目の大きい網だったらそうではなかったのではないか、ということで、小泉大臣がやり方を改める、という話になっています。しかし、通常は高品質なはずの網上米でも、玄米だと無事に見えたのに、精米すると崩れ、砕けてしまうコメも多かった様子です。
農水省は、網で通らない大粒の玄米の量を調べはしても、その後の工程である玄米を精米する段階は調査していなかったようです。精米してみたら色が汚い斑点米だったり、粉々に砕けてしまう砕け米だったりしたのかもしれなかったのに、それを農水省は把握していませんでした。これがコメ不足を把握できなかった大きな原因でしょう。
――では、今後はそれを調査したらいいですね。
ところがそう単純にはいかないと思います。そもそも、丁寧な統計がとれなくなったのは、2003年に食糧庁などを閉鎖・統合し、人員を大幅削減したことが大きいようです。昔のように現場を丁寧に回る調査を復活させることは困難でしょう。
――農水省の減反政策がコメ不足の原因だ、とする意見が非常に多いですが。
それは理由の一つと言えるとは思います。ただ、もし減反政策(あるいは減反に近い指導)をやめていたらどうなっていたか、考える必要があります。今回のコメ騒動になる以前に、減反あるいはそれに近い指導をやめていたとしたら、コメ余りが極端になり、コメ価格が暴落し、コメ農家は経営が成り立たなくて大量にやめてしまったでしょう。その結果、今回のコメ騒動が起きるずっと以前にコメの生産量が激減した可能性があります。
(写真:SAND555UG/Shutterstock)減反は、コメの消費が徐々に、しかし確実に減っていく中、コメの生産量を抑えることでコメ価格の暴落を防ぎ、コメ農家の生活をギリギリ崩壊させずに済ませていたという面があります。減反をしていなければ、コメ農家崩壊とコメ不足がもっと早くに起きていたかもしれません。
2023年11月16日には、NHKスペシャル「シリーズ 食の“防衛線” 第一回 主食コメ・忍び寄る危機」が放映されました。コメの価格があまりに安く、使命感だけでなんとか生産していたコメ農家も後継ぎが出ず、高齢化してしまい、今後、大量にコメ生産をやめる恐れがある、という内容でした。2024年の春までは、コメの値上がりなんて想像ができず、コメ農家が大量にやめる恐れがありました。
2024年はもしかしたら、その番組が懸念していた通り、経営難でコメ作りをやめたコメ農家が一気に増えた年だったのかもしれません。2024年にコメの生産量が伸びなかった要因の一つに、コメ農家の減少にすでに拍車がかかり始めていた可能性があります。